仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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なんか漣がものすごい勢いでヒロインレースに乗り込んでまいりました o(゚Д゚ = ゚Д゚)o


第17話「仮免提督と初期艦漣(その1)」

Starring:漣

 

 ああ。これがPTSD(戦争神経症)というものか。

 

 初めて津田(つだ)宏武(ひろむ)を知った時、漣が感じたのは人柄でも能力でも無かった。何のきっかけも無く唐突に涙ぐみ、一人になると叫び声をあげる。それ以外の彼は至って普通の男性だったから、余計に痛々しかった。何よりもし泊地の誰かが七駆の仲間が同じ事になったら。そんな恐ろしい仮定を見せつけられるようだった。漣が命じられたのは、この男性を初期艦としてサポートする事。

 

 木葉提督(ご主人さま)曰く。

 

「彼は私に勝てる唯一の提督になる、かもしれない子なの」

 

 と言う事。今考えれば、あの時から木葉提督(ご主人さま)津田提督(ご主人さま)を自分の後継者にするつもりだったのかも知れない。今となっては彼女の見解を慧眼だと確信してもいる。だが当時、正直言えば思っていた。七駆の皆の所へ帰りたいと。木葉提督(ご主人さま)は言う。

 

『きっと悪い事にはならないわ。あの子、打ち解けると面白いわよ』

 

 彼女が様子を見に来た時、そう言った。よくわからない。それからご主人さまがした事は、津田さんの部屋にゲーム機を取り付けて、三人でぴこぴこする事だった。

 

「なあ先輩、俺達こんな事してていいのかよ?」

「何がだい? ほら、赤甲羅いくわよ」

「どわっ」

「はっはっは。そんな事じゃ駄目よ? いつ艦娘がベッドに奇襲をかけてきても、直ちに対応しなきゃいけないのが提督と言うものよ?」

 

 そんなものは初めて聞いた。高雄さんとか、ご主人さま(木葉提督)にすきすきビーム放っているけれど、まさか。

 

「そこまで言うなら、先輩はそう言う事あるのか?」

「無いのよねぇ。うちの子たち、性癖歪んでんのかしら?」

「その言葉で分かったよ。あんたの艦娘が皆まともだって事が」

 

 二人のご主人さまはクイックドロウよろしく正面から甲羅を撃ち合い。バナナに誘導されてくるくるとスリップしたのは少佐の方でした。

 

「じゃあ漣、来週また来るから、彼が再戦で勝てるようになるまで鍛えてあげて」

「ま?」

「そ。マジ」

 

 そう言って、ご主人さまは出て行ってしまう。後には、悔しそうにリセットボタンを押し、練習を始める津田さんの姿があった。

 漣も、黙ってコントローラーを取る。

 

「本当に、来週までずっと練習するんですか?」

 

 もちろん提督養成機関での訓練はある。普通自由時間は予習復習に費やすものだが、ご主人さまはそんなもの放っておきなさいとまで言い切った。

 津田さんは言った。画面から目を放さないまま。

 

「分かんね。でも先輩があんな言い方をするときは、何かがあるんだ」

 

 たかがゲームに本気になってぴこぴこする三十代。それって、あんまりかっこよくない。

 

「あと、やっぱ負けたままは悔しいだろ?」

 

 大真面目にそんな事を言うので、なんだか笑ってしまった。こう言う子供っぽい人だったのか。

 

「じゃあ、やりますか。漣は大王で。と言うか、TSは出来ないんですか?」

「TSって何だ?」

「亀の大王はお姫様になれるのです。一時期はネットを席巻(せっけん)したですぞ?」

「良くわからんが、せっかくだから俺は赤いのを選ぶぜ」

「ええー。主人公ですか? 日和り過ぎでは?」

「まず基本形から試すのが近道ってもんだ」

 

