仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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提督と艦娘の絆は、神様だって崩せない


第65話「終わるモラトリアム(反撃)」

Starring:提督

 

 低空飛行で離脱、待機していた一機の〔流星改〕は、海面スレスレでDeep-1(デープ・ワン)に接近。必殺の航空魚雷を撃ち込んだ。さしものDeep-1も至近距離からの雷撃に耐えられず、首を掴んでいた瑞鶴を放り出す。

 

『ざまぁないわね!』

 

 瑞鶴はそのまま後方に転がり、距離を取って立ち上がる。そのまま海面を漂う弓に駆ける。そう。奴が瑞鶴を移した時、彼女はほんの少しだけ、俺にしか分からない程度に小さくVサインを作ったのだ。多分分かるのは俺と加賀、翔鶴くらいだろう。いつも加賀に悪戯して説教される時、後ろ手で見せつけるように小さく示したサインだからだ。

 

 俺は反撃のタイミングを掴むため、彼女を信じることにした。

 

『壊れかけの人形がっ!』

 

 Deep-1が虚空から主砲を展開する。命中すれば、瑞鶴は轟沈必至だろう。だがそうはならない。死んだふり(・・・・・)をしていた翔鶴が立ち上がり、艦載機を発進させたからだ。

 

『瑞鶴はやらせません!』

 

 消耗から機数こそは少ないが、至近距離に近づけてしまった以上、無視の出来ない火力だ。霞はじめ、随伴艦たちもよろよろと立ち上がって主砲を構える。

 

『だからなに? これで形勢が逆転したとでも思うわけ?』

「ああ。思うね!」

 

 確かに半壊した現状の戦力では、こいつを止める事は出来ない。今の(・・)戦力ではな。

 

「イク! ゴーヤ! ぶっ放せ!」

『任せるのね!』

『りょーかいでち!』

 

 Deep-1には反応する暇すら与えない。奴が何か答える前に、既に酸素魚雷の直撃を受けていた。そう。彼女たちがずっと待っていた援軍。

 

『潜水艦! 何でこんなところに!?』

 

 足が遅く先頭きっての進出に向いていない。それは大戦型潜水艦の常識。潜水艦の艦娘と現行型の潜水艦。戦闘力こそ大人と子供だが、長い時間高速で潜水航行できると言う点で、前者は後者に劣っている。だがな。

 

『あなた! 一体どんな魔法をっ!』

 

 流石のDeep-1も余裕を失っている。もちろん手を緩める義理は無い。

 

「そんな事教えてやるわけねーだろバーカ! 今まで踊ってくれて礼を言うぜ。代わりにたんと弾をくれてやるよ」

 

 状況はどんどん推移してゆく。

 

『追いついた! 行くわよみんな!』

『うん!』

『任せて!』

『ほいさっさ!』

 

 追いついてきた七駆が砲撃を敢行する。

 

『第十一駆逐隊、吹雪!  突撃します!』

『狙いよし。撃ち方はじめ…』

 

 吹雪率いる護衛艦隊も、砲門を開いた。

 ひとつひとつの戦力は微々たるものだが、空中、水上、水中の立体攻撃を至近距離でかわすのは至難の業。そしてこのまま時間を稼げば、二航戦と金剛型、ビスマルクが到着する。消耗している状態でひっくり返せる物量ではないはずだ。

 

『ふふっ。あはははは! いいわ。あなた達面白いわね! ますますその信頼を壊したくなっちゃった』

 

 この期に及んで不吉な事を言い出す。だがもう耳を貸す気は無い。金剛たちの到着まで、状況を引き延ばすだけだ。

 

『あなた達を壊す(・・)のは結構簡単かもね。あなた(・・・)を壊せばいいんだから!』

「残念ながら買い被りだ。俺は仮免提督なんでな」

 

 この余裕は何だ? まだ何か隠しているな?

