仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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兵器の描写が分かりづらいとのご指摘を受け、試行錯誤もしてみたのですが――結局「細かく説明しても面白くない」と開き直って、スロットル全開で突っ走った結果がこちらです。

それはさておき、うちの加賀さんはすっかりシリアスとギャグの極端な二刀流キャラと化してきましたね……w


第74話「赤城、タイマンを張る」

14:42(ヒトヨンヨンフタ) 丹賑(ニニギ)島南東海域

 

Starring:提督

 

 突然高速艇に衝撃が走る。それが曙の体当たりだと気付いた瞬間、すぐ足元を伸びて行く雷跡に気付いた。

 

「周辺を警戒しろ! 奴が来るぞ!」

 

 七駆の面子が高速艇を取り囲み、四方を警戒する。しかしDeep-1(ディープ・ワン)。魚雷まで使えるのか! どれだけ万能なんだよ。

 

「正気かしら? これだけの戦力で私を迎え撃つ気?」

 

 余裕そうに言いはするが、Deep-1の表情は僅かにいらついている。正直こいつがここまで直情じゃなきゃ何人か轟沈を出していたかもな。だがもちろんそんな事を気遣ってやる気は無いし、そんな余裕もない。

 

「お前なんか勘違いしてるから教えてやるけど、今日戦うのは赤城一人だぞ?」

 

 深海の戦鬼は目をすっと細めた。まずは最初のジャブが入ったようだな。

 

「あなたの大事なお仲間が腕一本引っこ抜かれたのを忘れたの?」

「いいえ。覚えていますよ。たかが腕の一本です。無駄な努力だったと思いますが」

 

 弓を構えて立ちはだかったのは、一航戦赤城。「無駄な努力」だったことは俺も同意見だ。何故なら――。

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

Starring:加賀

 

「快感……だわ」

 

  一航戦加賀がつぶやいたのは、30発の45ACP弾を一気に撃ち切るのと同時だった。らしくもなく頬が紅潮している事が、自分にも分かる。

 M3A1サブマシンガン。通称〔グリースガン〕。以前提督が見ていた変な映画で、何故か女学生がバリバリ撃っていたのだが、射撃姿勢がまるでなっていなかった。それはそうと、あれを見て自分も撃ってみたいと思わない艦娘は存在しない。しないったらしない。

 

「この武骨で鉄くさい感じも最高だけれど。見た目に反してコントロールがしやすいわ。拳銃弾が弾ける音も風情があります」

 

 もっと撃っていたいが、今の加賀は片腕が使えない。リロードが出来ないから、銃ごと取り換えるしかない。隣で待機している明石さんに手渡した。

 

「どうですか? オードブルに大戦期のアメリカ軍を支えた名銃をチョイスしてみました」

「結構なお点前でした。これを急造の間に合わせと侮る者の顔が見たいところです」

「そうでしょうそうでしょう。今回は特別仕様ですからね。良いレビューを期待してますよ」

 

 助手役の明石さんもやる気に満ち溢れていて好ましい。背中のコンテナに〔グリースガン〕を仕舞い込むと、次の逸品を取り出す。

 

「じゃじゃーん!」

「これが……これが噂の!」

「そうです。死ぬまでに一度、これを思うがまま撃つことがガンマニアの悲願なのです」

 

 代わり渡された重量物は、ひたすら力強く、それでいて精緻な銃。うふふ、ずっと撃ちたかったの。グロスフス〔MG42〕多目的機関銃。〔グリースガン〕を「鉄くさい」と評するなら、このでかいマシンガンは「鉄塊」だ。この攻撃的なデザインを見てしまったら、追い求めずにはいられない。

 米軍がコピーを取りやめるほど、湯水のように弾丸を消費するおばけ機関銃。普段好き勝手に撃ってしまったら、提督が破産するので、任務にかこつけて使用できるこの瞬間を待っていたのだ。

 

「……さあ、嵐が来ますよ!」

 

 深海棲艦どもに宣戦布告し、トリガーを絞る。薬莢と共に吐き出された音は、その攻撃的な外見に反して理知的なものだった。戦争の狂気と理性を反映する矛盾の象徴は、加賀をこんなにも惹きつける。この瞬間、加賀は銃の設計者と対話しているのだった。

 

