仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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明日は所用で外出するので、今日更新いたします。

こう言うわちゃわちゃやってる話って好きです。気楽だけど人間関係が動き出すキーになるお話だったりしますね。

六章も最終話。来週から最終章が始まります。かつてないほどの大決戦が艦隊を待っています。提督たちの、修羅場が見れる!


第130話「キーホルダーと、恋の行方」

Starring:提督

 

 米国艦たちを送り出し、やっとそれなりの時間が出来た休日。すぐに鎮守府解体派からの横やりが入るから、今のうち行ってきてください。大淀からそう言われ、俺は赤城・漣と予定を調整した。やはりいろいろ気まずいのか、二人とも同じ返答をした。

 

『漣と一緒であれば』

『赤城と一緒なら』

 

 この気まずい状態は何とかしなきゃならんが、とりあえず今日は、二人に楽しんでもらう日だと割り切ることにして、俺たちは〔オスプレイ〕で横須賀へ。

 

 お目当ては、アーケードの裏にあるちょっと変わった小物店。ここでは売り物のキーホルダーに色んな曲を入れてくれるのだが、レパートリーが豊富なのに店主の好き嫌いでラインナップが偏っていて、好みを探して試聴コーナーを物色するのが、最近の楽しみだ。

 

 俺は店主に挨拶し、さっそく二人に試聴コーナーを勧めた。と言ってもテーブルの上に、型落ちのノートPCがあって、それがヘッドホンに繋がっているだけだ。

 三人でわいわいと選ぶのも楽しいかと思ったのだが。

 

「これにします!」

 

 開始三分で、赤城が高らかに宣言した。早い、早いよ!

 

「いいんだが、いいのか? 『軍艦マーチ』も『同期の桜』もあるぞ?」

「いいんです! これに決めました! 戦場でひもじい時も、これがあれば生き抜けます!」

 

 そ、そうか。

 

 今ヘッドホンに流れている曲は、俺が小学生の頃TVで流れまくっていた、やたら耳に残る歌だ。まあいい曲だとは思うがその、どちらかと言うとお子様仕様だぞ?

 

「そうです! お魚を食べたら頭がよくなるのです! 彼らは待っていてくれるのです。私を!」

 

 お前をかよ。

 まあそんなに気に入ったならいいかと思うが、漣が決めるまで待ってるのももったいない。

 

「せっかくだ。それはキープしておいて、他のも探してみたらどうだ?」

「そうですね。その時こっちは自費で買う事にしましょう」

 

 どうやら買わないと言う選択肢はないらしい。楽しんでくれるなら何よりではあるが。

 

ktkr(キタコレ)!」

 

 検索画面を眺めていた漣が、何故かテンション高く前のめりになっている。

 

「漣の曲がありますよ!」

「ん? ああ、波の方の『漣』を謡った曲ね。随分古いな。お前たちの時代の歌じゃないか」

 

 『ドナウ河の漣』という童謡らしい。漣はヘッドホンを耳に当て、真剣に聞き入る。が、なぜかかあっと赤くなる。

 

「……えへへ」

「どうしたんだよ? そんないい曲なのか?」

「し、シラネーヨですっ」

 

 それだけ言って、ヘッドホンを抱き寄せて身を離す。なんだ?

 

「ふむ、ちょっと失礼します」

「あっ」

 

 赤城がそれをひょいととりあげ、奪われないように両手で押さえて聴き始める。やがて。

 

「ああ、なるほど」

 

 と意味ありげに笑う。なんだかよく分からん。スマホを取り出して検索してみる。良い歌詞だが、難解だな。明治の作詞とあるから、当時は分かりやすかったかもだが。

 

「提督、『えぐち版』で検索してみてください」

「あっ、ちょっと赤城!」

 

 悪戯っぽく追加情報を投げてくる赤城に首をひねりながら、検索条件を追加する。どうやら東欧から伝わった曲に、色んな作詞家がめいめいで詞を付けたみたいだ。だから複数の解釈があるようだが、こんなもん見つけて来るとは、店主も好きものすぎるな。そして予想した通り、こちらのバージョンは恋歌で……。

 

「おい、これはやめないか?」

 

 言葉こそ強いが、口調はお願いだった。だってそうだろ? 聞きようによっては「失恋した男をドナウ河を流れる”漣が慰める”歌」なんだから。

 

「嫌です!」

「嫌ですよねぇ」

 

 二人はなんか頷き合っている。こいつらほんと仲良くなったな。もともと赤城は、加賀との関係を「親友」と評されると、「一言で言える関係ではないですよ」と笑いながら否定し、「自分達に余計な言葉は必要ない」と無言で時間を過ごす間柄だ。

 漣との気の置けないおしゃべりは、彼女にとって新鮮なものなのかもしれない。

 

「あんまり大っぴらに皆に聞かせるなよ?」

「そんなもったいないことしませーん」

 

 俺はしぶしぶ承諾し、用紙に注文番号を書き込む。

 

「じゃあ、次は赤城の番ですね!」

 

 調子に乗った漣が選択したのは、唱歌のカテゴリー。流石仲がいいだけのことはあると感心した。今の(・・)赤城に、そう言うがかなりしっくり来る。

 

「おっ、懐かしいな。俺この曲合唱コンクールで歌ったわ」

「えっ、ご主人さまって歌上手いんですか?」

「まさか。小学校のイベントだ。音痴で迷惑がられたよ」

 

 嫌な思い出が頭をよぎった。クラスの女子から「みんなが迷惑してるから」とかフツーに言われた。当時はいらついたが、何年か後テープを聞きなおしたら、外れた音がしっかり収まってた。もう人前で歌うのはごめんだわ。

