仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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アトランタ回です。ちょうどてるてる坊主と引き換えにアトランタ砲を受け取ったところです。持ち主であるアトランタ本人の方はまだお迎えしてないんですけどね(´・ω:;.:...

夏イベにむけて、頑張っていきます。


第129話「結成! アトランタを愛し隊」

『ヒトヒトマルマ……ゴンッ! ザザー』

『妙高姉さん、そんなマイクに近づかなくてもいいから! お辞儀(じぎ)もいらないから!』

『そうなんですね。では……ゴンッ! ザザー』

『あー、重巡那智だ、代わりに読み上げる。本日ヒトハチマルマルより米国艦たちの送別会を行う。任務のない者は出席するように。鳳翔や大和は、かなり張り切っているから期待して良い、とのことだ』

 

 

 

11時00分 執務室

 

Starring:提督

 

「提督、Intelligenceを借りたいの!」

「……ぽい!」

 

 帰還を控えた米国艦たち一行が、いつの間にか仲良くなった暁と夕立を引き連れてやってきた。ある「お願い」のためだった。

 

「……なんで俺がそれをやるんだ? 別に直接伝えればよくない?」

 

 もっともな疑問だと思うのだが、暁がそれは駄目と首を振る。

 

「そこは、アトランタもレディのプライドがあるし」

「Meたちが言ったら、絶対Run Awayするから」

「確かになぁ」

 

 相談の内容はこうだ。今回の件でアイオワを心配してくれたこと、久我の侮辱から暁と夕立を庇ってくれたこと。諸々を感謝の気持ちを返したい。でも問題は、彼女は絶対逃げると言うことだ。

 

「司令官なら適任よ。暁が認めるから!」

「気軽に言ってくれるなぁ」

 

 そもそも、彼女はなぜそこまで他の皆との接触を避けるのか。それを判断する材料は、俺にはない。

 

「私の推理では、アトランタは何か悩みがあって苦悩しているのよ!」

 

 どこかの政治家みたいなことを言うコロラドはスルーして、原因を考える。

 

「そもそも任務では連携取れてるんだろ? 無理強いして輪に入れることないんじゃないのか?」

 

 俺も防大時代、手のかかる後輩二人がいなかったら、多分ぼっちだ。

 

「いつもはSilentにしてるわ。でもこのままじゃGoodじゃないわ。あなたが大切ってことだけ伝えたいの」

「アトランタさんは夕立たちをかばってくれたっぽい。でもお礼を言おうとすると逃げるっぽい」

 

 まあ言いたいことは分かった。彼女たちはアトランタを輪に入れたいんじゃなくて、「輪に入ってなくても大事な仲間だから」と伝えたいだけなんだな。

 だけどまあ、言われる方になると相当に照れくさいだろうかなぁ。南部のやつが「先輩、あなたが大切です!」とか真顔で行って来たら蕁麻疹(じんましん)がでそうだ。

 

「実は私にいい考えがあります」

 

 レンジャーが進み出る。艦歴の長い彼女だから、米海軍伝統のコミュニケーションスキルとか、そう言うのを期待したのだが。

 

「この国には素晴らしい文化があると知りました。卓を共にすることで胸襟(きょうきん)を開く、すなわち呑みニュケ――」

却下(Rejected)ね」

「却下ですね」

「推理は必要ないわね。却下よ」

 

 全員からノーを突きつけられ、彼女は肩を落とした。そりゃあここ数日、隼鷹や千歳たちとやらかしたアレコレを知ってりゃなぁ。

 結局、俺がやらないといかんらしい。

 

「分かった。とにかく話しておくが、彼女が嫌がるようなら俺も深入りはしないからな」

 

 場の空気が明るくなる。もう大丈夫だと言わんばかりだが、そこまで俺を信頼する原資は何なんだ?

 

「提督さんも大好きっぽい!」

 

 夕立が大げさに手を広げ、俺は苦笑する。のだが、艦娘たちは少し驚いた表情で彼女を見やり、何人かにやにや笑いを浮かべる。

 

「私の推理が正しければ、夕立は――」

「やめましょう。野暮ですよ」

 

 何か言い出したコロラドに、サラトガが人差し指を唇に当てた。

 そんな大げさな話でもないと思うんだがな。

 

「とりあえず送別会に参加するように頼んでみるから」

 

 また安請け合いしてしまったようだ。安心した艦娘たちは、お礼を言って執務室を出て行く。

 

 何故か今日も、赤城の機嫌が悪かった。

 

 

 

12時04分 閑閑亭

 

「すみません許してください何でもしますから」

 

 両手を合わせてお辞儀する俺に、アトランタは大げさにため息をついた。

 

「頼むよ。送別会出てくれないか? サラトガ辺りに頼んで、皆が暴走しないように頼んでおくから」

「そう言うのって本人の前でいきなり言うの? 話をして打ち解けるとか、サプライズとか、そう言うのじゃないの?」

 

