あの状態の彼女も好きなんですが、やっぱ楽しそうであって欲しいですよね。
Starring:提督
戦艦日向。配属後はダウナーで投げやりな言葉も目立つ
で、うちの日向はと言うと。
「私たちは、何のために戦うのだろうな……」
航空戦艦になってもこの始末である。彼女は任務が無い時ずっと海を見ている。それが好きならいいんだが、どうも他にする事がないっぽいんだよな。
「ねえ、何とかならないかな?」
ひょこっと執務室に顔を出したのは、駆逐艦子日である。漣が「
日向かぁ。そうは言ってもなぁ。俺は、彼女の後姿を思い出す。
「あいつ、瑞雲にも関心を示さないらしいやん……いや示さないんだろ?」
やべ、昨日の癖が。隣の席で作業していた漣がぷっと吹き出した。覚えてろよ。子日はうーんと考えて、首を傾けた。
「何か、大切なものを探していると思うんだ」
「大切なもの?」
子日の言葉はどうにも茫洋としている。伝わらないと感じると新たな言葉をひねり出した。
「自分を自分にしてくれるもの! 楽しい事!」
あーそれなら何か分かる。俺も経験あるわ。
「他の鎮守府だと、改装を受けてから明るくなるよな?」
その代わり瑞雲だ航空戦艦だと言い出すわけだが。ぼけーっと考えていると、漣が割って入って来た。
「つまり、ちょっと前のご主人さまみたいな感じだったと」
「ええっ、提督そうだったの?」
子日は純真にも聞き返してくる。とりあえずその話は勘弁してくれ。それにしてもこいつ、俺を最初から提督と呼んでくれるんだよな。まあ昔の俺と、今の日向が同じような状態にあるとは理解した。ならばあの時と同じ解決法で良いんじゃないだろうか。
「……何してるんですか?」
いきなり、漣が謎な事を言い出した。
「えっ? 何って仕事だが?」
当然のことを言ったつもりなのだが、盛大に溜息をつかれてしまった。
「ご主人さまのお仕事は赤城さんの謎かけの答えを探す事でしょう? 何のために鈴木さんを呼び寄せたんですか」
鈴木一曹が無言で頷いている。そうでした。二の句も告げん。つまり「事務仕事など任せて、艦娘たちとコミュニケーションを取ってこい」と言う事だ。
「お前が教えてくれればなぁ」
「教えてもいいですけど、自分の言葉で言えないと赤城さんは納得しないと思いますよ?」
そんなものだろうか。謎は深い。ではペシミスト嬢のところに赴くとしよう。
「じゃあ鈴木一曹も漣も、後は任せた」
「
鈴木一等兵曹は、返事はせず黙礼する。こいつもちょっと変わってるな。
五分後、俺たちは早速埠頭で黄昏ている日向を見つけた。
「あ、君……いや、提督か」
予想通りダウナーな言葉をぶつけられる。思いっきり無関心そうだ。こちらも一応提督とは呼んでくれるみたいだが。関心がないだけの気もする。
「こんにちわー! 日向さん!」
「……ああ、いい
子日の挨拶もにも全然テンションが上がらない。と言うか、いい日和を喜ぶテンションではない。
「ね? 何とかしてあげたいでしょ?」
子日が俺の顔をのぞき込んでくる。この子いい子やな。とりあえず日向は強制連行だ。
「よし、こっちだ」
「行こー行こー!」
子日と二人戸惑う彼女の背中を押す。さて何から始めたものか。結局執務室にとんぼ返りして、併設してる仮眠室へ。そして
「これは、なんなんだ?」
「お前の好きなものを探すんだよ」
「好きなもの?」
日向はピンとこない様子で、首を傾げた。そう、色々あって廃人みたいになってた俺を救ってくれた、木葉先輩がやったのと同じ事。それが好きなもの探しだ。ちょうど空母赤城が裁縫を見つけてもらったように。釣りだのサバゲーだのアウトドアだの。果ては囲碁将棋に短歌まで、あちこち連れまわしてくれた。この戦時下にだ。そこで俺は「映画」を見つけた。
「じゃあ、こいついくぞ。名画中の名画『カサブランカ』だ!」
「おおー!」
良くわかってない様子の子日がぱちぱちと拍手するが、この映画は凄いんだぞ! ナチが台頭したヨーロッパ。弾圧から逃げ出そうとする人々が集う街カサブランカ。そこで繰り広げられる、三人の男女が織りなすロマンス。そして愛する人の為、最後に下す主人公の決断。まさに名画! これもうDVDが擦り切れるほど見たと言っても過言でないのだ。さっそく映像を起動する俺と、画面と日向をそわそわと交代で見ている子日。
「ううっ、何でこんな気高い決意が出来るんだ! ほんとにお前は彼女の事を想ってたんだなぁ!」
「大丈夫だよ! きっとみんな幸せになれるよ! ずずずっ」
いつものようについ盛り上がってしまう俺と、同じく感動してくれた様子の子日。で、日向はと言うと……。
「うん、最後に男と女が別れて、そうじゃない方と飛行機に乗ったな」
え? それが感想?