 立ちふさがった駆逐艦が次々穴だらけになって海中に引きずり込まれてゆく。あらゆる陸軍の耳目を集めた傑作機関銃。堪能させてもらいました。

 

「……そろそろメインディッシュかしら?」

「おおっ、今日はいつも以上にノリが良いですね!」

「そうね。お祭りのようなものだから」

 

 明石さんは多分言外の言葉を読み取ってくれて、次のメニューを差し出してくれる。肩に担いで撃つタイプの大砲だ。それは簡素でありながら、〔MG42〕とはまた違った攻撃性を持つ外見。今までの銃に比べ全く洗練されていない。言うなれば野暮ったい。しかしそれがいっそう加賀の興味を惹いた。自分はこれを、撃ってみたい。

 

「英国製の〔PIAT(ピアット)〕と言う、〔バズーカ〕砲のライバル兵器です。再装填は手間だし、照準もちょっと厄介。でもその辺の弱点、艦娘にはまるで問題になりません。むしろ派手な炎を出す〔バズーカ〕よりも、奇襲にはうってつけです」

「このニッチなチョイス。流石ですね明石さん」

「ふっふっふ。お代官様。お褒めにあずかり光栄です」

 

 早速撃ち出された弾頭は、曲線の弾道を描いて敵に着弾。爆ぜた。これはいいわ。

 

「あのー、もう良いんじゃないでしょうか? あとは引き継ぎますから、危険な事は……そろそろ」

 

 護衛の駆逐艦たちを率いた阿武隈が恐る恐る尋ねてくるが、こんな楽しい事止められ……ではなく、自分はここで好き勝手振舞い続ける必要がある。まだデザートを満喫していないし。

 

「駄目よ。私たちがこうしていれば赤城さんに向かってくる敵が減るのよ」

 

 加賀は赤い弓道着(・・・・・)ストレートヘア(・・・・・・・)を颯爽となびかせて、敵艦隊を見据える。自分は囮。提督曰く、加賀が見え見えの格好で囮をすれば敵は分断できる。

 そして弓は両手でしか引けないが、銃であれば片手でも戦える。

 

 第一に赤城がここにいるアピールすれば、深海棲艦は幻惑される。

 第二にあからさまな囮を演じる事でDeep-1を挑発し、本命である赤城さんに向かわせる事だ。

 

「デザートは〔九七式自動砲〕にございます。素材価格は軍用ライフルの80挺分。入手困難な高級食材です!」

 

 自分の身長より長い銃をがっしり掴む。そわそわと時計を見ていた阿武隈が、視線を上げ、びくっと体を震わせた。

 

「そ、そんな大きい物片手で撃つんですか!? と言うかどうやってコンテナに収めたんですか!?」

 

 驚く気持ちは分かるが、それは本質ではない。真に重要なのは、自分がこれからあの化物ライフルを思う存分撃てると言う事だ。

 

「ふふふ、泊地脅威のメカニズムです」

「それを言えば何でも通る時代はもう終わったと思うんですけど」

 

 阿武隈が気の毒であるとはちょっと思うが、実のところ少し愉快ではある。まあ確かに好き勝手銃を撃つのも愉快ではあるが、そう言う事ではなく。

 

 相方が次の一歩を踏み出したのだ。ちょっとくらいはめを外しても、ばちは当たらないだろう。

 

 Deep-1との一騎討ち。赤城の勝利は微塵(みじん)も疑っていない。あの張りぼての化物は本気を出した赤城さんの怖さを知らない。そしてその本気は、うちの提督が引っ張り出してくれた。

 

 津田宏武。最初はとんだ厄介者と思ったが、彼女の心の壁を一撃で粉砕した事は及第点をあげても良い。それが自分でないのは多少(しゃく)だが、無理に背中を押す事より支える事を選んだ事は間違いではなかったと確信できる。

 自分が支えていたものを半分彼に渡すのもやぶさかではない。⁠何よりそんな選択肢が目の前にある事が喜ばしい。

 

 だから今日ははめを外す。これをやってしまったら、自分の人生ではしゃぐのはあと一回きり。五航戦が自分達を超えた時だけだ。

 

「そりゃ加賀さんなら大丈夫なのは、私だって分かりますけど……でもくれぐれもって皆から言われてるんですよ?」

 

