しかし暑いですね。コミケは体力ごっそり削られました。楽しかったけど。呉はどうかな?
ちなみに、最新話を呉で読んでるよ、なんて方とかいるんでしょうか?
そんな方がもしいらしたら、名乗り出てください。何も特典はありませんが。私が責任をもって、全力で羨ましがります。
●硫黄島作戦発動前日
Starring:霞
「それで、どうするのよ?」
直球ストレートな問いに霞は答えず、一口の甘酒でのどを濡らした。
司令官は明日に支障が無ければ自由にしろと言ってくれはしたが、目の前のかっこつけの重巡足柄がつい強がって宣言してしまった。今夜は結構。勝利の夜には浴びるほど飲ませてもらうわ、と。霞はその大言壮語の巻き添えとなり、今日の晩酌は甘酒と乾きものである。
「どうするって何?」
「なぁに? 今更とぼけるの?」
そんなことを言って、目の前で気だるそうに笑っている重巡が、自分と
足柄とは古い付き合いだから、彼女が慌てるときほど強がることも。その状態で酒が入ると張り詰めた感情が決壊するから、この話は素面で良かったかもしれない。
「どうもしないわよ別に。多分赤城か漣とくっつくんじゃない? あいつに甲斐性があれば両方かもね。まあそんな覇気は無いでしょうけど」
「ちょっと、提督の悪口言わないでちょうだい」
「提督」って言ってしまっている。自分の感情を持て余しているのは、こいつも同じなのだろう。
「あーあ、惚れた弱みよねぇ。こんなんじゃ狼の名が泣くわ」
テーブルに突っ伏し、スルメをかじる。
「深海棲艦を千隻沈めたら、提督が私を好きになる。とかないかしらねぇ?」
「はいはい。もう一杯飲む?」
「うにゃー」
霞と二人の時はこのザマだが、足柄は、自分の恐れを見せたがらない。他にそれを見せるのは彼女の姉妹くらいのものだろう。
切り込み隊長は死を恐れないが、仲間が倒れる事に鈍感なわけではない。それでも余裕ぶっているのは、自分が最前線で鼓舞する事で、誰一人倒れずに済むと信じているから。万一それが崩れれば、特に駆逐艦や海防艦たちに何かあれば。彼女は心に大ダメージを負うだろう。つまり――。
(ほんと、
足柄の言葉は、また堂々巡りを始める。彼女が恋をしたら、一点突破で想いを告げに向かうと思っていたのだが、完全に予想外である。恋愛が絡むとこんなにうだうだする奴だったとは。
「それで、霞は?」
「だから何がよ?」
言われなくてもわかっている。クズ司令官の事である。
「映画に誘われるたびに乙女の顔になっていったもんねぇ。最近じゃ提督をちらちら見ながら誘われるの待っ」
「殺すわよ?」
強い口調で言い返してみたが図星である。自分は司令官と言う人間を、矯正が必要な駄目な上司くらいにしか思ってなかった。それがどうして足柄と二人、
「決まってるじゃない。いつも張り詰めてばかりの霞に、自分でいられる時間をくれたんでしょ?」
自分でも意識しなかった理由を、ぴたりと言い当てられた。自分でいられる時間。確かにクズ司令官とSF映画を見て、可愛らしいクリーチャーやエイリアンを応援するのは案外楽しかった(大型フィギュアを買おうとしたら、満潮に全力で止められたけど)。いつの間にか新作の路線が気に入らないとか、絶版の小説のどれが凄いとか、最近そんな話をよくするようになった。ネットの情報に一喜一憂したり、下らない事で言い合いになったり。映画なんてわざわざ見てもしょうがないと思ってたのに。
教えてくれたんだ。
だからまあ、何というか。
衝動的に言葉に出しかけた何かを引っ込めたのは、足柄のバカみたいなため息のおかげだった。
「ああもう鬱陶しいわね。そんなに司令官が好きなら、今から行って告白でもなんでも」
反論しようとしたが、足柄の言葉は何一つ間違っていないと気づき、気まずくなって、口をつぐんだ。今彼に生の感情をぶつけても、きっと彼を苦しめる。だが”あの少尉”はそう思ってはいないらしい。
「でも何人かいたわよねぇ。一条少尉の話で目の色代わったの」
足柄が思い浮かべているのは、将来のライバルたちの顔だろう。武士の情けで名前は挙げないが、そこまで思い詰めていなくても、ほのかな想いを抱えているものなら更にいるだろう。本当に、困った事をしてくれた。あの少尉殿は。
でもその困った行動も、彼女は恐らく全部覚悟して言っている。あれは艦娘と同じ。一度失った事がある者の目だ。だからこそ責める気にはならない。
かと言って、だ。自分達が直面しているのは恋などではなく、泊地をかけた決戦である。加賀は復帰の目途は立たないし、先の作戦で資源も想定値を割っている。それでも、作戦発動のチャンスは今を置いて無い。
「だけど、私たち――」
「死なせないわ」
足柄がぴしゃりと言う。顔を出した弱気の芽を、容赦なく刈りとってくれた。誰かが欠けるかもなんて、考えるべきじゃない。皆そうならないために今まで頑張ってきたのだ。彼女は、仲間のこう言う機微には敏感なやつだと思い、内心で感謝する。
「ねえ」
「ん?」
何を考えているのだろう。さっきの叱咤が嘘のように気だるそうにコップを傾けている。だけど期せずして、そんな彼女の一喝で背中を押されたのだ。
「この作戦が大成功したら、言っても良いかも」
足柄は少し驚いたようにスルメをぷちっと噛み千切り。
「そうね!」
と元気よく答えた。
ここだけは、甘えよう。こんな事で自分を押し殺したりするより、ちゃんと態度に出した方が、あの人はきっと喜んでくれるから。赤城とか、漣とか。自分なんか柄じゃないとか。そう言うのは置いておこう。気持ちを伝えよう。
「じゃああなたと私は今からライバルね。でも勝つのは私だけど?」
「勝ち負けじゃないでしょ?」
そうは言うものの、苛立ちは幾分かましになっていた。これから敵の大群に突っ込むのだ。そのあと帰ってクズ司令官とちょっと話をすることなど、もののついでである。
「じゃ、かんぱーい」
コップを掲げて見せる足柄に、はいはいと呆れるポーズをとりながら、結局付き合って杯を合わせる。こいつの「本性」に振り回されるのは迷惑だが、なんだかんだで助けられている自分もいるのだ。