仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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第12話「特訓! 五航戦!(その3)」

※25.11.1 改稿

 

Starring:提督

 

13:42(ヒトサンヨンフタ) 中央指令室

 

 俺は今かつてない期待感に胸を躍らせていた。首尾は上々と言える。赤城の『一航戦ですぞ。デュフフフ』を聞く時は目前と言える。笑いが止まらんなぁ、ククク。

 

「ご主人さま。今の表情、絶対他の皆には見せないで上げてくださいね」

 

 漣が言う。何故か半眼で。渡された鏡をのぞき込んで、うわっと悲鳴を上げた。どこかの世紀末モヒカンのような悪い顔が映ってる。

 

「まあ、昨日も同じ顔して、『でんがな』でしたからね」

「うっせー、人間は学習するんだよ、さあ赤城、今日がお前の最後だ!」

「はいはい。始まりますよ。ご主人さま」

 

 複数のモニターには、攻撃隊を発艦させる両陣営があった。

 

(さあ、ここが正念場だぞ! 翔鶴、瑞鶴!)

 

 俺は手のひらにかいた汗を拭いつつ、モニターを注視した。

 

 

 

Starring:加賀

 

「行くよ! 加賀さん!」

 

 瑞鶴の突進に、興ざめを感じたのは事実。着任したばかりの「提督」が短時間で立てた作戦ならこんなものだろう。

 恐らくは距離を詰めての反復攻撃。だが堅牢な装甲空母ならともかく、今の彼女たちがやってもただの的だ。翔鶴が同時に突撃しないのは警戒すべきだが、恐らく後方から瑞鶴にエアカバーを展開するつもりだろう。いずれにせよ、先鋒を潰してしまえば彼女らの作戦は瓦解する。

 

(あなたたちは、いつまでこんな堂々巡りをやっているのかしら)

 

 苛立たしく感じる。それは赤城(相棒)も同じ事だろう。五航戦に少佐を近づけるのは止めよう。あの子たちは、こんなところで立ち止まってもらっては困るのだ。

 

 赤城・加賀の二人は艦載機を展開する。空母と言うものは、基本フルで出撃は行わない。第二次攻撃隊が放てるだけの戦力を残しておかないと、新手の出現に備えたり、攻撃を加えた相手に追撃が出来ないからだ。それなのに、この時瑞鶴は、全機の艦載機を頭上に展開した。

 

「愚かな選択ね!」

 

 瑞鶴が全力とは言えど、こちらは二隻がかりである。何も特別な事をする必要はない。

 

 その時、攻撃態勢に入った、加賀の〔流星改〕が火を噴いた。彩雲から情報を受け取る。そこには、連携を取りながら乱舞する90機近い戦闘機(・・・)の姿があった。こんな数の戦闘機が、瑞鶴の格納庫に収まるはずがない。そんなことをすれば、艦爆も艦攻も載せられない。一切の攻撃が出来なくなる。

 虚をつかれた攻撃隊は、たちまち乱戦へと巻き込まれてゆく。

 

 制空権が、逆転した。

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

Starring:瑞鶴

 

「良いか瑞鶴。お前は翔鶴の壁だ。あと囮でもある」

 

 「囮」と言う言葉を聞いて、自分より姉の方が反応してしまった。

 

「囮なら私がやります!」

「だめだよ翔鶴姉! 私がやる!」

 

 囮役を取り合う瑞鶴たちを津田少佐は面白そうに見てくる。

 

「別に囮じゃないから安全ってわけでも無いぞ? 強いて言うならどっちも危険だ。それを瑞鶴に任せたのはだな」

 

 もったいぶった後、少佐は聞き捨てならない事を言う。

 

「加賀とガチで殴り合う役目だからだ」

「やる! 絶対私がやる!」

 

 正直そこまでは期待していなかった彼の作戦だが、そんな美味しい役目を与えてくれるのなら別だ。姉が呆れた顔をしているが、いつもの事ではないか。

 

「そこでだ、囮役は前線に突っ込むから当然戦闘機がたくさんいるよな。だが戦闘機ばかり積んでいたら、攻撃が出来ない。そこでだ。彗星艦爆と流星艦攻を使う」

「どう言う事でしょう?」

 

 津田少佐はふっふと笑う。どうもこの軍人、もったいぶる悪癖があるようだ。

 

「彗星も流星も限定的になら戦闘機に使えるんだよ。瑞鶴が突っ込んで搭載機全機を戦闘機として展開する。これで、赤城、加賀の第一次攻撃隊を食い止める程度の時間を稼げる」

「あっ!」

 

 思わず声が出てしまった。もし自分が一航戦を釘付けにできれば、後方に控える翔鶴姉がフリーハンドを得る事ができる。

 

「連合艦隊は見敵必戦。挑まれれば必ず攻撃に出てくる。赤城と加賀は突っ込んできた瑞鶴を中破以上に追い込み、その後翔鶴を料理する。そう考えるだろう。だが簡単にはいかない。それは」

 

 少佐は一度言葉を切ると、宣言した。

 

