Starring:赤城
そう言えば私は、このところ彼の執務机を叩いてばかりいる。赤城がそんな事に思い至ったのは、今日も派手に手のひらを叩きつけた後だった。
「この大変な時にどういう事ですか!」
自分の剣幕に恐れをなしたのか、津田少佐は両手を上げて降参のポーズをした。
「いやさ。今話した通りだけど?
基地祭。軍事施設を一般開放して、装備品の展示や各種催し物を行う、一般の人々と軍人さんとの交流イベントである。海軍においては、内地でやっている鎮守府もあると聞くが、丹賑のような最前線では前代未聞である。
「何故です? ここの住民の方は二千人ちょっとですよ? その人たちの為だけにわざわざお祭りをやるんですか?」
意味が分からない。そもそもこの丹賑島の住人は、資源採掘に従事する技術者だけだった。ところが偉い人が思いついちゃったのである。夏休みの数日間、従業員の妻子を受け入れ、技術の最先端を体感してもらおう。それなら抽選で一般の少年少女にも、この丹賑島にお越し頂こう。試み自体は素晴らしかったが、そのタイミングで深海棲艦が出現するなど誰も思わなかった。小笠原から住民を避難させる船団が壊滅した事で船が足りなくなり、丹賑島に取り残された人々は、半ば放置されることになった。そこまでは彼女も理解している。
だが彼らの安全は、自分達艦娘がきっちり守っている自負はあるのだ。小賢しいイベントなど開かなくても、今後も守り抜いて見せる。提督にそう告げたのだが、反応は鈍い。
「いやぁそうなんだけどな。人の気持ちは複雑と言うか」
どうにも歯切れが悪い。少佐はお茶をすすり、今日あった事を話し始めた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
Starring:提督
「こんな戦争いつまで続ける気ですか?」
突然呼び出された時から、良い話題では無いと覚悟していたが、いきなりそんな事を言われた。
「申し訳ありません。最大限の努力を払っていくつもりです」
それ以外言いようがない。自分達は侵略されたから受けて立っているだけで、積極的にケンカを吹っかけたわけでは無いのだ。ぶっちゃけ「そんな事を俺たちに言われても」とか思ってしまう。が、それを見透かされたようで。
「何ですか? 言ってみてください」
「め、滅相も無い」
深海棲艦より怖ぇよ。
「せめて本土に帰して頂くわけにはいかないんでしょうか? うちの子は来年受験なんです」
「いや、それがですね」
「……聞かれた事のみ答えよ」
「はっ、はい」
だから怖ぇよ!
「この間の戦闘だって、私たちを巻き込みかけたじゃないですか! ちゃんと守ってくださいよ!」
「はい。それはもう」
「そもそも、こんな若造が木葉さんの後任なんて、海軍の連中は俺たちを舐めてるのか?」
「そんな事はございません。後任として死力を尽くします」
その後も住民の代表から、俺はフルボッコにされ続けたのだった。執務机のデスクワークが懐かしい。
「何ですかそれ! 皆が命をかけて戦ってるのに!」
おかんむりの赤城さんをまあまあとなだめつつ、御茶菓子のあられを差し出した。彼女は無言で手を伸ばし、ぽりぽりやりだす。
「島民の皆さんは不安なんだよ。続く戦争に目途が立たない内地への帰還。頼りにしてた
念のために出した避難警報が、思いっきり不安を煽ってしまったようだ。もっとも必要なかったと言えるのは結果論でしかないので、この選択は悔いてはいないが。
「そこで基地祭だ。呑気にお祭りとかやってればまだ余裕あるな感出るし、何より艦娘の事を知ってもらえる」
聞けば艦娘たちは遠慮して、町に買い物に出たりはしないらしい。民間の生活物資を俺たちが食い尽くすのは問題だが、だからと言って没交渉にしなければならない理由ではない。
「ここらでお互いの認識をすり合わせても良いんじゃないかと思う。それが今回の企画を立てた理由」
赤城は暫し考え込む。と言うか何か言い返す言葉を、必死に探している様に見えた。が、見つからなかったらしい。すぐに頷いた。
「筋は通りますね」
「だろう?」
俺は彼女をやり込めた事に満足感を感じつつ、「提案」を行った。
「実行委員長は俺がやるけど、副委員長は赤城、お前な」
「はぁ!?」
元気のいい返しだった。吹雪辺りが聞いたら目をむくんじゃなかろうか。眉間をぴくぴく動かしていたが、何かに気付いたようにはっとする。
「金剛さんか鳳翔さんの入れ知恵ですね?」
「正解、お前と一緒に仕事すりゃ、少しは相互理解に繋がるだろうってさ」
「ぐぬぬ、余計な事を」
