Starring:摩耶
ラブコメと言うから、男と女がいちゃつく映画だと思っていた。だけどヒロインに振り向いて欲しくて空回る主人公に、何故か感情移入した。人間には。いや艦娘にもどうしようもないことだってある。容姿・体型・能力・知力。そして性格。ほんの少し。たかが上の学校を出ていないと言うだけで、苦しむ主人公がなんと可愛らしく愛らしいことか。容姿は渋い系の美男だけど。
鳥海の笑顔が浮かぶ。外から見れば、自分もこんなに滑稽なのかな? 無駄に空回っているのかな? こんなダンディな名優が悩むなんて贅沢だとは思うけれど。
だが物語は摩耶の予想とは別の方向に行く。
『エリートじゃなくてもあなたが好き』
そんなチープな台詞で閉じられると思っていた物語は、別の方向に発展してゆく。ヒロインの大学教授もまた、報道の現場でずっと戦ってきた主人公に、強いコンプレックスを持っていたのだ。お互いを理解し合った二人が、少しだけ生き方を変えて行く事を予感させて、物語は終わる。
何か狐につままれたような気分だった。
「どうした? 途中からえらい真剣に見入ってたが」
不思議そうな津田少佐が顔をのぞき込んでくる。
「いや、なんでもねぇ」
何でもない筈だが、少しだけ余計な話をしたくなった。
「少佐も誰かにコンプレックス持ってんの?」
見上げた少佐の顔は、酒が不味くなるとでも言いたげだった。地雷を踏んだらしい。なにやらうなだれて、ため息交じりに言う。
「女の子ってさあ、やっぱ顔が良い方が好きなんだよなぁ」
つい大笑いしてしまった事は言うまでもない。
「まあともかくだ。他人から見れば、自分が感じてるコンプレックスなんて何でもなかったりするしな。逆に相手の方がその部分を羨ましいと持ってたり」
「それは実体験?」
「そう。はっきり言われた。『俺、先輩が羨ましいです』ってな。どう羨ましいのか未だに理解して無いが」
「ふーん、本人に聞きゃいいじゃん」
少佐の目が泳いだ。大した事を言ったつもりは無いのだが。
「そりゃ無理だな」
「何で?」
彼は胸ポケットをたたき、そこに煙草が無いと知ると煙の代わりに溜息を吐いた。
「そいつはもう死んだからだよ」
つい忘れていたが、今自分達は大戦争をやっているのだ。プロの軍人であるなら、それなりの死と向き合ってきたことだろう。自分達艦娘が
「えっと、なんかわりぃ」
心がけて軽い口調で返す。きっとこんな言葉は自己満足なのだろう。軍艦〔摩耶〕と共に沈んだ乗組員の遺族たちも、そんな言葉で慰められない。だけど言わないよりはいいとだけ思えた。
「気にするな。そういう体験をお前らにはさせないようにするのが俺の仕事だ。必要以上にストレスを感じんでもいい」
怖がらなくていい。守ってやる。そんな映画みたいな事を言われた気がした。言葉の意図は、もちろん分からない。
「でもまあこんな時代だからな。誰かに思ってる事があるなら、今のうちに腹を割って話すのも良いと思うぜ」
その言葉は何処までも重い。高雄は、もっと提督と話しておけばよかったと後悔して過ごしているのだろうか。意識してはいないが、きっと自分もそうだ。だから。
「そうだな。話してみるわ」
少佐は破顔し、何故かまたDVDの収納ケースをごそごそやり出した。
「そう言うコミュニケーションの行き違いを題材にした作品は一杯あるぞ。例えばだな……」
「そりゃいいけど、あたし夕方から演習だぜ?」
「そうか。そうだったな」
何故か残念そうな顔をする少佐。そんなに一緒に映画見て欲しかったのか。いや好きな映画を薦めそこなっただけか。
「まあ俺は休日はこうしてるから、また映画観たくなったら遊びに来い」
「んー。ビールもあるなら考えとく」
「それは手元にビールがあるかどうかだな」
コメディ映画のように、少佐は肩をすくめる。そこで気付いた。ビールが無くても、摩耶はこの空気を割と気に入っている事に。
だから去り際、自然に言葉が出たのだった。
「じゃ、また来る」
演習に向かう舗装路で、鳥海を見つけた。
「なあ。あたしの事うらやましいと思った事って、あんのか?」
あまりに突然だったからか、彼女はフリーズした。やっぱり的外れな質問だったかと、少し不安に思う。
「ええとね。それはあるわ」
本当にあるのかよ。あのきりっとしてるのに可愛らしくてあざとい癖に、嫌味さがまったくない鳥海が自分を?
「例えばいつも明るくて皆を励ましてくれるところ。笑う時本当に楽しそうなところ。何があってもくじけないところ。あとそうね。いつも自信満々に振舞えるところ。実はすごく感受性が強いところ……まだ聞く?」
「いやもういい」
まさかここまで並べられるとは思わなかったし、そこまで評価されているとは知らなかった。自分の性格なんて、そういうものだとしか思ってなかった。
「摩耶だって色々あるでしょ? 思ってること」
「何で分かるんだよ?」
「姉妹だもの」
そう言って鳥海はくすくす笑う。全くこいつには敵わない。でもまあ少佐の言う事は正しくて、自分はコンプレックスとサヨナラ――は出来ないが、横に置いておくくらいなら出来る気がした。
「そう言えば、お花は?」
「あっ、水入れてなかったわ」
鳥海の微笑が苦笑に変わる。確かにあれじゃ直ぐ枯れてしまう。
「いいや、演習終わったらまた
「えっ?」
何気ない発言だったが、自分でも驚いた。自分は彼を、「提督」と呼んだ。そして鳥海は納得したようににこにこ笑う。
「高雄姉さんに言いわけ考えないとね」
「まあ、何とかならぁな」
ふたりは苦笑しながら工廠に向かう。
これだと感じたものは、とりあえず信じてみる。相手をではなく、信じるに値すると感じた自分を信じてみる。そんなところはそっくりだったから、摩耶と鳥海はやっぱり姉妹だった。
劇中登場した『先生のお気に入り』は本当に面白い映画なので、良ければ探してみてください(`・ω・´)b