仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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第24話『高雄さんのゲームの事情(その2)』

Starring:提督

 

 参った。感想は実はそれしかない。今までの人生で、女の子を呆れさせたこと、怒らせたことはある。でも泣かせたことなんて――いやあるにはあるがあれは例外だろう。ともかく。ギャン泣きする女性へのフォローなんて、俺にとって完全なる専門外だった。なお。無言で仕事を続ける鈴木一曹はマジ尊敬した。

 

「一応聞くけど、泣いてた理由とかは」

 

 凄い顔で睨まれた。助けを求めるべく漣を見たが、全力で首を振られた。自分で何とかしろと言いたいらしい。他の艦娘たちも何も言わない。彼女の苦悩を、自分達もまた知っていると言いたげだ。進退窮まった俺は、結局彼女が泣き止むのを待つことにした。隼鷹が何も言わず高雄の隣に座り、酒を飲み始める。飛鷹も反対側に座って背中を撫で、六駆達も漣も何も言わず執務室を出て行く。

 

 温かいな。ここは。

 

 

 

 やがて彼女のすすり泣きは終わり。飛鷹と隼鷹・鈴木一曹までが出て行った。俺が何とかしろと言う事だ。

 

「答えてください。あなたは私たちをどうするんですか? 提督を奪ってゆくんですか?」

 

 奪ってゆく? 確かに彼女の立場からすれば、俺は前任から泊地を奪ったわけだが、何故高雄は未来形で語ったのだろうか?

 

「私は、上書きなんてされません。木葉提督のいるここを守ります」

 

 彼女の言わんとしている事が分かった。泊地が俺の色に染まるのが嫌なのだ。だからってどうしようもないじゃないか。先輩はダッチハーバーに潜入し、ここには居ない。賽は投げられたんだ。さあ津田(つだ)宏武(ひろむ)。どうすればいい? 考えるんだ。

 

「まず言っておく。俺は泊地を乗っ取りに来たんじゃない。受け継ぎに来たんだ」

 

 そんな言葉がさらっと出た自分に驚いた。最初は重圧から逃げ出したい気満々だったが。今の立場を自然に受け止めている自分がいる。

 

「だから話をしよう。お前が泊地や前任について知っている事を話してくれれば、少しは過ごしやすい泊地になるかも知れない」

 

 だが高雄は黙ったまま首を振る。大切な思い出を預けるのに、俺は値しないとでも言うように。もういっそ先輩の事を話してしまおうか。そんな事をして万一情報が洩れれば、命の危険にさらされるのは先輩だから、それは無理な相談だ。結果、俺はいつもの力技に出る事にした。

 

「ひとつ、賭けをしようじゃないか」

「賭け、ですか?」

「俺は演習を見ていて、お前の弱点に気付いてる。前任からもそんなような事を言われてないか?」

 

 高雄の表情が初めて「哀」から驚きに変わる。やはり言われてたな。

 

「あなたがそんな事わかるわけがないです」

 

 まあ認めたくは無いだろうな。だけど彼女の弱点は、金剛や加賀あたりには丸わかりだと思う。赤城はちょっと怪しいかな。高雄と同じ匂いするし。

 

「俺がお前にそれを気付かせる事が出来なかったら、硫黄島作戦の再撤回を艦隊司令部に上申してもいい。元の作戦案に戻す事も検討しよう」

 

 高雄も分かっているはずだ。そんな事ができるわけがないし、上申なんぞしたところで却下されて終わりだ。それでもやると約束するのは、彼女に提示できる俺なりの「誠意」だった。彼女の眉がいっきに吊り上がる。挑発を受けてくれるらしい。

 

「できるものなら」

 

 俺は頷くと立ち上がり、執務室の扉を開けた。案の定出て行った連中が団子になって聞き耳を立てていた。ほんと浪花節だな。ここは。

 

「誰か、ゲーム機持ってないか? 携帯機でも良いけど、出来れば据え置きのやつ」

 

