もうここまで来たら語ることはありません。どうぞ、お楽しみを。
Starring:大和
そして、その時はやってきた。
「戦艦長門、出るぞ!」
「大和、出撃します!」
真打登場、と言いたいところだが、この戦いは全員が真打である。それは、自分たちに全てを繋ぐため。
「大和さん! また一緒ですねっ!」
雪風さんが無邪気に手を振って来る。
「雪風! 何度でも守ります!」
頼もしい、とは思ったが、懐かしいとは思わなかった。実際のところ、もう終わったんだと思う。今はリベンジマッチより、ただ敵の首級の方に興味がある。
「
「leave it to me! 私もいるわよ!」
浦風さんが力強くうなずき、ジョンストンさんが不敵な笑みを見せる。今回は
だから、もう勝つことは当然なのだ。大和の役割は、敵旗艦を一刀のもとに切り捨てること。そして、南洋艦隊との和平の筋道を創る。敬愛する津田提督と、人間たちへの恩返しである。
「前方より発砲炎だ! くるぜ!」
朝霜さんが叫ぶ、風切り音がして、巨大な水柱が吹き上がった。
「これ、普通の大型砲じゃないわよ! たぶん46cmクラス!」
霞さんの言うように、40cmクラスにしては水柱が大きすぎる。長門型の装甲で、これを防げるかどうか。
「私が出ます!」
先鋒の交代を呼びかけるが、長門さんも陸奥さんも応じなかった。
「このくらいは織り込み済みよ。お姉さん、格上の戦艦を狩ってみたいと思ってたのよね」
陸奥さんが笑う。そんなこと予想できるわけも無かろうに。それでも二人の練度なら、心臓部への直撃を食らわず戦うことは可能かもしれない。
だが敵は譲れない。自分が旗艦を沈めないと、この戦いは勝てないのだ。
「Hey! みんな! 困ってるみたいダネ?」
「金剛型、前進致します」
「敵が大きいなら機動力で翻弄するまでよ! ビスマルク、出るわ!」
高速戦艦部隊が、大和たちを取り囲むように前進して行く。持ち場を離れたことになるが、対応としては柔軟な判断と言えた。
「では、行くとしようか!」
「はい!」
切り込み艦隊は、水柱と砲火を切り裂いて、旗艦へと迫って行く。
日は沈みかけていた。もう航空機は運用できまい。あとは砲艦同士の戦いだった。
南洋艦隊の旗艦。それはまさに”巨獣”と言えた。例のムカデ砲を三門も背負った巨体を、46cmクラスの巨砲が取り囲むように配置されていた。普通なら絶望しても遅くはない相手。他の姫級のように、ムカデ砲の付け根から上半身を露出した本体が見えた。刃が届く、その間合いは酷く遠い。
だが大和には、目の前の存在が”餌”に見えた。
「では……そろそろ大和に任せるとしようか」
不敵に笑う長門さんの肩は、息切れで強く上下している。もう主砲は破壊され、二門しか残っていない。陸奥さんも第三砲塔以外は全損だった。
周囲は既に、戦艦重巡同士の乱戦になっていた。敵味方共に、無傷な者は誰も居ない。目の前のデカブツを除けば。
「ありがとう」
大和はそれだけ言って、すっと前に出る。こんな花形を任せてもらえるなんて、全て提督や長門さんたち……いや、みんなのおかげだ。
「大和、参ります!」
46cm砲が一斉に彼女を襲う。
だが、それだけだ!
前回、長距離砲の射撃を受けた時、学んだ技術だ。ふつうの軍艦にはできない、艦娘だけの技術。それは着弾の瞬間身体をひねって装甲を傾斜させれば、砲弾は勢いが削がれて明後日の方向に飛んで行く。
「もう、お終いですか?」
挑発しつつも、確信していた。この敵の装甲は、大和の主砲でも破れない。だから距離を詰める。懐に入れば、あのムカデ砲は撃ってこないし、仲間も狙えない。
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
巨獣が吠えた。巨体が空中へせりあがって行く。それを支えているのは、甲殻類のような四本の脚。何十メートルあるだろう? 踏みつぶされたら、ひとたまりもない。
そして巨砲は、大和を見下ろした。
閃光!!
気が付いた時、二番砲塔の装甲にひびが入ってズレていることが分かった。おそらくあれは命中していない。命中していれば、自分は粉々だっただろう。
ムカデ砲が仰角を下げる。どうやら多くの艦載砲と同じで、砲身を下に向けなければ再装填出来ないらしい。大和は脚の下に飛び込み真上の本体に向けて一斉射撃を食らわせた。砲数は六門に減っているとはいえ、姫級でも
しかし――。
「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
咆哮と共に、巨獣の船体下部から何かが顔を出した。
無数の砲身。
回避できたのは奇跡だろう。大和は転げそうになりながら、辛うじてバランスを保つ。
これが、最強!?
