こっ、今回は大和きてくれたから! 大丈夫だから!
本日は二回更新で行きます。夜にもう一度更新します。
Starring:神威
南洋艦隊たちは、潮が引くように戦場から消えていった。
「きっと、提督ね」
翔鶴さんが言う。アメリカ艦の人たちは「さすがにそれは」という顔をしているけれど、神威もそうじゃないかと確信めいたものがあった。
「無線妨害が切れてます。パラオより入電。敵艦隊は南東に離脱したそうです」
サラトガさんが電信を読み上げ、緊張は疲れへと変わって行く。どうやら瑞鶴さんの言う通り、パラオ泊地の艦隊が、襲撃艦隊の背後を突いてくれたようだ。
しかし危なかった。自分が持っているものを含め、砲弾は二割を切り、代えの利かない艦載機は四割も損耗。乗り手の妖精さんがいても、機体が無ければ戦えない。積む爆弾も魚雷も無い。
北に逃げていたら、味方の拠点がない海域で物資不足になる可能性があった。
『こちら矢矧。そちらを電探で確認しています。あと二十二海里で合流です』
『ぴゃあ! 待たせてごめん! 物資も持ってきたよ!』
歓声があがる。戦いは終わった。とりあえずは。
「ごめんなさい。アメリア」
ささやいただけのつもりが、皆に聞かれていたようだ。レキシントンさんとコロラドさんが、進み出て神威と並び、祈る。
「今回はだめだったけど、次は」
コロラドさんが告げた。そう、平和な海が来さえすれば。
「それじゃ、行きましょう」
レキシントンさんが名残惜しそうに踵を返した時、
「通信途絶! 翔鶴姉! そっちは!?」
「駄目! 繋がらないわ!」
霧が立ち込め、電探が死んだ。
「偵察機を」
サラトガさんが残り少ない偵察機を発艦させる。しかし
「急いでこの場から……!」
「待って。
瑞鶴さんの言葉をアオさんが遮った。そして、例の宝玉を掲げる。
現れたのはイロハ級たち。みなアオさんに首を垂れ、ひざまずいた。
「これ、どう言うこと?」
コロラドさんが問う。答えるアオさんに、焦りの色はない。
「記録にある。彼女たちは、古の同胞。まだ人間と戦うことを海神に命じられる前に、ここに
「
「彼女たちはすでに、この世にいない。これはワタシたち――
「彼女たちは、どうしたのですか?」
アオさんは、静かに首を振る。
「分からない」
既に天寿を全うしたか、何者かに狩られたか。それは多分もう、誰も知らない。
先頭にいたイ級が進み出て、何かを手渡した。
「パイロット用のゴーグル? これって」
受け取ったアオさんはそれを掲げ、そっと神威たちに差し出した。
「おそらく、アメリアのもの」
「これが……?」
静かに受け取る。グラスにはひびが入り、パッキンも痛んで、もう使えないだろう。
「覚えてる。アメリアの写真と一緒」
「じゃあ、彼女達は」
アオさんは頷くとしゃがんで、イ級をそっと撫でた。しかしその手は頭をすり抜け、虚空を泳いだだけだった。彼女たちは記録でしかない。そう言うことだ。
「伝わった。そして記録した。彼女たちは、瀕死のアメリアを保護し、短い時間共に暮らし、言葉を交わした。でもアメリアは息絶えた」
それが本当だとしたら、深海棲艦との時間はどのようなものだったのだろうか? 彼女たちがおこす火は暖かかったろうか? 食べ物を分け合ったりもしたのだろうか? お互いの歌を聞かせあったろうか?
「それは、なぜでしょう?」
アオさんは直ぐには答えない。代わりに、再びイ級を撫でる。その手はやはり、空を流れた。
「分からない。記録も無い。でも想像は出来る。彼女たちは、伝えたかった。自分たちがここに存在したこと。自分たち以外のだれかと言葉を交わしたこと」
アオさんは立ち上がり、そっと敬礼した。イロハ級たちもそれに応えた……かのように思える。きっと。
気が付いたら神威は、いや艦娘たちは全員、彼女達に敬礼していた。
「彼女達も、きっと喜んでいる。かつてほんのひと時、
ああそうか。この
「終わらせましょう。戦争を」
ほとんど無意識に口にした言葉は、期せずして、この場にいる全員の想いだった。なぜかイロハ級たちがほほ笑んだ気がした。
「
アオさんの言葉を待っていたかのように、それは消えて行く。
「ありがとう」
言葉は広がる。そして霧は晴れ、彼女たちは、また記憶となった。
「さ、帰ろっか」
瑞鶴さんが、いつもの調子で宣言する。
大変な旅だった。でも大切な思い出になる。そんな確信があった。
数日後、アメリアの遺品が本国に帰還し紙面を飾ることとなる。そしてそれは、艦娘たちと人間と、友好的な深海棲艦たちとの合同で行われたという事実。北洋艦隊との講和条約が交渉中であるという、戦時下に輝く希望と共に。