仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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提督や艦娘たちが走り回ってる間、基地の人たちは何してるの? な回です。裏側ではいろんな人たちが頑張っています(`・ω・´)ゞ


第127話「基地職員たちのお茶会」

Starring:とある整備兵

 

丹賑(ニニギ)島泊地 工廠

 

 カチッカチッと景気のいい音も空しく、振ろうがこすろうがライターが着火する事はない。

 百円ライターと侮るなかれ、物流がひっ迫している戦時では、不要不急の物資は後回し。喫煙者に厳しいご時世、ライターも後回しだ。

 こんなことなら、先月の休暇に内地に帰っておくのだったと後悔する。質素倹約を気取るつもりはないが、このご時世、将来のために何が出来るかと言ったら、結局カネと技術だと、岡本奈波一等兵は思う。そうは言っても、未だに戦時下の社会と言うものが、理解しきれていない自分がいる。

 

「ほら」

 

 しゅぽっと言う音がして、火薬が灼けるにおいがする。同期の椎名陽介一等兵が、マッチを向けてくれていた。お礼を言おうとして、マッチ箱のいかがわしいロゴに気づいて、つい険しい目で見つめてしまう。

 

「これは……そういう店じゃねぇよ? 確かにお姉ちゃんはいたけどさ」

 

 言わないで良いことをぺらぺらとしゃべる姿に色々どうでもよくなった奈波は、とりあえず煙草に専念することにした。こんなやつだが、最近妙に張り切りだして、誰かが技術書を買うと、昼飯と交換に読ませてもらう姿をよく見る。見下ろしていた人間に追い抜かれるようで、面白くない気持ちはある。

 

「それよりさ、今朝の訓示、どう思う?」

 

 喫煙者でもない彼が、こんなところにやって来たのは、初めからその話題をしに来たか。

 

「良いじゃない。戦争が終わるなら」

 

 戦争なんて、他人事でいたかった。

 ただ機械系の専門学校を卒業したというだけで、十八歳で軍からお招きがあり、気づいたら一等兵だ。入隊拒否はできると言えばできたそうだが、提示された資格やら戦後の優遇制度やらに浮かれて、応じてしまったのが運の尽きである。

 最初にそれを実感したのが、配属が内地ではなく前線の孤島であること。そしてガチの空襲の中、弾運びをさせられた時である。

 でもって長距離恋愛あるあるで、三年付き合った彼氏の浮気がとどめの一撃であった。問い詰めたら、奈波の雰囲気が怖くなったとか、戦争に行って変わったとか、ぐだぐだ言い訳をされた。新しい恋をしようにも、場所が場所である。

 

「いやいや、大都市を爆撃した連中だぜ? まだ裏があるかも」

「そんなの、偉い人が考えるんじゃない?」

 

 実際、津田司令が北の深海棲艦との停戦交渉について開示してから、皆浮ついている。除隊して復員できるかもと期待を膨らませる者や、停戦に反対する被害者遺族の志願兵。

 

「それに講和ったって、いくつもある艦隊のひとつが相手だろ? 結局戦争は終わらないんじゃね?」

 

 嫌なことを言うやつだ。おそらく真実であろうからなおさら。

 

「あんたは内地に戻りたくないの?」

 

 椎名はそっと首を振った。

 

「俺は、この島に残る」

 

 驚いた。こいつの事だから、おねーちゃんのいない生活ガーとか言い出すのかと思った。

 

「艦娘にでも惚れたの?」

「広義ではそうかな」

 

 ちゃらけた反応が皆無なのは、正直面食らった。彼は、何かを見つけたのかもしれない。

 

「最初はちょっと価値観違うなぁとか思ってたけど、一緒に仕事するようになってから、なんか当てられちゃってさ。ここで一から何か作りたいんだ」

 

 上手く返事が出来ない奈波に、

 

「ここには何かやろうとしたときに、文句言ったり邪魔する人もいないし」

 

 言うだけ言って、椎名はいかがわしいマッチ箱を一斗缶の灰の中に放った。古めかしいハイヒールと口紅のイラストが、水を吸ってふやけて、沈んでゆく。

 

 東北生まれの奈波は、田舎の温かさが、などと言うよそ行きの広告文は信じない。でもまあ、言いたいことは分かる。内地ではみ出した人間も、ここでは受け入れられる余地がある。艦娘たちは、自分の生き方に正直で、そこに心地よさを見出す者もいる。

 

「そういうわけだから、お前には言っとこうかなって」

 

 話は終わり、とばかり椎名は立ち上がる。そして見上げた顔がぱっと華やいだ。

 

「夕張さん! 翔鶴さん! お疲れ様っす!」

 

 夕張さんはいつもの工具箱ではなく、大きなやかんを両手にぶら下げていて、翔鶴さんはこれまた大きなランチボックスを抱えている。どうやら差し入れらしい。

 

「お疲れ様です。16インチのスーパーヘビーシェルはどう?」

「部品が足りませんから、うちの海曹も四苦八苦してるっすよ。俺も血が騒いじゃって、早く艤装のセッティングとかも任せてもらいたいっすね」

「それはまだまだ修行しないとダメね。それにあれは重いから、まだまだ扱える整備兵は少ないのよ」

「気が急いてるっす。同じスーパーヘビーシェルでも、リシュリューさんの15インチ砲は近距離の殴り合い用だから、やっぱり長距離仕様のアイオワさんのに興味があるんすよ」

「それ、私も明石も悩んでることだから。何か気が付いたら教えてちょーだい」

「うっす!」

 

 そんなことを思っていたのかと驚き、そしていつの間にか夕張さんとこんな話ができているのも面食らった。

 

「さあ、鳳翔さんがサンドウィッチを作ってくれましたよ」

「ありがてぇ」

「よーし、階級順に並べーっ!」

 

 整備科のスタッフたちもぞろぞろと集まり出す。階級がどうとか言っていたが、そこはゆるい令和海軍。誰も守る者はいない。どう見ても全員分はあるのだが、順番を奪い合うのがレクリエーションと化している。

 

「それとですね。提督や沢田大尉には内緒ですよ?」

 

 翔鶴さんが唇に指を当て、夕張さんがやかんのふたをぱかりと開ける。中から出てきたのは水やお茶ではない。白く濁った甘い匂いの液体。これは甘酒の色ではない。と言うことは、泊地名物どぶろくである。

 

「お二人とも配るのを手伝ってもらえます?」

「いえーす!」

 

 椎名が元気よく手を上げて、やかんを持ち上げ、湯飲みに注いでゆく。

 

「岡本さん、先週のお休みは内地に戻られなかったですが、お疲れですか?」

 

 にこやかに語りかけて来る翔鶴さんに驚いた。

 

「私のこと、ご存じなんですか?」

「ええ、あなたが来てから、資材の積み方が奇麗ですから。お仕事の合間に整理整頓されてるでしょう?」

 

 驚くのは何度目か。艦娘と言う存在は戦う為にいるのだから、そう言うのは気にしないと思っていた。勝手に思っていたのだ。

 

「あの、ありがとうございます」

「お礼を言うのがあべこべですよ?」

 

 翔鶴さんは楽しそうに笑う。

 今はっきり気付いた。この島は、艦娘は、人を変える。多分良い方に。

 

 椎名ほど思い切りは良くない。でも、もう少しだけやってみようかな。

 

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