ぐぬぬとか言うな。吹雪が聞いたら泣くぞ。
「まあ、悪いもんでもないぞ? 提供するメニュー決めはお前が主導してよし。何なら、大食い大会でも企画しろ。お前に勝った奴には記念品を進呈、とかな」
「うっ。それは魅力的。何たる
蠱惑? ああ、誘惑が凄いって事ね。
「じゃ、早速だけど、出せる予算と物資はこんなもん。何でも妖精さんに頼れないから、手作りと有り合わせでがんばろう」
「ふむふむ、まずは食材のリストを」
「お前、ぶれないな」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
Starring:赤城
一ヶ月後、祭りの日はやってくる。
我ながら、頑張ってしまった。間宮さん謹製のふわふわ蒸しパンをもぐもぐしながら、赤城は思う。
「皆様ここが工廠です。装備の開発整備を行っています。中はお見せ出来ませんが、奥のブースで14cm単装砲の展示をやっていますので。どうぞご見学ください」
生真面目な性格が幸いしてか、ガイド役の朝潮さんは人気な模様。小さい体できびきび動く意外性が面白いのか、子供たちが後ろについて回っている。
「なおこの工廠では、我が朝潮型の妹たちの装備も開発しています。妹たちの活躍は目覚ましく
「ちょっと姉さん、思いっきり話題ずれてるから!」
「今隣にいるのが八番目の妹、霞です。どうです皆さん。この小さな体で深海棲艦をちぎっては投げ」
「あーもう!」
ま、まあああ言うパフォーマンスもアリだろう。
「さあ、鈴谷に勝てる人はもういないかな?」
急造のバスケットコートでは、鈴谷さんが指でボールをくるくる回している。実は彼女、昨日一日練習しただけ。艦娘の身体能力のおかげで何とかなっているが、本当に上手い人が来たらボロがでるんじゃなかろうか。
「じゃあ、勝てた人は鈴谷と一日デート権を、痛っ」
案の定調子に乗った鈴谷さんは、熊野さんに足をぎゅうぎゅうされている。大丈夫だろうか? そして目の色が変わった思春期男子が群がって来た事に気付き、青くなっている。
「もっと練習して、絶対勝つから! だからいつかもう一回勝負して!」
最後に倒した少年から真剣な視線を向けられ、本気で戸惑っている。
「鈴谷、約束した以上ちゃんと向き合ってあげるんですわよ?」
などと熊野さんに言われ、あたふたとしている。
「だ、大丈夫だし。鈴谷モテモテだし」
まあこの件は一応気を付けておこう。
「お子様には甘酒、大人には日本酒があるわよ! 今なら私と早飲み競争する権利をいたたたっ!」
売り子の足柄さんが、妙高さんに耳を引っ張られている。自分が言うのもなんだが、自業自得かと思われる。
「思いの外盛況だな」
会場を一回りしてきた津田少佐が言う。悔しいが、彼の思惑は成功したと言って良い。
「
「お前の大食いレース、四回やって三回自分で優勝したそうじゃねぇか。
「四回目はちゃんと負けておきましたよ。おかげで最高に盛り上がりました」
良きごはんを食べさせてもらいました。まる。
「ま、お前もなんか憑き物が落ちてる感じだな。最近、緊張しっぱなしだったんじゃないか? 主に俺のせいだが」
そうです。あなたのせいです。などとストレートに言ってやろうかとも思ったが、それを認めるのもシャクなのでやめておく。
「私は、あなたが分からないです。何も知らないのに、全てを知ったかのように動いています」
「哲学的な謎かけだな」
少佐が苦笑する。そんな事を言われても、答えようがないと。それはそうだ。
「俺は、一介の仮免提督だぜ?
どうも彼は金剛姉妹のボイコット以来、腰が据わって来たかのように思える。それも面白くないと感じる自分もいる。正直彼をそこまで気に食わない理由は、自分でも分かっていない。
「せっかくです。また勝負と行きませんか? そうですね。型抜きとかどうです?」
「お、良いね。俺が勝ったら向こう24時間、何か言う前に『てやんでえ』、言った後に『べらぼうめ』を付けて話してくれ」
この男は「てやんでえ一航戦の誇りだべらぼうめ!」とか言わせるつもりのよう。だったらこちらも遠慮しない。
「じゃあ私が勝ったら、文頭に『セニョール、セニョリータ』語尾に『ベイベー』を付けてください」
「ちょっおまっ、いつもながら何でそんな嫌らしいのばかり思いつくんだ」
「さあ、始めますよ?」
「くそっ。みてろよ!」
こうして、丹賑泊地の基地祭は盛況の下に終わりを迎えた。なお泊地司令による閉会の挨拶はそれなりに盛り上がった。
「ヘイ、セニョールセニョリータ! これにて本日のイベントは終了しますぜベイベー!」
眉を