「あと、瓶をゴミ箱に捨てた」
……。
「一応聞くが、感動したか?」
「感動と言うか……」
日向は首をかしげると、言った。
「イカサマはいかんと思うのだがな」
そこかよ! 確かに主人公がイカサマするシーンあるけど。
とりあえず分かった。今のこいつは映画で泣いたりするアンテナが立ってない。余裕がないのかもしれない。そんな好きじゃないだけな可能性もあるが。ならば泊地でできる事は皆やってみる覚悟で行こう。
まずは釣りから。
「日向さん! 引いてるよ?」
「引いてる? 何がだ?」
「魚が引いてるんだよ。早くリールを……」
「私たちは何の為に戦っているのだろうね?」
「今それはいいから!」
次は料理だ!
「日向さん、どうしたの? じゃがいもずっと見て」
「私たちは人の身体を得た。食事を採ることが出来るようになった。それは業を背負うことではないか? 船でいる間は油だけあれば生きていけたんだ。しかし今は生きるために生き物を殺さねば……」
「重いわっ! 今やってるのただの料理だから!」
水泳なんかどうだ!?
「提督! 日向さんがつま先から垂直に沈んでいくよ!」
「嘘だろ!? 俺が飛び込むから誰か潜水艦呼んでこい!」
すまん子日。「頭を抱える」と言うのはこう言う事だったんだな。夕方の桟橋に手を突き、水着姿の俺は敗北感に包まれていた。
「なあ日向、お前の方でやってみたい事はないのか?」
「特にない」
言い切りやがった。これは敗北Dだな……。
そんな敗北感溢れる俺たちに、日向は言った。相変わらず薄い笑顔で。
「ありがとう。今日は楽しかった」
えっ?
「あの、あんなにつまらなそうにしてたのにか?」
俺は思いっきり戸惑ったが、子日の方はやったーと万歳をした。
「楽しければ楽しそうにしなければならんのか。それは悪かった」
いやいやいや、そういう事じゃなくて。
「まあ、そのなんだ。俺も楽しかったし」
「子日もだよ!」
結局、色々余計な心配だったらしい。
彼女はそれなりに楽しんでいるし、楽しくない事を強要されたら嫌だと言うだろう。
散々から回ったが、悪くない一日だった。
「また3人で、映画見ようぜ」
そこで日向は、笑ってくれた。
うん。彼女は、彼女で良い。
「日向さーん、明石が新装備を試して欲しいそうですー」
交渉に続く道から、大淀が手を振っている。
俺もそろそろ、鈴木一等兵曹たちが処理した書類を決裁しなければ。
「提督っ! 今日はありがとう!」
工廠に行く日向を見送って、子日を寮まで送る。俺みたいのに一日連れまわされて、心配している奴もいるだろう。
「何で日向の世話を焼こうと思ったんだ? 船だった頃も、あんまり接点なかったよな?」
子日は暫し首を傾け、ぱっと明るい表情を浮かべた。
「記念日だから!」
記念日? 今日は子の日じゃないはず。
「毎日が記念日なんだよ! 子日たちは人の身体になって、それはとっても素敵な事だから。一日一日が記念日なの!」
へたくそな説明だが、言わんとしている事はこれ以上ないくらい伝わった。彼女は、日々を慈しんでいるわけだ。それは、とっても素敵な事で……。
「だからね、悲しい人がいたら、”素敵”を分けてあげたいの!」
子日、お前俺なんかよりよっぽど提督に向いてるよ。
「よし、褒美をやろう。小遣いやるからアイス買っていいぞ」
「わーい!」
明日からの針の筵生活も頑張れそうな気がしてきた。
”素敵”をもらったからな。
後日談
あれから、変な噂が流れている。
「あの『やんす』の人、駆逐艦にお金渡して連れまわしてたんだって」
「言語道断ですね。あなたも気を付けるべきだわ」
「ほんと情けないったら!」
どうしてそんな話になったのか。初春の厳しい尋問で疑惑は晴れたと思ったんだが。ハイ、嫌われてる俺が悪いんです。
とぼとぼと執務室に入る。暫くここから出たくないが、そうもいくまいな。
「おお提督!」
中で待っていたらしい。水上機を抱えた日向が、食い気味に話しかけてきた。書類仕事中の大淀が苦笑いをしている。
「どうだ! 明石に調整してもらった瑞雲だ。方向舵を弄った結果、旋回に入る際の操作性が改善した。是非、正式に導入を!」
な、何があった? 「彼女は彼女でいい」は何処へ行った?
「どうも明石のところで、瑞雲を受け取ったら良さに目覚めたみたいで」
「困りました」と言う表情だが、俺も困ってる。結局彼女は「師匠」になってしまったわけだが。
「分かった。今配備してる瑞雲は全部明石に調整してもらう」
「すまないな。最上のやつのも頼むぞ?」
彼女は意気揚々と執務室を出て行く。ドアノブに手をかけ、何か思いついたようなそぶりをする。
「また映画に誘ってくれ。今度は水上機が活躍するやつを」
ぱたんと締まる戸を、俺はあんぐりと見守った。
「どうされたんですか?」
大淀の問いで我に返る。まあつまり、なんだ……。
「やっぱり、”彼女は彼女”だったって事だな」
10/26 提督の私室の場所に矛盾がありましたので修正しました(´・ω・`) 彼が住んでいる場所は男性寮に統一します。