仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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提督なら誰にでも訪れる、轟沈の危機。仮免提督が本当の免許を手にするための、最初の難関なのです。


第63話「終わるモラトリアム(その3)」

Starring:提督

 

「私は、裏切り者なんです」

 

 赤城がやっと発した言葉は、彼女と最も遠い言葉だった。仮に誰かを裏切ったとしても、それを背負って生きようとするのが一航戦赤城だと思っていた。目の前の彼女は、決して赦されない何かを突きつけられた子供の様で。

 

「詳しく話してくれるか?」

 

 赤城は頷く。

 

「加賀さんを傷つけたのは”Deep-1(デープ・ワン)”です」

「……冗談だろ?」

 

 Deep-1。最初に現れ東京を爆撃した深海棲艦のコードネームだ。姫級や鬼級以上の戦闘力を持ち、人類の兵器どころか、生まれたばかりの艦娘たちの攻撃もものともしなかった。その後、艦娘たちの追撃を受け討伐されたと聞いている。

 

「あいつに止めを刺した”赤城”は、私なんです」

「!?」

 

 最初期の艦娘は50人にも満たなかったはず。そのうち少なくない数がDeep-1に沈められた。彼女はその生き残りと言う事だ。

 

「私は、最初に生まれた艦娘なんです。そしてDeep-1は最初に生まれた深海棲艦。私たち二人は、”使命”を与えられました。Deep-1は盟約に従い東京を爆撃し、私は次々生まれる艦娘たちと共にそれを追跡しました。そして討ち果たした。そのはずだったんです」

 

 話が大きすぎてついてゆけない。俺は今、艦娘と深海棲艦の核心に触れようとしているのかも知れない。それを知る者が最も近くにいた戦友なのは驚くばかりだが。「盟約」は、ヲ級を救出した時、彼女も口にしていた言葉だ。とても大切な意味を持つはず。俺は彼女の言葉を待つ。

 

「生まれたばかりの私たちは練度も低く、苦戦を強いられました。何人もの艦娘が倒れて行ったのです。その中の一人が、吹雪さんでした」

 

 なんてこった。彼女が吹雪に見せたよそよそしい態度は、前の(・・)吹雪への負い目だったわけだ。

 

「また失うのが怖かったんです。本当はみんなみんな怖いんです。加賀さんも蒼龍も飛龍も翔鶴も瑞鶴も、泊地の皆も。誰かいなくなったら、気が狂ってしまいそうなんです」

 

 気付かなかった。こいつは俺と同じなんだ。失う恐怖に死に物狂いで抗っている。いや、彼女は情が深い。俺なんかよりずっと苦しい思いをしてきたに違いない。結局俺はかける言葉なんかなくて、最初の約束を履行する事しかできない。彼女から情報を聞き、それを生かす事。そして誰一人沈めない事だ。

 

「話は分かった。だが肝心な事を聞いていない。『盟約』とは何だ?」

 

 俺は今、この世界の根幹に触れようとしていた。その時。

 

『五航戦が目標海域に到達しました!』

 

 後ろ髪を引かれる思いで端末を取ると。大淀から報告があった。どうやら世界の理はこの窮地を脱した後らしい。

 

「すぐ指令室に行く」

 

 俺は回線を繋いだまま、後ろで控えていた鳳翔に視線を送った。もちろん赤城を頼むと言う意味だ。彼女は黙って黙礼する。

 

「……提督」

 

 赤城がつぶやく。だが彼女をフォローする時間は、俺に残されてはいない。

 

「心配すんな。全部片づけて戻ってくる」

 

 俺は出来る限り優しい声で宣言すると、指令室に向け駆け出した。漣や吹雪たちが間に合えば良いが。

 

 

 

16:12(ヒトロクヒトフタ) 中央指令室

 

 数刻後中央指令室のスクリーンには、既に第一次攻撃隊を発艦させる五航戦がいた。表示された情報を見るが、完全に敵を捕捉したわけではないらしい。所謂索敵攻撃。敵を探しながら進撃し、発見し次第攻撃に移る戦法だ。

