ここから数話に渡って、南洋艦隊との総力戦が始まります!
提督たちと、艦娘たちの正念場、始まります。
Starring:ガーベラ・タネンバーグ提督
同時刻 南太平洋上 ニューギニア海域
日の出前の暗い海に、砲炎が焼き付けられる。戦艦BB-63〔ミズーリ〕は、港湾部のメガフロートに設置された、資源貯蔵庫を、片端から瓦礫に変えていた。戦艦砲は艦娘ほど精霊の加護を受けないが、とにかく質量がでかい。威力は下でも広範囲の攻撃にはもってこいだ。
「ずいぶんとあっさり攻撃を許したわね。私たちが取るものも取らず駆け付けたせいか、あるいはそれだけ多くの戦力を対日戦に投入したか」
ガーベラ・タネンバーグ中将は、ばさっと扇子を広げ、汗の溜まった首筋を扇いだ。短く切りそろえた金髪がふわふわ揺れる。本来は行儀が悪いのだろうが、所作が堂々としているから誰も気にしない。
「津田提督の読みは当たっていましたね」
フレッチャーが珈琲を差し出す。ついでだから艦橋のスタッフにも、交代で糖を摂ることを命じる。
「私もそこまでは読んでたけどね。救援要請じゃなくポートモレスビーを叩いてくれと言うのは驚いたわ」
「米艦隊が南方に居座れば、南洋艦隊は全力で北上できません。あの方にジョンストンを預けてよかったです」
「……『
知らない単語をいくつも出され、フレッチャーは首をかしげる。
「中国の言葉でしょうか?」
「ええ、敵に攻められた国に援軍を求められた。しかしある参謀は別のやり方で友軍を救うべきと進言した。敵の本国を攻めて蹂躙すれば、敵は友軍への攻撃をやめて領地に引き返せざるを得ない。ただし……」
タネンバーグは扇子をパチンと閉じ、初めて苦笑した。
「近代戦でそれをやらせる馬鹿がいたとはね」
本当に、あの提督は面白い。確かにあの時点で日本近海を米艦隊がうろついていたら、講和条約の邪魔にしかならない。かと言ってハワイの戦力を遊ばせておくわけにもいかない。それでこんな手の込んだ要請をしてきたのだろう。
津田宏武、蹴落とし甲斐があると言うものだ。
「レキシントン機が敵艦載機と接触しました!」
「スクリーンに情報を」
指示を出したころには、既にアトランタが駆逐艦を率いて隊列を離れる。タネンバーグの命令ひとつで威力偵察に出撃する手はずだ。
「やはり反撃は散発的ですね。戦力不足でしょうか?」
「いいえ、波状攻撃でこちらを疲弊させる気でしょう。命の安い敵はこれだから下品」
その時、彼女の端末にひとつの極秘通信が送られてきた。それに目を通し、タネンバーグは初めて、深いため息をついた。
「アトランタに回線を繋いで頂戴」
彼女が受けた情報。それは呉が襲撃を受け、これから大規模な決戦が予想されること。そしてそれを指揮する津田宏武は、重傷を押しての出撃であることだった。
それはアトランタにとって、あまり聞きたくないニュースだろう。それでもこの事実を伏せるような甘っちょろい野暮を、タネンバーグは好まない。アトランタ自身も、きっとそうだ。
『……そう、ですか。分かった』
案の定、衝撃は小さくなかった。呆然としているのが声からも分かる。それでもタネンバーグは、続けた。
「あなたには威力偵察に行ってもらうわ。十分間休憩を取りなさい」
『ううん、大丈夫。あたしはちゃんと……』
「大丈夫なのは分かっているわ。あんたは惚れた男が倒れてたら、座り込んで泣きじゃくるタイプ? それとも助ける為に走り回るタイプ?」
『……別に惚れてないから。休憩はいらない。行ってくる』
通信は一方的に切れる。とりあえず大丈夫そうだ。
「ひょっとして、私の艦隊、最高じゃない?」
ちょっと気を抜いて余計なことを言ったら、打ち消す前にフレッチャーが笑い出した。
「そんなこと、みんな知っていますよ」
普段の傲岸不遜な体面が崩れた気がして、返事はやめておいた。居心地が悪い。
「ピケット艦より入電! 敵艦載機、推定80機が接近中!」
タネンバーグは立ち上がる。ここからが地獄の始まりだ。
「艦娘のコルセアは上空待機にとどめて! まずは〔オスカー〕で迎撃を!」
〔オスカー〕とは言っても、〔一式戦闘機〕とは関係ない。英国製のジェット戦闘機〔ナット〕を対深海棲艦用に再設計したものだ。威力は艦娘の装備に及ばないが、高速で敵陣形を切り崩すのに向いているし、何より小さいから大戦型の航空母艦に搭載できるのだ。
「艦隊は西に向けて回頭する! ここで敵を倒せば倒すほど、日本への圧力が弱まると知りなさい!」
「Yes Ma’am!!」
スタッフはそれぞれ自分の仕事に散って行く。艦橋からは、輪形陣を展開する防空艦たちが見える。
「Admiral、私も行ってまいります」
「ええ、暴れてらっしゃい」
フレッチャーを送り出した時、CV-16〔レキシントンⅡ〕から、最初の〔オスカー〕が飛び立った。艦娘の武器も素晴らしいが、やはり空母から離陸するジェット戦闘機は特別な存在である。タネンバーグは頼もしげに、それを見送った。
「津田宏武。死ぬんじゃないわよ」