仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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※注意
・天龍のお話の途中ですが、ちょっと挿話を挟みます。
・これは頂いた感想から着想を得たストーリーです。お話の特性上、早く上げた方が良いと判断したため、正規の更新日以外で公開させて頂きます。
・物語のクオリティはいつも通り自信をもってお届けしていますが、今回はちょいニッチなネタですすみません。
・後日話の並び順は修正するかもです。
・皇室とか嫌いな方はブラバでお願いいたします。

※25.5.10話の並び順を修正しました


第45話「長門、『年金』を学ぶ」

17:38(ヒトナナサンンハチ) 執務室

 

Starring:提督

 

「問おう。あなたの大学は理系か?」

 

 いきなりそんな事を言い出したのは、配属されたばかりの戦艦長門である。……その台詞は磯風辺りの方が似合いそうだな。

 まあそれはそれとして、こいつは着任以来何か思いつめた表情をしている事がある。艦娘は皆そんなようなものだが、それをケアするのは確かに俺の仕事だな。

 

「どうした急に? 確かに防衛大学は理系と言う事になってるが」

 

 実態は体育会系だろと言われたら答えに窮する部分もあるがな。それでも理系大学を名乗っているのは、今の軍隊はテクノロジーと切っても切れない関係にあるからだ。とは言え「理系分野だけでなく国際法などももっと重点的に学ばせた方が良いのでは?」みたいな反省が海軍兵学校時代にあり、今は割と文系科目にも力を入れている。

 

「ならば聞きたい事かあるんだ。『ネンキン』について教えて欲しい」

 

 ネンキン? 艦娘が年金に興味があるのか?

 

「これは私がこの時代で生きて行く前に、はっきりさせておきたい事なのだ」

 

 そんなに大事な事なのか。年金が。

 

「将来が不安なのか? 何か心配事があるなら相談に乗るぞ?」

 

 艦娘の中には明日どうなるか分からないと、刹那的に給料を使うやつもいるからな。そこ行くと彼女は堅実な考えを持っているらしい。

 

「……?? 『粘菌(ねんきん)』を知らないと将来不安になるのか?」

「そうだな。自分は『年金(ねんきん)』を貰えるのかと心配する若者も多い。だが失業や病気になった時助けてくれるのも年金だからな。自暴自棄にならず払える範囲で払っておいた方が良い。もしその余裕もないなら、然るべき窓口で相談するとかも良いかも知れないぞ」

 

 メディアが煽るのも良くないよな。払わない選択肢もあるが、情報を集めてから決めた方が良いと思う。どうしても苦しくて払えない人には救済制度も欲しいと言う議論もあるな。公平性の問題もあるから、難しい話ではあるが。

 

「ふむ、そこまで粘菌(ねんきん)が国民の生活に密着しているものだったとは。私は森の中でひっそりと生えているものだと思っていた」

「生えている? 年金(ねんきん)が生えているのか?」

「そうだ。何でも牢屋の片隅で粘菌(ねんきん)を見つけたと言う話もあるらしい」

「牢屋で年金(ねんきん)を見つけるのか!?」

「そうだ。その『粘菌(ねんきん)』を昭和帝(陛下)に献上したところ……」

「まて! 年金(ねんきん)をどうやって昭和帝に献上するんだ? 戦前に年金(ねんきん)制度なかったろ?」

「ん?」

「ん?」

 

 かちゃりとティーカップが置かれた。机から見上げると、苦笑顔の比叡が居る。

 

御進講(ごしんこう)の件ですよね? そう言えばあの時(・・・)は私じゃなくて長門さんでしたね」

「御進講? どう言う事だ?」

 

 紅茶に口をつける。最近気づいたが、こいつ気に入った相手にしかレシピをアレンジしないようだ。今日は新規加入の長門がいるのでセーフ。何で俺が気に入られてるかは知らんが。

 それはそれとして、「御進講」と言うとやんごとなき方に何かの講義をする事だったな。

 

「陛下が植物学者の人の講義を受けられたんですよ。それが長門さんの艦上だったんです。ちょっと焼けちゃいますけどね」

 

 ふむ。それで「粘菌」か。昭和帝は生物学の研究もされていたと言うからな。

 

 生物分野に全く知識がない俺は、何気なくを装って検索してみた。なになに? 「多細胞性の子実体を形成する能力をもつアメーバ様単細胞生物の総称(※Wikipedia参照)」って、つまりはどう言う事だ? 要はその名の通り「菌」の一種らしい。

 

「それはそれは凄い学者だそうだ。あの時の楽しそうな陛下のお顔が今でも忘れられないんだ。クロスロードの光の中で、最期に浮かんだのがあのお顔だった」

 

 うーむ。普通なら植物図鑑の一冊も買ってやって終わりなのだが、それは多分、彼女のアイデンティティに関わる大問題のようだ。力になってやりたくはある。

 

「ええと、『昭和天皇』『御進講』っと」

 

 検索すると何冊か書籍が出てきた。とりあえず、その凄い学者を知る事から始めんとな。ふむ、どうやら南方熊楠と言う学者らしい。俺は密林の商品ページを開き、その学者の名が付いた新書に「購入」をクリック――しようとして比叡に腕を掴まれた。

 

「司令官のくれじっとかーどは支払いから外してくださいね?」

「本一冊でも駄目なんか?」

 

 最近泊地の連中は、私費で備品を買おうとすると怒るようになった。今回は俺が買って長門に貸すだけだから良いだろうと思ったんだが。

 

「ちりも積もればセイロンの茶葉です。これについては妥協しませんよ? 漣ちゃんに私が怒られますから」

「お前と漣、いつからそんな仲良くなった?」

「秘密でーす」

 

 何なんだ一体。

 ふと長門を見たら、微笑ましいような、辛いものをみるような。そんな目で俺たちを見つめてくる。それは放っておけない表情で。

 

「どうした?」

 

 長門ははっとして首を振る。

 

「あ、ああ。よく分からないが、規律を守る為に必要なのは分かった。私の給与で払おう」

 

 長門はがま口を取り出す。妙に似合うな。

 それにしても、こいつとは一度腹を割って話した方が良いだろう。

 

「おっ、電子書籍もあるじゃないか。こいつがあればすぐ読めるな」

 

 電子書籍は権利関係で色々あるが、すぐ読める、何処でも読めるのが最高の武器である。内地に行く時間が限られる丹賑(ニニギ)島では重宝だ。

 

「こいつは俺が読むんだから良いよな?」

 

 比叡に聞いたら。

 

「おかのした。です」

 

 謎の単語が返ってきた。

 

「何だそれは?」

「漣ちゃんが使ってるほーむぺーじに書いてありました」

 

 あまりあいつの影響は受けるなよと思うが、こいつらにはこいつらの距離感があるんだろうからなぁ。

 

「まあともかく、暇を見て読んでおくから、それでまた話をしよう」

「分かった」

 

 返事をする長門の顔には、それなりの期待があった。その程度には信用してくれているらしいと、内心で安堵したのは秘密にしておこう。

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