仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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第13話「対決! マリアナ対ミッドウェイ」

※25.11.1 改稿

 

Starring:翔鶴

 

「行くわよ! 全機、突撃!」

 

 加賀先輩の周囲に水柱が立ち始める。本来なら一撃で仕留められても良いくらいなのだが、彼女は巧みな操艦で船体を左右させ、翔鶴の攻撃をしのいでいる。赤城さんもまた戦闘機と連携し、加賀先輩の周囲に攻撃機を近づけさせない。だが時間の問題である。

 

 これで勝てると言う喜びと、勝ってしまうと言う無念さがわずかにあった。

 

 艦娘として再び生を受けた時。最初に考えたのは瑞鶴の事だった。ベッドの横に座って寝息を立てている少女が、血を分けた妹であると即座に確信し、心底安堵した。起き上がり、彼女の髪をすく。そこから沸き上がったのは、暗い記憶。結局勝てなかった。敵艦隊にも、彼女たちにも。自分たちと圧倒的な差を見せておいて、勝手に波間に消え、全てを妹に背負わせた()たち。憧れたからこそ、許せなかった。何度も何度も思った。

 

『なぜ、私たちを残して沈んで(行って)しまったの?』

 

 その思いは人の身体を得てからも、暫く続いた。けれど結局憎めなかった。先輩たちがいかに真摯で、温かい瞳を向けてくれると知っていたから。

 

「だから、勝ちたいんです!」

 

 彼女たちをもう一度「先輩」と認めるには、彼女たちに勝利しなければならない。彼女たちと対等にならなければならない。そうすれば、何かを取り戻し、そして何かが始まる。

 

「とどめよ! 直掩隊も攻撃隊の援護に回って!」

 

 勝利の瞬間まで、あと数秒。

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

Starring:赤城

 

 まさか、ここまで押し込まれるとは思わなかった。これもひとつの慢心と言えるだろうか。

 

「ふふふ、あの二人をなめていましたね」

 

 この事態を一番喜んでいるのは、本人たちではなく加賀さんかも知れない。彼女はいつもの言動に反し、後輩たちを猫可愛がりしているのを認めようとしない。どうせバレバレなのに。

 

「ですが、このまま勝ちを譲るのは一航戦の誇りが許しませんね」

 

 五航戦の二人には悪いが、彼女たちが一航戦を超える日はもう少し後にしてもらう。それは加賀さんも同じ。とは言えこの状況をひっくり返すのは、少々知恵がいる。逆転の一手は既にあって、おそらく加賀さんも同じ考えだろうが、心情的に取りたくない手だった。

 

「赤城さん、やりましょう!」

 

 加賀さんが叫ぶ。それだけで雑念が吹き飛んだ。だから彼女は素晴らしいのだ。

 

「ええ! 加賀さん!」

 

 赤城は弓を絞る。第三次攻撃隊。第一次攻撃隊の帰還機を再編成した、最後の一矢である。もう後がないが、「後」など必要ない。ここで仕留める。

 

「全機発艦!」

 

 編隊を組んで向かう先は、瑞鶴。現時点で鉄壁の防御を誇っている。だが彼女の性格上、そろそろ勝ちを前にして慢心がでてくるはず。加賀さんが言うには、勝ちに奢ると言うより、のめり込んで周囲が見えなくなる。それは美点でもあるのだが、(たしな)めてくれる翔鶴とバラバラに戦う状況下では、多大なリスクだった。

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

Starring:提督

 

中央指令室

 

「ん? 一航戦側の第三次攻撃隊、なんか艦攻が突出しすぎじゃないか?」

 

 訝し気にモニターを見守るが、誰かが原因を教えてくれるわけでもない。ただただ違和感を与え続けられるばかり。

 

「えっ? 何か問題でもあるんですか?」

 

 漣が意外そうな顔をする。ほぼ勝ちが決まった状況で、俺がいつものテンションで喜ばないのが不思議らしい。だがこう言う局面こそひっくり返されるリスクがある。それは戦史が証明しているのだ。今回は相手が一航戦だし。

 

「なんかこの戦いの流れ、何処かで見たことがありますね」

「見たことがある? 何処でだ?」

「えーと」

 

 漣は首をひねっている。答えにはたどり着けなかったらしい。俺もまた一航戦(あいつら)の意図に気付くのが遅れた。なぜなら二人が選択したのは、あまりにもストレスが伴う戦い方だったからだ。だから俺はそれがないと信じてしまっていた。瑞鶴の直掩機の高度が落ちてくるまでは。

