仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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第16話「七駆、真実を知る」

Starring:曙

 

寮 第七駆逐隊部屋

 

 電気スタンドを突きつけられた漣は、余裕満々で言い放った。

 

「あー、ついにやられてしまいましたかー」

 

 イラっと来た曙は、更に電気スタンドを近づけてやる。ちなみに点灯はしていないので別にまぶしくはない。

 

「いい加減吐きなさい」

 

 たとえ威圧しても彼女はいつものように、飄々とかわす。状況を見守っている朧と潮も、歯がゆそうな表情を浮かべている。

 

「カツ丼を所望するですぞ」

 

 そんなものここのところ食べてないわ。駆逐艦曙は、気を許した相手にだけ沸点が更に下がる悪癖を自覚している。肩を怒らせて顔を近づけようとして、潮に止められた。

 

「問い詰めるのはいけないかもって思うけど、近頃の漣ちゃんは色々隠し過ぎ」

 

 朧が言うも、彼女はどこ吹く風で追及をかわす。

 

「女は秘密を纏って美しくな痛ててぇ」

 

 我慢できなくなってほっぺたを引っ張ってやった。流石にからかい過ぎたと思ったのか、漣も大人しくなる。

 

「何か知ってるんでしょう? あの少佐は何者なの? クソ提督(木葉提督)はどうなったの? ってかあんた変な事されてないの!?」

 

 これだけ心配しているのに、こいつは顔を背けて口笛をぴーぴーやりやがった。漣が津田少佐を伴って泊地に帰還したのはつい数日、皆内地(本土)の事情を知りたがったし、強権的な少佐の胸の内を知りたがった。なのに彼女の発言と言えば「信じてあげて」のみである。

 

「漣ちゃん、そろそろちゃんと話をしようよ。ね?」

 

 潮が言った。有無を言わせぬ圧がある。最近負の感情もちゃんと出してくれるようになったのは、喜ばしくはある。だが彼女の怒りは小出しであっても相応に怖い。案の定漣は不真面目な態度を改めた。

 

「だって、みんなには信じて欲しいんだもん」

 

 誰を、とは誰も聞かなかった。津田少佐の事である。「だもん」と言うのは、彼女が拗ねた時たまに口にする。正直彼女が時に強情なのは知っていたが、ここまで執拗なのは初めてだった。

 

「だから何でよ? あんたまさか――?」

 

 嫌な想像に身を乗り出す。もしそう(・・)だとしたら、自分はあの男を許しておかない。だが、彼女は静かに首を振る。身を乗り出す曙を、朧が抑えた。潮が顔をのぞき込んで、小さく諭した。

 

「曙ちゃん、落ち着いて話そう?」

「だって!」

「ね?」

「……分かったわよ」

 

 そこまで言われては、クールダウンするしかない。朧も漣の両肩に手を置き、ゆっくりと話し始める。

 

「漣ちゃん、分かってるよね?」

 

 漣はううっとうなってうなだれた。曙は思わず、鼻を鳴らしてそっぽを向く。付き合いが長いから分かる。朧が分かっているかを念押ししたのは、「曙ちゃんの気持ちを」が省略されている事に。朧が、いや七駆の皆が自分の苦悩を分かってくれて嬉しいなんて、死んでも言ってやるつもりはない。

 

「それでも、信じてあげて。詳しい事は話せないけど、ご主人さまは漣のご主人さまだから」

 

 漣があの男の事を「ご主人さま」と呼んだ。それを聞いた時、曙の思考は一気に沸騰した。漣の「ご主人さま」は、今までたった一人だったはずだ。

 

「やっとなのよ! やっと信じても良いかって思ったのよ!?」

 

 三人はうつむいた。彼女たちは良く知っている。誇るべき「海軍」が、曙に何をしたかを。人の身体になっても、クソ提督を上官と認めるまで、それなりの時間と衝突があった。やっと心を許せると思った矢先の事だった。そこらの軍人を提督と呼ぶのだって許せない。でもクソ提督を殺したかもしれない一味を、提督と呼べだなんてあんまりな仕打ちだ。

 

「こんな事なら、あんた本土(内地)になんて行かせなければよかった!」

 

 そう、最初から嫌だったのだ。クソ提督の願いだからと言って、彼女とまた(・・)離れ離れになるのは。みんなが幸せになるのに必要だからと言われ、何とか納得したのに。その結果がこれだ。

 

「――だって」

「えっ?」

 

 漣が何かを絞り出すように、告げようとした。飛び出したのは、曙に伍するかのような激情。

 

「漣だって知って欲しいよ! 津田少佐(ご主人さま)は、木葉少将(ご主人さま)に負けないくらい凄いって! でもそれは言うなってそう言われてるから! みんなみんな、曙ちゃんまであの人を悪く言うんだもん!」

 

 正直こんな反応が返って来るとは思わなかった。漣は、潮とはまた別の意味で溜め込む。潮は人を傷付けたくないから自分を殺すが、彼女は人の幸せを願って気持ちを抑え込む。だから滅多に出さない「自分の為の言葉」に、三人は言何も言えなくなった。

