仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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日向って師匠のイメージ強いから配属時の後ろ向きっぷりにびっくりしました。

あの状態の彼女も好きなんですが、やっぱ楽しそうであって欲しいですよね。


第7話「提督、日向、子日のペシミスト治し隊」

Starring:提督

 

 戦艦日向。配属後はダウナーで投げやりな言葉も目立つ悲観主義者(ペシミスト)。だが練度を上げて航空戦艦に改造されると、妙にテンションが上がる。そして航空火力艦と瑞雲水偵に情熱を注ぐようになるのだ。その間彼女に何があったかは知らないが、少なくとも他の鎮守府ではそうだ。

 

 で、うちの日向はと言うと。

 

「私たちは、何のために戦うのだろうな……」

 

 航空戦艦になってもこの始末である。彼女は任務が無い時ずっと海を見ている。それが好きならいいんだが、どうも他にする事がないっぽいんだよな。

 

「ねえ、何とかならないかな?」

 

 ひょこっと執務室に顔を出したのは、駆逐艦子日である。漣が「(おつ)!」とまた謎の言葉を話し、鈴木一曹がぺこりと頭を下げた。ちょうど俺と一緒に島に届いた物資の割り振り作業をしていたところだ。

 

 日向かぁ。そうは言ってもなぁ。俺は、彼女の後姿を思い出す。

 

「あいつ、瑞雲にも関心を示さないらしいやん……いや示さないんだろ?」

 

 やべ、昨日の癖が。隣の席で作業していた漣がぷっと吹き出した。覚えてろよ。子日はうーんと考えて、首を傾けた。

 

「何か、大切なものを探していると思うんだ」

「大切なもの?」

 

 子日の言葉はどうにも茫洋としている。伝わらないと感じると新たな言葉をひねり出した。

 

「自分を自分にしてくれるもの! 楽しい事!」

 

 あーそれなら何か分かる。俺も経験あるわ。

 

「他の鎮守府だと、改装を受けてから明るくなるよな?」

 

 その代わり瑞雲だ航空戦艦だと言い出すわけだが。ぼけーっと考えていると、漣が割って入って来た。

 

「つまり、ちょっと前のご主人さまみたいな感じだったと」

「ええっ、提督そうだったの?」

 

 子日は純真にも聞き返してくる。とりあえずその話は勘弁してくれ。それにしてもこいつ、俺を最初から提督と呼んでくれるんだよな。まあ昔の俺と、今の日向が同じような状態にあるとは理解した。ならばあの時と同じ解決法で良いんじゃないだろうか。

 

「……何してるんですか?」

 

 いきなり、漣が謎な事を言い出した。

 

「えっ? 何って仕事だが?」

 

 当然のことを言ったつもりなのだが、盛大に溜息をつかれてしまった。

 

「ご主人さまのお仕事は赤城さんの謎かけの答えを探す事でしょう? 何のために鈴木さんを呼び寄せたんですか」

 

 鈴木一曹が無言で頷いている。そうでした。二の句も告げん。つまり「事務仕事など任せて、艦娘たちとコミュニケーションを取ってこい」と言う事だ。

 

「お前が教えてくれればなぁ」

「教えてもいいですけど、自分の言葉で言えないと赤城さんは納得しないと思いますよ?」

 

 そんなものだろうか。謎は深い。ではペシミスト嬢のところに赴くとしよう。

 

「じゃあ鈴木一曹も漣も、後は任せた」

おk(オーケー)、任されました」

 

 鈴木一等兵曹は、返事はせず黙礼する。こいつもちょっと変わってるな。

 

 

 

 五分後、俺たちは早速埠頭で黄昏ている日向を見つけた。

 

「あ、君……いや、提督か」

 

 予想通りダウナーな言葉をぶつけられる。思いっきり無関心そうだ。こちらも一応提督とは呼んでくれるみたいだが。関心がないだけの気もする。

 

「こんにちわー! 日向さん!」

「……ああ、いい日和(ひより)だな」

 

 子日の挨拶もにも全然テンションが上がらない。と言うか、いい日和を喜ぶテンションではない。

 

