仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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第21話「摩耶と映画とちょっとしたコンプレックス(その1)」

Starring:摩耶

 

 拷問染みた夏の日差しを鬱陶しく思いながら、ぶらぶらと重巡摩耶は基地内を歩いていた。どうもここのところ、泊地は落ち着きを欠いている。原因は新任の提督だ。

 津田少佐が支持者を増やす度に、姉の高雄などはいらついている。姉はどうも前任への入れ込み具合が凄かったから、何かと疑惑がある新任を受け入れがたいのだろう。摩耶はと言えば保留だ。津田少佐は、少なくない艦娘に好かれている様子。ならばそれなりの理由があるのだろう。迎合する気は無いが、頭から否定する気も無い。それにしても姉貴は少し頭冷やしてくれねぇかな、くらいは思うが。

 

 目的なく、提督の執務室を通りかかった時、妹の鳥海を発見した。何やら花と花瓶ひとつずつ持って、執務室に向かうらしい。軍の書類上では、自分が妹で彼女が姉と言う説もあるから揉めているらしい。とりあえず自分が姉で良かったと思う。ただでさえ天敵みたいな鳥海が、姉なんて立つ瀬がない。

 

「あ、ちょうどいいところだったわ」

 

 鳥海が人懐っこく笑う。この表情がもうあざとい。

 

「何がだよ? 確かに暇だけど。めんどくせえ事はやんねーぞ?」

 

 つい言葉に棘が出てしまう。その罪悪感から、結局用事を引き受ける事にした。自分も人が良い。

 

「で、何なんだ?」

 

 そんな摩耶に、鳥海はくすりと微笑む。そして花瓶を持ち上げて見せた。

 

「執務室と司令官(・・・)さんの部屋に飾ろうと思って」

「司令官さん、か」

 

 どうやら彼女は津田少佐を認める事に決めたらしい。別に好きにすればいいが、姉がまた荒れるなと思う。

 

「執務室に飾って来るから、寮の方は頼めるかしら?」

 

 確かにまあ男性寮は離れているから手分けした方が良い。そもそもがそこまでする必要はあるのか、と言う話もあるが。

 

「お前は何で少佐を気に入ったんだ?」

 

 やはり問題はそこに帰結してしまう。鳥海はうーんとあごに指を当てた。こんな仕草が嫌味にならないのもあざとい。

 

「皆さんの様子をみているとね、信じて良いかなって思ったの」

 

 要は勘である。一度決めたらエイヤッとやってしまうクソ度胸と言うか、思い切りの良さはだけは自分と似ている。だがそれを聞いて「新しい提督」に興味を抱いたのも事実。

 

「分かった。届けて来るぜ」

 

 微笑ましく笑う彼女が微妙に腹立たしく、ひらひらと手を振って摩耶は男性寮に向かった。

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

Starring:提督

 

 さあ待ちに待った休日である。休日と言えばするべき事がある。酒? レジャー? ノンノン。とっておきのビールとポテチを片手に、自堕落な映画鑑賞を行う事である。

 

 さて今日はZ級(クソ)映画の気分だな。一時期ネットでバズった『メタルマン』とかどうだろう? いやまてつまらなさ過ぎて脚本家が謝罪した某有名漫画のハリウッド版なんかも。選んでる時が一番楽しいんだよな。

 じゃあちょっとベタだが『デビルマン』。君に決めた! 『キャシャーン』でも良いんだけど、あっちは映像だけならA級だしな。

 

 俺は鼻歌を歌いながらプルトップに指をかけ。

 

「あーずっりー!」

 

 摩耶に目撃された。

 

 

 

「たまの楽しみなんだよ。見逃してくれよ」

 

 すみません許してください何でもしますから。ぺこぺこと俺は頭を下げる。現在泊地で酒と言えばどぶろくで、ビールは比較的稀少。その希少品を仕事のついでに、内地で買ってきたのが、なんとも気が咎めるのだ。ささやかな役得とは言え、職権を私的に使った事には変わりないからな。

 

「人聞きがわりーな。ノックの返事がなかったからつい覗いちまったんだよ。悪かったよ」

 

 おおっと。無駄に一人で盛り上がってたからな。まあ、見られたもんはしょうがない。

 

「じゃあ口止め料だ。一本飲んでくか?」

「マジか!?」

 

 俺は冷蔵庫から二本目のビールを持ち出し、摩耶に差し出した。二本飲めるはずが一本になってしまうが、映画を楽しむのがメイン。ビールはあくまでサブなので特に問題は無い。

 

「その代わり映画一本付き合ってけよ。一本のビールを一時間半ちびちびやるのも乙だぜ?」

「それケチくさくね?」

 

 文句を言いながらも、摩耶は俺の隣に座る。

 

「それで何の映画なんだ?」

 

 流石に彼女相手に『デビルマン』は無いよなぁ。とは言え「お前が出てる映画があるぞ?」とかって『火垂るの墓』なんか見せようものなら信頼関係大破壊だな。

 

 俺はセミハードのDVDケースをペラペラめくり、大好きな映画にたどり着いた。

 

「お前ラブコメは好きか?」

「えー、そう言うチャラいのはいいよ」

 

 女の子だからそう言うの喜ぶだろうと思ったら、反応は良くない。

 

「いやこれチャラくないぞ。ドラマ要素とギャグ要素はガチだ」

「へぇ。どんなやつ」

 

 帰って来る返事は気のないものだ。面白いんだがな。

 

「コンプレックスを題材にした、『先生のお気に入り』って映画だ」

 

 敏腕たたき上げの新聞記者は、エリート大学教授に惚れてしまう。しかしずっと現場でやってきた中卒なので、プロフェッショナルであってもインテリではない。彼のジェラシーが引き起こすドタバタ劇が、この映画の醍醐味である。

 

「ぶっちゃけ言うと、かなり笑えるな」

「なるほどなぁ。じゃあそれで良いか」

「そうだろうそうだろう、さあポテチも食え」

 

 いひひと笑ながら、DVDをセットする。このために無理言って、自室用の液晶テレビを持ち込んだんだ。さあ、至福の時間が始まる。それにしてもこいつと映画を観る事になるとは、昨日まで思ってもみなかった。せっかくの映画、楽しんでくれたらいい。俺の神経は物語に没入していった。

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