仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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第78話「平和とは、戦争と戦争の間の準備期間である」

硫黄島攻略作戦発動予定日まであと三日

 

5:38(マルゴサンハチ) 埠頭

 

Starring:提督

 

 いや色々あった。まじで色々あり過ぎて脳みそが処理できん。しかしひとりたりとも轟沈を出さなかった事実は、まあ俺も捨てたもんじゃないと誇ってもいいだろう。九割方あいつら自身の頑張りだが。帰還した見目麗しき水兵(つわもの)達は、ハイタッチを決めたり控えめに笑い合ったり、喧嘩したり。元気で何よりだ。

 俺は(あさひ)に照らされた埠頭で、ひとりひとりねぎらいの言葉をかけてゆく。

 

 整備科の下士官兵たちもまた、やはりひとりひとりおにぎりを渡してくれている。うんと塩を効かせた奴だ。汗を流した後はあれがいい。

 

「先輩! 復活おめでとうございます!」

「うるせー」

 

 手を振りながら駆け寄ってくる南部の姿に、尻尾を揺らす犬を想像してしまった。まあ本質的に大して変わりあるまい。そして俺は仏頂面を浮かべ、意図的に不愛想な態度を取った。感謝してるなんて絶対言ってやらないのだ。

 南部は一切気分を壊した風でもなく、敬礼し指揮官の顔になる。

 

「硫黄島までご一緒したいのですが、内地で中隊の編成を急がなければなりません。〔疾風〕のメンテが終わり次第、俺達は横須賀に帰ります」

 

 そうか。結局一杯やる事は出来なかったが、それは再会した時に取っておこう。

 

「えー。〔ムスタング〕と〔サンダーボルト〕を乗り比べた話とか聞きたかったのに―」

 

 明石が露骨に落胆し、唇を尖らせ、それを見た大淀が額に手を当てている。

 

「俺も枕頭鋲の話とか聞きたかったけど仕方がない。お嬢さん連絡先おしえ痛てててててて!」

 

 例によって一条少尉が南部の足を踏んずけた。南部の事だから、100%下心無かったんだろうが、それはそれでどうなんだと思う。

 

「整備は完璧にやりますから、オーバーホールが終わるまで休んでいてください」

 

 夕張が二人に休憩を勧め、この場はお開きとなった。

 

「よーし、本日は特別食とする」

 

 艦娘達からわっと声援が上がる。予期せぬ出撃のせいで、正直食糧事情も余裕満点ってわけじゃないんだが、それでも皆頑張ってくれたからな。

 

「南部、付き合えよ。酒は無理でもお前甘酒好きだろ?」

 

 南部に声をかけたら苦笑が返ってきた。恐らく俺の回復を喜んでくれつつ、変わり身の早さに呆れていると言ったところだろう。無論その事には触れない。

 

「本当はそれも厳密にはまずいんですけどね。でもまあ喜んで」

 

 一連の協力の礼はともかく、色々報告もせにゃならん。漣と赤城の件は伏せておくが。彼女らの姿を探すと、何事も無かったように相棒や姉妹と談笑している。

 

 あの二人については正直嬉しいより気が重いが、不誠実な対応はもうしないと自分で決めた。硫黄島作戦が終わったら、腹を割って話してみよう。いやあいつらはもう腹を割ってるな。あとは俺がさらけ出さなきゃだめだ。

 

「一条少尉、良ければ貴官も」

 

 甘酒を勧めようとしたが、彼女の視線はこちらではなく、艦娘たちに向いていた。

 

「その前に、皆さんに話したい事があります」

「少尉?」

 

 怪訝そうに南部を見やると、こいつらしくなく「あーあ、やっちまった」と言う顔をしている。

 

「先輩。先に謝っておきます」

 

 気まずそうな南部が耳打ちしてきた。これは防大時代散々見せつけられた、やらかした時の顔だ。

 

「どういう事だ?」

 

 南部の返事よりも早く、爆弾は投下された。少尉は自分の相棒(ウィングマン)を指さす。

 

「私はこの人の為なら死ねます」

 

 ざわついていた場が静まり返る。

 

「はぁ?」

 

 真っ先に発言したのは霞だった。声のニュアンスから伝わるのは「どう言う事ですか?」ではなく、「あんたは何を言っているの?」だろう。しかし少尉は気にせず続ける。

 

「もしあなた達のなかで、津田少佐の為に死ねると言い切れる女性(ひと)がいるなら、急いだほうが良いです」

 

 俺は、いやこの場にいる全員が口を開け固まった。南部も手のひらで目を塞ぎ、天を見上げている。

 

「もし自分が先に逝ってしまえば、抱きしめてもらう事は出来なくなります」

 

 予想通り赤城はむっとしている。まああいつなら余計なお世話だと思うわな。

 漣は真面目な顔で一条少尉の顔を見ている。

 さっき文句を言った霞は、何故か真っ赤になってぷるぷる震えている。そんなにいらっと来たのか?

