仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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ここから、色んな艦娘と提督が交流してゆくお話になります。

乞うご期待(`・ω・´)ゞ

25.7.12 表現や文章を修正


第二章「提督、奔走ス」
第6話「隼鷹姉妹との飲み会」


Starring:提督

 

同時刻 居酒屋鳳翔

 

「ぎゃはははは。いやぁ、いいもん見せてもらったなぁ」

 

 軽空母隼鷹は笑う笑う。それはもう遠慮も何もなく。食べるだけ食べた赤城が去った後、結局俺は飛鷹たちの卓にお呼ばれする事になった。

 

「……放っておくでやんす。次はあっしが勝つからノーカンでやんす」

 

 大変に(みじ)めである。俺は不貞腐れた顔を浮かべつつ、手酌でおちょこにどぶろくをそそぐ。

 

「別にここでやらなくていいわよ。私達しかいないんだし」

「そうでやんすか? じゃない、そうか」

 

 飛鷹は完全に呆れた様子で切り干し大根の煮物をつついている。どうやら酒は妹ほどには執着しないらしい。

 

「しっかし、初日から面白い事になってんなぁ」

 

 俺を玩具にする隼鷹はすっかり出来上がっている。さっき競争もして焼きめしも食べたので、俺も既に良い気分なので、酒は控えめにして会話を楽しむことにする。楽しめればだが。

 

「俺だってできれば穏便にやりたいさ。お役目だお役目」

 

 ぶっきらぼうに言い返すが、隼鷹は容赦なかった。

 

「そうかなぁ? あたしにはなんかぎこちないって言うか、壁を作ってる気がするけど?」

「ちょっと隼鷹。酔いすぎ」

 

 スルメを噛む手が止まる。窘める姉をスルーし、彼女はけらけらと笑った。やっぱそう見えるのかぁ。俺は何も答えられない。隼鷹も特に返答は求めていなかったらしい。ぐーっと背伸びをして、またおちょこを手に取った。

 

「酒は良いよなぁ。意地はって顔を隠してる奴も、酒を酌み交わせば本当の自分を見せてくれるだろ? 中にはとんでもない本性のやつもいるけど、少佐はそうじゃなさそうだ」

 

 思わせぶりな台詞である。こいつ、本当に酔ってるのか? 飛鷹が水を渡すが、隼鷹は手をひらひら振って辞退した。

 

「それで少佐、あんたは何のために深海棲艦と戦ってるんだい?」

 

 こいつそれを聞き出す為に俺に絡んでたのか。だがまあ答えないわけにもいくまい。全ての事実を語る必要はないわけだし。

 

「そんなに大したもんじゃない。俺は船乗りになりたくてな。ただの船乗りじゃなく、でっかい船の船長」

「それで、深海棲艦に海を奪われたの?」

 

 飛鷹が問う。まあ、そういう事になるかな。

 

「船長になるには(がく)がいる。でも 金が無かったから、防衛大学、お前達で言う海軍兵学校みたいなもんに入った。色々あって、俺はでっかい船。護衛艦に乗る事が出来た。一尉まで昇進したが、艦長は一佐だから志半ば。そこでこの戦争が起きてな」

 

 その辺り色々あったが、まあここで語る事でもあるまい。そして俺は「抑止力」から「戦力」に鞍替えされた。

 

「海を満喫してる場合じゃなくなった」

 

 有事に備えて訓練して給料もらってたわけだから、そこに不満はない。それでもやりたい事を取り上げられた事実は変わらないのだ。駄目だな。こう言う辛気臭い話をしていると煙草が欲しくなる。駆逐艦も来る店で吸うべきじゃないのは俺にも分かるが。

 

「だからもしかしたら、陸で命令だけする立場になる事に納得いってないのかもしれない」

 

 海で部下を死なせるまでは、むしろ気楽に命令を下せていた気がする。先輩は『あなたならこの仕事を気に入る』って言ってくれたけどな。

 

「で。さっきのあいわず何とかに繋がるわけか」

「I was bornな」

 

 やっぱ聞かれてたか。俺は煙草の代わりにスルメを咥える。指揮官はこんな弱音を吐くべきではない。隼鷹の酒云々にほだされたかもしれない。

 

「……ねぇ」

 

 意外な事に、食いついたのは飛鷹だった。

 

「深海棲艦との戦いが終わったら、あなたはどうするの? また軍艦に乗るの?」

 

 そうだな。どうしようか。正直まだ考えられない。先輩がいたら、「ここで過ごせば帰りたくなくなる」なんて言うだろうか。

 

「どうするかな。俺はもう、戦争が始まる前の俺には戻れないと思うし」

 

