仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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毎週土曜日更新と行っておきながら、Twitterでうっかり日付を間違えて告知してしまっただよ。すマートン( ・`ω・´)

責任取って今日と明日で連続更新します。どうぞよろしくノシ


第36話「鈴谷は兵器?(その2)」

Starring:提督

 

「鈴谷を解放してあげてよ。熊野も」

 

 教室の机に尻を乗せ、渚汰少年の言葉を反芻した。やっぱりそうなるよな。鈴谷と子供たちの交流を許可した以上、予想できる問題だった。はっきり言って頭が痛いが、それでも彼女たちから、人間と深く関わるチャンスを取り上げたくなかったのだ。

 

「艦娘だって、もっと戦いに向いてる子がいるんだろ? わざわざ鈴谷たちを戦わせる必要なんてないだろ?」

 

 少年はそう言って、俺の目を見据えた。これはセンシティブな問題だ。どう返答するか、俺の存在意義が試されると思った。

 まず軍の組織やルールについて話して聞かせるのが手っ取り早い。彼が言うほど艦娘を動かすのが簡単ではないと、理屈では理解してくれるだろう。だが感情面では別。納得はしてくれまい。

 彼が欲している答えは恐らく「鈴谷は俺の女だ」とかそれ系だろう。だがそう返したところで問題は解決しないし、第一鈴谷は俺の女ではない。

 俺は敢えて、「大人の答え」を返す事にした。

 

「鈴谷が抜けると戦力が薄くなって、他の艦娘たちが危機に陥る危険もある。それは許容するか?」

 

 少年の勢いが止まった。自分の発言が「他の艦娘などどうなっても良い」という意味を含んだものだと気付いたようだ。それもひとつの決断。だが鈴谷は容認しないだろう。

 

「代わりに俺が戦うよ! 海軍に入ってここへ来る!」

 

 これも予想された答えだ。だから回答も容易だ。

 

「お前さんが基礎学力を身に着けて海軍に入り、訓練を終える頃には、戦争は終わっている。勝つか負けるかは知らないがな。あと艦娘はオフェンス。俺たち海軍軍人はバックアップだ。鈴谷の空いた穴を埋めるのは、人間では無理だ」

「戦争に必要だからここを離れるなって、卑怯じゃんか! 女の子を兵器扱いして戦わせて、自分は提督だって威張ってるなんてありえないよ!」

 

 それも予想した答え。俺自身、何百回と自問自答した命題。それを答えるだけだ。

 

「それは、傲慢だな」

「俺が? 何で傲慢なんだよ?」

 

 むっとした表情が返された。そして俺は答える。この世界の過酷な摂理(せつり)を。

 

「昨日、パラオで大きな海戦があって、艦娘が一人轟沈した」

 

 渚汰少年が青ざめているのが分かった。轟沈と言う言葉の意味と、鈴谷がそうならない保証がない事実に。

 

「彼女が護衛していた貨物船は食料を輸送していた。その中にはインドネシア産のカカオ豆があった。さっきお前さんが食べたカップケーキにも使われてるものだ」

 

 少年は前かがみになり、口を押えた。背中をさすってやろうとしたが、はねのけられた。俺もここまで言うつもりはなかった。だが本気には本気で答えたい。つまりは俺のエゴだが。

 

「俺もお前も、艦娘に戦ってもらわないと生きられない。艦娘が戦いを止めれば、罪悪感からは解放される。ただしそれは、多くの命とトレードオフだ」

「それは……」

 

 少年は必死に反論の言葉を探しているのだろう。だがそれは多くの人が考え続けて、未だ見つけられないものだ。

 

「ならばせめて死地に向かう彼女たちを、最大限支援する事の何が悪い? 束の間の娯楽を提供する事の何が悪い? 少しでも良い装備を使ってもらおうとする事の何が悪い? 俺は彼女たちと轟沈のリスクは分け合えない。それについて後ろ指を指されるのは仕方ない事だ。だが艦娘を愛しながら艦娘に守られている事を忘れる。それは不誠実な事じゃないのか?」

 

 これは最初に赤城と飲み交わした時、何も分かっていなかった自分――つまり零点だ――に向けたものでもある。

 

「そんなの、酷いよ」

「そうだよ。この世界は酷いんだ。だからな――」

 

 別に俺は小学生にただ説教したかったわけじゃない。この一言を告げたかっただけだ。

 

「ありがとうって言おう」

「え? そんなんでごまかすのかよ!?」

「それが良いんだよ。頑張りを認められてうれしいのは、人間も艦娘も同じだ」

 

 言っといてなんだが、俺自身は照れくさくて皆にそんな事言ってないな。ダブスタは良くないので俺も俺なりに伝えようと思った。まあその。いつか機会があれば。

 

「まあ何が言いたいのかと言うと」

 

 散々勿体ぶって、俺は言った。

 

