仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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25.7.6 文章・表現を改稿
25.11.1 勢力図を追加
※勢力図は暫定です。物語の展開によって、変更する可能性もあります。参考程度に(;^_^A


第3話「提督はいじわる空母と出会う(その2)」

Starring:提督

 

 結果的に、俺の着任挨拶は苛立ちと戸惑いで閉じられた。

 

「私たちは、まだあなたを提督と呼んでいいのか分かりません。ですから、”少佐”とだけ、呼ばせて頂きます」

 

 いきなり重巡高雄にそう宣言された。それはもう完膚なきまでに。きっつ! と思ったが、彼女達の心情を思えば無理もない事で。

 ある者は不審そうに、ある者は不安そうに俺を見ている。なんか怯える者までいるっぽい。まあそうなるわな。新しい提督が、前任を見殺しにした(・・・・・・・・・)派閥の人間なんて、俺なら絶望どころじゃない。

 しかも最初に宣言したのが、予定されていた硫黄島攻略作戦の凍結と、新しい作戦への変更だ。駄目出しに新作戦の立案には、艦娘たちを関わらせない。これは俺を送り込んだ人間の意志ではなく、海軍の方針だが。

 

 俺は黙って演台の前から移動し、その横に立って挨拶を続けた。嫌われて嬉しいわけじゃない。ってか、身勝手ながら俺も泣きたい。解散になった後、初期艦の漣が言った。

 

頑張れ(かんがれ)!」

 

 かんがれ? 良く考えろって事か? まあそうだ。これから考えなきゃならんことは山ほどあるのだ。ともあれ、我が泊地と俺自身の行き先は前途多難である。

 

 

 

 時はさかのぼる。

 

「津田君、あなた私の艦娘とケッコンしなさい」

「はぁ?」

 

 敬愛する木葉先輩は開口一番とんでもない放言をした。いつもながらついていけねぇ。この人の事は尊敬しているが、同時に持て余してもいる。

 

「詳しく説明しやがれ」

 

 今度は何の遊びだか知らないが。しかもかなり(たち)の悪い冗談である。ダシにされる艦娘たちの事も考えてやって頂きたい。

 

「私、今度死ぬことになったのよ」

「はぁ?」

ktkr(キタコレ)!」

 

 恩師であり提督養成機関の教官にして、友人――少なくとも俺はそう思っている――は、正気を疑われかねない馬鹿を言った。

 

「先輩。この物不足に料亭なんか呼び出すからなんだと思ったら、そんな下らない冗談ですか?」

「冗談じゃないわよぉ」

 

 木葉(こば)樹希(いつき)少将。俺の三個上の36歳。妙齢の女性にして、太平洋の防壁、丹賑(ニニギ)島泊地を少数精鋭の艦娘で守り抜いた俊英である。養成機関を卒業予定のひよっこにすれば、対等に話ができる人物ではない。そんな彼女と俺につき合いがあるのはちょっとしたきっかけがあるのだが、まあそれはいい。

 

木葉提督(ご主人さま)、ひょっとして死んだことにして、深海棲艦の拠点に潜入するとか」 

 

 完全に調子に乗って茶化しているのは、駆逐艦漣。先輩の泊地から出向して、俺の教育役になってくれている。普通教育役はそのまま初期艦になるのだが、俺の場合は配属先が決まったら誰か紹介してもらう事になるだろう。先輩が彼女を手放すとは思えんし、本人が望まない限りはそうなるな。

 ちなみに潜入云々は、昨日見たジェームズ・ボンドの影響だろう。

 

「よく分かったわね。私は一週間後泊地に帰る〔オスプレイ〕が大爆発を起こして、死んだことになるの」

「ま?」

「本気ですか?」

 

 思わず身を乗り出す。これは酒も料理も楽しめる話題では無さそうだ。早く話せと、視線で圧力をかける。

 

「そこからは、俺が話そうじゃねぇか」

 

 すすっと空いたふすまから、初老の提督が顔を出した。その瞬間俺は、バッタの玩具のように跳ね上がり敬礼をする。

 

「ああそう言うのはかまわん。座ってくれ」

 

 俺は顔を引く突かせながら、恐る恐る席に着く。

 綾郷大将。横鎮、横須賀鎮守府を統括する提督で、俺にしてみれば雲の上どころか太陽ほどの地位がある。そして彼は予定されている硫黄島攻略作戦を巡って、先輩と険悪な関係のはず。大将の作戦を公然と批判したのだから当然である。大勢の前で上官批判など、彼女らしくないとも思っていたが、一緒の席で密談となれば、ありゃ狂言か?