「お前たちが、マリアナを知っている(・・・・・・・・・・)からだ」

 

 自分達は顔を見合わせる。マリアナ沖海戦。瑞鶴が守るべきもの、守ってくれたものを失い。自分を追い詰めて行くきっかけになった忌むべき日。

 

「お前たちは最盛期の米艦隊が繰り出した、やべー防空システムをその身で味わった。その経験は赤城にも加賀にもない武器だ」

 

 あの日の悔しさ、惨めさ。身を引き裂かれるような苦痛が武器になる? そんな事は考えてもいなかった。

 

「あるんでしょうか? 私たちに、先輩たちに無いものが」

 

 翔鶴姉がぼそっと自問する。少佐が笑い飛ばした。

 

「そりゃ無いわけないだろ。相互に補い合いつつ戦うのは、戦争の基本だ。仲間も友達も、姉妹もな」

 

 彼はそんな事を言う。そこで何となく察した。この人、悪くないかも知れない。マリアナで得たものはただ胸をえぐられる辛さだけじゃない。立ち向かうための武器になると言ってくれただけでも。

 

「付け焼刃で良い。あの日米艦隊に突っ込んだ日本軍機を、今度は自分が迎撃すると思ってやってみろ」

「分かった!」

 

 少佐は頷いて、翔鶴姉に向き直る。次は、オフェンスへの作戦指示だ。

 

 

 

Starring:加賀

 

「どうしたの加賀さん!? こっちはまだまだ行くよっ!」

 

 してやられた。次々落とされる、もしくは魚雷を投棄して離脱する艦攻を前に、二人の「作戦」を甘く見た事を実感した。艦載機たちは釘づけにされ、後方から迫る翔鶴に隙を与えてしまう。

 

 この状況からの逆転作は、三つほど思いつく。

 

ひとつ。第二次攻撃隊を送り込み、瑞鶴を撃破。返す刀で翔鶴に対応する

ひとつ。瑞鶴はこのまま膠着状態を維持し、先に翔鶴に対応する

ひとつ。防御を固めて艦を守り、五航戦の消耗を待って反撃に転じる

 

 一航戦が選択したのは最初の選択肢、瑞鶴への攻撃だった。他ふたつはどうしても消耗戦になる。例え二人を下したとしても、艦載機をすり減らしてしまえば、攻撃力を失い相打ちと変わらない。加賀は弓で烈風改を撃ち出すと、上空へ待機させる。これは翔鶴の攻撃隊に対する備え。それ以外は全て瑞鶴に叩きこむつもりだ。

 

 そして、翔鶴の第一次攻撃隊はやってくる。

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

Starring:翔鶴

 

「まずは、加賀を狙え」

 

 津田少佐は、はっきりとそう言った。

 

「理由を聞いても?」

「ふたつある。第一に彼女の方が搭載数が多い。第二にその代償として速力が遅く、飛行甲板は赤城と同じくらいでかい」

 

 つまり爆弾を命中させれば赤城さんを狙うより戦果が大きいし、命中もさせやすいと言う事。少佐に指摘されるまでまったく意識していなかった。今まで無意識に加賀先輩を優先的に狙うことくらいはしていたと思う。でもそれが何故そうなのか、言語化さえしないできた。翔鶴はそこで初めて、一航戦の二人が言ってきたこと、今少佐が言っている事をはっきりと自覚した。それは妹も同じだと確信できる。

 

「加賀の飛行甲板にわずかでもダメージが入れば、瑞鶴の負担が激減する。そうなったら勝ったも同然。攻撃に転じた瑞鶴と共同して赤城を掃討しろ」

 

 何も言えなくなってしまった。自分と瑞鶴はずっと、先輩たちを追いかけてきた。なのにこの人は、自分達の間違えいを見抜き、的確なアドバイスをしてくる。

 提督(木葉提督)は、あまりアドバイスのような事はしない人だった。あれこれ世話を焼く割に、本当に重要な事は突き放してくる。その代わり、答えにたどり着いた時には抱きしめてくれたけど。この人は逆。かなりのお節介だ。それが良い事か悪い事か、現時点では分からない。

 

「それとこの戦法は今回限りにしておけよ。タネがバレたらすぐ対策を取られるし、そもそも色んな艦種が入り乱れる実戦じゃ使えないからな」

 

 少佐はそんな事を言う。つまり演習のレギュレーションに合わせて、本当に即興で作戦を考えたと言う事だ。

 

「さて、どうする?」

 

 言うだけは言ったと、少佐は二人の返答を待っている。もちろん、答えは決まっている。

 

「やるよっ!」

「やります!」

 

 そうかそうかと、津田少佐が悪戯っぽく笑う。本当に迂闊なのだが、その笑顔が木葉提督と重なってしまい、翔鶴は首を振ってそれを頭から追い出した。




※〔彗星〕と〔流星〕について
戦闘機として運用できるのは、ゲームの話ではなく史実の飛行機についてであります。あと運用はできるというだけで、当然本職の戦闘機の方が強いです。

誤解されることは無いかと思いますが、念のため。
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