仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

136 / 141
イ ベ ン ト 完 走 ! !ひゃっほう!

アルジェリーさん面白くて最近ずっと秘書艦です。残念な美人ぶりが足柄さんを想起させるので、そのうち二人のからみとか書いてみたいです。

さて、呉の動乱編は今回が終わりです。是非決着をその目でご一読ください(`・ω・´)ゞ


第136話『そして決戦へ』

Starring:綾郷大将

 

 思い出すのも恥ずかしいが、防大を出た時の自分は、上昇志向をこじらせていた。自分は娑婆(しゃば)で成り上がるような商才はない。だが閉じた軍事組織であるなら、また話は別。組織内政治の類は、幸いに適性がある。何人だって蹴落としてやる。そう思った。

 

 だが人生観が変わった。ろくに構いもしなかった妻が抱きかかえる息子を見て。何かが壊れ、それ以上に大きな何かを得た。息子は生まれつき脚に障害があった。絶対に守ってやると思えた。

 

 不思議なことだが、出世欲が鳴りを潜めてからの方が、人が集まってきた。そういうものなのだな。素直に思えた。

 

 身体の弱い女房が亡くなって、愛情を向ける対象が息子だけになった。でも小六になるまで泳げないと泣いていた彼は、弱い身体を押して教員免許を取り、一人前の男になっていた。

 生徒たちを連れて基地祭へ来い。そう誘ったのは、俺のことも構ってくれよという、みっともない思いもあった。

 その三か月後だった。

 

『テートク! お願いがあるネ』

 

 金剛が持ってきた写真は、横須賀の街で腕を組む、彼女と息子だった。彼は守られるのではなく、未来を紡げる存在になっていた。

 

 だから息子ではなく、二人が幸福に生きられる世界を守ることにした。津田宏武の件は、気負い過ぎていた。どんな手を使っても人と艦娘の世界を守りたいと思った。彼と艦娘たち――木葉少将も一緒だな――の絆を見て、自分が急ぎ過ぎた。守ってやる必要など、やはり無かったのだ。

 

「だれ?」

 

 会議室から解放されて、津田大佐の姿を見た時。深海女王は静かに、しかし冷たく問うた。

 

「だれがやったの?」

 

 そして、手錠をかけられて黙っている久我大佐に向けて、手を上げた。

 

「落ち着きなさい」

 

 赤城がその手を取り、下げさせる。

 

「あなたが守ると思った」

 

 女王が、やはり静かに言う。

 

「言葉もありません。だからこそ、彼の”意思”を守らせてください」

 

 彼女は、一言だけ付け加えた。

 

「あなたが、うらやましい」

 

 赤城が、その場の全員が驚く。女王が津田宏武に思い入れを持っていたことは、理解している。しかし、それは何故なのだろう?

 

「そうですか。あなたも」

 

 赤城がつぶやくのを見て、理解した。彼女も、金剛と同じか。

 大使は何も答えず、津田大佐の元に向かう。

 

「アオ(・・)、宏武さんを頼みます」

「……言うまでもない」

 

 女王が右手を掲げ、立てた爪を左手の甲に当てた。躊躇なくしゅっと手を引く。彼女の手の甲から、青い液体がぽたぽた垂れた。女王は、津田大佐のベッドの前でかがんだ。

 

「女王の血は、神聖なもの。海神の加護を得た者だけに、力が与えられる。でもツダヒロムなら大丈夫」

 

 一同は、その光景を見守っていた。顔を真っ赤にした親潮と早潮が、顔に手を当て、指の間から彼らを凝視している。

 唯一、不快そうにしているのは、敗者である久我大佐だ。

 

「人が、人でなくなる瞬間だ」

 

 思わず失笑が漏れる。それに何の問題があるのか。息子と金剛の未来に、何の禁忌があると言うのか。

 

「津田のやつの言うとおりだ。おめぇさん、呉で働いてたんだ。もっと艦娘に会いに行くべきだった」

「……”装備品”に入れ込んで大局を見失えと? そんなもの、素人の軍事マニアと同じだ」

 

 歯をむく彼に、何だか昔の自分を感じた。

 

「おめぇさん、怖いな? ”強い自分”を否定する存在が。だから艦娘を恐れた。違うか?」

 

 久我は、鼻で笑った。

 

「お人形遊びに付き合いきれないだけです」

「だがそのお人形遊びに、何人の者が救われたかな? おめぇさんも救われるべきだった」

「馬鹿な! 私は日本の!」

 

 久我は、初めて言葉を荒げた。それが敗者のナルシシズムを傷つける行為だと気付いて、口を閉ざす。

 

「まあ、日本の軍法は未整備だ。銃殺はあるめぇ。人生でもう一度くらい、チャンスはあるはずだ」

 

 彼は、苛立たしげに言った。

 

「その”一度”で、私が同じことをするとお考えでないですか?」

 

 綾郷は笑う。そんなこと、考えるまでもなかった。

 

「ありえねぇな。おめぇさんが出てくるまでに、世界はもう変わってるからだ」

 

 久我は悔しそうに目を閉じた。綾郷は、追い打ちのつもりで言ったわけではない。むしろ祝福の言葉だ。別に艦娘でなくてもいい。彼が何かを見つけてくれれば。

 

「宏武さん!」

「ご主人さま!」

 

 艦娘たちが、起き上がった津田を抱きしめた。逢瀬の時間が過ぎた後、彼は深海女王、いやアオを手招きした。彼女が、初めて自分達の前で鼻をすすり、頭を差し出した。嬉しそうに頭を撫でられている。赤城と漣は、複雑な表情で苦笑している。

 津田と言う男、そういうところが信用ならないのである。心配ないのは分かっているが、法整備がされて、息子と籍を入れるまで、うちの金剛とは引き合わせないでおこうと思った。

 

「あーあ、私も覚悟決めないと駄目ねぇ」

 

 木葉までそんなことを言う。

 

 提督は、ただ鎮守府と言う最前線にいるだけではない。人と艦娘、そして深海棲艦とが交わる最前線。人の未来を切り開く最前線なのだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。