「鈴谷を頼む」

「えっ?」

 

 そりゃ面食らうだろう。甘えるなと説教したやつが正反対の事を言ってきたんだから。でも大切な事だ。

 

「艦娘は兵器だ。でも兵器だけ(・・)である事を望んでない。その為には、色んな人と繋がるのが良い事だと思う。ここにいる時、鈴谷は楽しそうだからな」

「そうなの!?」

 

 力強く、俺は頷く。

 

「あいつらと人間を、繋げてやってくれ」

 

 渚汰は神妙に頷く。俺の言葉が通じたかは分からない。でも何かを残せればいいと思う。

 

「お前があいつと交際できるかまでは責任持たんぞ? 鈴谷本人の意志もあるし、お前自身いっぱい学ばないとな」

 

 そう言ったら、急に少年が仏頂面になった。

 

「面白くねー」

「えっ? 何がだ?」

「おじさんみたいなのが鈴谷の近くにいたら、気が気じゃないもん」

 

 気が気じゃない? どう言う事だ?

 

「まあ言いたい事は分かったよ。あのままだとオレ、鈴谷と釣り合う男になれなかったって事だろ?」

 

 んーまあそう言えなくもないか。

 少年はとん、と机から降りた。

 

「じゃあ鈴谷と熊野に謝って来るよ。まずは俺が1ポイントだ」

 

 1ポイント? まるで誰かと勝負でもしてるみたいだな。

 がらがらと引き戸を開いて、少年は不満そうに「おまえらなぁ」と呆れ越えを出す。扉の向こうには、罰の悪そうな顔をした三人組+鈴熊がいた。

 

「あー、ひょっとして。聞いてた?」

「ええ、まあ」

 

 熊野は言葉を濁す。だが妙ににこにこしている。

 

「えへへ」

 

 鈴谷と言えば、何故か上機嫌で。三人組も、面白くなってきたと言いたげだ。

 

「なあ、おっちゃん提督(・・)バスケやろうぜバスケ」

「そうよ。海戦には出られなくても、ボールは追いかけられるでしょ」

 

 彼らは俺の手を引いて、廊下へと連れ出した。なに俺って子供に好かれるキャラだっけ? その後ぼこぼこに敗北したことは言うまでもない。

 それから。

 

「ほぉう! 提督じゃん。チーッス!」

「お疲れ様ですわ提督」

 

 鈴谷と熊野は俺の事を提督と呼んでくれるようになったのだった。俺、何かしたんだろうか?

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

Starring:鈴谷

 

「ほぼ満点ではなくて?」

 

 帰り道、熊野が言う。そうかもと鈴谷は思った。

 

「鈴谷はさぁ。船とか女の子とか。よくわかんないけど。”かわいそう”じゃなくて、”ありがとう”って言ってくれたのは嬉しかったかな」

「あなたはおばかなようで時々本質を捉えますのね」

「ひっどーい」

「褒めていますのよ?」

 

 お姉さんぶってふふんと鼻を鳴らす。書類上は鈴谷が姉だが、全く気にしていない様子。

 

「でもさ、提督(木葉提督)がいつも言ってくれたのと同じだったから」

「そうですね」

 

 悲しみがただ悲しみでなく、懐かしさを伴うようになった。その意味の重さを考える。前向きになれた印でもあり、忘却への恐怖を喚起するものでもある。

 

『上の人は色々理不尽な事を言ってくるけどね。私はあんたたちを凄いと思ってる。皆の為に頑張るやつが凄くないわけがないからね。だから必ず帰っておいで。そのたびに『ありがとう』って言ってあげるから』

 

 あの言葉があったから、自分達は今まで戦ってこられた。前線とか後方とかそう言う事じゃない。艦娘と提督は共に戦っている。津田少佐も、それをはっきりと言ってくれた。

 

「ねえ熊野」

「何ですの鈴谷?」

 

 気のない返事だったが、付き合いが長いから分かる。彼女が言いたい事は。

 

「そろそろ、良いかも知れませんね」

「だよね」

 

 こうして二人は、ちょっとした決断をする。「彼」を、提督と呼ぼうと。

 

「鈴谷はどちら(・・・)か興味があるんですの?」

「うーん? 分かんないかも」

 

 渚汰の事は、これからどうなるか分からない。取り巻く状況を考えたら、恐らく彼の願いは叶わない。彼が大人になった時、鈴谷だってどうなっているのかも分からないのだ。それでもそのひたむきさは好ましい。陽光に身を預ける猫のように、もう少しだけ寄り添っていたいと思う。

 一方で津田少佐と言う人にも、関心を持つようになった。本当に彼を好きにでもなったら、恐ろしく大変そうだが。

 

 未来は可能性。あの二人は自分達のためにそれを切り開こうとしてくれている。それはとっても幸せな事だ。これからの事は分からない。だけど海は決して暗くないのだ。

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