仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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※攻略wikiにまで色々描かれちゃってる天龍ちゃん。彼女が最前線で無双するにはどうしたらいいか考えてみました。なおこのタイトルはノリでつけましたので内容とあんまり関係ありません。すみませんでした(ノ∀`)



第41話「ストライダ―天龍(その1)」

Starring:提督

 

 叩きつける彼女の腕を見て、毎回標的にされる机が少し可哀想になって来た。そんな考えを持つのも、まあ現実逃避だろうな。

 

「遠征がそんなに不服か? 天龍」

 

 ああ不服だ。そう言いたげに俺を見下ろすのは、軽巡洋艦天龍だ。隣の机では漣と、彼女にPCの操作を教わる赤城が苦笑を浮かべ、書類仕事中の鈴木一曹は表情一つ変えない。

 

「ったりめーだ! 硫黄島作戦でも後方で見張りをさせる気かよ!」

 

 半分当たりだ。実は硫黄島作戦では、こいつをどうするか決めかねている。現状のままなら本人の言う通り対潜警戒か輸送船の護衛だ。第一線で戦うのと別の意味で高い技量が求められる仕事ではあるのだが、そう言っても本人は納得せんだろうななぁ。もうひとつの選択肢も用意してあるのだが、それは「今のまま」じゃ駄目だ。

 

「第一線が良いのか?」

 

 難しい顔で聞き返すと、彼女は躊躇なく答えた。

 

「良いに決まってんだろ!」

 

 さよか。ってか参ったな。

 

「あのな天龍。世の中には”やりたい事”と”向いている事”のギャップで苦しむ奴は多い。でもお前は海軍で求められている仕事がこなせるし、実際そっちでの貢献に俺は満足している。それじゃ駄目なのか?」

 

 天龍は答えない。ただじっと俺の目を見るだけ。まあな。やりたいのは分かるよ。俺としてもやらせてやりたい気持ちもある。

 

「だがこっちも皆の命を預かっている。もし最前線に行きたいなら、俺の求めるレベル以上のものを出して見せてもらわにゃならん」

「何だ? 言ってみろよ! どんな相手でもオレが――」

 

 その時執務室がノックされ、六駆の面々が入って来た。前のめりになっていた天龍が、すっと頭を上げて、片足に体重をかけ腕を組んだ。いつもの彼女のスタイルだ。

 

「お疲れ様なのです」

 

 そして天龍は態度を切り替え、いつものように胸を張ってにやりと笑う。

 

「おう。ご苦労さん」

「ドラム缶の用意、全員分出来たよ。今日はフィリピンまでだよね?」

 

 俺は響からクリップボードを受け取りサインする。その隙に横目で見た天龍からは、さっきまでの焦りも憤りも感じない。と言うより見せない。大したもんじゃないかと感心する。

 

「じゃあ少佐。考えといてくれよな」

 

 力強く言って、ちび共を率いて出て行く。何やら冗談を言い合って、和やかな雰囲気だ。あいつは、あれで良いと思うんだがなぁ。

 

「でもご主人さまは、天龍さんの事とっても評価してますよね?」

 

 そう言う漣の問いは、特に意外そうでも無かった。こいつは初期艦だから天龍の世話になったわけではないが、何人もの駆逐艦があいつの下で成長してゆくのを見ているはずだ。

 

「でも彼女は、一線級で戦うのに適した能力ではありませんよね」

 

 一方赤城の指摘は容赦ないが、実際その通りだ。上か下かではなく向き不向きの話である。彼女たちの前世においても、軽巡〔天龍〕は設計が古すぎて敵の主力艦と四つに組んで……とはいかなかった。それでも十二分に役目を果たしたのだから、それだけであいつは凄い奴だ。

 

「と言ってもだな。猫の手も借りたいこの状況で、天龍が前線にも出られたらかなり助かるんだよな」

「うーん。でも適材適所を考えない数合わせの編成は、少佐が嫌うものだと思ってましたけど?」

 

 確かにそうだ。普通ならそんな人事は通さない。と言うか赤城も妙に俺の事を持ち上げるようになったな。悪い気はしないが、裏があるかと思ってしまうぞ?

 

「あいつの場合、ポテンシャルはあると思ってるんだよ。例えばな」

 

 それを説明しようとした時、内線が鳴った。相手はちょうど天龍だ。

 

「俺だ。どうした?」

『暁の艤装が不調なんだよ。大したことは無いと思うんだが、出撃を遅らせてくれねぇか?』

「了解だ。夕張のチェックを受けてくれ。結果次第で代打を立てるか遠征を延期するか判断する」

『おう。わりいな』

 

 ぶっきらぼうな返答と共に、通信は切れた。

 

「こう言うところだ」

 

 受話器を置く。赤城と漣は顔を見合わせた。お互い俺の意図に気付いているか確かめ合っているかのようだ。そして答えは、二人とも「否」だったらしい。部下のコンディションをきちんと管理するのは指揮官の器量だが、天龍の望みは第一線で敵と殴り合う事である。だがそのギャップを埋める事が、彼女にとってのカギだと思うのだ。

 

「まあ何か考えておくよ」

 

 「考えておく」と言う言葉に、二人が微妙な顔をした。失礼な。

 

「俺だって真っ当なやり方をする時もあるぞ?」

 

 不満を表明したが、残念ながら抗議は却下されたらしい。赤城はやれやれと苦笑して、言った。

 

