さて、鎮守府の防衛システム。これはいつかやってやろうとずっと思ってたアイデアでした。こう言うの燃えません? トライダーG7みたいで。
Starring:赤城
砲声は重く、とても陸自や海軍の護衛艦によるものとは思えない。そして赤城は、この重低音を何処かで聞いた気がした。
「なんです? これ?」
結局分からず、尋ねる。木葉司令官は少しだけ勝ち誇ったように返した。
「江田島の41cm連装砲。海軍兵学校に飾っていた〔陸奥〕の主砲をレストアしたの」
赤城はあっと声を上げる。盲点だった。
「でもご主人様、それはあくまで”人間の武器”ですよね?」
漣が問う。寝ている宏武さんに話しかけていると思ったが、木葉司令官に対してだった。そう言えば漣は、彼女もご主人さまと呼んでいる。
「そうね。でも41cmの巨砲なら、イロハ級くらいは大型艦でも吹き飛ばせるわ。時間稼ぎにはなるんじゃないかしら」
とりあえずは安心してもいいらしい。赤城は問う。
「それで、今後どうするんですか?」
「当然、まず鎮守府を奪還するわ」
「えっ?」
「そんなこと、出来るんですか?」
赤城と漣は、顔を見合わせる。呉の艦娘たちも、自分も、現在艤装は持っていない。持っていたとしても、本気で戦えば死体の山。やったら宏武さんが詰むし、そもそもやりたくない。
しかし木葉司令官は気にしない様子。
「久我の反乱は、所詮佐官クラスの暴走よ。現場を動かす尉官クラスまで根回しをしてるとは思えない。ほとんどのクーデター兵はよくわからず付き合わされて右往左往してるだけ。呉所属の艦娘も」
彼女は状況を説明し、付け加える。
「味方を拾いながら、進撃するわ。説得するんじゃない。『命令系統を元に戻す』のよ」
思い切った作戦だが、理にかなっている。大佐と少将なら、後者の言うことを聞くだろう。先頭切って「説得」する木葉司令官が無事な限り。
しかしこの後に続く言葉は、とても看過できなかった。
「津田君も連れて行くわ」
思わず身を乗り出していた。我に返って袖をつかみかけた手を引く。
「良く抑えてくれたわね。偉いわ」
「茶化さないでください」
木葉司令官は頷く。
「彼、かなり危ないわ。特効薬がある鎮守府中枢まで運びます」
危ないと聞いて、また歯を食いしばっていた。自分は、何もできないのか。いや、必ずその特効薬を手に入れる。
「特効薬!? それがあれば?」
同じく身を乗り出した漣の肩に、木葉司令官はそっと手を添えた。
「特効薬は、深海女王――つまり、アオの血」
しばらく沈黙が流れた。ふざけるなと叫ぶべきだろうか?
「……本気なんですか?」
「ええ。深海棲艦の血は、人の体に作用する。臨床実験も済んでる」
「被験体は?」
木葉司令官は、静かに頷き、自分を指差した。
「私も、ダッチハーバーで殺されかけたの。アオに助けられて、今は傷痕も残ってない」
彼女は続ける。その表情は、いつものふざけた態度は鳴りを潜めている。そして、懐から小型ナイフを取り出し、腕に当てる。
「やめっ」
言い終わるまえに、ナイフは一気に引かれた。鮮血がぽたぽたと垂れる。しかし木葉司令官には、白い軍服が汚れないように注意するだけの余裕がある。ハンカチを傷に当て、すっとぬぐう。そこには血があるだけで、傷ひとつなかった。
「というわけね」
少しだけ寂しそうで誇らしげだった。誇らしい部分は、あの深海女王との絆の部分なのだろう。
信じられない。そう言いかけた。木葉司令官は誰よりも――津田宏武を除いてだが――信頼する軍人で、人間だ。だが負うべきリスクが大きすぎる。もう二度と失いたくないのだ。
だから。
「……します」
木葉司令官は、絞り出した言葉を急かさず、待ってくれた。彼女は自分の好きな人間、木庭樹希で。
「もし宏武さんに何かあったら。あなたを殺し、女王を殺し、久我を殺します」
この人を殺すなんて、出来るか分からない。やったってなんの解決にもならない。でも彼女は、赤城の気持ちを汲んでくれた。静かに頷く。
「でも、今は信じることにします」
何も言わなかった漣が、陽気に応えた。恐らくそれを装って。
「そしたら漣はご主人さまと一緒に死にますかね。でも、大丈夫だと思います」
三人は頷き合う。彼女たちは歴戦の
「侵入ルートは?」
「地下司令部まで連絡通路があるわ」
「武器はどうでしょう? 戦力は?」
「自動小銃と機関拳銃、あと閃光手榴弾。戦力の方は憲兵隊が一個分隊と、避難者を運んできた艦娘が数名」
「行けますね!」
憲兵さんはやらかした提督を鎮圧するスペシャリストであり、艦娘は艤装なしでも人間の兵隊相手なら圧倒的有利。さらに言えば、呉の艦娘と同士討ちになりそうになっても艦娘たちが説得してくれる。状況を考えれば最善の布陣と言えた。
「あと、ご主人さまですが……」
漣が肝心の問題を思い出させる。宏武さんを運べなければ、鎮守府を落としても意味がない。
「ベッドを転がして移動しましょう」
木葉司令官がとんでもないことを言う。実際、それしかない手はないので、嫌われ役を買って出てくれた発言ではあった。
覚悟を決める。
「絶対、守りましょう。宏武さんも、呉の街も、みんなみんな」
皆、静かに頷いた。