 

 いずれにしてもこれはただ事ではない状況に巻き込まれたらしい。綾郷大将はどっかり座敷に座ると、とんでもない発言をした。

 

「木葉には、特別任務を帯びてダッチハーバーに潜入してもらう事になった」

 

 ダッチハーバー! アラスカにある深海棲艦の一大拠点だ。北太平洋の中枢と言ってよく、ここの艦隊が日米を結ぶシーレーンを脅かしている。落とそうにも防御に向いた立地と、豊富な地下資源のせいで、ハワイの米艦隊が束になっても寸土さえ奪えない。ついでに言えば、占領地の住民もどうなったのかすら分かっていない。

 

「大丈夫なんですか!? と言うか何故先輩じゃないといけないんです?」

 

 いきなり上の作戦に疑問を差しはさんでしまった俺。でも当然の疑問だろ? 本職の諜報員などいくらでもいるはず。どう考えても一提督の役割じゃない。だが木葉先輩からは、まるで動揺や不満を感じない。

 

「あー。向こうじゃ暫くお酒が飲めない事だけが残念よねぇ。可愛い子はいるかしら」

 

 そう言って徳利の酒を、おちょこではなくコップに注ぎ始める。まあ、こう言う人である。

 

「先輩の艦娘たちは?」

「もちろん知らないわ」

 

 とんでもない事をいい加減な調子で言い放つ。それは大問題ではないか? 先輩の事だから、きっと慕われているだろう。それをいきなり「死んだからそう言う事で」じゃ気の毒すぎる。

 

「あーあ。深海棲艦はお酒作ってないわよねぇ。きっと」

「燃料用のアルコールでも持って言ってください。それより早く続きを!」

「そうだったわねぇ♪」

 

 本来なら少将にこんな口を利いたら、しかも大将の前でなど大問題だが、深海棲艦の出現と艦娘の登場によって新しく組織された「海軍」は若い、と言うより急造の組織。フランクを通り越していい加減なのである。ただし調子に乗りすぎれば鉄拳が飛ぶ。そこは戦前の海軍と同じだ。

 

「続けて良いか? それで、木葉の後任だが。津田、お前やれ」

「お、俺がですか?」

 

 提督とは、艦娘に力を与える「妖精さん」を見る事が出来る資質を持つ者、らしい。その中でも漁師や船乗りなど、海に関わる者に適性者が多いと言われている。俺も先輩も元海自の士官だから、正規の軍幹部としての教育を受けており、かつ提督の資質がある。上からしてみれば喉から手が出る程欲しい人材だと、なんか言われている。成績はさほど良くないが。と言っても。

 

「俺はまだ養成機関を出てないんですよ? そもそも本来は何処かの鎮守府で、少規模な艦隊を任せられて地道にやって行くのが通例ですよね? いきなり高練度の艦隊を任せると言うのは」

 

 おまけに丹賑島鎮守府は、硫黄島の攻略作戦を控えているのだ。体制が整いつつある泊地でいきなりトップが交代すれば、作戦自体も破綻しかねないんじゃないか? いつもは動揺を表に出さない漣も、俺と木葉先輩の顔を交互に見つめ、不安を隠せない。俺も大いに不安だ。

 

「確かに経験不足の危惧はある。だが木葉は後任をおめぇさんにと強く推しているんだ」

 

 反射的に先輩を見やる。彼女は涼しい顔で徳利を振っている。

 

「養成機関の成績も見せてもらった。評価こそ凡庸だが、なるほど面白い発想をする」

 

 綾郷はにっと歯を見せる。それは褒められているのか。おだてて良いように使うつもりなのか。自分には分からない。

 

「まあ、あなたは私の秘蔵っ子だから信用できるのよね。うちの(艦娘)たちを変な人に任せたくないし」

「じゃあわざわざ泊地を離れる事なんて」

「あ、ジュウコンは認めるけど、誰か泣かせるのはNGね」

「あのなぁ」

 

 暖簾(のれん)に腕押しである。彼女はのらりくらりと意志を見せようとしない。だが先輩が一見理不尽な発言をするときは、何か理由がある。

 

「理由はもうひとつあるのよ」

「聞きましょうか」

「私の乗った輸送機が大爆発したとしてよ。うちの子たちはどう思うかしら」

「そりゃあ、悲しむでしょうね。先輩面倒見がいいですから、好かれてるんでしょ?」

 

 何やら苦笑が帰ってきた。自分の発言はとんちんかんだったらしい。綾郷大将が説明を引き継ぐ。

 

「つまりこう言う話だ。木葉が行方不明になる。事故調査は一応やるが、戦時なのですぐ打ち切られる。と言う事になる」

 

 まあそうだろう。念入りにやって、誰かが先輩の行方不明が自作自演と気付いたらコトだ。

 

「もっと言うとだ、俺と木葉は険悪で、それによってこいつは消されたと言うニセ情報をばらまくことになってんだ。理由は言えねぇがな」

 

 何故そんな非効率な事を? そこまでして先輩は確実に死んだと思わせたいのか? 深海棲艦に? だとしたら何故?

