仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

80 / 119
加賀さん新公式イラストごっつあんです! 

しかし暑いですね。コミケは体力ごっそり削られました。楽しかったけど。呉はどうかな?

ちなみに、最新話を呉で読んでるよ、なんて方とかいるんでしょうか?

そんな方がもしいらしたら、名乗り出てください。何も特典はありませんが。私が責任をもって、全力で羨ましがります。


第80話「それぞれの前夜(霞・足柄)」

●硫黄島作戦発動前日 フタマルサンロク(20:36) 居酒屋鳳翔

 

Starring:霞

 

「それで、どうするのよ?」

 

 直球ストレートな問いに霞は答えず、一口の甘酒でのどを濡らした。

 司令官は明日に支障が無ければ自由にしろと言ってくれはしたが、目の前のかっこつけの重巡足柄がつい強がって宣言してしまった。今夜は結構。勝利の夜には浴びるほど飲ませてもらうわ、と。霞はその大言壮語の巻き添えとなり、今日の晩酌は甘酒と乾きものである。

 

「どうするって何?」

「なぁに? 今更とぼけるの?」

 

 そんなことを言って、目の前で気だるそうに笑っている重巡が、自分と同じ穴の狢(・・・・・)であると、霞は知っている。仕事熱心に見せておいて、余計な感情に振り回される脇の甘さが。

 足柄とは古い付き合いだから、彼女が慌てるときほど強がることも。その状態で酒が入ると張り詰めた感情が決壊するから、この話は素面で良かったかもしれない。

 

「どうもしないわよ別に。多分赤城か漣とくっつくんじゃない? あいつに甲斐性があれば両方かもね。まあそんな覇気は無いでしょうけど」

「ちょっと、提督の悪口言わないでちょうだい」

 

 「提督」って言ってしまっている。自分の感情を持て余しているのは、こいつも同じなのだろう。

 

「あーあ、惚れた弱みよねぇ。こんなんじゃ狼の名が泣くわ」

 

 テーブルに突っ伏し、スルメをかじる。

 

「深海棲艦を千隻沈めたら、提督が私を好きになる。とかないかしらねぇ?」

「はいはい。もう一杯飲む?」

「うにゃー」

 

 霞と二人の時はこのザマだが、足柄は、自分の恐れを見せたがらない。他にそれを見せるのは彼女の姉妹くらいのものだろう。

 切り込み隊長は死を恐れないが、仲間が倒れる事に鈍感なわけではない。それでも余裕ぶっているのは、自分が最前線で鼓舞する事で、誰一人倒れずに済むと信じているから。万一それが崩れれば、特に駆逐艦や海防艦たちに何かあれば。彼女は心に大ダメージを負うだろう。つまり――。

 

(ほんと、司令官(誰かさん)を見てるみたい)

 

 足柄の言葉は、また堂々巡りを始める。彼女が恋をしたら、一点突破で想いを告げに向かうと思っていたのだが、完全に予想外である。恋愛が絡むとこんなにうだうだする奴だったとは。

 

「それで、霞は?」

「だから何がよ?」

 

 言われなくてもわかっている。クズ司令官の事である。

 

「映画に誘われるたびに乙女の顔になっていったもんねぇ。最近じゃ提督をちらちら見ながら誘われるの待っ」

「殺すわよ?」

 

 強い口調で言い返してみたが図星である。自分は司令官と言う人間を、矯正が必要な駄目な上司くらいにしか思ってなかった。それがどうして足柄と二人、懸想(けそう)なんぞしているのか。

 

「決まってるじゃない。いつも張り詰めてばかりの霞に、自分でいられる時間をくれたんでしょ?」

 

 自分でも意識しなかった理由を、ぴたりと言い当てられた。自分でいられる時間。確かにクズ司令官とSF映画を見て、可愛らしいクリーチャーやエイリアンを応援するのは案外楽しかった(大型フィギュアを買おうとしたら、満潮に全力で止められたけど)。いつの間にか新作の路線が気に入らないとか、絶版の小説のどれが凄いとか、最近そんな話をよくするようになった。ネットの情報に一喜一憂したり、下らない事で言い合いになったり。映画なんてわざわざ見てもしょうがないと思ってたのに。

 

 教えてくれたんだ。(わたし)は、笑っていても良いんだなって。

 

 だからまあ、何というか。

 

 衝動的に言葉に出しかけた何かを引っ込めたのは、足柄のバカみたいなため息のおかげだった。

 

「ああもう鬱陶しいわね。そんなに司令官が好きなら、今から行って告白でもなんでも」

 

 反論しようとしたが、足柄の言葉は何一つ間違っていないと気づき、気まずくなって、口をつぐんだ。今彼に生の感情をぶつけても、きっと彼を苦しめる。だが”あの少尉”はそう思ってはいないらしい。

 

「でも何人かいたわよねぇ。一条少尉の話で目の色代わったの」

 

 足柄が思い浮かべているのは、将来のライバルたちの顔だろう。武士の情けで名前は挙げないが、そこまで思い詰めていなくても、ほのかな想いを抱えているものなら更にいるだろう。本当に、困った事をしてくれた。あの少尉殿は。

 

 でもその困った行動も、彼女は恐らく全部覚悟して言っている。あれは艦娘と同じ。一度失った事がある者の目だ。だからこそ責める気にはならない。

 かと言って、だ。自分達が直面しているのは恋などではなく、泊地をかけた決戦である。加賀は復帰の目途は立たないし、先の作戦で資源も想定値を割っている。それでも、作戦発動のチャンスは今を置いて無い。

 

「だけど、私たち――」

「死なせないわ」

 

 足柄がぴしゃりと言う。顔を出した弱気の芽を、容赦なく刈りとってくれた。誰かが欠けるかもなんて、考えるべきじゃない。皆そうならないために今まで頑張ってきたのだ。彼女は、仲間のこう言う機微には敏感なやつだと思い、内心で感謝する。

 

「ねえ」

「ん?」

 

 何を考えているのだろう。さっきの叱咤が嘘のように気だるそうにコップを傾けている。だけど期せずして、そんな彼女の一喝で背中を押されたのだ。

 

「この作戦が大成功したら、言っても良いかも」

 

 足柄は少し驚いたようにスルメをぷちっと噛み千切り。

 

「そうね!」

 

 と元気よく答えた。

 

 ここだけは、甘えよう。こんな事で自分を押し殺したりするより、ちゃんと態度に出した方が、あの人はきっと喜んでくれるから。赤城とか、漣とか。自分なんか柄じゃないとか。そう言うのは置いておこう。気持ちを伝えよう。

 

「じゃああなたと私は今からライバルね。でも勝つのは私だけど?」

「勝ち負けじゃないでしょ?」

 

 そうは言うものの、苛立ちは幾分かましになっていた。これから敵の大群に突っ込むのだ。そのあと帰ってクズ司令官とちょっと話をすることなど、もののついでである。

 

「じゃ、かんぱーい」

 

 コップを掲げて見せる足柄に、はいはいと呆れるポーズをとりながら、結局付き合って杯を合わせる。こいつの「本性」に振り回されるのは迷惑だが、なんだかんだで助けられている自分もいるのだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。