仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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前回投稿時、飛龍の進水日じゃないですか!

狙って投稿したわけじゃないけど、触れておかなかったのはなんか損した気分ですぞ。

とりあえず一週間遅れだけど、オメデトー!


第33話「飛龍の帰還(その2)」

Starring:飛龍

 

 埠頭に腰掛けて、ぼんやりと海を見つめる。とりあえずここが太平洋なのは、何となく分かった。自分はこれから何をするのだろうか。

 

「あの馬鹿者がすみませんでした。すぐ調子に乗るもので」

 

 追いかけてくれたの赤城さんだった。それだけで非常に申し訳ない気持ちになる。

 

「私こそごめんなさい。理不尽な事を言ってるって分かってます」

 

 別に軍人が過去の軍人を分析し、評価する事に何ら問題は無い。たとえそれが酷評であったとしても。彼は別に多聞丸を中傷したわけでは無い。だけど。

 

「『艦娘の運用に関する限り、山口多門のスタイルは踏襲すべきではない』って書いてあって、それを読んだら」

「頭がかーっとなって、何が何だか分からなくなったんですね。私にもよく分かります」

 

 瑞鶴が信頼しているんだから、きっといい提督なのだろう。でも彼と共に戦う事は、自分にとっての「次」ではない。

 

「私の『次』は、蒼龍と多聞丸がいないと駄目なんです」

 

 我ながら贅沢な物言いである。でも正直な気持ちだった。

 

「あの日出来なかったことをもう一回やる事は、無理なんでしょうか?」

 

 赤城さんはうーんと腕を組んで首を傾けた。これ言っても良いかな? とでも言いたげに。

 

「実は私と加賀さんは、ちょっと糸口をつかんだんです。きっと”あの日”の復讐戦がちゃんと出来るって、半ば確信しています。おそらく翔鶴と瑞鶴も」

「えっ!」

 

 赤城さんも「次」に備えて牙を研いででるんだ。そう感じた。

 

「別に米軍と戦ったわけではありませんけどね。彼女たちはもう味方ですし」

 

 どうやら80年後の日本は、米国と共に戦っているらしい。禍根はあるが、あの国ともう一度やり合わずに済んで良かったと思う。

 では「復讐戦」とは?

 

「ただまあ。あの(たわ)け者のおかげでそれが出来た部分もあるのです。山口少将の志を継ぐなら、一度あれと向き合ってみるべきです」

 

 赤城はそう言うと、悪い人間ではありませんからと付け加えた。苦笑気味に。

 素直に驚いた。船だった頃、自分たちは直接言葉を交わしたわけでは無い。ただ感じる事は出来た。魂の形を見る事が出来たのである。あの頃の赤城さんは、威風堂々としていて、だけど年の離れた姉のような親しみやすさを瀰漫(びまん)させていた。とてもとても、美しいありようだった。でも今の彼女は、妙に人間臭い(・・・・)仕草で、それを楽しんでいるように見えた。上手く言えないけれど何かが違うのだ。

 

「艦娘になると、やっぱり変わるんですね」

 

 皮肉にも取られかねない一言だと気付いたが、赤城さんは素直に受け止めてくれた。

 

「ええ。変わりました。変わらずにはいられませんでした。私たちはフネです。でも私たちは道具ではありません。艦娘になって、その思いは強くなっています。恐らく皆も」

 

 彼女の表情は柔らかい。自分はその変化を受け入れられるだろうか。さっき鶴姉妹がやってくれたように、ちゃんと蒼龍を出迎えられるだろうか。

 

「艦娘って、恋とかするんですか?」

 

 どうでもいい考えだったが、今の(・・)赤城さんを見ていたらぽろっと言葉がこぼれた。

 

「するみたいですね。高雄さんもそうですし、最近だと鈴谷さんがご近所の小学生から猛アプローチを受けてます」

 

 なんかフランクだな艦娘。かつて帝国の興亡を背負っていた自分達がそれでいいのか? いや背負っているのは今も変わらないのだろう。何が変わったかと言えば、自分たちが艦娘になった事だ。

 

「赤城さんも、恋しちゃったんですか?」

「私ですか?」

 

 一瞬きょとんとし、彼女は首を振る。「無い無い」と言うジェスチャーだ。

 

「皆を見守るのが、私の役目ですから」

「『あの戯け者』を随分気にしているみたいですけど?」

「ナヌ? 私があれをですか? どちらかと言うと、世話をさせられているんです」

 

 あれ? 急に立ち振る舞いが崩れた。そうですかと。それ以上触れない事にする。皆変わった。多分それは良い事である。そこまで考えて、生来の溌溂(はつらつ)さが顔を出す。悩むよりも、ぶつかろう。飛龍は立ち上がる。

 

「あの人と話してみます!」

「それが良いですよ。大丈夫。きっと丸く……」

 

 赤城さんの言葉を遮って、サイレン音が鳴り響いた。ここは、攻撃にさらされているのか?

