仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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今週から、物語は少し辛い展開に入ります。
感情が続けて動くパートなので、来週一週間で集中投下する予定です。

ただし物語に緩急をつけるため、場合によっては一日空けての更新となることもありますので、ご了承ください。


第四章「海の子たちは、神に捨てられる」
第61話「終わるモラトリアム(その1)」


硫黄島攻略作戦発動予定日まであと十日。

 

7:42(マルナナヨンフタ) 埠頭

 

Starring:提督

 

 ついに作戦発動まで一週間半となる。作戦準備は最終段階に入っていた。今日からの作戦は威力偵察を中心に、戦力を投じて情報収集を強化する。

 夏ももう終わりだが、残暑と言っても朝から暑い。隠れるものがない中動き回る艦娘たちは頭が下がる思いだ。そんな中、今日も艦隊は出撃する。

 

「それでは一航戦、行ってまいります」

「おう。任せたぞ」

 

 柄にもなく型にはまった敬礼する俺に、赤城は不満そうに言う。

 

「最近はずっとお留守番でしたから」

「しょーがないだろ。大作戦前で資源が惜しいんだ」

 

 大型空母はもっと温存したいところなのだが、港につないで不満が溜まるのも問題だし、腕がなまっては困る。それに敵艦隊には適度に仕掛けておくべきだろう。

 

「まあもう少しの辛抱さ。作戦はじきに始まる」

 

 曖昧にはぐらかしておいて、随伴艦たちにも一人一人声をかける。

 

「任せておいてくれ」

「Trust me! 心配しないで」

 

 初月とジョンストンが敬礼し、彼女たちは海へと滑り降りて行く。見送りの言葉を駆けようとした時、タッタッタと駆けてくる音がした。

 

「良かった! 間に合いました!」

 

 蹴っつまずきそうになりながら、駆逐艦吹雪が抱えているのは、新聞紙で包んだかたまりだ。

 

「出撃する皆さんにおにぎりを持ってきたんです! 良かったら!」

 

 良かったらと言いつつ、既に彼女はおにぎりを配り始めている。ある者は苦笑しつつ、ある者は照れくさそうにそれを受け取る。

 

「ありがとう。いただくわ。赤城さんも」

 

 加賀の言葉にはっとした赤城は、何故かそれまで呆けた様子だった。取り繕った様子で笑顔を浮かべる。

 

「え、ええ。ありがとうございます」

 

 手渡す吹雪は、どこか寂しそうだ。

 

「赤城さん。吹雪ちゃんによそよそしい時がありますよね?」

 

 漣が囁くように言う。俺もそれが気になっていた。普段は気さくに接しているから気にしなかったが、時折吹雪にだけ妙な反応をする。

 

「それじゃあ! 私は扶桑さん達にも届けてきますので!」

「お前、扶桑と山城の事も好きだよな?」

 

 疑問に思った事を聞いてみる。答えは割と明快だった。

 

「えっとですね。赤城さんは追いつきたい人で、扶桑さん達は学びたい人なんです!」

 

 なるほど。何となくわかる。いや分からんが、尊敬の形がひとつでない事は分かる。俺もはたから見たら、後輩たちとあんなだったのかね。そう言えば南部のやつから手紙が来てた。忙しくて返事を出してないが。

 とととと走る吹雪を見送って、俺は赤城たちに視線を戻す。

 

「赤城さん」

 

 加賀の一言で、彼女は肩を落とす。ツーカーの二人だ。恐らく吹雪の件での軽い叱責だろう。赤城にも事情があるんだろうが、かと言って吹雪を落ち込ませていいわけでもないからな。

 

「分かっています。後で謝っておきます」

 

 そうは言っても艦隊の空気が悪くなるわけではない。彼女たちは談笑しながら海へ降りて行く。

 そう言えば、加賀に話し忘れた事がある。手配していた〔ワルサーP38〕が手に入ったんだ。ルパン(お孫さんの方)が持ってて有名な拳銃なんだが、最近日本でも生産が始まって比較的手に入れやすいんだよな。散財は散財だから霞や妙高には秘密だけど。

 まあ帰って来てからでいいか。

 

 結論から言って、喜ぶ加賀の姿は見る事が出来なくなった。

 

 

 

〇半日後 11:24(ヒトヒトフタヨン) 工廠

 

 駆けつけた俺は、さぞ酷い顔をしていただろう。目の前には真っ赤に染まった毛布をかぶされ、初月とジョンストンに支えられる加賀がいた。

 

 後に続く妖精たちが、血まみれのポリ袋を担いで後を追う。そこの中には、彼女の腕があった(・・・・・・・・)

 

 血の気が引いた様子の加賀は、ぱくぱくと口を動かす。俺は駆けよって耳を傾けた。

 

「……赤城さんを」

 

 消え入りそうな声だった。その後に続く言葉は分かっている。「赤城さんをお願い」だろう。結局言葉は最後まで発せられず、艦娘専門の軍医たちと共に、加賀は集中治療室に運び込まれる。

 

「提督」

 

 明石が耳打ちしてきた。皆を不安にする話題と言う事だろう。

 

「物凄い力で右腕を引きちぎられています。ショック死しなかったのは奇跡です」

 

 俺は息をのむ。思考停止した中ででも、大変な事が起こった事は分かった。あの加賀をここまでの目に遭わせるのは何者だ? 加賀でさえ敗れる相手だ。もしそれが泊地の皆に襲い掛かったら。

 

「助かるのか?」

 

 開口一番それを問う。いやそれ以外は全て後回しだ。

 

「もし手術が成功すれば腕は繋がります。ただ――」

「ただ?」

「元通り弓を扱うにはかなりのリハビリが必要でしょう。それも命が助かればの話です」

 

 とても皆には聞かせられない話だった。それでも可能性が残されただけましと言うべきなのか。

 

「他の皆の状態は?」

「赤城さん以外中破以上で入居中です。精神的なショックも大きいです」

 

 だろうな。艦隊の柱が目の前で腕を奪われたんだ。同様ぶりは想像して余りある。

 

「赤城は無事なんだな?」

「ええ。そうなんですが」

 

 明石は言葉を濁す。無言で続きを促すと、彼女はためらいがちに言った。

 

「錯乱が酷くて、まともに話せない状態です」

 

 それだけ言って、明石は集中治療室に入っていく。俺はただ、無力感で自分の手のひらに爪を食いこませた。




※二章のナンバリングを修正しました。内容は変わっていません。
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