仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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開発資材が集まらない。バーナーならいっぱいあるのに(´;ω;`)

艦娘たちの冒険行は、いよいよ佳境を迎えます


第117話「陰謀の足音(その1)」

Starring:瑞鶴

 

 彼女が指定した海域は、何もない。本当に何もない海の上。深海棲艦たちが潜む小島でもあると思っていたが、そんな劇的なものなどない。失望するよりも、もしこんなところに深海棲艦が隠れていられるなら、自分達はゲリラ攻撃に遭っている筈と言う軍人的な思考が浮かんだ。提督さんの薫陶と言うべきだろうか。つまり現時点では眉唾と判断せざるをえないのでは? と感じてしまう。

 ただ、不安そうな、だが希望を捨てきれない神威とレキシントンを前にして、どう大ナタを振るうかが問題である。

 

「かつて居た者たちは、この海からは感じられない。でも、確かに『いた』」

「誰がよ?」

 

 大使の迂遠な言い方に、ジョンストンが不快感を出してしまう。彼女にしてみれば、いきなり呼び出されて任務でもない艦隊のお供をさせられている。ある意味一番の被害者と言えた。

 

「今、呼び出す」

 

 深海大使は海面に膝をつき、手首を突っ込んだ。この状況で「長くなりそうなの?」などと聞けるはずもなく、瑞鶴は他に意識をやることにした。自分もジョンストンの次には「他人」だ。

 

「翔鶴姉、念のためにパラオに現在地を知らせておいて。私は提督さんに報告を入れるから」

「分かったわ」

 

 艤装に取り付けられた端末から泊地を呼び出し、ネガティブな状況を告げ……ようとして気付く。

 

「翔鶴姉、どう?」

 

 どう? と言うのはパラオへの通信状況だった。言いたくはないが案の定というか、姉は首を振る。

 

「ダメ。ノイズしか聞こえない」

 

 十中八九、待ち伏せだ。

 提督さんなら、即座に状況を判断して対応を行っただろう。だが一瞬で優先順位をつけられるほど、瑞鶴は熟練した指揮官ではない。大使の不可解な行動を止め、問い詰めるべきか、それよりこの場を離れよう。いや、まず神威とレキシントンに未練を断って意識を現実に向けなければ。それとも、どうするべきなのか?

 

「サラさん! 直掩機を!」

 

 翔鶴姉が叫ぶ。半身を分けた姉である。自分の迷いを察して、「とりあえず動くべき」というアドバイスを、口頭ではなく実践でしめしてくれた。それでようやく、思考が明瞭になる。

 

「罠よ!」

 

 明確に、宣言した。本当に罠かどうかはこの際問題ではない。今の状況を一言で警告するなら、この単語になってしまう。

 

「あんたっ!」

 

 表情を変えず、水平線を見つめる大使に、ジョンストンが詰め寄ろうとする。しかしレキシントンが肩に手を当て止める。

 

「レーダーをお願い」

 

 それだけ告げて、自身も艦載機を発進させる。辛いのかも知れないが、その心中を洞察している暇はない。

 

「状況を教えて頂戴」

「電波妨害。たぶん、襲ってくる」

 

 神威は歯を苦縛り、高角砲を用意する。

 

「東南より、彩雲が編隊を発見しました。電探はどうですか?」

 

 翔鶴姉の問いに、ジョンストン報告する。その表情が宜しくない状況を語っていた。報告などいらないほどに。

 

「数が多すぎて捉えきれない」

 

 これで決まったようなものだ。海域から言って、刺客は恐らく南洋艦隊だろう。問題はこれだけの空母を用意するなら、目的は明確であると言うこと。自分達の航路はバレていたし、おそらく何者かがそれを漏らした。そして漏洩が可能な存在で、それによって利益を得ることが出来るのは、ただ一人。

 

「誓って言う。ワタシは知らせていない」

 

