仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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第60話「足柄と海防艦と、提督の生い立ち(その3)」

Starring:足柄

 

「何ですかそれ!? 知りたいです!」

 

 思わず前のめりで言ったら、提督は戸惑ったように上半身をのけぞらせる。だって知りたいのだ。

 

「何でそんな食い気味なんだ?」

「良いじゃないですか! 知りたいんです!」

 

 まさか好きな人の事は何でも知りたいとは言えず、勢いで押し切る。どうせ提督の事だから、何も察する事は無いだろう。

 

「じゃあ漣は陸戦隊の事務所までハンコ貰ってきますから」

 

 漣が立ち上がる。どう見ても不自然なタイミングだったから、要らぬ気を利かせたと分かった。足柄が聞きだした話を、自分が盗み聞きするのはフェアじゃないと言う事だろう。この子も優しい子だが、その優しさは嬉しくない。

 

「駄目よ。ここにいて頂戴」

 

 漣が驚き、提督が不思議そうな顔をする。だってそうでしょう。ここで気を使わせては、それこそフェアじゃない。

 

「私は、正々堂々勝ちたいの」

 

 その一言で漣は苦笑して、やっぱり立ち上がる。それにしても提督も、この話は漣にしていないらしい。がぜん興味が出る。

 

「じゃあ漣は口を出さずに横で聞かせて貰いますね。お茶を入れ直してきます」

「なあ、お前らいったい何の話を……」

「まあいいじゃないの!」

「そうです!」

 

 また力ずくで押し切られて、提督は上半身を更に後ろへ逸らした。

 

「お、おう」

「まあ茶を飲めよ」

 

 漣が置いた湯飲みを持ち上げて口をつける。それで提督は気を取り直したようだ。背もたれに身を預け、昔話を始めた。足柄も応接用のソファーに腰を下ろす。

 

「俺の親父も、船乗りでな。一度仕事に出るとなかなか帰ってこない。でも家にいる時の晩酌には、海の話をしてくれたんだ。非番の時に仲間と交わす他愛もない話。釣りたてのカツオの味。水平線の朝日と大きな月。それで、小学生の俺もすっかりその気になっちまったんだな」

 

 足柄も船だ。提督の父上の気持ちも、提督の憧れも分かる。戦いが終わった帰り道、迎える朝日にいつも思う。自分は生きているんだと。

 

「俺も船乗りになろうと決めた。そう言う学校に行くのが手っ取り早いと聞いて、苦手な勉強も頑張る気になった。体も鍛えたな。まあ子供のやる事だから、大したもんじゃなかったけどな」

 

 少年時代の一本気な提督が浮かんで、なんとも微笑ましくなっていた時、彼の話は急転する。

 

「ところがある日、親父は仲間をかばって、一本釣り用のワイヤーに接触しちまった。あれは立派な刃物だから、動脈をやられて手当も追いつかなかったそうだ」

「えっ!」

 

 微笑ましい話などではなかった。戦時下のこのご時世、「海で親を失った子供たち」が少なくない事も理解はしている。だが自分達にとって最も身近な「人間」がそうだとは、足柄は全く知らなかった。

 

「そうかしこまるな。昔の話だよ。それでお袋が言い出したわけだ。『あなたは絶対に船乗りにしません』ってな。海の仕事をする気なら学費は出さないまで言われた。ひでぇよなぁ」

 

 提督は笑って言うが、笑い話ではない。彼は父親と夢を、同時に取り上げられたのだ。そして彼の母も、決して責める事は出来ない。

 

「で、何もかも嫌になって勉強を止めて遊び回った。担任に呼ばれて説教された時、さっきの佐渡と同じ事を言い返した。それで言われた。『だからこそ勉強するんだ。解決法は本の中にあるかも知れないぞ』ってな。それであれこれ調べて、学費の要らない防衛大学を見つける事になるんだが」

 

 提督はお茶をずずっとすする、思いの外ヘビーな話だった。提督のすぐ思い詰めるところは、そんな生い立ちから来ているのかも知れない。

 

「それで、お母様は自衛官になる事を認めてくれたんですか?」

「家を飛び出してから会ってない」

「えっ?」

「俺は不肖の息子だからな。今頃それを嘆いているかも知れないが、もうどうしようもない事だ」

 

 自分が聞かせてくれと頼んでおきながら、なんかいらいらしてきた。こんな立派な提督を育てた母親が、息子の生き方を理解してくれないはずが無い。もし本当に理解してくれないなら、その母親の方に腹が立つ。

 

「提督!」

「な、なんだよ」

 

 足柄は立ち上がり、机に両手を置いた。提督は目を白黒させている。

 

「もしあなたのお母様が子供を縛るような酷い親だと言うのなら、私は何も言わない。でもそうじゃないなら会いに行くべきよ!」

 

 提督はこの手の忠告を邪険にする人間ではない。久しぶりに左胸を触る仕草を見た。タバコが欲しくなった時にする所作だ。別に禁煙などしなくてもいいと思うのだが、駆逐艦や海防艦に配慮しているようだ。そう言うところも好きなのだが。

 

「とは言えなぁ」

 

 煮え切らない提督に、更に身を乗り出した。

 

「じゃあ私がついて行くわ!」

「へ?」

「提督がいかに皆に慕われていて、必要な存在かをこんこんと言って聞かせてあげる」

 

 彼は苦笑半分戸惑い半分で、尋ねる。

 

「どうしてそこまで?」

「う、うにゃ!?」

 

 それを聞き返されることを想定していなかったから、変な声が出てきた。提督の苦笑が強まる。

 

「そ、それは、海防艦たちの気持ちを代弁してあげたいと言うか」

 

 出てきた言い訳は、我ながら歯切れの悪い口調だったが、彼はそれを本気と取ったようだ。

 

「そっか、ありがとな」

「当然よ! 提督には足柄がいるんだから、どーんと構えていればいいの!」

 

 言い放ってから、自分の言葉が敬語からため口になっている事に気付く。正直赤面ものだが、すごくしっくりくるのだ。

 

「じゃ、その時は頼むわ」

「任せて頂戴!」

 

 今度はふんぞり返る足柄だった。

 

「でもお前連れて行ったらお袋も変な誤解しそうだ、なんてな。ははっ」

 

 変な誤解? 考えを巡らせて、全身の血が顔に集まっていく感覚に気付いた。これを逆手に取って外堀をなどと考えられるようなら、もっと積極攻勢に出ている。一瞬思案した後、結局日和見を選択したのだった。

 

「か、霞か漣も一緒と言う事で……」

 

 提督は一瞬驚き、それからくっくっと笑う。

 

「そうだよな。そりゃあ嫌だよなぁ」

「違うんです!」

「ん? 何がだ?」

「だから違うんです!」

 

 胸襟を開いてくれた提督に対し、結局いつぞやのようなやりとりをしてしまう足柄であった。なおこの件を姉妹たちに報告したところ、せっかくのチャンスを何やってるんだとさんざん説教された。

 

 そんなこと言ったって。




足柄さんのお話その3でした。そしてこれにて第二章はおしまいです。

次話から硫黄島作戦に向けた提督と艦娘たちの苦悩と苦闘の物語になります。ちと辛い展開もありますが、ハッピーエンドはお約束しますのでご安心ください。

あと相変わらずのバカっぽい寸劇やギャグはこれからもやるので、くらい展開にはなりません。

次章『かつての傷痕と、提督のケッコン』、どうぞご期待下さい。
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