仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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第14話「加賀さん、趣味の時間(その1)」

Starring:加賀

 

同日、17:44(ヒトナナヨンヨン)

 

 三度の食事が最大の楽しみ。軍隊においてその真実は変わらない。人間だろうと艦娘だろうとである。一航戦加賀は気分を高揚させながら、食堂に向かう。

 丹賑(ニニギ)とは、豊穣の神であるニニギノミコトから取っている。ちなみに漢字は縁起の良いものを適当に繋いだ当て字である。名前も急造なら基地施設も急造で、元からあった小規模な建物を、本土(内地)から運んだ建材で増築した。やったのは加賀を含む艦娘たちである。よってこの泊地で立派な建物は、ドックや工廠・物資倉庫くらいであろうか。我が泊地は手作り感あふれるアットホームな職場。その中でも憩いの場所が大食堂だ。

 

「今日からまた、通常食ですね」

 

 同道する赤城さんが言う。通常食。内地からの大規模な補給が一時的にもたらす充実した食事。その期間が終わった事を意味する。簡単な野菜や魚、豚や鳥は、島民の皆さんの力を借りて自給自足出来つつある。だが牛や果物は無理だ。だから、皆補給を心待ちにする。

 

「良いではないですか。次の補給を楽しみにしましょう」

 

 赤城さんはそう返すが彼女の場合、数日振りの通常食もまた楽しみにしているのだろう。ここが内地や、もっと人口がある地域の泊地であれば、彼女にお腹いっぱい食べさせてあげられるのに。そんな栓無き事を思う。

 

「はあ!? それでふざけてるの!? 情けないったら!」

「いや、でも約束した以上はやらんと負けた気分に……」

「言い訳はもう十分!」

 

 食堂に入った時、人だかりが出来ていた。問い詰めているのは霞だろう。彼女はむやみやたらと人を怒鳴る子ではないので、相手がよほどのことをやらかしたか、声を荒げてでも指摘したい何かがある場合か。渦中のやり取りをのぞき込むと、案の定というか。怒られているのは津田少佐だ。

 

「何があったんでしょうか?」

 

 半眼の赤城さんが背伸びして覗き込んでいる吹雪を捕まえ、事情を聞く。

 

「あっ、赤城さん! 実は少佐が霞ちゃんを”ママ”って呼んじゃったみたいで」

 

 反射的に赤城の顔を見る。彼女は見事に目を逸らした。彼女は時々やらかすが、今回のは大騒ぎに発展させたようだ。大きく溜息を吐く。

 

「仲裁してきますから、一旦ここを離れた方が良いです。霞は赤城さん相手でも容赦しませんよ?」

 

 仕方ないと肩を落とし、食堂から出て行く相棒。落ち込んだのは騒ぎを起こしたせいもあるが、夕食を食べそこねたショックだろう。

 

「でもなんか面白い人ですね。少佐って」

 

 吹雪にそう言われ、答えに(きゅう)した。木葉提督を巡る黒い噂と、硫黄島作戦案の破棄。このふたつで悪評にまみれた津田少佐だが、コメディリリーフとして認識されつつあるのかもしれない。心なしか、少佐を囲む艦娘たちも、不安と言うより見世物を見るように騒動を見つめている。それが良い事なのか、加賀には分からない。

 

 

 

 とりあえず目の前の少佐に説教し、赤城さんにもよく言っておくと霞に約束して、騒ぎはお開きになった。わいわいと散って行く駆逐艦たちを目に、どっと疲れた自分を自覚する。しかし霞は怒るに値しないと判断した相手はとことん無視する。彼女は彼女で津田少佐を認めているのかも知れない。

 

「加賀さん、今日はどうしますか?」

 

 カウンター越しにメニューを尋ねる鳳翔さんに、一切の動揺はない。初めから丸く収まるのが分かっていたかのように。

 

「ロールキャベツをお願いします。ご飯は空母盛りで」

「はい。かしこまりました」

 

 どうしますか? と言ってもそれほど選択肢はない。今日はつくねのポトフかロールキャベツ。コメは保存がきくので、大盛り可だ。

 もっと食べたい、凝ったものを食べたいなら間宮の甘味か、居酒屋鳳翔と言う選択肢がある。ただし無論、有料だ。

 

「まったく、赤城さんにも困ったものです」

 

 事実上この艦隊は彼女が旗艦なのだから、あまりふざけた真似は止めて貰いたい。その子供っぽいところも好ましくはあるのだが。加賀はやっと食事にありつけると、パイプ椅子に腰を下ろし、赤面した。

 

 ぷうっ。

 

 わなわなと拳が震える。立ち上がった椅子の座面には、ご丁寧に普通の座布団に加工したブーブークッションが置かれていた。

 

「瑞鶴ね! 出てらっしゃい!」

 

 思わず大きい声が出てしまった。艦娘たちの視線が集中する。また面白いものが見られるとでも言うように。

 

「はい! 私です! 罰として走ってきます!」

 

 立ち上がった瑞鶴が敬礼し、出入り口に走り出す。ついでに翔鶴に向けて親指を立てた。姉の方も「しょうがない子ね」とばかり苦笑しているが、特に怒ったりはしない。まったく。いつからあんなに太々(ふてぶて)しくなったのか。ちなみに今日これが三回目である。

 

「でも理には叶ってます。加賀さんの警戒を突破していたずらを仕掛けるのは、それなりの周到さと慎重さが要りますから。昨日までの彼女に足りなかったものです。訓練としては悪くない」

 

 いつの間にか隣に座っていた赤城さんが、ポトフの皿を寄せてきた。シェアしようと言う事だろう。

 

「何が原因でそうなったか考えると、シャクですけどね」

 

 加賀が切り分けたロールキャベツを、美味しそうに頬張る。どうやら赤城さんは、この変化を肯定的に捉えているようだ。

 

「私は、あれ(・・)を侮っていたのかも知れません。人格の方は問題ありですが」

 

 悔しいが同意見だ。凝り固まった五航戦のこだわりを即興の作戦で木っ端みじんにする。凡庸な指揮官が出来る事ではない。瑞鶴の悪戯も津田少佐の入れ知恵かも知れない。

 

提督(木葉提督)について何を知っているのか、探りを入れてもらえませんか?」

「私が、ですか?」

 

 てっきり自分でやると言い出すかと思った。(はた)から見れば、少佐は赤城にそれほど悪意を持っていないように見える。どちらかと言うと、悪ふざけを楽しんでいる。テレビジョンで言うところの「男子校のノリ」である。

 

「私だと締めあげてしまいそうで」

「なるほど。分かりました」

 

 否定して欲しかったのか、赤城さんは自分で言っておいて、少しだけむくれた顔をする。だが津田少佐にアイアンクローをかけてぎりぎりする相棒の様子が浮かんでしまったのだからしょうがない。自分のパートナーは、大変な激情家なのだ。

 

(まあとにかく、話してみましょう)

 

 一度決めたら素早く行動すべき。加賀はすぐに少佐に声をかけるべく。それはそれとして赤城さんが皿に入れてくれたつくねを楽しむことにした。

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