 大使はそれだけ告げて、艦娘たちの前に立った。戦闘タイプではなく、しかも破砕している彼女なら、脅威としては後回し。そう判断して、艦載機の配置に専念する事にした。ジョンストンはそれを察して、両用砲を大使に向ける。どうせ大型砲のような長射程は持たない。敵攻撃機が接近するまで出番はない。

 

『ワタシは§¶Θζлъである。指揮官と話がしたい』

 

 大使が使ったのは、恐らく深海棲艦用の通信。大使はそれをオープンで瑞鶴たちに繋げた。彼女の言葉で言うならば、「誠意」なのかも知れない。名乗ったのは、深海棲艦としての名前だろうか? 聞き取れはするが、自分ではとても発音できそうにない。

 

「What's going on!? 敵機が反転していくわ!」

 

 まさか、と言いかけて思いとどまった。ジョンストンが、しかもこの状況下でいい加減な発言をするわけがない。

 

北の女王(・・・・)ヨ。жылз∮の名にオイて命ズル。降伏セよ』

 

 返信は、敵艦隊の指揮官からであろうか。大使のことを”女王”と呼んだ。何かを勘違いしている? それとも深海大使がそのように仕向けているのだろうか?

 

「あなたの発音では彼女達に分からない。便宜的に”深海指揮官”と呼ぶ。私のことは”アオ”と呼んでほしい」

 

 瑞鶴は、いやこの場の全員が、目の前のやりとりに聞き耳を立てていた。敵機が一時的に引いた以上、

 

『φьΓ¶……アオ? 間延びした、妙な発音ダ』

『それは見解の相違』

 

 この状況にも関わらず、妙に間抜けなやりとりが展開されている。普段無表情な彼女から、わずかに苛立ちが漏れた。その名前、本当に気に入っているのだろうか?

 

『艦隊を引いて欲しい。ワタシを沈めても、北洋艦隊は人間との抗戦を選択しない』

『関係なイわ。ワタシは敵をたおスだケ』

『アナタたちは学習すべき。海神はワタシたちを海の支配者として生んだわけではない。南の女王も気付いているはず』

『繰り返ス。関係ナい。敵は沈めル。ニンゲンのレプリカを、何故庇うノでス?』

 

 人間のレプリカ? 自分達艦娘のことらしい。深海棲艦、南洋艦隊は、自分達をそう見ているということだ。受け入れるつもりはないが、指摘されただけで不快感を伴う解釈だった。人間にもそんな考えを持つ者がいるかもしれない。

 だが自分達はレプリカではない。自分達はフネであり、人だ。

 

『彼女たちが、そしてワタシたちがヒトのかたちをしているのは、何かがあるから。ワタシは見た。ヒトと艦娘が共に生きる生態を。それならばワタシたちも。新しい何かを生み出せる。戦いは、もう飽きた』

 

 今展開されている会話は、本当に深海棲艦たちの言葉なのだろうか? そうだろうと自分の心が返してきた。狂言をする意味はないし、そんな理屈より、すとんと落ちてしまった。艦娘が人を求めるのは、艦娘と人はつがいだから。古来よりフネは女神の化身。船長はその伴侶だったと木葉提督が言っていた。

 それなら深海棲艦もまた、人とつがいであることを望んでいるのでは?

 

『意味不明ダわ。交信を打ち切ル。よき戦いヲしましょウ』

 

 ざざーと雑音がして、深海指揮官の声が遠くなる。

 

『待って!』

 

 普段の無表情から信じられないような大声で、大使が叫び、通信を継続させた。深海指揮官の苛立たし気な息遣いは、これ以上の交渉は不可能だと告げていた。

 

『分かった。ワタシは投降する。ただし、彼女達が安全圏に逃れてから。そうでなければ、ここで自害する。南洋艦隊はワタシを捕虜に出来なくなる。北洋艦隊と交渉もできなきなる』

 

 流石にこれは予想外だった。瑞鶴は艦隊の皆と顔を見合わせる。皆態度を決めかねていた。最後のピースがはまらない。それがなければ動けない、とでもいうように、彼女達は立ち尽くす。

