仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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飛龍と蒼龍の再会のお話です。

蒼龍のイメージって巷では結構振れ幅が大きくて、ずっと私の中で定まらなかったんですが、結局好きににやる事にしました。蒼龍が世話を焼く方なのは、飛龍を奔放に描きすぎたと言うのもあるのですが(;^_^A

ちなみに、彼女はうちの艦隊初めての正規空母でした。皆さんは最初に誰をお迎えしましたか?


第53話「蒼龍の帰還(その1)」

14:14(ヒトヨンヒトヨン) 執務室

 

Starring:提督

 

 今日もどたどたと元気な足音で、彼女は執務室に飛び込んでくる。うちはプレハブで音がよく響く。俺はよくやってくる艦娘の足音をあらかた覚えてしまった。とりわけ彼女は分かりやすい。

 

「提督! 防衛省のアーカイブにあったよ! 例の多聞丸の提案書」

「ああ。戦史叢書の奴か。めざとく見つけたな」

 

 飛龍が持ってきたのは山口多門謹製の作戦計画。豪州占領作戦からの米東海岸攻略をぶち上げた奴である。当時の偉い人たちからも妄想が過ぎると怒られちゃった曰く付きの論文なのだ。これのせいで世の研究者は、「山口多聞は優れた指揮官であるが、戦略家としては疑問符が付く」と評価する。残念ながら。

 

「感想よろしく!」

「感想ったって良いのか? これに関しては俺も割と擁護できないっていうか」

「いいの! 多聞丸を越えるなら、まず弱点を徹底的に研究しないと!」

 

 いつからか、俺は多聞丸に宣戦布告した事になっているらしい。彼女の中では。

 

「頑張ってくださいね。蒼龍が戻ったら、私たちは新生二航戦なんですから!」

 

 なんかそう言う事になったらしい。彼女には俺が、アレクサンダーかハンニバルにでも見えてるのかねぇ。そんな事をぼけーっと考えている間も、飛龍は読ませたい論文のリンクを容赦なく送り付けてくる。まあ俺だって防大卒だから、論文は慣れてるけどね。

 

 タブレットを手に取り、手始めに件の提案書を開こうとした時。

 

「ご主人さま、工廠から連絡です」

 

 漣から受話器を渡された。向こう側の大淀の声が嬉しそうなので、何か良い事があると悟ったが。

 

「おう! 本当か!? それは飛龍も喜ぶ!」

 

 俺は話しながら飛龍に親指を立てて見せる。彼女の顔がぱっと輝く。

 

「出撃した五航戦が蒼龍を発見したそうだ。今こっちに向かってる」

「本当ですか!?」

 

 尻尾があればぱたぱたと振ってそうだ。相棒の帰還がそれだけ嬉しいのだろう。

 

「ほら。論文は読んどいてやるから、行ってこい」

「はいっ!」

 

 駆け出す飛龍を見送って、俺はタブレットに視線を落とす。

 

「これで本当に新二航戦かぁ。俺なれんのかね? 多聞丸に」

 

 少なくとも飛龍はそれを信じているのだから、俺が放り出すわけにもいくまい。気を改めていわくつきの文章に視線を落とした。

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

Starring:蒼龍

 

 結論から言うと、まあ戸惑った。

 

 今が80年後の世界だと言う事も、自分に手足があって、人間の姿をしている事も。今度は深海棲艦なる怪物と、人類全体が戦争をしている事も。もっと言うならなじみの船たちもみんな可愛いなり(・・)になっている事も。

 だが一番合点がいかないのは、相棒飛龍の「報告」である。

 

「私ね! 今多聞丸の後継者を育成してるの!」

「はい?」

 

 蒼龍だって多聞丸との縁は深い。そして飛龍が彼に入れ込んでいる事も知っている。だから事情を知った時、嘆く彼女を想像して心を痛めていた。のだが、すっかり乗り越えている様子。自分が知っている飛龍は、多聞丸が亡くなったから「ハイじゃあ次」などと言う船、いや艦娘ではない。

 

「あんた人の身体になって、悪い物でも食べたんじゃないの?」

 

 本気で心配するも、首を傾げられる。目の前には初めて食べる食事。あの鳳翔さんが作ってくれたと言うが、病人食でこれだけ美味しいなら、飛龍がさらなる美食を求めて悪食(あくじき)をやらかしてもしかたない。失礼千万だが、それだけ彼女の発言はおかしい。

 

「ごはんはいつも鳳翔さんと間宮さんが作ってくれるけど」

 

 違う、そう言う話じゃない。蒼龍は結局、覚悟を決めて本質に踏み込む決意をする。

 

「多聞丸は、死んだんでしょ?」

 

 飛龍もまた、蒼龍の真剣さを感じ取った。力強く頷く。

 

「うん」

 

 彼女は嘆きを見せなかった。代わりにあるのは覚悟。

 

「でも今度こそ(・・・・)死なせない。蒼龍が来てくれたら、新二航戦は無敵だもん」

 

 彼女は言い切った。その顔を見て、飛龍の言葉が伊達や酔狂に拠るものだとは思えなくなったのも事実だ。

 

「分かった。とにかく会いに行こう」

 

 蒼龍はベッドから身を起こす。もとより疲労感を感じていただけで何処か怪我をしたわけでもない。入院着を脱いで丁寧に畳むと、横に置かれた着物に手を伸ばす。自分が水面を漂って、翔鶴たちに発見された時着ていたものだ。そして固まった。

 

「これ、どうやって着るの?」

 

 水兵たちを見ていたから、服の着方くらいはすぐ分かったが、着物となるとどこから手を付けていいかわからない。

 

「セーラー服じゃ駄目なの?」

 

 飛龍はにやにやと笑って言った。

 

「それ私も通った道。その衣装は私たちの魂に一番合う物だから、無くなっても同じものが支給されるよ」

 

 艦娘とは、何とも厄介である。

 

「ほら、手伝ったげる」

 

 そう言って飛龍は、したり顔で着物を広げる。本来なら自分が世話を焼く方なのに。何だか釈然としなかった。

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