 

「うふふ。いいわ再戦しましょう。あなた壊れたら、この子は悲しむかしら。ひょっとして恋仲? こんな壊れやすい人間(モノ)を、よくもまあ大事に扱うものね」

 

 Deep-1が唇を舐めた。

 

『総員注意しろ! 何か出すぞ!?』

 

 この警告が無ければ危なかったかもしれない。Deep-1の背中で空間が歪み、黒い球体が撃ち出された。全員が散開し、距離を取る。

 

 カメラのフラッシュを1,000倍大きくしたような閃光に照らされ、目を塞ぐ。轟音の後、再び通信は途切れた。

 

「映像回復します!」

 

 今度は二度目だ。対応も早かった。つながったカメラでは撹拌(かくはん)機でかき回したように波が荒れ、艦娘たちをゆすっていた。Deep-1の姿は、すでに無かった。

 

「夕張、映像は見ているな」

 

 工廠で待機中の夕張を呼び出す。こういう時、俺では判断がつかない。もし奴が核でも使ったのならとんでもない事になる。艦娘にも深海棲艦にも核は効かないそうだが、丹賑(ニニギ)島には民間人も人間の隊員もいる。そんな中で被爆した艦娘が帰還したら。

 いやそれよりも深海棲艦が核を保有しているならば、これから戦争の様相が変わりかねない。

 

『大丈夫です。恐らく戦術核ではなく気化爆弾だと思います。加圧しして沸騰させた燃料を爆発させて衝撃波を発生させる武器です』

「ヤバい武器じゃないか!」

『ただ艦娘の武器より有効射程が短いので、通常の交戦で使われることは無いと思います』

「つまり、今回みたく接近戦用と言う事か」

 

 奴らも手を変え品を変えで攻めてくる。こちらもどんどん強くなって対抗しなければならない。

 

「それにしても、どうやってイクさんとゴーヤさんをあそこまで連れてきたんですか?」

 

 大淀が問う。赤城の肩を抱きながら。

 

「簡単だ。二人は駆逐艦たちに牽引してもらったのさ。最大船速でぶっ飛ばして貰ったおかげで、ギリギリ間に合った」

 

 多分そのせいで艤装は使い物にならんな。この大変な時に突貫工事で修理しなければいけない。

 

「あなたは」

 

 絞り出すように赤城が言った。大淀が立ち上がり、俺を見る。さあ代わってあげてくださいと言っているのが分かった。まさか肩を抱くわけにはいかず、俺はしゃがんで目線を合わせた。

 

「あなたは、滅茶苦茶です」

 

 その言葉は呆れから来るものなのだろうか? それとも何か意図があるのか。俺には分からない。

 

「滅茶苦茶上等だ。皆の為なら、いくらでも滅茶苦茶をやるさ」

 

 赤城は答えない。だから俺は付け加えた。

 

「お前も同じだ。さあ言ってくれ。あの化け物を叩きのめす方法ならジャンジャン考えるぞ。それでお前が元気になるならな」

 

 こんな事しか言えない自分が嫌だ。それでもその偽善は続けるしかない。俺の言葉の百分の一でも、彼女に届けと願いながら。

 

「どうしてです? どうしてそんな優しい事を言うんです? 裏切り者の私に」

 

 誰もこいつが裏切ったなんて思わない。ミッドウェイのトラウマで傷ついたこいつに全部背負わせた海神とか言うのも酷けりゃ、艦娘の力を認識しながら、事なかれ主義でほっかむりをした偉い人だって十分酷い。裏切り者であると言うのなら寄ってたかって押し付けた世界全部がこいつを裏切った。

 

 ――あなたが人殺しであると言うのなら、そこまであなたを追い詰めた深海棲艦が一番の人殺しでしょう? 自分の心の傷から逃れるため、あなたの心を壊しかけた後輩の奥さんも被害者ではあるけれど人殺し。この戦争自体があなたにそんなものを背負わせ勝手に人殺しにしようとしている。そうじゃない?

 

 そう言えば、同じような事を先輩に言ってもらったっけ。そうか。俺がこいつを気にしてしまうのは、似た者同士だったって事だ。だとしたら俺が出来る事は、傷の舐め合いではないはずだ。

 

「嫌なんだよ。皆の前だとほわーんとしてるくせに、俺相手だと鼻っ柱が強いやつが元気じゃないのは。俺まだお前に『やんす』って言わせてねーんだよ」

 

 赤城は驚いたように俺を見て、ぼそりと言った。

 

「あなたは、馬鹿です」

 

 そんな事、言われるまでもない。

 

「ああ。知ってる」

 

 思った事を答えたら、赤城は泣いた。大声を上げて。始終取り乱し、自分を責めたてていた彼女が、感情を外に向けてくれた。ほんのそれだけの事で、俺は少しだけ安堵した。




区切りがついたので、また週一連載に戻ります。次の更新は17日を予定。
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