仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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艦娘って、自分の事どう思ってるの? 兵器なの? 女の子なの?

道具扱いされたら嫌だろうけど、じゃあ何と言ってあげれば喜ぶの?


※秋刀魚は48匹で限界でした(´・ω・`)


第35話「鈴谷は兵器?(その1)」

Starring:鈴谷

 

丹賑小学校校庭 バスケットコート

 

 ちょっと高く飛び過ぎた。艦娘の比類なき脚力は鈴谷を容赦なく宙へ引き上げ、シュートの体制に入ったまま、ゴールは視界から消えた。正確には、視界から下にはみ出した。慌てて放ったボールは、明後日の方向にバウンドする。

 

「いただき!」

 

 海崎(うみさき)渚汰(しょうた)は小学生グループの中で一番上手い。テクニックも巧みだが、集中力が凄い。決してケアレスミスをしない。

 着地した鈴谷は反転、彼を追いかけるが、まさか全力で走って跳ね飛ばすわけにもいかず。メンバーたちもそれを承知してか、コートに散らばって妨害してくる。ここで突っ込んだらけが人がでかねない。小学生らしからぬずるいやり方。鈴谷は棒立ちになった。やがて先制点が投じられる。

 

「いやったあ!」

 

 長身の男子が両手を振り上げ、ぴょんぴょん跳ねる。唯一の女子は、チームメイト三人とハイタッチをしている。

 

「鈴谷に勝ったぞ!」

 

 ポーズを決めて、喜びのロングシュート。見事にボールはネットをくぐる。その喜びぶりが何だか悔しくて、鈴谷は唇をとがらせた。

 

「鈴谷だって、もう少し練習時間があればすっごい事になるし」

 

 すっごい事というのがどう言ったものなのか。それは自分にも分からない。とりあえずは負け惜しみである。

 

「それ負けた奴の言いわけテンプレじゃん」

 

 長身の男子がばっさりと切り捨てる。当人もそんなことは分かっているだろうが、言い返したくなったのだろう。語彙力。

 

「鈴谷はさ」

 

 一人だけ茶化すことなく、渚汰少年は言った。

 

「姿勢が凄く良いんだよ。何をやってもキレイなんだ」

 

 真っすぐな賛辞を向けられて、案の定鈴谷は視線を逸らし、えへへと笑った。

 

「そ、そおぉ? まあ鈴谷やれば出来る女だしぃ」

 

 どうもいけない。普段から褒めて欲しいとアピールしているが、いざ褒められるとどうにも照れくさい。

 

「それにとても楽しそうにプレイするよね。オレの尊敬するプレイヤーは、みんなそうなんだ。だから鈴谷も、凄いプレイヤーになるかもしれない」

 

 鈴谷はこの二ヶ月ほど、少年のひたむきさをよく見ている。本当にそう思っての事だろう。何故自分がここまで褒められているのか、未だ分かっていないが。

 

「渚汰だって凄いじゃん。鈴谷たちが遊びに来るといつもここで練習してるし」

「当然だろ? 楽しいし」

 

 真っすぐな言葉を、鈴谷はまぶしそうに受け止めた。それの言葉は本当にひたむきで。

 

「でもなぁ。今年の大会も戦争で開催見合わせらしいですよ? 開催したところでここ(丹賑島)からじゃ参加できないでしょうけど」

 

 眼鏡の男子が言う。呑み込めない事実を、斜に構えて呑み込んだふりをするのは大人でも良くあることだ。

 

「渚汰はさぁ、プロの選手になるの?」

 

 無邪気な一言に、彼は首を縦には振らなかった。鈴谷は意外そうに首をかしげる。

 

「分かんないんだよなぁ。バスケはずっと続けたいけど、『まだなんか他にあるんじゃないか』って気もするし」

 

 羨ましくも思う。自分が同じようにぶれる時が来るとしたら、深海棲艦を片付けた後だ。そしてその日は来るのか。

 

