Starring:提督
新宿 戦没者記念碑
たくさんの命が失われた。あまりにも多くを失った。
俺はひたすらに、もう戻らない命に手を合わせる。ごめんなさい。そしてありがとう。皆さんのおかげで――。
顔を挙げた時、俺の顔をのぞき込んでいたのは、赤城だった。
「ありがとうございます。みんなのために真剣に祈ってもらって」
俺は顔を上げる。東京空襲の際、爆弾で吹き飛ばされ、倒壊した建物に巻き込まれた人たち。その中に、赤城が世話になった施設があった。赤城はそこで、「家族」を喪う。
「よーちゃんは元気に走り回る子で、いつも怒られてました。エリっちとは義姉妹の誓いを結んじゃいました。そうしたらエリちゃんじゃなくて、エリっちって呼ぶようにって。ミキ君はビーズ遊びが趣味で、ブレスレットを編んでくれました。焼けてしまったけれど」
赤城はひとりひとりの記憶を語って行く。悲しみなのか、懐かしさなのか。俺は踏み込むより、見守ろう。そう決めた。
「全員、無縁仏なのか?」
「ええ、もうお骨もありません」
そうか。辛いな、といいかけてあるアイデアを思いつく。
「
赤城は、ぽかーんと口を開けた。
「でも、私の勝手で離島まで連れて行ったら、寂しくないですかね?」
んーそうだなぁ。確かに勝手な話ではある。
「じゃあ移さないで増やすのは? 法律的にはどうなるのかな? まあ普通にあることだぜ?」
「でも、何でそこまで?」
「ほんのひと時とは言え、お前の家族だろ? なら俺の家族だ」
気が付いたら押し倒されていて、俺の胸で顔をうずめる赤城がいた。俺の義手は明石とアオの合作で、無駄に高性能なのだが、まだ使いこなせていない。それ以前に赤城にここまでされたら受け止めるしかないじゃないか。周囲の参拝者たちが「これだから若いもんは」などと言った目で見ている。俺もカテゴリーとしてはおっさんなのだが。
「どうした?」
赤城の頭に手を乗せる。彼女は動く様子がない。
「あんまり、嬉しかったので」
「そっか」
俺はもう何も言わないし、彼女の好きにさせることにした。なんか「リア充氏ね」とか言われている。スマホ向けて来るやつもいるが、それは無駄に終わるぞ。残念ながら今は戦時下。最低限ながら検閲は普通にあるのだ。
「では、お墓参りのあとはお昼ご飯ですね!」
彼女は突然起き上がると、ぐっと拳を握った。変わり身が早いな。そこも好きなわけだが。
「まあ帰ったら大淀に相談してみるか」
「お墓っていくらくらいするんでしょうか? 高いなら自作出来ますかね?」
「そこも明石に相談かな」
決戦は、旗艦の轟沈により人類軍の勝利に終わった。態勢を立て直した各基地からの反撃で、南洋艦隊は拠点に引き返していった。あの巨砲にはどの艦隊も苦労したようだが、うちの艦娘たちが攻略法を見つけてくれたおかげで、撃沈、もしくは撃破に成功していた。
アオからの情報では、ごく小さな動きながら水面下で和平の仲介を申し出てくる派閥が出始めたらしい。
まだまだインドや南米、ヨーロッパの深海棲艦は勢いを維持しているから、静かな海はもう少し先だ。でも俺たちは、前進しているのだ。
「でも私たち、のんびりし過ぎですよね?」
赤城が痛い所をついてくる。実際その通りなのだが、それは更なる大作戦の準備期間だからだ。
「今度は恐らく、マラッカ海峡だ」
「それ、こんなところで話していいんですか? 嫌な記憶がよみがえるんですが」
ああ、ミッドウェイは情報だだ洩れで負けたからな。だが今回は心配ない、と言うより心配しようがない。
「地政学的にマラッカを押さえないと南洋艦隊とインド洋艦隊を分断できない。敵も次はあそこだって分かり切ってるからな」
と見せかけて実は作戦自体がフェイク、なんて戦い方もあるしな。というか最近
「東京の街も大分復興したな。戦時下なのに凄いもんだ」
「ふふっ、あなたのおかげでもあるんですよ?」
「それを言ったら、お前もだな」
二人は顔を合わせ、笑い合う。
「来月から新人が来るんですよね?」
「ああ、艦娘だけじゃないぞ」
丹賑島は新しい世界に向けて進んでいる。これからは艦娘と、人間、深海棲艦が共に学ぶ場になる。難色を示す親も多かったそうだが、丹賑で学ぶことは、深海棲艦の優れたテクノロジーを学ぶことに繋がる。多くの若者たちが手を上げたそうだ。
深海棲艦の方は、人間の文化を欲している。それはアオから聞いた。だから交流会やレクリエーションはふんだんに用意するそうだ。
資源採掘も再開される。これは戦争資源だけでなく、戦時下の経済政策にも積極的に用いられる。これからは人も増える。町内会の人も受け入れに大あらわ。
アメリカさんは、丹賑島の成功を見届けてから、ハワイかアラスカで同様のプランを行うつもりらしい。タネンバーグ提督の教育を受けた深海棲艦が、色々偏ったりしないか心配ではある。
そして、俺は――。
「そう言えば、閑閑亭に引っ越す話、どうだろうか?」
「漣と三人暮らしも悪くないんですが」
赤城の反応が悪い。多分、加賀だな。
「無理する事はないぞ? 別に俺のわがままだし」
「それを加賀さんに言ったら怒られました。お付き合いする以上、ちゃんと向き合いなさいって」
「そうは言っても、加賀はドライに見せておいて、けっこうウェットなところもあるからな。かなり寂しいんだろ」
「ぶー、私より加賀さんが分かっているように言わないでください。でもその通りです」
でも、赤城がそこまで愛されているのも、嬉しく思ってしまうのだが。
「じゃあ閑閑亭に来い。で週の半分は”加賀の家”にお泊りだ」
「それなら、そうします」
赤城は、ごく自然に俺の腕をとった。遠慮して義手の方だったが、なんかもったいなく感じて、右手を彼女の手に添える。こんなスキンシップしたいやつだったんだな。濃密な付き合いなのに、新鮮な気分だ。
「でも、覚悟してくださいね? 閑閑亭の部屋はまだ残ってますよね? 霞さんや足柄さんが黙ってませんよ? ほかにも」
いや、分かってる。俺の全てをやると言った以上。俺の体をバラバラにして分配されても、文句は言わない覚悟でいる。いるんだが、俺ってそんなモテるの? 正直半信半疑なんだが。
赤城が久しぶりにくそでかため息を吐いた。
「ねえ、宏武さん?」
突然赤城が、俺の名を呼んだ。いつからか彼女は、ファーストネームで呼んでくれるようになった。とても嬉しいが、未だにくすぐったい。
「忘れ物、してません?」
忘れ物? 聞き返す俺に、彼女が目を泳がせた。
「ほら、歯と歯がぶつかった時のやり直しを、ですね」
ああそうか。演習室の時、
「ようし、それじゃあ」
俺は彼女の頬に右手を添え、ゆっくりと顔を近づけ、赤城の唇に、目が釘付けになり――。注意がすっかりそっちに行ったせいで、走り回っていた子供が背中にぶつかった。
ガチン! 俺と赤城の歯と歯は、再び大激突したのだった。
『仮免提督といじわる空母改二』完
後ほどあとがきを投稿します(`・ω・´)ゞ