仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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第25話「提督の墓参りと、お供の赤城さん(その1)」

Starring:赤城

 

 5:00(マルゴマルマル)、一航戦の一日は始まる。

 

 身支度を整えた赤城は、小物入れから一枚の写真を取り出す。それを畳んだ風呂敷の上に置いて、ずっと眺める。手を合わせてあの日々を思い浮かべ、ごめんなさいと詫びる。許してはくれないのかも知れないが。

 

「赤城さん、そろそろ」

 

 相棒の加賀さんが声をかけてくる。写真については見せていないし、話してもいない。無理に聞き出そうとしない彼女には感謝するばかりだ。

 

「では日課を始めますか」

 

 この蒸し蒸しする季節。気持ちよく身体を動かすのは早朝にかぎる。走り込みに弓の修練。そして朝の湯あみに朝食。彼女たちにとって厳しくも楽しい一日が始まる。

 

(私、がんばっていますから)

 

 彼女たちは、自分を許してくれているか分からない。だけど――。

 

 

 

「駄目ったら駄目です。木葉提督(ご主人さま)が行方不明になったばっかりなんですよ?」

「そりゃそうなんだが、ちょっと街を歩いてくるだけなんだぜ?」

「チャラ男のチンピラにフルボッコにされたり、鎮守府解体派の美人局(つつもたせ)に遭ったりするかも知れないんですよ」

「ねーわ! どんだけ心配性なんだよ!?」

 

 執務室に入ったら、少佐と漣さんがなにやら言い合いをしていた。仕事について話していると言うより、母親に遠出したいとねだる小学生のようである。

 

「わかったよ。じゃあお前が来てくれ」

「だが断る!」

「断るのかよ!」

 

 少佐ががっくりと姿勢を崩す。まるで龍驤さんが良く見る漫才とかいう物のようだ。

 

「漣にばっかり甘えるのはいい加減止めましょう。たまには誰か他の子を頼ってみるのも良いと思われ。です」

 

 このまま聞いていても延々続きそうなので、赤城は前に出てクリップボードを突き出した。

 

「少佐。今週の訓練計画です」

 

 よほど漫才(会話)に集中していたと見えて、少佐はびくっと体を震わせた。こちらに気付かなかったらしい。

 

「お、おう赤城。ご苦労さん」

 

 少佐は書類をペラペラとめくる。

 

「流石だな。俺が言う事は無いわ」

 

 そう言って「提督用」と書かれた箱に入れた。これ以外の書類は、漣さんか鈴木一曹に投げるようだ。

 

「今度は何の騒ぎですか?」

 

 赤城の冷たい目に気付かず、少佐はぽりぽりと頭をかく。

 

「法事と言うか、呉まで墓参りに行きたいんだよ。着任のドタバタで春は行けなかったから。作戦が始まる前にささっと行っときたい」

「なるほど、そう言うのは大事ですね」

 

 ご家族か何かだろうか。東京の空襲で誰か失ったのかも知れない。心が締め付けられる。

 

「それで行こうと思ったら、護衛付けないと駄目だってこいつが」

 

 漣さんは、ふふんと腰に手を当てた。この二人は、本当にノリが合う。

 

「そうだ! 赤城さんに行ってもらいましょうよ」

「はぁ? よりにもよってか?」

 

 それはこっちの台詞である。彼と一緒だと、下らないやりとりでどっと体力を削られそうだ。

 

「鳳翔さんに言われたんでしょ? 相互理解に努めないと」

 

 ここで津田少佐は、茶化すような事を言わなかった。鳳翔さんの言葉をそれなりに重く受け止めている証左だろう。

 

「分かったよ。じゃあ赤城。今週末空けておいてもらえるか?」

 

 完全なるプライベートならここで断る事もできる。だが個人的な行事とは言え、提督のプライベートを守るのもれっきとした公務だ。それでもまあ。気は進まないが。

 

「赤城さん。呉と言えば呉焼きですよね? カレーや肉じゃがの名店もいっぱいありますし、前にご主人さまにご馳走してもらった時は美味しかったなぁ」

「……」

 

