Starring:摩耶
拷問染みた夏の日差しを鬱陶しく思いながら、ぶらぶらと重巡摩耶は基地内を歩いていた。どうもここのところ、泊地は落ち着きを欠いている。原因は新任の提督だ。
津田少佐が支持者を増やす度に、姉の高雄などはいらついている。姉はどうも前任への入れ込み具合が凄かったから、何かと疑惑がある新任を受け入れがたいのだろう。摩耶はと言えば保留だ。津田少佐は、少なくない艦娘に好かれている様子。ならばそれなりの理由があるのだろう。迎合する気は無いが、頭から否定する気も無い。それにしても姉貴は少し頭冷やしてくれねぇかな、くらいは思うが。
目的なく、提督の執務室を通りかかった時、妹の鳥海を発見した。何やら花と花瓶ひとつずつ持って、執務室に向かうらしい。軍の書類上では、自分が妹で彼女が姉と言う説もあるから揉めているらしい。とりあえず自分が姉で良かったと思う。ただでさえ天敵みたいな鳥海が、姉なんて立つ瀬がない。
「あ、ちょうどいいところだったわ」
鳥海が人懐っこく笑う。この表情がもうあざとい。
「何がだよ? 確かに暇だけど。めんどくせえ事はやんねーぞ?」
つい言葉に棘が出てしまう。その罪悪感から、結局用事を引き受ける事にした。自分も人が良い。
「で、何なんだ?」
そんな摩耶に、鳥海はくすりと微笑む。そして花瓶を持ち上げて見せた。
「執務室と
「司令官さん、か」
どうやら彼女は津田少佐を認める事に決めたらしい。別に好きにすればいいが、姉がまた荒れるなと思う。
「執務室に飾って来るから、寮の方は頼めるかしら?」
確かにまあ男性寮は離れているから手分けした方が良い。そもそもがそこまでする必要はあるのか、と言う話もあるが。
「お前は何で少佐を気に入ったんだ?」
やはり問題はそこに帰結してしまう。鳥海はうーんとあごに指を当てた。こんな仕草が嫌味にならないのもあざとい。
「皆さんの様子をみているとね、信じて良いかなって思ったの」
要は勘である。一度決めたらエイヤッとやってしまうクソ度胸と言うか、思い切りの良さはだけは自分と似ている。だがそれを聞いて「新しい提督」に興味を抱いたのも事実。
「分かった。届けて来るぜ」
微笑ましく笑う彼女が微妙に腹立たしく、ひらひらと手を振って摩耶は男性寮に向かった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
Starring:提督
さあ待ちに待った休日である。休日と言えばするべき事がある。酒? レジャー? ノンノン。とっておきのビールとポテチを片手に、自堕落な映画鑑賞を行う事である。
さて今日は
じゃあちょっとベタだが『デビルマン』。君に決めた! 『キャシャーン』でも良いんだけど、あっちは映像だけならA級だしな。
俺は鼻歌を歌いながらプルトップに指をかけ。
「あーずっりー!」
摩耶に目撃された。
「たまの楽しみなんだよ。見逃してくれよ」
すみません許してください何でもしますから。ぺこぺこと俺は頭を下げる。現在泊地で酒と言えばどぶろくで、ビールは比較的稀少。その希少品を仕事のついでに、内地で買ってきたのが、なんとも気が咎めるのだ。ささやかな役得とは言え、職権を私的に使った事には変わりないからな。
「人聞きがわりーな。ノックの返事がなかったからつい覗いちまったんだよ。悪かったよ」
おおっと。無駄に一人で盛り上がってたからな。まあ、見られたもんはしょうがない。
「じゃあ口止め料だ。一本飲んでくか?」
「マジか!?」
俺は冷蔵庫から二本目のビールを持ち出し、摩耶に差し出した。二本飲めるはずが一本になってしまうが、映画を楽しむのがメイン。ビールはあくまでサブなので特に問題は無い。
「その代わり映画一本付き合ってけよ。一本のビールを一時間半ちびちびやるのも乙だぜ?」
「それケチくさくね?」
文句を言いながらも、摩耶は俺の隣に座る。
「それで何の映画なんだ?」
流石に彼女相手に『デビルマン』は無いよなぁ。とは言え「お前が出てる映画があるぞ?」とかって『火垂るの墓』なんか見せようものなら信頼関係大破壊だな。
俺はセミハードのDVDケースをペラペラめくり、大好きな映画にたどり着いた。
「お前ラブコメは好きか?」
「えー、そう言うチャラいのはいいよ」
女の子だからそう言うの喜ぶだろうと思ったら、反応は良くない。
「いやこれチャラくないぞ。ドラマ要素とギャグ要素はガチだ」
「へぇ。どんなやつ」
帰って来る返事は気のないものだ。面白いんだがな。
「コンプレックスを題材にした、『先生のお気に入り』って映画だ」
敏腕たたき上げの新聞記者は、エリート大学教授に惚れてしまう。しかしずっと現場でやってきた中卒なので、プロフェッショナルであってもインテリではない。彼のジェラシーが引き起こすドタバタ劇が、この映画の醍醐味である。
「ぶっちゃけ言うと、かなり笑えるな」
「なるほどなぁ。じゃあそれで良いか」
「そうだろうそうだろう、さあポテチも食え」
いひひと笑ながら、DVDをセットする。このために無理言って、自室用の液晶テレビを持ち込んだんだ。さあ、至福の時間が始まる。それにしてもこいつと映画を観る事になるとは、昨日まで思ってもみなかった。せっかくの映画、楽しんでくれたらいい。俺の神経は物語に没入していった。