まだ遠いのか、自分は最強を越える最強にはなれないのか。きっとなれない……そう、一人ではなれない!
「足柄さん!」
「任せて頂戴!」
敵陣を突破した足柄さんが、主砲を
「重巡には、重巡の戦い方があるのよ!」
彼女はそのまま体当たりを食らわせ、関節に向けて一斉射撃をかけた。ぐらりと、一瞬だけ巨獣の上体がぶれる。しかし次の瞬間、艦砲の斉射が彼女を襲う。助けに入ろうと身を乗り出す。
「駄目! あんたは一撃に集中しなさい!」
霞の叱咤で我に返る。
「雪風が、守ります!」
随伴の軽巡、駆逐艦たちが敵の防御線をすり抜け巨獣に迫った。
「大和さん、ここはお任せください!」
「任せて! 今度は、守るわよ!」
涼月が、矢矧が叫ぶ。敵前に迫った彼女たちは、一斉に鳥舵を取った。
「
渾身の雷撃だった。巨獣の左足目掛け、正確に魚雷は進んだ。
「GUGUGUGYGUAGJUGVUUUUUUUUUUUUU!!」
金切声を挙げて、巨獣が右舷から何かを噴射し、無理やり軌道を変えた。
「スラスター!? なんなのよあいつ!」
霞が忌々しそうに吐き捨てる。恐らく脚部にスクリューを持っていて、それで軌道を逸らして魚雷をよけたのだ。
「まだだ、あともう一撃!」
「ええ! まだ行けるわ!」
後方に下がっていた長門と陸奥が再び突撃する。砲はほぼなかったが、艤装の重量を生かし、体当たりを敢行する。
「七駆・六駆! 突撃するわ!」
「なのです!」
飛び込んできた駆逐隊は、ベテラン揃いだ。巨獣がスラスターで回避した先に、正確に魚雷を撃ち込んだ。
巨獣の装甲がはじける!
「逃げられないよ! 漣はしつこいから!」
彼女たちは離脱など考えない。巨獣の右足の周りをぐるぐる回って、小口径砲を撃ち込み始めた。一見全く意味がない行動だが、これにより巨獣の意識が分散された。46cm砲がぐらぐら揺れて、意思統一のようなものが出来ていない。
あと一歩、あの巨獣の体をひっくり返してくれたら、至近距離から主砲をお見舞いできるのに。
カードが一枚足りない。しかし皆が巨獣にとりついている状況では、仕切り直すことはできない。大和は、勝ち筋を捨てて皆の救援に向かうことを決意しかけた。
『まだ手札はありますよ! 一航戦! 突撃します!』
夕日の中、奇麗な逆ガル翼が舞った。間違いない。赤城と加賀が放った一航戦の精鋭だ。
「赤城さん! どうやって!?」
薄暮攻撃、陽が沈む直前の攻撃は、可能なことは可能だ。しかし帰還時には夜になる。船のライトだけで着艦するのは、ベテランでも困難を伴う。戦闘後で疲れた妖精たちが、操作を誤って赤城や加賀の甲板に直撃、ということもあり得た。
『全空母から、夜間着艦可能なベテランを集めたのよ。二隻分の戦力だけど、あなたの手助けならこれで十分かしら?』
興奮しているのか、加賀さんも妙に饒舌だ。
「もちろんです! 大和、突撃します!」
彗星の爆撃が、巨獣の上部構造物を叩き潰す、その中には、電探があった。一瞬だけ怪物が、パニックを起こす。崩れかけたその右足に、流星が放った雷跡が伸びて行く。
「KIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII!!」
金切り声を挙げて、巨獣の体はゆっくりと海面に横たわる。立ち上がるのを諦めて、足を収納し始めた。だがもう、遅い!
「戦艦大和、突撃します!」
口に出した時には、既に巨砲に手をかけていた。両肩の艤装がぐるりと回転して、砲口がムカデ砲の付け根に狙いを付ける。そこには真っ白な身体の、上半身。巨獣の本体がある。あとはもう、トリガーを引くだけ。
巨砲であればあるほど、装薬もまた膨大なものになる。どんなに巨体を誇ろうとも、火薬庫を破ることが出来れば。
「
戦場は、閃光に包まれる。