「鈴谷はどうすんの? 良かったら東京に来いよ。オレの生まれた町を紹介してやるよ」

 

 鈴谷は曖昧に笑うしかない。そんな先の事は考えられない。津田少佐に連れられて遊びに行く東京の街。あそこに毎日通えるようになったら、楽しいだろうか? だがそれは蜃気楼のようなもの。現実にするには、長い長い砂漠を越える必要がある。

 

「渚汰はさ。渚汰であった方がいいよ。鈴谷はほら。鈴谷だし」

 

 穏やかな拒絶だった。住む世界が違う。そう言う言葉は陳腐かも知れない。しかし二人の間にある、高い高い壁を飛び越えるには、意志の力があまりに育っていない。こう言う良い方はしたくないが、”子供の限界”と言えるのかもしれない。

 

「オレ諦めねーから。鈴谷をきっとこの島から連れ出すから」

 

 絞り出した回答は、全くかみ合っていない。それでも今ある彼の全てぶつけてくれたと感じた。

 

「その気持ちは、大切にすべきなんだと思う。でも鈴谷はね」

 

 一呼吸おいて、止めを刺す。

 

「皆を置いてそっち(・・・)に行く気は無いよ」

 

 渚汰は、唇をかみしめた。平和な生活なんてピンとこない。それより今は、姉妹や仲間たちと共にありたい。少年たちとの日常が少しずつ大きくなり始めていると知りながら。

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

Starring:熊野

 

「はいはい。少し休憩にしませんか? 練習も良いですけど、水分補給も大切ですわよ?」

 

 氷の入ったポットを掲げて、熊野は呼び掛ける。子供たちがわーっと声を上げ、紙コップを受け取る。彼らにとってスポーツ飲料は手に入らないものではないが、がぶがぶと飲めるほど、ありふれた存在ではもはやない。

 いつも我先にと駆けてくる、渚汰少年が何故かコートにたったまま。鈴谷はそれをちらちらと見ている。それでだいたい、何があったか想像がついた。

 

「鈴谷もさぁ。熊野ねーちゃんを見習って女らしくしろよ」

「ちょっと! それセクハラよ!」

 

 長身の少年から時勢に反するコメントが飛び出し、女子が抗議する。鈴谷も頬を膨らませた。熊野も苦笑するしかない。

 

「それにしても、ずいぶんと思い切った作戦に出ましたのね」

 

 そうまのである。小学生とはもっと潔癖なものだと思っていた。子供相手に全力を出せない、艦娘の特性を逆手の取って突いてくる嫌らしさは、彼らの溌溂さからはイメージしがたい。

 

「オレたちも最初はどうかと思ったんですけどね。勝って初めて学べることもあるって言われて」

 

 眼鏡の少年が複雑そうに話し出す。長身の少年が引き継いで言った。

 

「教えてくれたの、津田のおっさんだよ。『勝つ事だけ(・・)を考えるなら、こういう手もあるぞ』って」

「あの人はまったく」

 

 熊野はやれやれと額に手を当てた。彼を慕う艦娘が増えてきて、だんだん少佐がどういった人間か周知されて来た。そのひとつに「裏技や抜け穴を探すのが大好き」と言うのがある。あといたずら半分にそれを乱発する事も。まさかこんな小さな子たちにまで余計な事を吹き込んでいるとは。

 だが子供たちが楽しそうにやっているのも事実。艦娘の膂力(りょりょく)に圧倒されて勝てずにいるなら、やがて腐るか自信を失うリスクもある。

 

「でもさぁ。これで終わりたくないよ。俺は正々堂々鈴谷に勝ちたい」

 

 落ち着いたのか。やってきた渚汰少年はどこまでもひたむきだった。基地祭の時にバスケに負けてから、彼はずっと鈴谷を追いかけ続けている。時折その表情に陰りが見えるのは、何を以て彼女を追い越すかが見えていない事じゃないかと思う。

 

「そうそう。ヒキョーな作戦を使わなきゃ、鈴谷は負けないし」

 