 いけない。生唾を飲みそうになった。だがまあ気は進まないが。公務なら仕方がないではないか。うん気は進まないが。

 

「分かりました。喪服は必要ですか?」

「いや、そう言うのは良いんだ」

 

 少佐は懐かしむように笑う。当然のことだが、その表情から内面は読み取れない。

 

「フランクに行こうって約束だったからな」

 

 

 

 そして週末。赤城たちは横須賀鎮守府のヘリポートに居た。「鎮守府の」とは言っても、米海軍から間借りしたものである。貸したものをまた借りるとは変な話であるが。

 

「じゃあ、お前らハメを外すなよ。足柄、引率頼むな」

「任せてちょうだい」

 

 駆逐艦や海防艦たちを、足柄さんは慣れた様子で整列させてゆく。大型艦たちは既に手続きを終え、横須賀中央駅へ。行く先は大抵横浜か都内。食べ歩きや写真撮影であちこち回る者もいる。丹賑(ニニギ)島の艦娘たちは、交代で本土(内地)へ遊びに出る事が認められている。木葉提督が艦隊司令部と交渉して始めた制度だが、津田少佐はこれを拡充した。遊ぶ機会が増えた艦娘たちは素直に喜んでいる。

 

「くれぐれもナンパしてきた相手と酒飲み競争やって、8人全員潰した前科を忘れるなよ?」

「あ、あれは戦いを挑まれて魔が差しただけですから!」

 

 提督から目を逸らす足柄さん。この人はこの人でノリが小学生だ。

 

「大丈夫っぽい! 夕立がしっかりみてるっぽい!」

「足柄さんはとーっても優しいから、もうそんな事しないよね?」

 

 夕立さんと子日さんから温かい言葉を向けられ、足柄さんは悶えだした。

 

「やめて、罪悪感が!」

 

 一瞬「こちらの方が楽しそうだな」とか思ってしまう。すぐに思い直した。自分が行っても彼女たちは落ち着けないだろうし、話題にもついてゆけまい。足柄さんが適任だ。

 

「じゃあ、俺達は次の〔オスプレイ〕で岩国だ」

 

 これも公私混同ではあるが、彼曰く元からある便に同乗させてもらうだけだから、まあ許してもらおうと言う事である。とりあえず赤城は酒保に行って、機内でつまむ物を探す事にした。

 

 

 

 

11:32(ヒトヒトサンフタ) 呉駅

 

「呉は、この姿になって初めてです」

 

 在りし日の呉軍港を思い出す。柱島から空母〔赤城〕に乗り込む士官の卵たち。精悍で人懐っこい顔・顔・顔。本当に懐かしい。

 

「今の呉も良いところだぜ? 飯は旨いし人の気質も良い。俺も子供の頃から、良く遊びに来た」

「少佐は、この辺り出身なんですか?」

「広島市内。あっちはあっちで良いところだぞ?」

「ふむ。呉焼きじゃない広島のお好み焼きも、いつか味わいたいですね」

「お前、ぶれねぇな」

 

 呆れ顔を浮かべつつ、少佐はきょろきょろ周囲を見回している。案内人が来るらしい。彼は土地勘があるのに、何を案内してもらうのだろうか。もしかしたら海軍の人だろうか? 思案はすぐに中止される。

 

「兄ちゃん! 会いたかった!」

 

 いきなり少佐に抱き着いてきたのは、十代半ばくらいの女の子だった。自分の頭から、血の気が引いて行くのを感じる。

 

「おいこら。公衆の面前だぞ? 海軍だってコンプラうるさいんだから」

「ぶー。たまの再会なんだからいいじゃん」

 

 あんぐりと口をあける赤城の「混乱」は、やがて「憤懣(ふんまん)」に形を変えて行く。わざわざ呉まで来たのは、こんな若い子に抱きつかれるためだったのか。大変イライラする。まあ一応心の何処かで思いはした。この怒りは、果たして正当なものだろうかと。

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