 

「そうか! ミッドウェイだ!」

 

 受話器に手を伸ばし、漣に手首を掴まれた。

 

「駄目です。演習でどちらかに肩入れするのは良くない(イクナイ!!)です。」

 

 赤城たち南雲艦隊が敗れたその時、彼女たちを守るゼロ戦部隊は、低空から侵入する艦攻の対処に忙殺されて高度が下がりきっていた。直上から迫りくる艦上爆撃機を止める者がいなくなってしまっていたのだ。

 

 ミッドウェイ海戦(・・・・・・・・)の出来事である。赤城と加賀は、それを再現するつもりなのだ。

 

「やばい! 瑞鶴、上空を!」

 

 無線など通じていないのに俺は叫んでしまう。そして何もできずに見つめていた。彼女の飛行甲板が爆ぜるのを。それは瑞鶴の護衛機を低空におびき寄せ、上空に待機させていた彗星を急降下させると言う、シンプルな作戦だった。だからこそ同じような局面で全てを失った二人が、気軽にこの手を使ってくるとは思えなかった。彼女たち二人を舐めていた。

 

「俺の、慢心だな」

 

 ひっくり返されつつある盤上を見つめ、俺は苦々しく笑うしかできなかった。瑞鶴は大破、一隻だけになった翔鶴も集中攻撃を受け大破。演習結果はS判定で一航戦の勝利となった。

 

 

 

「ちくしょー! あと一歩だったのに!」

 

 苛立ちのあまり、指令室の床をがんがん踏みつける。

 

「漣、本当に地団駄(じたんだ)踏む人って初めて見ました」

 

 漣は呆れているが、悔しいものは悔しい。翔鶴たちもその気持ちは変わらないだろう。ってかこれは色々言われますね。ゴミを見る目で見られれるだろうか。いやだなー。気が重いなー。

 ともあれ謝罪はしないといけない。

 

「ごめん提督さん(・・・・)、私の油断だった」

 

 ひょっこり指令室に顔を出したのは瑞鶴。何故か晴れ晴れとした表情を浮かべている。と言うか、今俺を提督と呼んでくれたのか?

 

「せっかく作戦を考えて頂いたのに、もうしわけありませんでした。提督(・・)

 

 追いかけてきた翔鶴までそんな事を言う。

 

「いや、勝てる作戦出せなかったんだから、礼を言わんでもいいよ。むしろ俺が謝る」

 

 ごめん、と頭を下げる。が、姉妹はくすくす笑う。

 

「色々ヒントを貰っただけでも十分。次は勝つし」

「ほう? そのヒントとは?」

 

 瑞鶴がにやにやと笑う。本当は分かっているくせにと。

 

「私たちは五航戦。一航戦には勝ちたい、と言うか勝つけど。私たちは一航戦になりたいわけじゃない。五航戦として加賀さん達に勝ちたい」

 

 自分には自分なりの戦い方がある。赤城加賀へのコンプレックスを捨てて、それを模索しようと言う事か。

 瑞鶴が五航戦のまま勝利するためには、一航戦に空席が出来てはならない。繰り上がって一航戦になる時は、赤城と加賀がいなくなる時だ。二人にはずっと健在であって貰わなければならないと言う愛情。お前らどれだけ相思相愛なんだよ。

 

「まあ。今回俺の詰めが甘かったのは事実だ。また気が向いたら作戦を下知してやるよ」

「ええー。気が向いたらなの?」

 

 瑞鶴が不満そうにするが、んな旨い話は無い。

 

「毎回俺がやったら意味ないだろ? 今回みたいな奇策をやりたいなら、そうだな。常日頃から加賀の弱点を探せ。揚げ足を取りまくれ」

「それって良い事なの?」

「じゃあ弱点を探しながら、その十倍良いところも探せ。それで効果は百倍だ」

 

 急に翔鶴がくすくす笑い出した。

 

「瑞鶴に加賀先輩の良い所を挙げさせたら、誰にも負けませんよ?」

「うん。そうじゃないかと思ってたな」

「ちょっと!」

 

 なんか変な青春劇みたいになってきたな。俺もうおじさんな歳なんだが。

 

「まあ、何かあったら相談しろ。翔鶴、瑞鶴」

「おかしいですね。そこは”翔鶴ママ”、”瑞鶴ママ”では無いでしょうか?」

「……」

 