 釈然としない表情で、暁が部屋にゲーム機を取りに行った。

 

 

 

「さぁて、どれにしようかな」

 

 俺はダウンロードサービスを開き、名作ゲームたちを物色する。購入したゲームは、六駆へのお小遣にすると言う事で良いだろう。

 

「高雄、お前ゲームやったことは?」

 

 思いっきり不満顔な高雄が、ぷいと横を向いた。

 

「無いですそんなもの」

 

 そんなもの、か。そう言う奴ほどドハマりするんだよなぁ。

 

「じゃあ俺もやったこと無いソフトがいいな。これはどうだ? 『スペランカー』」

 

 漣が「えー」と言う顔をする。こいつがファミコンの歴史に残る激ムズゲーだったからだ。そんな事、高雄が知る筈がなく。

 

「何でもいいです。早く始めてください」

「おーけー。じゃあ、ゲームオーバーまでにどれだけ進めたか競う事にしよう。一人20分ずつ練習して、そこから始めるって事で」

 

 このスペランカーと言うゲームは、とにかく当たり判定がタイトなのだ。1ドットしかないとすら思える微小な蝙蝠のフンに腰ほどしかない段差。これらが例外なく残機を削る。あの特徴的な死亡BGMと共に。まあ未プレイだからネットの情報だが。そして俺は、先輩に鍛えられてゲーム慣れしている。

 結果はと言うと、ステージクリアは出来なかったが、ある程度の難所を越える事が出来た。当然勝負は俺のもの。……と思ったんだが。

 

「意外と簡単じゃないですか」

 

 そう言い放つのは、決して強がりではなく。高雄は順調にステージを進めて行く。俺のプレイを見てコツを盗んだな。器用な奴だ。と言っても、勿論勝たせるつもりはない。負けてもらわないと意味が無いからな。俺はポケットに手を突っ込み、携帯を触る。その時。

 

♪ちゃんかちゃんかちゃんかちゃんかちゃーん

 

 死亡BGMが流れた。まだ高雄がプレイ中にも関わらず。

 

「えっ?」

 

 驚いて操作をミスった彼女に、蝙蝠のフンが直撃した。見事な自爆だった。

 

「ほれ」

 

 俺が差し出したのはスマホ。もう一度タップすると、あの死亡BGMが流れてきた。

 

「ちょっと! インチキじゃないですか!?」

 

 身を乗り出して怒る高雄の怒りはもっともで、俺がやられてもキレる。だが今回ばかりはやらせてもらう。

 

「お前が前任に言われたのは『真っすぐすぎる』とか『真っ当すぎる』とかじゃないのか?」

 

 高雄の顔が強張る。図星か。

 

 彼女の戦い方は器用だ。頭が回るから作戦もすぐ理解できるし、()を使う事も出来る。もちろん本人の戦闘力も折り紙付き。だからいままでやって来れた。やって来れてしまったのだ。

 

「お前、演習相手が予想不能な行動をとると僅かに動揺するんだよ。非合理な物への恐れがある。だから言わせてもらう。お前は奇策に弱い。お前は、『真面目過ぎる』」

 

 高雄はコントローラーを取り落とす。俺の伝え方・理屈は、はっきり言ってこじつけだ。だが分かりやすいやり方はしていると思う。現に高雄は馬鹿馬鹿しいと強弁できたはずだが、そうはしなかった。

 

「真面目な奴ほどイレギュラーに弱い。今までは愛宕が補ってくれていた。だがこれからは離れて戦う事も出てくる。才能に類する事なら周りが補うしかないが、これはある程度経験でどうにかなる問題だぞ? 重巡高雄」

 

 彼女は視線を落とし、震えている。恐らく先輩は、自分で気付かせようとしたんだろうな。実際見守っていれば気付いたろう。だが硫黄島作戦を前に、俺は艦隊を(まと)める必要がある。そんな余裕は無いのだ。

 

「そんなもの、正道でねじ伏せます!」

 

 予想通り彼女は意固地になる。だが想定済みだ。俺は言った。

 

