第27話「赤城、回顧す」
調子が狂う。狂うったら狂うのです。
内地のお偉方があれこれ言いに来るのは慣れていました。そんな時は私が対応する事が多かったですが、基本的にニコニコ笑って嫌味と笑えない冗談に耐えていれば満足して帰って行きました。
かちかち。
木葉提督が行方不明になって新任が派遣された時、まずはこの戦法で行こうと決めていました。すぐ破綻しましたが。彼に個人的な興味を抱いたとか、そう言う事は一切ないです。話が弾んだのは波長があったとしか。それからはどうもやりにくいのです。
鳳翔さんが変な勝負をさせるので、当てつけに「負けたら24時間、語尾にやんすを付ける」とか条件を付けたらあの人、本当に24時間それをやり続けたのです。あんな子供みたいな人は初めてだと呆れました。認めましょう。私はあの時あの人を、面白いと思ってしまいました。
かちかち。
人
だから最初のうちは皆怖がりますが、一度気を許してしまうと面白い玩具……失礼。良き遊び相手として認めてしまいます。六駆の皆さんなどは執務室に入り浸っていますし、高雄さんですらゲーム機を持ってあの人を訪ねる姿が目撃されています。ようやります。
かちかち。
指揮官としては、多分優秀だと思います。多分と言うのは今まで大規模な戦いを経験していないからですが、無数に経験した艦隊戦では危ないと思わせる場面こそあっても、リカバリーは上手くそして早い。これは全くぼろを出さないよりも信用できる要素です。
前任の木葉提督は、盤上の艦隊をすいすい動かして、敵をいつの間にか追い詰めている戦い方でした。彼は常識の裏を突いて盤そのものをひっくり返してしまいます。彼が五航戦に入れ知恵してちょっとだけ、そうほんのちょっとだけピンチにさせられた時。彼の厄介さを思い知らされました。
かちかち。
ミッドウェイ。あれはのどに刺さった小骨。いいえ体に残った砲弾の破片のように、
かちかち。
そうです。遺憾ですが。本当に遺憾ではありますが。私達艦娘は彼を信頼しつつある。
かちかち。
そして私だけ――漣さんもかな?――知っている彼の顔。
最高の友に銃を向け、最愛の
かちかち。
いけない。私はまた、救われようと。いえ救ってもらおうとしています。赦しなどあのミッドウェイで、そしてあの呪うべき日にその資格を失ったと言うのに。
『でもそれならなおさらだよ。赤城ちゃんは兄ちゃんを分かってあげられるし、兄ちゃんも赤城ちゃんを救ってあげられる』
智美さんの言葉を思い出します。駄目なんです。私にはその資格は無いのです。
かちかち。
かちかち。
かちかち。
「おおっ! 流行を過ぎたギャグを言わせると言う嫌がらせもありですね。次回の勝負に勝ったら、語尾に『だっちゅーの』を付けさせるというのはどうでしょう? ねぇ加賀さん」
加賀さんの返事は、何故か大きなため息でした。私何かしたでしょうか? 私は座卓に置いた
「赤城さんが余暇をどう使うかは、赤城さんの自由だけれど。少し入れ込み過ぎでは?」
そうでしょうか? 私はただ指揮官との円滑なコミュニケーションを行う為に、最善を尽くしているだけというか、おもちゃで遊んでいるだけというか。
そう言う情報を集めるのは、このいんたーねっとと言うものは最適ですね。うさんくさい板きれだと思ってましたが、借りてきて正解です。そう思っていたら、加賀さんが二回目のため息を吐きました。
「赤城さんも変わった。いえ元に戻ってきたようね」
ぼそりと加賀さんが言いました。私は驚きます。私が? 昔の私に?
「まあ。赤城さんが楽しいならそれでいいわ」
それだけ言って、加賀さんは布団に入ってしまいます。楽しい? そう言えば最近、嫌な夢を見る事が減りましたね。作戦前で忙しくなったからだと思いますが。ついでにあれが起こすトラブルの尻ぬぐいも大変ですし、余計な事を考える時間が減ったのかも知れません。
「そうです! 『とんでもねぇ。あたしゃ提督だよ』と言わせるというのは?」
私は加賀さんが寝息を立てているのを見て、いんたーねっとの
明日も良い日でありますように。そう言えば「明日も」なんて考えるようになったのも最近ですね。まあいいか。
おやすみなさい。また明日。