仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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深海棲艦の大艦隊に立ち向かう前に、提督にはもうひとつ戦うべきものがあるのです。津田宏武、正念場です。

現在E1-2で引っかかってます。初めて挑んだ乙ですが、札と言う括りがある分丙よりだれなくて楽しいですね。でもあれこれ調べて頭を使います(;^_^A


第129話『喪失と、さよならと。そして――(その1)』

Starring:提督

 

 翌朝、講和会議当日。俺たちは、呉駅前をうろついていた。

 俺の腹は既に、クレイトンベイホテルのコースでもたれ気味だが、赤城はまだ物足りない様子。代金が綾郷さん持ちで良かった。

 なお皆が私服で、俺に至ってはジーンズとTシャツに安物のジャケットである。注目を集めたくはないからな。

 俺は胸のホルスターを触る。唯一の官給品はこいつだけだ。一応持っとけと木葉先輩に言い含められたが、あまり気が進まなかった。どうせ深海棲艦に通じる装備ではないし。

 

「それで、これからどうするんです?」

 

 漣が当然の疑問をぶつけてくるが、俺はいたずら心が湧いて、意地悪く言い返した。

 

「昼までぶらついて、福膳でタコ焼きでもつまむか」

 

 赤城の目がきらきらと輝くが、すぐに我を取り戻して咳払いする。

 

「そう言う話ではなく。いえ、タコ焼きはありがたいですが」

 

 俺は苦笑して、プランを話す。雑踏にはそれなりに人がいる。ガンマイクも使いにくいから、下手な店より話を聞かれにくい。

 

「何もしないのは本当だ。俺たちはぶらぶら動き回って解体派の目を引き付ける」

 

 実際、俺は知恵は貸したが指揮を執る立場ではない。やつらの面子は割れている。外患誘致の証拠はないから即逮捕は出来ないが、怪しい動きをすれば全員御用だ。

 正直、昨日の決裂には思うところがないではない。しかしこちらは歩み寄り、久我は拒んだ。それが全てである。

 

「でも、また南洋艦隊が襲ってきたら?」

「各鎮守府の周辺にピケット艦隊を置いて警戒線を敷いている。あの化物砲の予測射程の倍だから、いきなり砲撃を受ける可能性も無い」

 

 二人の顔は、それなら安心、とはならなかった。自信満々の久我大佐を見ているからだ。そこは同意する。やつらは、何か仕掛けてくる。

 

「俺はその時出ていくことになるかな。一応手は打ってるし」

「手、とは?」

 

 赤城は若干、焦れた様子。だがまあ、さすがにここでそれは言えんよな。

 

「まあ、任しておけ。一世一代の大戦(おおいくさ)。きっちり勝ってやんよ」

 

 俺は胸を叩いて見せる。半分は虚勢だが、皆の居場所を守りたい。その思いは嘘ではない。

 

 だけど、その虚勢はばらばらに破壊された。たまたま、ほんの偶然に再会した。かつての想い人によって。俺は立ち止まり、ようやくひとつの名前を絞り出した。

 

「八千草――さん」

 

 幼子の手を引く彼女の髪は、黒髪でなく茶髪だったけど、相変わらず長くて奇麗だった。俺を人殺しと呼び、拒絶したあの日そのままに。俺と南部、そして長谷部。かつて四人で遊び回っていた、あの笑顔はすでにないのだ。ただ侮蔑と、やり場のない怒りが俺に向けられていた。

 

「……あなたは」

 

 口がかわく。できることなら、これから続く言葉から、耳を塞いで逃げ出したい。でもそれは出来なくて。

 

「あなたは、いいですよね」

 

 それが、俺の両脇で立ち尽くす、赤城と漣を指していることに気付く。俺を囲む艦娘の存在が、彼女にとって許せなかったのかも知れない。

 

「……悪いのは、俺です。どうか、二人には」

 

 やっとのことで、それを絞り出した。八千草仁美(ひとみ)さんはそれに応えず、子供の手を引き、俺たちをすり抜けるように去って行く。調子付いていた俺に海神(わだつみ)の天罰が落ちたかのかもしれない。

 

「待ちなさい!」

 

 彼女を呼び止めようとした赤城の腕を掴む。納得いきませんと目が語っていた。でもここでこれ以上あの人の言葉を浴びたら、俺はもう、耐えられない。

 

「大丈夫だから。頼む……」

 

 それで彼女の気勢は削がれた。漣がぎゅっと俺の腕をとる。大丈夫。大丈夫だから。

 

「悪いな。水差しちまって。さあ、どっかの喫茶店でモーニングでも食うか。どうせ人の金だしな」

 

 がはは、とわざとらしく笑って、スマホを取り出す。喫茶店の情報を調べるだけなのに、指が震えた。

 

「提督! 駄目です!」

 

 俺の為に戦わせてくれ。そう言いたいのかも知れない。立ちふさがった赤城を、俺はどうしてやればよかったか。いや、俺自身を、俺はどうするべきだったか。

 

 世界が、ゆがむ。

 

 

 

 だが世界は、もっと根本から歪んでいた。一発の巨大な火柱によって。

 

 耳障りな飛行音。青空にまき散らした(すみ)のような艦載機(タコヤキ)が、小型爆弾をばらまいた。

 腹の底から蹴りを食らったような衝撃と爆風。そして爆音。東京空襲以来、人々は防空訓練を受けているから、素早く伏せることが出来た。しかし、吹き飛ばされた窓ガラスに背中が突き刺され、泣きわめく子供や、伏せるのが遅れて、アスファルトに叩きつけられる老人がいた。

 

「基地の方だ! あいつら、いくら何でも――」

 

 それ以上の言葉はなかった。状況を防げなかった以上、対処するしかない。

 

「赤城! 漣! 要救助者を病院、無理なら地下壕に連れて行け」

 

 艦娘の足なら、すぐに医者のいるところに飛び込めるはずだ。

 

「待ってください! ご主人様の護衛は!?」

「分かってる。だから最短で戻ってこい。その間に車を見つけておく」

 

 情に引っ張られた決断だと自覚していた。しかし失われつつある人命を放っておけないのもまた事実だ。議論している時間もない。二人とも、不承不承敬礼する。

 

「すぐ戻ります!」

 

 赤城が駆け出し、漣も続く。二人はけが人を両肩に担ぐと言う力技で収容して行く。あの調子なら、多分時間はかからない。

 

 それが甘かったと知るには、十秒かからなかった。破綻の足音は、すぐそこまで――。 

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