 

「でも皆が嫌だって言うのも分かる。分かるけど。ほんのちょっと、ちょっとだけで良いから信じてあげて欲しい」

 

 黙り込む漣を前に、三人は、気まずそうに視線を合わせた。最初に口を開いたのは潮。

 

「信じても良いんじゃないかな?」

「ちょっと!」

 

 反射的に咎める様な声を出してしまう。だが今回は荒げた声に若干の罪悪感が伴った。自分でもそう気付いてしまった。

 

「うん、そうね」

 

 朧までも頷く。冗談じゃない。

 

「漣ちゃんがここまで言う事なんてほとんどないよ。少佐の事は信じなくても、少佐を信じる漣ちゃんは信じても良いんじゃないかな」

 

 さあどうする? 皆の視線が自分に集中した。意地を張っているのは分かっている。でもまた。また何かあったら。

 

「ありがとうですぞボーノ。ご主人さまの為、漣の為に色々考えてくれただけで嬉しいから、漣はこれで満足するから」

 

 漣は笑う。こいつ、また自分を殺しているなとは思った。思ったけど、自分だって譲れないものがある。

 

「分かったわよ。すぐに認める事は出来ないけど、あいつの今後の働き次第では”提督”と呼ぶことにしてあげる」

「おおっ、愛してますぞ!」

 

 漣が抱き着いてくる。忘れていた。こいつ他人は気遣うが、すぐに調子に乗るやつだった。

 

「ところで漣ちゃん、少佐の事がす、好きなの?」

 

 なぬ? そんな話は聞いていないぞ。つい睨んでしまったのは、調子に乗った質問をする潮にである。小動物のようにびくっと体を震わせたが、もう遅い。だが漣はさらりと否定してしまった。

 

「いや、まったく無ぇです」

 

 潮がつまらなそうな顔をしたので、再度睨む。

 

「貴重な休みを潰してサメ映画マラソンとか、特別版のアナキン差し替えがありかなしかでレスバする人はちょっと勘弁ですぞ」

「れすば?」

 

 朧が首をかしげているが、とりあえずあまり褒められた言葉ではない事は分かった。

 

「ま、出来の悪い弟みたいなもんですな」

 

 妙に饒舌になるもんだから、とりあえず彼女が少佐に心を許しているのは本当らしいとは理解する。

 

「とにかく、これからはちゃんと相談して? 大事な仲間でしょ?」

 

 朧にそこまで言われて、漣は恥じ入ったようにおでこをかいた。

 

了解(おk)ですぞ。心配かけてごめんね」

 

 なんか、やっといつものノリに戻ってきた。朧と潮がいなければ、きっと自分の感情をぶつけるだけで終わってしまっていた。これで、少しは以前の七駆に戻れたかな。そう思ったのだが。

 

『警戒警報! 警戒警報! 各自所定の配置につけ』

 

 耳障りなブザーが鳴り響き、あちこちで部屋の扉が勢いよく空けられれ、ばたばたと駆け出す音がする。漣は飛びつくように内線電話を取り上げる。

 

「漣です! 状況を!」

 

 普通ならこの状況で情報を寄こせは混乱を招くだけだが、彼女は秘書艦も務める初期艦。多少の横紙破りも多めに見られる。彼女はこちらを気遣って、通話モードをスピーカーに切り替えてくれた。ここで伝えて不都合な事はそもそも

内線でしゃべったりはしまい。

 

『ジャミングです! 現在レーダー含め有線通信以外は使用不能です』

 

 そんな事態など前代未聞だ。そしてレーダーを潰したからには、きっと敵艦隊がやってくる。もし施設がダメージを負ったら、泊地の運営に支障をきたす。それにもし島民に被害が及びでもしたら。

 

「了解です。ご主人さまは?」

『それが、艦隊の指揮を執ると高速艇で飛び出して行かれて』

 

 最前線に行くつもりか! 確かに通信が使えない状況ならそれが有効だが、真っ先に狙われるに決まっている。

 

「まさか、囮になる気?」

 

 だとしたら余程の勇者か、余程の馬鹿だ。

 

「あのやろぉ! あれだけ漣が言ったのに!」

 

 彼女らしくない悪態と共に、漣が駆けだす。曙たちもまた頷き合い、彼女に続いた。

 

「どうするの!?」

 

 並走しながら尋ねると、彼女はとんでもない事を言い出す。 

 

「追いかける! ご主人さまを守る!」

「この混乱の中で!?」

 

 だが結局、自分は彼女に付き合うつもりでいる。朧と潮もそうだろう。

 

「漣ちゃんって結局少佐を……」

 

 潮がつぶやくが、誰もそれを云々しない。それに尋ねたところで、漣は否定しかしないだろう。そして彼女は寮の三階から飛び降りる。艦娘でなければ骨の一本も折っている高さだ。三人も迷わず続く。目指す工廠はまだ先だ。漣はやけくそ気味に叫び、大地を蹴った。

 

「ちくしょおおおお!!」

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