 

『警戒警報! けーかいけーいほう! 島民の皆さまは避難所に避難して下ささい!』

 

 島民? 一般人がいるのか? 飛龍は駆けだそうとし、赤城さんに呼び止められる。

 

「あなたにはまだ無理です。艤装の使い方を学ばないと」

「でも!」

「大丈夫。いつもの定期爆撃です。爆撃機はここまで来ませんよ」

 

 そんな事分かるのか? あの時ミッドウェイだって!

 

「警戒中の艦隊による防空。基地航空隊の迎撃。仮にそれを突破されても、提督(・・)の目が光っています」

「艦娘っていうのは、そんなに『提督』を?」

 

 提督を信頼するものだろうか。自分と多聞丸のように。赤城さんは躊躇なく頷き立ち上がった。

 

「私は予備戦力として出撃します。あなたは――」

 

 赤城さんは、一旦言葉を切る。そして諭すように告げた。

 

「指令室に行ってみてください。この世界(こちら)の『提督』がどんなものか、知ることが出来るでしょう」

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

Starring:提督

 

 指令室に表示される諸々のデータをのぞき込み。俺は不満を感じて唸った。

 

「艦載機と軽爆撃機の連携による嫌がらせ(ハラスメント)攻撃。いつもなら戦闘機が追い散らして、手打ちになる案件だ」

 

 手を差し出すと、何か言う前に漣がタブレットを渡してくれる。部屋に突入してくるようになってから、妙にこちらの意を察してくれるな。

 

「だがやられ続けるのも面白くない。毎度の空襲警報も島民の皆さんのストレスになっている。なので……」

「こちらからも嫌がらせをするんですね。ご主人さま!」

「おう。よく分かったな」

「そりゃもう。ご主人様嫌がらせ大好きですもん」

「おい何でだよ!」

 

 なんか最近、皆が俺をそう言う目で見るよな。何も悪い事してないのにな。

 

「どういうことですか? 反撃には出ないんですか?」

 

 後ろに控えている飛龍が問う。「迎撃」でも「反撃」でもなく、「嫌がらせ」と言う表現を用いたのが気になったようだ。もちろん反撃はする。ただし過度な攻撃は制御できない総力戦を誘発する。だからこちらの犠牲無しで少々の痛い目を見てもらう。つまり「嫌がらせ」だ。

 

「俺はな飛龍。何もかも山口少将には敵わん。人を惹きつける事も、人の為の厳しさも。そして苛烈さもだ」

 

 飛龍は何も答えない。そんな事は当然と思っているだろうし、俺もそう思う。

 

「だが弱者には弱者の戦い方がある」

 

 彼女の返事は待たず、俺は受話器を取った。

 

「赤城。手筈通りに北上してくる敵空母を叩け。二隻はいただきたい」

『了解いたしました』

 

 五航戦どころか加賀も出さない。資源の節約で今回は彼女だけで行ってもらう。それでもモニターに映る彼女は不敵だ。彼女の事だ。自分が囮であると聞かされてなおやる気満々なのだろう。でもすまんな。今回の作戦は勝っても負けても、お前は海で立ってるだけで良いんだ。これは後で文句言われるだろうな。

 

「あと戦艦が必要だな。扶桑と山城を呼び出せ」

「えっ? でもお二人の速力で赤城さんに追いつくのは」

「任せろ」

 

 それだけ言うと、大淀さんから不安の色が消えた。言っといてなんだが、良いのか? 今の一言だけで納得してくれるとは思わなんだ。飛龍の方は不信感増し増しだろうが。

 

「それから、川内に夜戦の準備をさせておけ。波状攻撃をかける」

「ちょっと!」

「連れて行く駆逐艦の選抜は任せると伝えてくれ」

 

 飛龍が不審がるのも当然で、俺が命じたのはまるで旧海軍の漸減作戦。敵がこちらの意図通りに突撃してくれる事を前提とした見通しの甘い作戦だ。

 敵の方もそうだと思ってくれるとありがたい。あと川内は今頃張り切ってるだろうが、夜戦はせいぜい残敵掃討で終わるかもしれない。俺がミスらなきゃな。

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

Starring:飛龍

 

 数刻後。「提督」は自分で出撃させた艦隊を北、つまり敵と反対の方に反転させた。弾は一発も撃ってない。

 