 

「聞いた通り。迂回せず北上して欲しい。ツダヒロムなら、すでに何か手を打っているはず」

「破砕が解けるのは?」

 

 ダメもとで聞いてみた。しかし回答は案の定無慈悲だった。

 

「最短であと半日は戻らない。戻っても、ワタシでは戦闘タイプの姫級には勝てない」

 

 つまりこのまま帰還するには、深海大使を人身御供としてさしだすことだ。

 

「あなたは、なんなのですか?」

 

 神威の問いは曖昧なものだったが、実際それしか言えない。それでも彼女の口から全てを聞きたかった。

 

「ワタシは北の深海女王。新しい女王として、人間を学びに来た」

「女王と言うのは、本当なんですね?」

 

 サラトガの問いは、真偽を確かめると言うより主張の確認なのだろう。それでも大使、いや女王は頷く。

 

「ワタシがヲ級だったころ、六駆たちとツダヒロムに救われた。だから人を学習したくなった。身分の偽りは謝罪する。戦いに巻き込んだことも。でも帰還して欲しい。ツダヒロムが悲しむ」

「最後に聞く。何で提督さんにこだわるの?」

 

 深海女王は、間抜けにも首をこてりと傾けた。今までの必死さは何処かへ消えたかのように。

 

「困った。形容する表現を学習していない」

「それは最初に学んでおきなさいよ!」

 

 レキシントンが言うが、それは普段の女王のズレっぷりを知らないからである。

 何か馬鹿らしくなって、瑞鶴は姉に問うた。

 

「ねえ翔鶴姉。私って、ちょろいと思う?」

 

 翔鶴姉は大いに面食らっていたが、やがてくすくすと笑いだした。

 

「いいえ瑞鶴。あなたは私の自慢の妹よ」

 

 だよね! 流石に口には出さないが、瑞鶴は思いっきり破顔して見せた。

 

「確かにこのまま逃げても、反故にされたら各個撃破ですね」

 

 次に気付いたのはサラトガだ。レキシントンは「えっ? えっ?」と自分たち姉妹の顔を順番に見ていたが、はっと気づいて不敵に笑う。

 

「それでこそ翔鶴瑞鶴よ!」

「Realy? 本気でやるの?」

 

 一番冷静なジョンストンが落ち着けと釘を刺してくるが、その表情は警戒でも不信でもなく、あきらめたから付き合ってやるという苦笑だった。

 

「やりましょう。ここの海域で誰かを見捨てたりしたら、アメリアに怒られます」

 

 まさかの全員の同意が得られてしまった。こう言う勢いで戦うのって、加賀さんも提督さんも後で怒るよね。と思ったが後の祭りである。撤回する気も皆無。

 

「敵を可能な限り消耗させるわ。陣形を引っ掻き回せば夜戦より戦力の再編を選ぶはず。そして時間は私たちの味方」

 

 提督さんが無線封鎖に気付かないはずがないし、パラオの提督も同じだ。初戦が上手くいかなければ、深海指揮官は挟み撃ちをおそれて撤退を選択する可能性は低くない。

 

「アナタたちは、何をしようとしているのだろうか?」

 

 正直に言おう。普段人を食った態度の深海女王、いやアオが、妙に不満がるのが内心でしてやったりだった。

 

「あなたの恋路をちょっとだけ応援してあげるって話よ。よく考えたら翔鶴たちと一緒に戦えて、アメリアも探せるんだから、こんな贅沢なんじゃない?」

「恋路? 男女が心をかわすこと。学習した」

 

 なんかノリがいつもの泊地にもどったようだ。なんか行ける気がした。

 

「敵空母を削るわ! 神威、資材は全部使い切っていいから!」

「了解です。後方支援は任せてください」

 

 いったん航路を外れていたタコヤキ――敵艦載機が、再反転して艦隊に殺到する。航空母艦たちはイナゴのようなそれを、ただ不敵に見つめていた。

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