 忘れていた。俺はこの赤い悪魔と賭けをして負けたんだったな。指令室にやってきたのは一航戦。赤城は勝ち誇ったように笑い、加賀は困ったもんだと(かぶり)を振った。

 

「す、すまん。というわけで何かあったら相談してくれ。翔鶴ママ」

 

 翔鶴には、ものすごくびみょーな笑みを返された。瑞鶴に至っては俺をセクハラおやじを見る様な目で見ている。やりたくてやってるわけじゃないんだよチクショウ。

 

「よろしい、これから24時間ですから」

「わ、分かったよ。赤城ママ」

 

 瞬間赤城の背中が、ぞわわーと震えた。なんだ? 俺やれって言われた事をやっただけなんだが?

 

「お、温情です。私の事は普通に呼んで良いです」

 

 ははーん、そう言う事か。そうだよな。俺にママ付けで呼ばれたくないのは赤城も同じだよな。こいつは良い事を知った。

 

「いやぁ、海の男が一度決めたルールを反故にするわけにはいかんな。お前の事はきっちり赤城ママと呼ばせてもらう。それで良いか? あ・か・ぎ・マ・マ?」

 

 彼女は頭を抱えて悶えている。効いてる効いてる。Foo 気持ちぃ~!

 

「おーいどうした? 赤城マっ――」

 

 加賀に後頭部をがっしり掴まれた。隠そうともしない殺気に、汗がどばどば出てくる。こいつ、続けたら躊躇なく殺る気だ。

 

「悪かった手を放してくれ加賀マ――」

 

 ギリギリ。

 

「いてててて!」

 

 何故か鶴姉妹が爆笑している。これが、あと24時間続くのか。割とやばいぞ。

 

「とにかく、その辺にしておきなさい。いつまで経っても講評が始まらないわ」

 

 それもそうだ。いい加減にしよう。だがその前にひとつだけ。

 

「お前らミッドウェイを逆再現なんて何時考えたんだ? 前々から練ってたのか?」

 

 俺としては当然の質問だと思ったが、一航戦は不思議そうな顔をする。何故そんな事を聞くのかとでも言いたげに。

 

「即興で思いついただけですが? 後は加賀さんに目配せして伝えたら、たまたま同じ事を考えていたみたいなので」

 

 これには俺だけでなく、翔鶴瑞鶴もびびってる様子。人間業ではない。いや艦娘だけど。

 

「でもご自分が沈められた戦いを再現したんですよね? ためらいなどは」

 

 翔鶴の質問に俺も頷く。彼女はあの戦いを随分と引きずっていたように思えたからだ。それなのに赤城は当然のことのように言い放つ。

 

「ええ、嫌でしたね。でも負けるのはもっと嫌なので」

 

 これは完膚なきまでの負けである。作戦とかそう言うレベルの話では無かった。付け焼刃ではこの二人に勝てない。あらゆる面を腰を据えて伸ばしてゆかねばならない。実力の差を見せつけられた五航戦に、気後れた様子が皆無なのが突破口になるか。

 

 赤城は横目で加賀を見る。何かを急かすように。このアイコンタクトで、いくつもの戦場を駆け抜けてきたわけか。加賀は咳払いして、後輩たちの名を呼んだ。

 

「翔鶴、瑞鶴。あなた達はマリアナを乗り越えようとして挑んできたわ。だから、私たちも受けて立ってミッドウェイを克服した。その、つまり」

「加賀さん、ほら」

 

 ごにょごにょと言いよどむ加賀に、容赦なく続きを促す赤城。加賀はううっとうなる。彼女らしくなく。

 

「つまり、今日は悪くなかったわ」

 

 鶴姉妹の顔がぱっと輝く。なんだこの青春劇は。俺要らないじゃんと苦笑する。

 

「ありがとうございます先輩方」

「ま、まあ。次は必ず勝つし」

 

 加賀は答えず、回れ右してブリーフィングルームへ向かう。と言っても、ここの基地施設は重要区画以外プレハブだから、黒板のついた部屋にパイプ椅子を並べただけの場所なのだが。

 

 ともかく俺と赤城ママ、いや赤城の勝負は三連敗の結果に終わったのだった。

 

「まあご主人さまもお茶を飲んで気分を落ち着けてください」

「おお、ありがとな漣マ――」

「ぶっ飛ばしますよ?」

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