「攻撃隊は温存しておけ。すぐに摩耶が追い付く」

 

 空襲は一回受けた。全て〔烈風〕と摩耶の対空砲が追い払った。それでも赤城は反撃に転じない。戦闘機だって無限では無いから、複数の空母と戦い続ければ払底する。空母同士の戦いは、西部劇のガンマンのような早撃ちの世界なのだ。一発でも命中が出たら、あの時のように――。

 

「ご主人さま、引っかかりますかね?」

「確かにここまで露骨に囮ムーブをしたら、敵さんも警戒するだろう。乗って来ないなら今後のブラフに利用させてもらえばいさ」

 

 味方が攻撃されているのを見ながら、彼はとことん呑気である。

 

「だが俺の勘だ。敵はきっと来る。下級の深海棲艦は増えることが分かってる。どうせ増えるのなら、ここで戦力を突っ込んでもリカバーできるだろう。そんな『甘え』が出るはずなんだ」

 

 それに増えるに任せていても、資源を食いつぶす事になる。何処かで下級艦を”間引く”必要がある。大型艦さえ生き残れば、後は使い潰せるわけだ。つまりここは進軍を選ぶ。自分に言い聞かせるように説明した後。決断を下した。

 

「赤城にはこのまま。敵を引きつけさせろ」

 

 どうしても、多聞丸の思いつめた顔と比べてしまう。この人は複雑な作戦を遊びでやってるんじゃないだろうか? 疑念を口にしようとした時、漣と目が合った。何故かウィンクする。

 

「ご主人さま、手袋変えた方が良いですよ?」

 

 何をいきなり。そう思ったのは彼も同じだったようだ。訝し気に漣を見つめ手のひらに視線を落とす。そして苦笑した。

 

「汗でびっしょりですよ」

「悪いな。替えはもういいや。外しとく」

 

 そう言って手を拭い始める。その手を、漣がひょいと持ち上げた。

 

「ほら。震えてますよ。80年前と同じ(・・・・・・・)なんです」

 

 余計な事を。そんな表情をして、彼は右手をポケットに突っ込んだ。飛龍は目を見開く。その仕草が多聞丸と同じだったわけでは断じてない。だが出撃機を見守る闘将が見せたほんの僅かな憂い。それに気付けたのが自分だけだと。その事実がとてもとても悔しくて。80年後の世界で、提督達は同じ思いをして戦っているんだろうか。

 

「少佐」

 

 考える間もなく立ち上がる。

 

「座っているのが辛くなっちゃいました。未経験で旧式の艦載機でも、上空警戒くらいはできますよね?」

 

 彼はまた面倒ごとかとでも言うように、乱暴に頭を掻いた。しばし考え、結論を下す。

 

「工廠に鳳翔を呼び出しておく。レクチャーしてもらえ」

「はいっ!」

 

 元気の良い返事と共に、飛龍は駆けだした。迎合するつもりはない。だけどこの時飛龍は、初めて80年後の世界を知りたくなった。自分たちが守り、共に戦ってきた存在が受け継がれているのか。それを確かめたかった。

 しかし結局、彼女は指令室へととんぼ返りする事になる。

 

「戦闘終了って、もうですか! いったいどうやって!?」

 

 緊張が去ってだらけている少佐を捕まえると、彼は言った。

 

「この時代にはネットゲームって言う遊戯があるんだが、定番の戦法があるのさ。後方に逃げながら地雷や機雷をばらまいて、追って来る敵を被弾させるんだ」

「でも逃げながら機雷をばらまいても、敵は引っかかってくれないでしょう?」

 

 そこで少佐は「その質問、待ってました」と言わんばかりに笑う。こういう顔をしなければもっと真面目な人だと思ってくれるだろうに。

 

「だから潜水艦を退避ルート上に遊弋させといた」

「あっ!」

「イクとゴーヤがワンキルずつだ。今夜はお頭を一匹ずつ付けてやる約束をした」

 

 それならもう反転した赤城さんが、攻撃隊を放ってお終いである。残敵掃討を担当するのが川内なら骨も残るまい。少佐は勝ち誇ったようにふんぞり返る。さっきまでぷるぷる手を震わせていたくせに。

 

「さて。皆には悪いが、歓迎会の前振りに甘いもんでも食おうか。お前とは色々謝りたいし話したいし」

「うん。分かった」

 

 まだ何とも言えないし、蒼龍がいたらこう言う人は警戒しそうだ。でもこれから始まる会話が、少しだけ楽しみに思えるようになった自分がいた。

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