仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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ちょいと腎臓を手術したり、患部が炎症起こしてのたうち回ってますが、私は元気です。ってか完結させるまで死ねませぬ。

ようやく恋バナです。このためにロケハン行きましたよ。おかげで予想外に良い話になりました。お楽しみください。どぞー。


第48話「三人の動物園(その1)」

Starring:漣

 

 はにゃあ!

 

 自分が物凄い声を上げた事は分かっている。でも高雄さん。せめて事前に相談してほしかった。

 

「あ、あの」

「どうした漣? お前本当に変だぞ?」

 

 高雄さんと目が合った。力強く頷いてくる。このままじゃ駄目だよと言ってくれている。その気持ちはとても嬉しい。そうだ。分かっているんだ。

 

「あ、あの」

 

 お願いします。そう一言言えば良い筈なのに。

 

「赤城さんもどうですか?」

 

 高雄さんが盛大にずっこけ、頭を抱えた。ごめんなさい!

 

「私ですか?」

 

 ディスプレイから頭を上げた赤城さんは、当然ながら巻き添えを食った事を分かっていない様子。心の中で土下座する。

 

「いえ。私は良いのでお二人で楽しんできてください」

 

 赤城さんは奥ゆかしく誘いを辞し、高雄さんがガッツポーズする。ここが人生の分岐になるかもしれない。そして漣は。

 

「遊園地の食べ物も良いですよ。チュロスとかピザとか、ホットドックとか」

 

 目を輝かせる赤城さんを見て、自分のやらかした事を悟る。

 

 こうして駆逐艦漣は日和った。そして結果として、最高のチャンスを取り逃がしたのだった。高雄さんごめんなさい!

 

 

 

9:38(マルキュウサンハチ) 恩賜上野動物園

 

 漣は動物園のゲートを見上げた。ご主人さまから受け取ったチケットは軍人割だった。戦時下ならではである。

 

「ふむ。パンダさんはかなり並ぶのですね。それなら、しろくまさんや虎さんを優先させた方が」

 

 赤城さんは案内図と真剣ににらめっこしている。これは、何と言うか。

 

「ご主人さま。赤城さんが可愛いんですが」

 

 ご主人さまは一瞬だけにやにや笑いを浮かべたが、直ぐ咳払いをした。

 

「全力で楽しむ姿勢は大事だぞ? 俺たちも見習おうじゃないか」

 

 それだけ言って特に「しろくまさん」を弄る様子はない。ご主人さまも一人の趣味人。他人の世界に土足で踏み込む事はしないようだ。正直また好感値が上がってしまった。ううっ。

 

「しかし悪いな。遊園地じゃなくて動物園で」

 

 そんな事を謝って来た。特に気にしていなかったが、なんか嫌な予感がしてきた。

 

「漣も動物は好きですから全然おk(オーケー)ですけど、何か特別な理由でもあるんですか?」

「か、金が無くてな。実は海防艦寮のTVが古いし小型だし、かわいそうかなーと思って」

「はあ!?」

 

 遊園地云々よりそちらの方が大問題である。

 

「あれだけ自費で備品を買わないでくださいと言いましたよね!? マズーです!」

「す、すまん」

 

 泊地で信頼を得るにつれて顔を出し始めた、この人の悪癖だ。彼がこう言うのを止めるには、ちゃんと愛されている自信を付けさせる必要がある。漣を含め、ご主人さまに親しい艦娘たちは、それを自覚し始めているのだが。

 

「とりあえず、楽しんでる赤城さんに水を差したくないので今回は見逃しますが、次やったらまたフランス料理食べてもらいますからね?」

「言葉もない。ってか何でそれが罰ゲームなんだ?」

「しりませーん」

 

 あなたは高いフランス料理を振舞われるに値しますよ、と言う漣たち艦娘からのメッセージなのだが、この人は一向に気付く気配はない。

 彼を慕う艦娘も増えてきたが、漣にしてみれば駄目な弟である。まったく自分は何でこんな人を、と思わないでもない。

 

「おーい赤城。心配せんでも普通に回れば全部見られるぞ」

「本当ですか!?」

 

 振りむいた赤城さんは最高の笑顔である。かわいい。これは遊園地より動物園で正解だったんじゃないだろうか。確かに夢の国とか一度は行ってみたいけど。

 

「俺が子供の頃はペンギンの散歩が見られたんだがな。どうやら今日はやってないみたいだ」

「ペンギンさんの散歩!」

 

 赤城さんが食いついたけれど、それは特定の季節や曜日しかやらないらしい。

 

「まあ仕方ありません。それは戦争が終わった後の楽しみとしましょう」

「食いつきが凄いぞ」

 

 流石のご主人さまも突っ込んでしまうが、赤城さんは咳ばらいをひとつ、ぷいと視線を外した。

 

「行く以上は楽しみたいだけです」

「ま、それもそうか」

 

 ご主人さまはそれ以上は何も言わず、赤城さんの横に行って、園内図を眺める。

 

「とりあえず右回りコースで行けば、あらかた見て回れるみたいだ」

「ハシビロコウさんは!?」

「それは隣のエリアだな」

 

 引率するご主人さまは、まるでお父さんのよう。よく考えたら泊地での立ち位置もそんな感じになりつつある。

 

「じゃあ、遠足を始めますか」

「おー!」

「おー」

 

 元気よく手を振り上げた漣に、意外な事に赤城も続いた。よほど楽しみらしい。発案者の認識では遠足ではなくデートだった事は、もはや言えない。

 

「見てください! 虎さんが寝てますよ!」

「この気候だからな。虎もやってられんだろ」

「もしかしてですけど、獲物を油断させる罠だったりするのかも」

「なるほど。戦巧者(いくさこうしゃ)ですね。一度お手合わせ願いたいものです」

「……足柄みたいな事を言うなよ」

 

 ゆるい会話をしながら動物たちを見て回る。やっぱり動物園で正解だったかも知れない。やがて一行は象の檻で足を止める。

 

「うわぁ! 象さんがお鼻をぶんぶん振ってます!」

「ずっと繰り返すのな。象ってあんなに可愛らしい目をしてるんだな」

 

 夢中になって象を見て回る。ご主人さまはお土産にと写真を撮って回っている。そこで解説を読んでしまったのが不味かった。

 

「あ」

 

 赤城さんと二人、固まる。

 

 『かわいそうなぞうと動物園』

 

 そう。この上野動物園の像たちは、戦後贈られたもの。戦前に愛された象たちの子孫ではない。何故なら。

 

「象さん、殺されちゃったんですね」

 

 漣たちが沈んだ後の話だった。空襲時の逃亡が危惧され、動物園の猛獣たちは殺された。象は注射の針が通らず、餓死させられたと言う。

 それは彼女たち艦娘の、軍艦たちの無力さの象徴だった。

 

「私たち、こんなことをしていて」

 

 赤城さんが言いかけた。その言葉が出てしまったら、今日の遠足はお終いかも知れない。そう思った時。

 

「おい口を空けろ」

「え? もがもがもが」

 

 赤城さんが悶え始めた。そしてその目が歓びに変わる。ご主人さまが口に突っ込んだのは、最近めっきり見なくなった貴重なバナナだ。

 

「もぐもぐ。ふぁにするんですかもぐもぐ」

 

 文句を言う割に嬉しそうである。

 

「おやつに持ってきたんだよ。結構苦労したんだぜ?」

 

 それだけ言うと、ご主人さまは付いてこいのジェスチャーをした。漣は赤城さんと顔を見合わせ、結局後に続く事にした。

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