 結局翌週もご主人さまには負けたけれど、津田さんの部屋から悲鳴が聞こえる日は、それから少しずつ減っていった。ご主人さまは、時に津田さんと漣を夜釣りに連れ出し、エアガンを持ってサバゲーのイベントに参加する。時にごみ回収のボランティアに誘ったかと思えば、フル装備で奥多摩の登山に連れて行った。中でも津田さんが一番喜んだのが映画だった。

 

「じゃじゃーん。今日見る映画は、『HOUSE(ハウス)』よーん」

「おおー、ホラーですか!」

「この監督知ってるけど、青春映画の人じゃね? もっと有名な作品あるよな?」

「ちちち。クリエイターの個性は処女作に詰まってるものなのよ。何よりおっぱいがでるの、おっぱいが」

 

 いつしか三人、津田の部屋で突っ込みを入れながら映画を楽しむようになっていた。

 

「おい。なんか人がバナナに変身したぞ?」

「さっきはスイカに変身してましたから、バナナになるのも不思議じゃないんじゃないですか?」

「面白いけど、これホラーなのか?」

「こまけぇことは良いのよ。この荒唐無稽さと、若い子のおっぱいを楽しむのがマナー」

「ほんとご主人さまってぶれませんね」

 

 ご主人さまが持ってくる映画は、いつも尖ってるけどみんなでわいわいやるのが楽しくて。いつの間にか、津田さんが立ち直るまではここに居ても良いと思えるようになっていた。その思いがはっきりした信念になったのは、ちょっとした事件からだった。

 

 

 

 終業後。今度はけん玉の練習に向かう漣と津田さんは、制服姿の三人組を見かけた。

 

「艦娘ってのはさ、要は提督様のお気に入りが重用してもらえるんだろ?」

「やだねぇ。天下の海軍がそんなの育成してるなんてさぁ」

 

 ここに来てから陰口の類は慣れた。養成機関の人間にとっては、艦娘は近しい存在。露骨な差別意識を向けてくる者は少ない。だが併設する海軍の教育機関が問題だった。そこは基礎学力の高い大学生を士官として養成する組織で、志願者とは言え市井の若者をいきなり軍隊に放り込むのだから、提督と言うものをステータス付きの特典制度か何かと勘違いしている者もいる。でもって自分がその特典を得られないと勝手に誤解して拗ねてしまい、提督養成機関の者に突っかかって来るのだ。ご主人さま(木葉提督)曰く、後天的に提督の素質に目覚める者が増えているそうなので、まだまだ諦めるのは早いのだが。下手に目覚めて特典扱いされても困るので、誤解されたままの方が良いのかも知れない。

 この時も漣は、暴言を意に介さなかったし、津田さんも足を止める事は無かった。次の一言が放たれるまで。

 

「あんなちっこいの、何が良いんだろうな?」

 

 津田さんがぴたりと立ち止まる。正直漣にしてみれば、なぜこの一言が彼のトリガーになったか分からなかった。漣にとっては、別に聞き流して良い一言だった。

 

「知りたくないか?」

 

 いきなり話しかけられた三人組は、きょとんと目を泳がせて、津田さんと漣を順番に見ていた。そこから自分達の言葉を反芻し、罪の意識から逃れるため喧嘩腰になる。

 

「なんだよ、おっさん」

 

 おっさ……いや年齢的にはおっさんだが、このおっさんは一尉だ。三人組が実戦に出る時、直接命令を与える立場なのだ。こんなの教育して、大丈夫なのか海軍。

 

「”ちっこいの”が、戦争でいかに役に立つか。知りたくないか?」

 

 いつもぶっきらぼうなのに、今日の津田さんは挑発するように笑う。まずい。止めなきゃ。駆け寄る漣に振り返って、突然命じた。

 

「演習室の使用許可、取ってきてもらって良いか?」

 

 とりあえず殴り合いには発展しなさそうだが、いつもと違う未来の津田提督(ご主人さま)を、この時の漣は心配げに見上げるしかなかった。

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