 むくれる阿武隈がつぶやいたのも、しっかり聞こえている。皆を心配させてしまっているのも分かってる。ついでに彼女が優しい子なのも承知している。でも赦してほしい。今日は暴れる日なのだ。自分が今、友のために出来る事をしてやりたいのだ。

 

「食後のコーヒーはいかがですか? 〔四七(ミリ)速射砲〕です! 0.8トンありますが加賀さんなら軽いですよね!」

「任せなさい。対戦車砲は初めてだけれど、初弾命中と言うものをやってみたかったの」

「あのお! ですからぁ!」

 

 散々ぶっ放した後、すっかり拗ねてしまった阿武隈を見て、どうやってお詫びとお礼をしようか考え始める。とりあえず、皆を談話室に読んで、お茶でもご馳走しながらゆっくり話でもしよう。今渦中にいる大切な親友には、感謝はちゃんと言葉にしろと毎回怒られてた。今回こそは、言うべき事を言わねば駄目だろう。ともあれ。

 

 赤城さん。ご武運を――。

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

Starring:提督

 

「ご主人さま、下がって!」

 

 漣が俺の前に立ちはだかる。赤城が倒れたら七駆が最後の防衛線。戦う術は考えているが、帰還は困難を極めるだろう。俺を含めて。

 だがまあ、俺は自分の選択がベストだと信じている。それで駄目ならあがけるだけあがいて、それでも駄目なら(ひざまず)いて命乞いをするさ。

 

「Deep-1、こちらは赤城以外手を出さない。ただし赤城が負けたらその時点で仕掛けるから承知しておけ」

 

 七駆が参戦すると、Deep-1は確実に俺から狙いに来るからな。囮とは言え指揮官が倒れちゃ詰んじまう。辛抱だ。

 

「下らないルールね」

 

 吐き捨てたDeep-1に、赤城が言葉を重ねる。

 

「全くです。提督は私が負けるとでも?」

「そうじゃねーよ。心理戦だ心理戦」

「心理戦である事を敵に明かす心理戦って何ですか?」

「……あっ」

「涙拭けよですご主人さま」

 

 いつもなら嘲笑で応えるDeep-1は、明らかに苛ついている。ほらな。心理戦成功。

 なぜかは分からんし俺の勘に過ぎないのだ、こいつは常にイラついているように見えた。過剰な挑発やヘイトを煽る戦い方は、どう見ても合理的ではない。Deep-1の中の激情がそうさせるのか。何にしても使えるものは何でも使うべきだ。

 

「目障りね。切り裂いても切り裂いても湧いてくるクラゲだわ。一人では何も出来ない癖に!」

 

 Deep-1よ。その例えは上手いとは言えないぜ。

 

「俺達海月(クラゲ)のように群れて慣れ合うのが大好きなのさ。もしかしてお前さん、誰かと馴れ合おうとして出来なかったとか?」

 

 Deep-1は答えず、ただ強い眼光で威圧してくる。あてずっぽうで言ったが、ひょっとして図星だったのかも知れない。だが俺達には、こいつの事情を(おもんばか)る余裕などない。

 

「赤城、じゃあまあ。適当にぶっ散らばっちゃって」

「酷い命令ですね。でも了解です」

 

 この戦いネックは彼女のメンタル面だが、この調子なら大丈夫だろう。そもそもDeep-1に赤城をぶつけようとしたのも、こいつなら復活してくれる、多分心配などないと言う妙な信頼感があったからだ。そのエネルギーが何処からくるのか分からない。だが俺は空母赤城に全幅の信頼を寄せている。

 

「提督。ひとつだけ約束して下さい」

「何だ?」

「私がこいつに勝ったら、これから24時間蒙古弁でしゃべってください」

 

 蒙古弁ってあれか? なんか漣が比叡に教えてたネットミームか? あれをリアルでやるのはかなり痛々しいが。まあ、それも良いじゃないか。

 

「よし、ついでにお前と加賀を満漢全席に連れてってやるよ」

「マジですか! 何たる絢爛!」

 

 赤城は軽口ひとつ。矢筒から一本、矢を抜き取る。

 

「緊張は解けたか? じゃあ行ってこい」

「まったく、最後まで締まりませんね」

 

 苦笑する姿に、気負いは感じない。後は、目の前の敵を討つだけ。

 

「一航戦赤城、参ります!」

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