さて、来るべき日が来てしまいました。提督は、艦娘たちは、選択を迫られます。
第五章は波乱の展開になります。
ところで最近、リアイベが目白押しですね。参加した、参加予定の、あるいは行きたかったけど行けなかったイベントがある提督さんは、何か書いて行ってつかぁさい。よっろしくぅ!
Starring:提督
木葉先輩の顔を見た時、彼女を知る艦娘たち、特に駆逐艦や海防艦は彼女に駆け寄り、もうどこにも行くなと抱きしめ、腕を取り、そして泣いた。彼女はその艦娘たちを一人一人抱擁し、頭を撫でた。最後に遠巻きに見ている高雄に手招きし、案の定号泣しながら走り寄る彼女を抱き止め、何事かささやいた。「ごめんね」かも知れないし「会いたかったわよ」かも知れない。いずれにしても、俺が知らなくていい領域だ。
一方、長門や浦風、海外艦たちはこの光景をばつが悪そうに見守っている。彼女たちは俺が着任してからやってきた艦娘たちだから。
俺はと言えば、目の前の光景に愉快な感情を持てないでいる自分に、少々自己嫌悪していた。
「別にあなたが嫌われたわけじゃありませんよ。死んだと思っていた家族が生きていたら、あんな反応になるでしょう? あなたがああなっても同じですよ」
赤城はそんなことを言う。こいつとは長い付き合いでもないのに、いつの間にやら何でもお見通しだな。
「分かってるって。しかし今日はゆっくり寝られると思ってたが、艦娘全員に謝罪の行脚になりそうだ。先輩が生きてたこと、黙っててごめんなさいって」
「いいえ、後回しにして寝てください。ここにあなたの事情を察してあげられないような艦娘はいませんよ」
そうだな。そうしよう。しばらくは先輩と艦娘たちの時間を作ってやるべきだろう。
「ところで、お前は良いのか? 先輩のこと慕ってたじゃないか」
「どこかの誰かさんが落ち込んでますので」
そんなんじゃねーよ。
俺の横で状況を見守っている赤城は、特に動揺した様子もなく先輩を眺めている。気が付けば、何人かの艦娘たちも、俺の周りを離れない。
「提督……じゃなかった、木葉提督とは後でゆっくり話せるわ。今は高雄やちっちゃい子たちを優先してあげましょ」
足柄が言う。彼女は日ごろの暴走ぶりに隠れているが、本当に気遣いの女性だ。助けられてるな。日頃の暴走はまあ、今だけ忘れよう。
「私たちがいないと誰かさんが拗ねるしね」
「そーそー、提督さん割と分かりやすいから」
霞と瑞鶴がそんなことを言っている。俺、そんな拗ねてる?
「漣は、ご主人さまの初期艦ですので、こう言うときはついていてあげないと。まあ、涙拭けよです」
ここにいる者は皆俺のことを気遣ってくれているらしい。そうは言いながらも、駆逐艦たちを羨ましそうに見ている者もいるから、無理をさせてしまっているようで申し訳なかった。
「提督、前任は名将と聞くが、どれほど凄いのか?」
「そうね。私も聞きたいわ」
俺の弱気を断ち切ってくれようとしたのだろう。長門とビスマルクが尋ね、他の海外艦たちも頷き合っている。
「凄いぞ。
「ほんま!?」
「really!?」
浦風とジョンストンが驚きの声を上げ、長門が目をむく。
「アトミラールがか? にわかには信じがたいが」
グラーフは何かの冗談だと言う回答を期待していたのかも知れないが、遺憾ながら事実だ。漣が付け加える。
「本当ですね。ご主人さまが木葉提督の裏をかいたことは何度もあるんですけど、いざ戦闘開始になると、木葉提督が全部ひっくり返しちゃうんです」
ん? こいつ先輩のことも「ご主人さま」と呼んでいたんじゃなかったっけ? ちょっと気になる。後で話してみよう。
「歴史上にいるんだよ。中国の項羽とか、ローマのカエサルとか、明らかに不利なのになぜか状況をひっくり返しちゃう化け物が。でもって何でそうなったのか、誰も把握できない。先輩もその一人だ」
新規参入組の全員が「そこまで?」と言う顔を浮かべる。そこまでなんだよ。こちとら何度も裏をかこうとしたんだがな。
「だがまあ、今ならアドミラルが勝つだろう」
アークロイヤルが言うと、皆頷きだした。あろう事か、漣や鶴姉妹まで頷いている。赤城と足柄は何故か、ふふんと自慢げに胸を張った。
「あの、提督」
いつの間にか傍らに立っていた大淀が、俺に耳打ちしてくる。どうやら皆に知られたくなくてこっそり近づいてきたようだ。
「綾郷大将が来られると。既に高速艇が横須賀を発っています」
あー、やっぱりか。俺も先輩のダッチハーバー行きを知る共犯者だからな。いったい何のための潜入で、結局どうなったのか。そろそろ詳しく説明してもらっても罰は当たるまい。俺が先輩と話すのはもうちょい後になりそうだしな。
「了解だ。到着時刻は?」
当然の質問のはずだったが、大淀の顔が曇った。どうしたんだ一体?
「30分後だそうです」
「……お忍びな上に抜き打ちか。食わせ者だな、あの人も」
俺は渋い顔をする。あの人ならやりかねない。オスプレイを使わなかったり、ぎりぎりまで秘匿したのは機密保持の為だろうが、常にこちらを試してくるような雰囲気がして、どうも油断ならない御仁である。
「分かった。応接室を空けておいてくれ。多分、ここのところ激戦続きでだいぶ埃をかぶってるはずだ」
「了解しました」
「すまんな。地味な仕事ばかりで」
大淀はちょっと拍子抜けした顔をして、にっこり笑って言った。
「いいえ、十分に楽しいですよ」
俺はそうかと笑い返し、少し救われた気持ちになり。そしてその場を抜けてこっそりと埠頭にとんぼ返りした。