 それは十二分に承知しているが、何しろ明朝ハワイに向けて抜錨だからな。時間がないし、それに多分、これでいいんじゃないかと思う。

 

「ここに来るまでの俺がそうだったから分かるんだが、お前もサプライズとか嫌いだろう?」

「うん、まあそうだけど」

 

 歯切れが悪いが、肯定だろう。

 

「かと言って相手が嫌いってわけじゃない。心の準備なしに、グイグイ来られるのが嫌なだけだ」

 

 だから単刀直入に話をして、事情を汲んでもらうのが誠実だと感じたのだ、のだが。

 

「……放っておいてくれればいいのに」

 

 すげない返事だった。まあそう言われるとは思ってたよ。俺は、多分どちらの気持ちもわかる立場にいる。

 

「ここが普通の職場ならそれでいい。でも俺たちは、一時の別れがそのまま一生、ってのは普通にありうる。だからあいつらのささやかな言葉だけ、受け取ってやってくれないか?」

 

 アトランタは沈黙する。思考を遮られるのが好きじゃないのは、彼女じゃなくてもそうだろう。俺はただ答えを待つ。

 

「提督さんは……」

「ん?」

 

 彼女はそっと語り出す。どうやら俺は、それを話してもらえる程度には信頼を得たらしい。

 

「提督さんはさ、考えたりしない? 自分が死んじゃって、そのせいで自分の大切な人(・・・・)が凄く苦しんだり、そいつも死んじゃったりした。それを後になって聞かされるとか、そう言うの」

 

 皆が必死に戦っている時に、自分は海の底で、駆け付けることができなかった。その後悔を抱えて、今も戦っている。サバイバーズ・ギルトの裏返しだ。俺は”残されて”しまった。彼女は自分が”残して行って”しまった。合わせ鏡のようだとも思う。

 

「俺の事情は、全部知ってたわけだ」

 

 アトランタは頷く。若干の罪悪感を感じた。

 

「こっちに来るとき、Admiralから。よく話してみろ。自分と向き合えるから、って」

 

 まあ別に隠してるわけじゃない。ここじゃ皆知ってるし。

 

「この姿になった時、アイオワとか本当に嫌だった。なんで一番苦しい時に、ソロモンに来てくれなかったのに、後から来て最強だなんだって。でもいいやつだった。あいつも辛いって分かったし。そうしたら、誰に気持ちをぶつけたらいいか。分かんなくなった」

 

 つまりこいつは、果てしなく優しいのだ。だからこそ周りに人が寄ってくるけど、距離感がうまくつかめない。

 

「そっか。でも良いんじゃね?」

「……なにが?」

 

 聞き返すアトランタはどこか不満顔で、おかしくなってしまう。こいつは優しいだけじゃなく意外に感情豊かで、それを隠すつもりで隠してない。夕立も暁も放っておかないわな。こういうキャラのやつは。

 

「俺は今確かにここにいることが幸せだと思うし、お前も一歩踏み出す方がいい気もするけど、一足飛びを強要しても疲れちゃうだろ」

「それは、まあ」

 

 やっぱり不満そうな返事。つまり皆と仲良くしたいのが丸わかりなのだ。

 

「じゃあこうしよう。小さくて地味な一歩として、俺を練習台にする。任務外ならため口も許可。変な渾名もつけていいぞ? 漣のやつにもご主人さまとか読んでくるし。今更だしな」

 

 三度アトランタは不満そうに唇をへの字にする。言葉にするなら「なにいってんだこいつ?」と言ったところだろう。

 

「いいじゃないか。”(かい)より始めよ”だ。俺で始めて失敗しても、所詮俺だから。低リスクですむだろう」

 

 我ながら名案のつもりだったが、先ほどと打って変わって、彼女はくくく、と笑い出した。

 

「なんか、馬鹿らしくなっちゃった。今晩の送別会、出ることにする」

「おう、そりゃいい考えだ。まあ悪いようにはしないよ」

 

 アトランタはしばし考え、ペンを取り出す。紙ナプキンにさらさらと何か書いて、俺に差し出した。

 

「じゃあ一歩を踏み出す。責任はもってもらうから」

 

 視線を落とすと、それはメッセージアプリのアカウント名だった。

 

「連絡した時、返事はなるべく早くね」

 

 早く登録しろと、彼女はぴらぴらと紙ナプキンを振る。事情は分からないが、俺はスマホを取り出した。

 

「分かってるだろうが……」

「検閲は入るんでしょ。大丈夫」

「いったい何でそんな話になったんだ?」

 

 アトランタはぺろりと舌を出す、と言うたいへん彼女らしくない仕草だったが、何故か違和感を感じなかった。そして、俺を満足そうに眺める。

 

「まずはね。知ってみたいと思ったから」

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