 当然敵を発見できないリスクもあるから、正直それが正しいのかは分からない。しかし二人が無駄に逡巡することなく即座に戦術を選んだ事は、高く評価する。

 

「二人とも、熱くなるのは厳禁だ。第二次攻撃隊の発艦は慎重にな」

『了解! もちろんわかって――』

 

 瑞鶴の元気のいい返事が、途中で途絶えた。

 

「どうした!?」

 

 通信を担当している下士官に問う。流石に熟練しているだけあって、動揺せず復旧作業を進めてくれてはいる。だがそれすらもどかしい。口の中が乾く。早く。早く繋がってくれ。

 

 再び戦場の風景が映し出された時、俺は自分が指揮官である事を忘れて悲鳴を上げかけた。映しているカメラは、随伴している駆逐艦の誰かだろう。

 

 そこには髪を掴まれ、(・・・・・・)宙に吊るされる(・・・・・・・)瑞鶴の姿があった。

 

『聞こえてるかしら? この子たちゴコウセンとか言ったっけ? 私に腕を引っこ抜かれたお間抜けさんよりはマシだったかもね。あの情けない子も』

 

 そこには勝ち誇ったかのように告げる深海棲艦がいた。感情が沸騰しかけた。息を吸って耐える。考えろ。最善を模索しろ!

 彼女は瑞鶴から取り上げたらしいカメラ付き通信機を周囲に向けて一周させた。そこには水面に倒れ伏す翔鶴と随伴艦たち。艦娘が浮いていられるのは生きている時だけ。かろうじて皆無事であるらしい。霞だけは膝をついたまま倒れないでいるが、あれでは満足な対空射撃は厳しそうだ。

 

「誰が情けないのかは知らんが、お前はDeep-1(デープ・ワン)なのか?」

 

 俺の質問を彼女は鼻で笑う。

 

『Deep-1? そう言えばそう呼ばれていたわね。それであなたがここの提督? ちゃちな艦娘の陰に隠れているつもりかもしれないけれど、人間(あなたたち)に安らぎの場なんて無いわ』

 

 Deep-1の外見は空母棲姫に似ていた。違うのは背中に背負った艤装が何もない事だ。白い肌を守るものは無く、ただ肌にフィットした黒いインナーのようなものに包まれている。あれでどうやって砲撃や発艦を行う? 艤装なしで戦うって言うのか?

 その姿、ありようは。海の化物と言うより吸血鬼のそれだった。赤い瞳がそのイメージを助長する。

 

「うちの泊地には。いや何処にだって”ちゃちな艦娘”なんてもんは存在しないね」

 

 ここが指令室でなければ、床に唾でも吐いていたところだ。俺は別にレスバをするつもりはない。ただ時間を稼がねばならないから、煽りに乗っただけだ。金剛姉妹とビスマルクも向かっているが、大型艦は出撃に時間がかかる。今先行しているのは七駆だ。間に合ってくれ。

 

『そう。でも私はあなたにも他の艦娘にも興味は無いの。どうせみんな沈めるし』

 

 簡単に言ってくれやがる。だが迂闊な反応は出来ない。瑞鶴の通信機には液晶画面が付いている。向こうはこっちを見ている。

 

俺の(・・)艦隊がそう簡単にやられるはずがないだろう?」

『はいはい。そう言うのはいいから。あの子を呼んで頂戴』

 

 あの子? あの子と言うのはつまり。

 

『あなた達がアカギと呼んでいるジャンクよ』

 

 Deep-1は瑞鶴を真上に放り投げた。落下する彼女の首をがっしりと掴んで受け止めた。小さくぐっと、うめく声が聞こえた。

 

『早く呼んだ方が良いわよ。そうじゃないと気まぐれを起こすかも』

 

 深海の使者はぺろりと唇を舐め、冷酷に笑った。




※明日は一日お休みです。14日から投稿を再開します。
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