 足柄は「そのケンカ買うわ」と言わんばかりに前のめりだし、鈴谷と熊野がお互いの顔を見合わせ、らしくない苦笑をしている。その他も何人かおかしい。何なんだ?

 

「では」

 

 爆弾を放り込んでおいて、一条少尉は表情一つ変えない。ぺこりと一礼して、この場を去ろうとする。待たんかこら!

 

「待ちなさい」

 

 少尉を呼び止めたのは足柄だ。こいつ、この手の話に興味あったのか?

 

「南部大尉の方はどうなんですか? 少尉はちゃんと返して(・・・)もらっているの?」

 

 何でそんな事聞くんだろう。そして何故か勝ち誇った顔をする一条少尉。

 

「あーそれだけどな」

 

 南部が話し出す。遠慮がちに。

 

「俺はこいつの為に死ぬ気は無いわ」

 

 艦娘たちの顔が引きつる。足柄と霞は露骨に苛立っている。何故か一条少尉がふふんと自慢げに笑う。期待していた答えを得られたとでも言うように。

 

「だってこいつ残して死んだら、後追いとかしかねないじゃん。そんなの嬉しくないし、幸せにしてやりたい。だからこいつの為に死んではやらない」

 

 相手にとっての一番は自分。そんな一条少尉のの負けず嫌いは、確かに赤城を彷彿とさせた。対する南部の答えは、彼女への強い愛着と馴れ合いを感じる。こいつらで会ってそんなに経ってないと聞いたが、羨ましくはある。

 

「……私だって」

 

 足柄が何故かつぶやいた。誰か意中の人がいるのか? そういえば妙高が何か言っていたが、そいつはちゃんとした奴なんだろうな?

 

「お話は分かりました。ですが余計なお世話です」

 

 赤城が宣言した。表情は変えず、妙に凄味がある声で。……やべえケンカ腰だ。

 

「そもそも死んだり死なれたりと言う前提がおかしいのです。私はこの人を絶対に死なせませんし、私も死にません」

 

 赤城よ。爆弾発言すぎるだろ。艦娘たちがざわつく。それはそうだ。先ほど戦場でやらかしたとんでもない宣言を、躊躇せず皆の前で暴露したのだから。

 きょろきょろと周囲を見回していた漣も、何か思いつめた顔をして、拳を握りしめた。

 

「そうです。ご主人さまは漣が絶対に守ります! 漣はしつこいから!」

 

 ざわめきは静寂に変わっていた。少尉はわずかに口角を吊り上げ、敬礼する。

 

「無礼をお詫びします」

 

 今度は赤城が勝ち誇った顔をする。

 

 俺はと言えば、これをどう収集するか途方に暮れていた。完全に一条少尉にしてやられたわ。こいつ赤城と漣の覚悟を問うと見せかけて、俺の退路を断ちやがった。これはもう逃げられない。

 だがまあ、元より逃げるつもりはない。彼女からちょっとした「応援」と思ってありがたく言葉を受け取っておこう。

 

 そして決断は、硫黄島攻略を終えてからだ。

 

 しかしそれよりも、俺が決意しようがしなかろうが、目下この場を収める必要はあるわけで。

 

「青葉です! 恐縮です!」

 

 パパラッチが立ちふさがるように飛び出してきた。ほら来やがった! いい感じに目をらんらんと輝かせている。

 

「提督はどの子を選ばれるんでしょうか?」

「どの子? まるで何人もいるみたいな言い方だが?」

「え? いるじゃないですか何人もがもがもが」

 

 何か言いかけた青葉は、衣笠に引っ張られてゆく。面倒そうだから、深く考えないでおこう。

 

 いつの間にか旭は、まんまるな太陽になって皆を照らしてくれていた。




これにて四章は終了でございます。

波乱の展開にお付き合いありがとうございましたヾ(*´∀`*)ノ

次話から第五章が始まります。硫黄島の激戦と、そしていよいよ「あの人」との対決がはじまります。

そしてそして、小さな泊地で始まった物語は、世界の趨勢をかけた大きなうねりに――なったりするかも知れません。
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