 

「だが問題がある」

「何でしょう?」

 

 もう何も驚かん。懸念があるとすれば行方不明云々より、潜入後の先輩が無事かどうかなのだが。

 

「ほら、意外とすぐ思考停止するのはあなたの悪い癖よ。もし自分の所の提督が謎の理由で行方不明になって、調査もおざなり。後任を派遣してきたのが彼女を消したと噂される人間。普通なら何かあると勘繰らない?」

「げっ!」

 

 つまりこの二人は、俺に疑念とヘイトが全開の鎮守府に突入し、マイナスの状態から信頼を得ろと言っているのだ。いくら何でも無茶も無茶だ。

 

「あ、私とあなたの関係は伏せておいてね。これも理由は言えないけど」

 

 いやいや、ふざけんな。

 

「もっと中立の立場で行動できる人間はいないのですか? これはいくらなんでも」

 

 大将は首を振った。それこそが無理難題だと言うように。

 

「今は話せんが、海軍も色々ある。ワシの権限はお前さんが思ってるほど大きくはねぇ」

 

 その宣言は次の言葉に要約できる。

 

『いいから、やれ』

 

 である。

 

「それにあなたじゃなきゃいけない理由があるのよ。頭が回って。戦争も出来て。私の艦娘を託せる(・・・)くらいの優しい人。ほら津田君しかいないでしょ?」

 

 なんだその学級委員を決めるような軽さは。あと俺は別に優しくねえ。もう逃げられないのは分かりつつ、何か反論の言葉がないか探すが、決定打は背中から放たれた。

 

「やりましょう津田提督(ご主人さま)! 木葉提督(ご主人さま)の作った鎮守府を、他の人に任せたくないです」

「いや、俺だって”他の人”だっつーの!」

「ご主人さまは良いんです!」

 

 よくねーよ。こいつとはかなりウマが合うが、そこまでの信頼を得た覚えはないぞ。

 

「あーもう、じれったいわね! あなたそんな事だから自分を振った女にこだわってうだうだうだうだやってんのよ! 男ならうちの艦娘に穴あけまくるくらいしてみせなさいよ!」

「そうです! ご主人さま!」

「穴とか言うな穴とか!」

 

 こ、こいつら。ってか先輩も自分の艦娘になんて事言いやがる。

 

「ひとつだけ聞きます。先輩は帰って来るんでしょうね? いきなり俺に放り投げて、自分はいなくなりましたじゃいくら何でも艦娘たちが気の毒だ」

「もちろんその辺は考えてある。木葉の帰還後、お前さんにはその補佐をやってもらう。その後の事は臨機応変だな」

 

 ずっと先輩の右腕でやっていても良いし、新たに増員(ドロップ)した艦娘で別の艦隊を立ち上げても良いというわけだ。それなりの出世コースと言える。もうそう言うのに興味を無くして久しいんだがなぁ。だが先輩の下で働けるのは悪くない。この困難極まりない任務で、唯一の「ご褒美」かも知れない。

 

「津田宏武一尉、本日付で海軍少佐に任命する。直ちに任地に迎え!」

 

 これはもう逃げられない。覚悟を決めるしかない。そうなると切り替えは早かった。俺だって士官。いつ水底に(いざな)われても構わない。惰性で提督を目指していたとは言えその覚悟は出来ている。ただ、殺される覚悟はしていても、嫌われるのは想定外だったがなぁ。俺たちは立ち上がり、揃って映画のような敬礼をした。

 

「何かあったら、赤城を頼りなさい。うちの彼女はちょっと気難しいけど、心強い味方になってくれるわ」

「了解です」

 

 津田宏武は提督養成機関すら卒業していない。提督としてのスタート地点に立ってすらいない提督。せいぜい仮免提督ってところだ。仮免は仮免なりに泊地をまとめて見せよう。

 

 

 

 硫黄島北西600km。東京都の東南600km。その島は突然隆起した。同様の事例が米西海岸や欧州などで複数確認されており、世間では天変地異だ何だと大騒ぎになった。新天地の扱いには揉めに揉めた。大量の海底油田の存在が示唆され、各種レアメタルも確認されたからだ。野党と一部周辺国の反対で対応が遅れたものの、島は日本国の正式な領土となった。日本国に富をもたらす事から、豊穣の神から名を貰い「丹賑島(ニニギとう)」と名付けられる。

 

 その数年後、深海棲艦の襲撃。

 

 東京爆撃に端を発する、異形のフネたちとの戦いに追われる中、この島の戦略的価値が再認識される。島から採掘される資源もさることながら、アラスカのダッチハーバーと硫黄島、2つの深海棲艦拠点を連携させない楔になり得ると。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 日本国は少ない戦力から艦娘を選抜して孤立した島の救援を命じる。その司令官が俺の先輩、木葉樹希提督だ。

 

 彼女の指揮で丹賑島は守られる。一人の轟沈も出さず敵の戦力を削り取り、深海棲艦の一大拠点である硫黄島奪還作戦発動直前までこぎつけ――。

 

 そしてこの度、表舞台から退場する事になった。

 

 俺は先輩が行方不明になる前、後事を託されて丹賑島の司令となる。山ほどの厄介事と一緒に。

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