 

「ふむ。音源は無いんですか? 何でしたら『きぃほるだぁ』に入れるのはそれでもかまいません。いやむしろそれが」

「その手がありましたか! GJ(グッジョブ)です!」

 

 なにがグッドなのか。教えて頂きたい。

 

「怖いこと言うな。親父が撮ってた気がするが、もうどこに行ったか誰も分からんだろう」

「ぶー」

 

 赤城が頬を膨らます。ぶーとか言うなぶーとか。

 

「でも赤城はきっと上手いと思うんですよ。ネギ振り回したり鹿殴ったり」

「何を言ってるのかよく分からんぞ?」

「そう言うアイドルがネットにいたのです」

「複雑怪奇だな」

 

 俺と漣が下らないやりとりの横で、いつの間にかヘッドホンを着けていた赤城が真剣な顔で聞き入っていた。

 

「素敵な歌ですね」

 

 俺も映画好きの端くれ。心のこもった「素敵」という言葉は、観客からの最高の賛辞だ。俺は頷いて、その思い出の歌詞を検索する。

 『マイバラード』か。聞くのはもう十年ぶりかも知れない。でも、色あせない歌詞だ。俺もこんなキラキラした青春を送りたかったな。そこまで考えて、スマホを弄る手が止まり、自然と視線は艦娘たちに移る。

 昔の俺が今の俺を見たら、割と「キラキラしてる」って言ってくれる気がした。

 

 赤城もここにくるまで色々あったから、「みんなが君を見てるよ」って歌詞が、彼女にすっと入っていったのかも知れない。

 

「なあ、提案なんだが。俺が渡すのは『おさかな天国』にして、この曲はみんなでそれぞれ買わないか?」

 

 二人の顔がぱっと輝く……かと思われたが、俺に向けられたのは人の悪い笑顔だった。

 

「なるほど。自分で配るとまた怒られるから、みんなでそれぞれ買うようにってことですね。策士よのう」

 

 そんな大げさなもんじゃないが、これをみんなで持ったら「素敵」かなと思っただけだ。命知らずの海兵隊が同じ刺青を入れるようなもの、と言えば途端に色気が無くなるが。でもそう言う絆を確認し合うのって、ちょっと憧れると言うか。

 

「いいんじゃないでしょうか。艦隊を終の棲家と思うものだけが買って、明かさず胸に秘めて置く。何だか年頃の女の子みたいで、わくわくします」

 

 お前も年頃の女の子だろうにと、俺は苦笑する。動物園の時とか、漣との接し方とか。こいつは「女の子らしいこと」に憧れてて、それを隠して生きてきたんだな。そこで女の子らしい所を連れまわしてやりたい衝動に駆られた。今度は加賀も一緒に。

 

「でも今日だけは、漣たち三人の共犯でいいですよね?」

「そうだな。今日はこれでいいかな」

「?」

 

 二人は首を傾げ、すぐ顔をこわばらせた。「今日だけ」は。そして俺は息を吸う。こんな衝動的に言っていいことじゃない。でも必要なことだから。正直、何かを決意できたわけではない。だけど、まずは話してみる。俺は――。

 

「実はな、兼ねてからの宣言通り、閑閑亭に部屋を借りることにした。オリジナルを模した質素っぽい別棟だけど、冷暖房完備」

「へぇ、それは豪気ですねぇ。漣と妙高さんが倹約を推進した成果ですね」

「大丈夫なんですか? 最近色々振り回されて寮に帰らない日も多いですけど」

「だからな、それで引っ越すにあたって、大切なことがあってだな」

 

 かなり突っ込んだ話だったんだが、二人はきょとんとした表情で俺を見つめ、かつなんか怪訝そうである。またこいつやらかすのか、とでも思われてるんだろうか。

 

「ひょっとして呉に置いたままの映画の円盤、まだ残ってるんですか? 運ぶなら手伝いますけど、整理を頼まれても分かりませんよ?」

「あれこれ入れたハードディスクの処分なら力になりますぞ。でもその前にちょっとだけ確認をキボンです!」

 

 こ、こいつら本当に何の話をするか気付いてないのか。いやそんなはずはない。無意識に”そう言う話”を頭から締め出してるんだろうな。俺もそうだったから。でもこのまま有耶無耶にするのは、きっと良くない。ちゃんと、ちゃんと言わなければ。

 

「断ってくれても構わん。俺は――」

 

 意を決して一世一代の言葉を吐き出そうとしたとき、終わりを告げる着信音が響いた。全員が諦め交じりの苦笑を浮かべる。緊急事態だ。

 

『大淀です。お休み中すみません。例の件(・・・)です』

 

 報告は最短だった。例の件、つまり講和条約に進展があったと言うことだ。

 

『今日はどこか民間の宿をとってください。詳しい話はそちらに連絡が行くそうです』

 

 内地に遊びに来ているのは幸いだから、このまま遊びに来たふりをして連絡を待てと言うことか。これで三人の時間は中止にはならず、むしろ延長したようだが、赤城も漣も無邪気に遊ぶ気にはなるまいな。俺もそうだし。

 

 俺はとりあえず会計を済ませ、密談のできる場所に河岸を変えることに決めた。夕飯はネイビーバーガーとチーズケーキでも、横須賀の経費でたかってやろう。

 

 目で合図すると、赤城と漣も頷く。当たり前だが流石なもので、二人とも即座に腹をくくっていた。俺は、事前に決めて置いた符牒で、大淀に”ある命令”を下す。彼女も何かを予想していたようで、驚くそぶりは見せなかった。

 

 さあ、最後の海域へ進出と行こうか。

 

 

 

最終章へ続く

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