「いいぜ? 何回でも相手になる。思いつく限り卑怯な手を使ってやるから、どんどん挑んで来い」

 

 高雄は涙目で俺を睨み、再びコントローラーを手に取る。よし、その意気だ。俺は別に考え方を矯正するつもりはない。ただ気付きを得てくれればいいし、出来れば俺の卑怯技に対応する事で対応策を学んで欲しい。俺は手を変え品を変え、色んなゲームで高雄を「指導」した。

 

「パズルゲームなら卑怯な事出来ませんよね。えーと、ここに数字を入力すれば……」

「2618669557425745」

「ちょっ。ぶつぶつ言うの止めてください」

「35857528164654。どうした? 早く入れないとタイムオーバーになるぞ? 74946368465」

「あーもう!」

 

『ブラックアウト!』

「あれ? 黒くなったわ。マシントラブルかしら」

「あーあ。電源切っちゃったな。このボスは必殺技使うと画面が暗くなるんだ。数秒すると元に戻るんだけどな」

「卑怯です!」

「こればっかりは開発者に言ってもらわんとなぁ」

 

「ちょっ、なんで急に飛び上がるのよ!? あああぶつかる!」

「わはは。このゲーム2コンの右を押すとジャンプが高くなるんだ。それを利用した嫌がらせで、当時の小学生は皆このせいでつかみ合いの大げんかをしたそうだぞ!」

「なんでそんな余計な機能を!?」

「さぁ」

 

 気が付いたら、とっくり日が暮れて夕食の時間になっていた。高雄と言えば、負け続けてぷるぷる震えている。

 

「……き」

「き?」

 

 彼女はびしっと俺を指さし、言った。

 

「今日は負けましたけど、あなたの卑怯技なんかに屈しません! 次は必ず勝ちます!」

 

 いうだけ言って、高雄はずんずん部屋を出て行く。あれ? 賭けの話はどうしたんだっけか? そう言えば俺が勝ったら何をさせるか、まったく考えてなかったな。

 

「……司令官」

「……提督」

 

 何故か冷たい視線を感じた。周囲を見回したら、氷点下の瞳に出迎えられた。

 

「ご主人さまが高雄さんの事を何とかしてくれたのは、ありがたいと思います。でも」

「どうしたら良い大人がそんな『小学生のいじわる』が出来るのよ」

 

 飛鷹がくそでかため息をはいた。え? 小学生のいじわる? 言われてみれば子供の頃そんなことをやり合ったような。

 

「今思いついたのをやってみただけなんだけど、まずかったか?」

 

 全員がやれやれと首を振った。え? 俺が悪いの?

 

「大丈夫。私達司令官の味方だから」

「そうそう、いーじゃないか。そう言う話も酒の肴になるってもんだよ」

 

 なんか雷と隼鷹が生暖かい目で見てくる。

 

「まあしょうがないのです。司令官さんは司令官さんなのです」

 

 そう言って艦娘たちは座布団から立ち上がり、うーんと背伸びをした。

 

「じゃ、ご飯行こうか。司令官」

 

 響に促され、ゲーム大会? お開きとなった。良くわからないが、この騒動は解決を見たらしい。とりあえずは。

 

 

 

 後日、映画を見に来た摩耶が言った。

 

「なぁ? 姉貴に何したんだ?」

「い、いや何って言うかだな」

 

 とっても説明し辛いぞ。ゲームで叩きのめしたらしょっちゅう挑んでくるようになったとか。

 

「まあ良いんじゃね。最近塞ぎこまなくなったし、むしろ前より元気にピコピコ練習してるぜ?」

 

 うーん。良かったのか悪かったのか。俺には判別がつかん。真面目な彼女に悪い遊びを教え込んだみたいで、罪悪感ががが。

 

 とりあえず、今日の映画はレトロゲームのお供『ピクセル』にしよう。




と言う高雄さんでした。次の赤城さんのエピソードで、第二章は終わりとなります。
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