「ね? 何とかしてあげたいでしょ?」

 

 子日が俺の顔をのぞき込んでくる。この子いい子やな。とりあえず日向は強制連行だ。

 

「よし、こっちだ」

「行こー行こー!」

 

 子日と二人戸惑う彼女の背中を押す。さて何から始めたものか。結局執務室にとんぼ返りして、併設してる仮眠室へ。そして内地(本土)から持ち込んだ荷物をガサゴソと漁る。完全に趣味の部屋になってるが、突っ込まれるまで黙っていよう。なおテレビは恐らく、先輩の私物である。

 

「これは、なんなんだ?」

「お前の好きなものを探すんだよ」

「好きなもの?」

 

 日向はピンとこない様子で、首を傾げた。そう、色々あって廃人みたいになってた俺を救ってくれた、木葉先輩がやったのと同じ事。それが好きなもの探しだ。ちょうど空母赤城が裁縫を見つけてもらったように。釣りだのサバゲーだのアウトドアだの。果ては囲碁将棋に短歌まで、あちこち連れまわしてくれた。この戦時下にだ。そこで俺は「映画」を見つけた。

 

「じゃあ、こいついくぞ。名画中の名画『カサブランカ』だ!」

「おおー!」

 

 良くわかってない様子の子日がぱちぱちと拍手するが、この映画は凄いんだぞ! ナチが台頭したヨーロッパ。弾圧から逃げ出そうとする人々が集う街カサブランカ。そこで繰り広げられる、三人の男女が織りなすロマンス。そして愛する人の為、最後に下す主人公の決断。まさに名画! これもうDVDが擦り切れるほど見たと言っても過言でないのだ。さっそく映像を起動する俺と、画面と日向をそわそわと交代で見ている子日。

 

「ううっ、何でこんな気高い決意が出来るんだ! ほんとにお前は彼女の事を想ってたんだなぁ!」

「大丈夫だよ! きっとみんな幸せになれるよ! ずずずっ」

 

 いつものようについ盛り上がってしまう俺と、同じく感動してくれた様子の子日。で、日向はと言うと……。

 

「うん、最後に男と女が別れて、そうじゃない方と飛行機に乗ったな」

 

 え? それが感想?

 

「あと、瓶をゴミ箱に捨てた」

 

 ……。

 

「一応聞くが、感動したか?」

「感動と言うか……」

 

 日向は首をかしげると、言った。

 

「イカサマはいかんと思うのだがな」

 

 そこかよ! 確かに主人公がイカサマするシーンあるけど。

 

 とりあえず分かった。今のこいつは映画で泣いたりするアンテナが立ってない。余裕がないのかもしれない。そんな好きじゃないだけな可能性もあるが。ならば泊地でできる事は皆やってみる覚悟で行こう。

 

 まずは釣りから。

 

「日向さん! 引いてるよ?」

「引いてる? 何がだ?」

「魚が引いてるんだよ。早くリールを……」

「私たちは何の為に戦っているのだろうね?」

「今それはいいから!」

 

 次は料理だ!

 

「日向さん、どうしたの? じゃがいもずっと見て」

「私たちは人の身体を得た。食事を採ることが出来るようになった。それは業を背負うことではないか? 船でいる間は油だけあれば生きていけたんだ。しかし今は生きるために生き物を殺さねば……」

「重いわっ! 今やってるのただの料理だから!」

 

 水泳なんかどうだ!?

 

「提督! 日向さんがつま先から垂直に沈んでいくよ!」

「嘘だろ!? 俺が飛び込むから誰か潜水艦呼んでこい!」

 

 

 

 すまん子日。「頭を抱える」と言うのはこう言う事だったんだな。夕方の桟橋に手を突き、水着姿の俺は敗北感に包まれていた。

 

「なあ日向、お前の方でやってみたい事はないのか?」

「特にない」

 

 言い切りやがった。これは敗北Dだな……。

 

 そんな敗北感溢れる俺たちに、日向は言った。相変わらず薄い笑顔で。

 

「ありがとう。今日は楽しかった」

 

 えっ?