 飛鷹はそれっきり黙ってしまった。俺はもう昔の俺に戻れない。色々失い過ぎた。彼女もまた同じような何かがあるのだろうか。

 

「お前らはどうするんだ?」

 

 尋ねたものの、隼鷹は既に舟を漕いでいた。テーブルと床には徳利の山。彼女について聞いてはいたが、どうしてそんなに飲めるんだ。飛鷹は上着を脱ぎ、妹に被せる。

 

「私は、北米航路に戻りたい」

 

 軽空母飛鷹、客船だったころの名は「出雲丸」。彼女は客船として生まれながら海軍に徴発され、航空母艦となった。それからは八面六臂の大活躍。だがそれは彼女にとって、必ずしも名誉では無かったらしい。飛鷹は、遠い何かを見るように告げた。

 

「皆と一緒にいるのは楽しいわ。でも、私はやりたい事があったの」

 

 先輩の話では、多くの艦娘は人の身体を得た事を悪く思っていない。船としてだけでなく、人の喜びも得られるからだ。現に赤城なんて、大喜びで焼きめしをかっ食らっていた。飛鷹はどうだろう。少なくとも艦娘になった以上、人を乗せて北米航路を行く日は来ないだろう。彼女は俺の昔話に思うところがあって、こんな話を振って来たらしい。

 

 俺はカウンセラーじゃない。彼女も解決の糸口は求めていないだろう。それでも何か言葉をかけてやりたくなった。何と答えたらよいか。ふと思いつき、スマホを取り出す。

 

「こういうものもあるぞ。ほれ」

 

 差し出したの写真は、一隻の船。それもでっかい奴だ。

 

「今建造中の豪華客船。排水量は客船時代のお前の五割増し。もちろん北米航路も行くぞ」

 

 彼女の目が醒めたものになる。今更そんなものを突き付けて何になるとでも言いたげに。だが俺は別に嫌がらせがしたいわけではない。

 

「お前、こいつの船長になれ」

「えっ?」

 

 大いに面食らっているが、俺からしたら別に驚く話でもないぞ。

 

「別に艦娘が船を動かしちゃいけないって話でもないだろ? この船はな、深海棲艦との戦いで建造が止まったまんまなんだ。いつ完成するかも分からない。だが……」

 

 戦争が終われば、建造は再開される。

 

「自分で客を乗せることはもうできなくても、船を動かす事はできる。人を楽しませる事も出来るんだ。お前のやりたかった事に近いんじゃないか?」

 

 彼女は呆けたようにスマホの画面を見守る。どのくらいそれが続いたか。ふと、飛鷹が尋ねた。

 

「私、戦い無しで海に出ていいの?」

「それはお前が決める事。だがお前ら艦娘は波が読める。風が読める。星が読める。船乗りとして最高の資質だと思うがな」

 

 彼女ははっと驚いたように俺の顔とスマホを交互に見つめた。

 

「まあ、深海棲艦に勝たなきゃ客船なんて怖くて浮かべられんがな」

 

 そこで彼女は、初めて笑顔を見せてくれた。「良い事聞いちゃった」と言う、学生がはしゃぐような笑顔。

 

「ねえ、その絵。プリントなんとかしてくれない?」

 

 プリントアウトね。どうやらこの写真をお気に召したらしい。

 

「確か前任が置いていった写真立てがあったな。それに入れてやるよ」

「ありがと!」

 

 それから彼女は、人が変わったように焼き鳥をもりもり食べ始めた。ときおり「そっかー」と感嘆を挟みつつ。

 

 

 

「えー、本作戦は硫黄島攻略の布石として重要なもので……やんす。あっしとしてはこの海域を」

 

 翌日、若干の頭痛を堪えつつ、俺は執務室で訓辞を垂れていた。

 

 曙は青筋を立ててこちらを睨み、朧は半眼で話を聞いている。それを見た潮がおろおろと狼狽し、もちろん漣は爆笑していた。

 

「赤城さんに負けたんやて」

「流石赤城さんです!」

 

 扉ごしにこちらを伺っているギャラリーが五月蠅(うるさ)い。見世物じゃねーぞ。

 

 こんなわけで、あっしの初めての作戦指揮は駄目駄目な結果におわったのでやんした。

 

 

 

追記

 

 艦娘たちの心ない噂に耐えながらとぼとぼ歩いていると、隼鷹にパンと背中を叩かれた。

 

「昨日はありがとな(・・・・・)提督(・・)! また呑もうよ!」

 

 去って行く彼女を、俺は不思議そうに見送った。いつの間にか、彼女は俺を提督と呼んでくれる気になっていたらしい。

 

 何か特別な事をやったのかと首をかしげたが、特に思いつくことは無かった。

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