「大変申し訳ないんですけど、それが普通なんです」

 

 

 

 そして半日後、天龍はまたこの執務室にいた。

 

「何回目だっけ?」

 

 嫌味ではなく、普通に忘れたからだ。こいつじめじめしたところは無い奴なんだがな。

 

「戦わせてくれるまでだ」

 

 俺は腕を組んで背もたれに体重をかける。こいつに前線に出て欲しい気持ちはある。だが俺は、こいつを鉄砲玉にするつもりはない。

 

「一応聞くが、何故そこまで最前線にこだわる? 俺は今のままでも、お前の働きを評価しているつもりなんだがな」

 

 眉を吊り上げる天龍からは、焦りのようなものを感じた。多分それは、戦いに不要な類のものだ。

 

「オレは軽巡の先駆けなんだぜ! 前の戦いだって、ろくに前に出してもらえねぇ。そんなことしてるうちに皆がどんどん倒れて行きやがるんだ! 今回はそんな事させるもんかよ!」

 

 なるほど。そう言う事か。

 艦娘はなにがしかの思いを抱えてここにいるとは理解している。だからこそ、その思いは汲んでやりたいとは思う。だが。

 

「つまりあなたは、自分の供養(・・)をしたいんですね?」

 

 赤城が茶々を入れる。だがそれは正解だろう。

 

「あー。それは上手い例えだな。お前も同じだったわけだが」

「だまらっしゃい。人も艦も成長するんです」

 

 まあそれはそれとして。

 

「天龍。今の精神状態で前線に出たら、死ぬぞ?」

 

 彼女は肩を怒らせる。残念だが軽巡天龍がスペックにおいて皆より劣るのは厳然たる事実だ。俺はそれを他の要素で補えるんじゃないかと思っているが、今こいつの目は曇っている。

 

「ちび共に戦わせてオレだけ後ろで見てろってのか!? 構わねぇ。ぶっ壊れるまで戦わせろ!」

 

 結局本音はそこだろう。送り出した駆逐艦の戦いをただ見ているだけの強い焦燥感。天龍の言いたい事は分かるが、俺と言えばなんかイライラしてきた。振り返れば赤城も同じ様子。何と言うか、近親憎悪なのだ。

 

「分かった。ただし実力を証明してもらってからだ」

「おうよ!」

 

 左の手のひらを拳で叩いたりしているが、ただではやらせんぞ?

 

「じゃあ赤城を倒せ」

「は?」

「どうした? 前線では正規空母に出くわすことだってあるぞ?」

 

 天龍は俺の言葉を、「実戦に出す気が無くて無理難題を押し付けている」と解釈したようだ。これで諦めるんならそれでもいい。本気で前に出るなら、このくらいクリアしてもらわんと危なっかしいんでな。

 

「ご主人さま。それはあまりにも……」

 

 デスクから顔を上げて、漣が援護射撃をしてくるが、無視させてもらう。あいつにとってここが正念場だからだ。

 

「分かった。約束は果たしてもらうからな!」

 

 そう言って、勢いよく出て行く。それを見守って、俺は盛大にため息を吐いた。

 

「つまり私にぼろくそに負けることで、過去への妄執を断ち切ってもらうとそう言うわけですね!」

 

 赤城がふんすと鼻を鳴らす。やる気満々である。そうじゃないんだが、余計な事は言わないでおくか。って言うかこいつも天龍を過小評価してるな。いや天龍単体で考えるなら、赤城の評価はその通りなんだが。

 

「あっ! しまった!」

「どうかしましたか?」

 

 俺が間抜けな声を出したのは、別に天龍との勝負に見落としがあったとかではなく。

 

「この件を龍田に言わんように口止めするのを忘れた。バレたら俺、腕の一本は持ってかれるわ」

 

 まあ天龍も止められるのを承知で龍田にバラしたりはしないだろう。こっそりやってこっそり勝負を付けよう。うんそれがいい。

 

「あのご主人さま? それはもう手遅れかも知れません」

「えっ? 何で?」

 

 首筋にぴたりと、冷たいものが触れた。馬鹿な! いつの間に後ろを取られ……!?

 

「つ・だ・しょ・う・さ? ちょっとだけお話がしたいなぁ?」

「いや違うから! 酷い事する気は無いから! 本当なんです信じてください!」

 

 そこらのペーパーナイフを俺の首筋に当てつつ、軽巡龍田が言った。

 

「おい! そこの二人も助け……」

 

 赤城と漣を見やるが、二人はどこ吹く風だった。

 

「変に秘密主義なのがいけないんです」

「少し反省するといいのです」

 

 ちょっ冷たくない!?

 

「天龍ちゃんを虐めるならぁ。指の一本くらい貰っちゃおうかしらぁ?」

 

 待って! 待ってってば! 流行らせコラ! 

 

「ちょっとうるさいわよぉ」

 

 結局、彼女には別室で洗いざらい吐いた上で協力をお願いした。一応は許してくれたようだが。

 

「でも天龍ちゃんが傷ついた時の事も考えておきたいの」

 

 去り際に龍田が言った。

 

「分かった。その時俺は。どうすればいい?」

 

 龍田は見ほれる様な笑顔を向けてくれた。そして「その時」の事を話す。

 

「右手と左手。どっちがいい?」

 

 ……やはりヤバい。

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