 

「あの、あんなにつまらなそうにしてたのにか?」

 

 俺は思いっきり戸惑ったが、子日の方はやったーと万歳をした。

 

「楽しければ楽しそうにしなければならんのか。それは悪かった」

 

 いやいやいや、そういう事じゃなくて。

 

「まあ、そのなんだ。俺も楽しかったし」

「子日もだよ!」

 

 結局、色々余計な心配だったらしい。

 彼女はそれなりに楽しんでいるし、楽しくない事を強要されたら嫌だと言うだろう。

 

 散々から回ったが、悪くない一日だった。

 

「また3人で、映画見ようぜ」

 

 そこで日向は、笑ってくれた。

 うん。彼女は、彼女で良い。

 

「日向さーん、明石が新装備を試して欲しいそうですー」

 

 交渉に続く道から、大淀が手を振っている。

 俺もそろそろ、鈴木一等兵曹たちが処理した書類を決裁しなければ。

 

「提督っ! 今日はありがとう!」

 

 工廠に行く日向を見送って、子日を寮まで送る。俺みたいのに一日連れまわされて、心配している奴もいるだろう。

 

「何で日向の世話を焼こうと思ったんだ? 船だった頃も、あんまり接点なかったよな?」

 

 子日は暫し首を傾け、ぱっと明るい表情を浮かべた。

 

「記念日だから!」

 

 記念日? 今日は子の日じゃないはず。

 

「毎日が記念日なんだよ! 子日たちは人の身体になって、それはとっても素敵な事だから。一日一日が記念日なの!」

 

 へたくそな説明だが、言わんとしている事はこれ以上ないくらい伝わった。彼女は、日々を慈しんでいるわけだ。それは、とっても素敵な事で……。

 

「だからね、悲しい人がいたら、”素敵”を分けてあげたいの!」

 

 子日、お前俺なんかよりよっぽど提督に向いてるよ。

 

「よし、褒美をやろう。小遣いやるからアイス買っていいぞ」

「わーい!」

 

 明日からの針の筵生活も頑張れそうな気がしてきた。

 

 ”素敵”をもらったからな。

 

 

 

 後日談

 

 あれから、変な噂が流れている。

 

「あの『やんす』の人、駆逐艦にお金渡して連れまわしてたんだって」

「言語道断ですね。あなたも気を付けるべきだわ」

「ほんと情けないったら!」

 

 どうしてそんな話になったのか。初春の厳しい尋問で疑惑は晴れたと思ったんだが。ハイ、嫌われてる俺が悪いんです。

 とぼとぼと執務室に入る。暫くここから出たくないが、そうもいくまいな。

 

「おお提督!」

 

 中で待っていたらしい。水上機を抱えた日向が、食い気味に話しかけてきた。書類仕事中の大淀が苦笑いをしている。

 

「どうだ! 明石に調整してもらった瑞雲だ。方向舵を弄った結果、旋回に入る際の操作性が改善した。是非、正式に導入を!」

 

 な、何があった? 「彼女は彼女でいい」は何処へ行った?

 

「どうも明石のところで、瑞雲を受け取ったら良さに目覚めたみたいで」

 

 「困りました」と言う表情だが、俺も困ってる。結局彼女は「師匠」になってしまったわけだが。

 

「分かった。今配備してる瑞雲は全部明石に調整してもらう」

「すまないな。最上のやつのも頼むぞ?」

 

 彼女は意気揚々と執務室を出て行く。ドアノブに手をかけ、何か思いついたようなそぶりをする。

 

「また映画に誘ってくれ。今度は水上機が活躍するやつを」

 

 ぱたんと締まる戸を、俺はあんぐりと見守った。

 

「どうされたんですか?」

 

 大淀の問いで我に返る。まあつまり、なんだ……。

 

「やっぱり、”彼女は彼女”だったって事だな」

 




10/26 提督の私室の場所に矛盾がありましたので修正しました(´・ω・`) 彼が住んでいる場所は男性寮に統一します。
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