 胸を張る彼女は、素で悔しがっているだけのようだが。

 

「あーあ。鈴谷がいてくれたら、大会も優勝間違いなしなんだけどな」

 

 長身の男子が、そんな事を言う。悪気はないんだろうな。

 

「レギュレーション違反でしょ。小学生の大会に、何で艦娘が出られるんですか?」

 

 眼鏡の少年つっこみをうけて、長身の男子は頭をかく。

 

「でも男ならチートってもんに憧れんじゃん。あーあ。オレも艦娘に生まれてりゃな。人の心を持った兵器なんて最高じゃん?」

 

 次の瞬間、彼は女子に頭をはたかれていた。自分の失言を自覚したのか、ばつの悪そうな顔をする。

 

「いーよ。本当の事だし」

「そうですよ。よそよそしくされるよりはっきり言って頂いた方が良いですわ」

 

 実際気にしていないし、鈴谷もそうだと言い切れる。戦いそのものに疑問を抱いたとしても、戦う存在である事に悩む艦娘はそこまで多くない。それは彼女たちの心が”そう”なっているからで、人間が二本の足で歩く事に悩まないのと同じ事。

 

「駄目だ。謝れ」

 

 予想通り、一番怖い顔をしたのは渚汰だった。彼は有無を言わさぬ様子で、謝罪を迫る。

 

「悪かったよ」

 

 長身の男子は素直に詫びて。この話は手打ちのはずだったが。

 

「鈴谷さんも熊野さんも兵器じゃないわ。人間よ!」

 

 女の子が力強くいった。そこにはひとかけらの悪意も無い。

 

「俺もそう思う。鈴谷は女の子だ。だから戦いなんか忘れても良いんだ」

「そうだな」

 

 息を吹き返した渚汰が、拳を握って告げた。

 

「鈴谷は、女の子だよ」

 

 と。

 

 盛り上がる子供たちに、頭を抱えたくなった。どうしたら彼らを傷つけずに、自分達の想いを伝えられるだろうか。いやそもそも伝わるだろうか。

 

「ねえ。ちがうの」

 

 鈴谷が苦しそうに言った時、ちりんとベルの音が鳴った。

 

「おーおー若人(わこうど)ども。ちゃんと鈴谷には勝ったか?」

「あたりめ―だろおっちゃん」

「ちょっと、大人の人に失礼でしょ?」

 

 この人は暇なのだろうか? 自転車にランチボックスを乗せてやって来た津田少佐は、チョコレートのカップケーキを配って行く。恐らく間宮さん謹製だろう。

 

「他言無用なのと、持ち帰るのは無しな。今日びケーキも貴重品だからな」

「はーい」

 

 少佐から手渡されたケーキを、皆嬉しそうに頬張っている。大人なら金を払えば甘味は手に入る。だが丹賑島の現実は、子供たちには優しくない。

 

「どうした鈴谷? いつもならケーキの奪い合いとかするところだろう?」

「う、うん」

 

 どうやら先程のやりとりはそれなりにショックだったらしい。それを説明するか一瞬迷ったが、話したところでどうなるものでもない。

 

「なあ、おじさん」

 

 渚汰におじさんと呼ばれ、わずかに少佐の顔が引きつる。なんというか、お気の毒である。

 

「話があるんだ。二人っきりで話したい」

 

 それで少佐はどんな話か悟ったようだ。教室を借りようと提案して、プレハブの校舎に連れ立って入っていく。そして躊躇なく、忍び足で子供たちが続く。

 

「ちょっと。二人きりにしてあげなさいな」

「だってさー。ダチといい歳したおっさんが女取り合うんだぜ? こいつは見逃せないじゃんか」

 

 その現金さはまさしく小学生である。あと女を取り合うわけでは無いと思う。熊野はため息を吐き。

 

「ほら。行きますわよ」

「えっ? なになに?」

 

 何の話だか理解していない鈴谷を引っ張って。熊野は三人に続いた。

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