アワワ ヽ(´Д`;≡;´Д`)丿 アワワ
……さて、「そろそろ終章」と言ったな。あれはウソだ。
アメリカ艦を書きたくなったので、もう一章だけ短いのを挟む予定です。
進捗はちゃんと出ていますので、ご安心ください。
今回は陽炎のお話。
天龍の件では津田提督を警戒していた彼女ですが、どうやら“何か”あったようで……。
Starring:陽炎
●十六時五五分 泊地講堂
「マイクチェック、ワンツー。ヒトロクゴーゴー。任務外の艦娘、基地職員は講堂もしくは各会議室に集合してください。これより、二人の提督による演習が始まります」
皆不安げだった。陽炎型の妹たちも、それぞれの思いがあるだろう。自分は声をかけてやることも出来ない。結局は自分自身で折り合いをつける問題だし、何より理想的な結末などありえない状況だからだ。
駆逐艦陽炎は思う、自分はどうしたいのか? と。
世話になったのは圧倒的に木葉提督だ。陽炎は泊地の中では比較的古参で、水雷戦隊の中核として二人三脚でやってきた自負もある。大規模な戦いでは軽巡が指揮を執ることが多いが、日常でのまとめ役は自分がやっていて、木葉提督に相談することも多かった。津田提督と言えば、話すようになったのは最近。それまでは陽炎から距離を置いていた。
本来ならば考えるまでもないのだが……。
「なぁ、どう思うん?」
「どう、とは?」
そんな苦悩をよそに、黒潮と不知火が何やら話している。と言うか、黒潮の視線は明確に自分へ向いていた。
「なるほど。そう言うことね」
なにがなるほどなのか、不知火はうんと頷いた。いったい何なのだろう?
「それで、陽炎はどっちを応援するんや?」
何か含みがある言い方だったが、答えは決まっていた。
「どちらでもいいわよ。皆を守ってくれる司令官なら、その人を守ればいいだけだもの」
自分でも言っていて思った。なんか嘘くさいと。疲れているせいか、虚勢を張って押し通す気にもなれない。それでも二人は、何かを指摘するでもなく、陽炎の言葉を素直に受け取った。
「それであれば木葉司令の勝ちですね」
「そうやなぁ。またセクハラの日々に逆戻りやけど、津田提督はんより戦いは強いって話やし……」
言いかけた黒潮がにやにやと嫌らしい笑いをする。
「何よ?」
「陽炎。むっとしてるで」
そんなわけない。今むっとしているのは、黒潮が変な態度をとるからだ。そして不知火も今日は彼女を嗜めることはない。
「いつからなのかしら?」
その代わりに、不知火が問う。普段は二人とも、こんな婉曲な表現は取らない。付き合いが長い陽炎には、彼女達がそれなりに言葉を選んで対応しているのは分かる。だけどこれは、まだあんまり触られたくない問題だ。
「うちは二人で町に繰り出した時が怪しいと思うわ」
「ふむ。あの日の陽炎は妙に機嫌が良かったわ」
なのに二人はいい加減な話で盛り上がり始める。
「何が言いたいのよ?」
言葉に
「あのね。あの時は漣に押し付けられて手伝いに行っただけで、遊びでも何でもないわよ」
言ってから気付いた。二人で町に行くだけなら、妹や他の駆逐艦、なんなら大型艦とも行っている。
遊びに行った相手が津田提督だとは、黒潮は一言も言っていない。
「不知火が思うに、これは陽炎の落ち度ね」
普段色々やらかしているあんたには言われたくない。そんなツッコミを飲み込む。この二人は何が言いたいのか。
「陽炎」
不知火が呼び掛ける。こともなげに。
「ふと別れたらそれっきり。艦の人生だけでなく、人の人生もそう言うことがあると思うわ」
「……やな!」
重い一言だった。他ならぬ不知火の言葉ならなおさら。
「悪かったわよ」
拗ねた子供のように唇を尖らせてしまう。不知火の言うとおりだ。自分達は
さもないと、彼女に遭わせた苦しみを再び誰かに与え、自分もまた味わうことになる。
「……不知火、ところでさ」
感謝を伝えようとした陽炎の目に、”それ”が目に入ってしまった。武士の情けで伝えなかった、不知火の鼻の下に刻まれた”落ち度”が、至近距離で突きつけられ、もう我慢できず笑ってしまう。
「今まで黙ってたけど――。鼻の下、火薬の汚れがカイゼル髭みたいになってるわよ」
「なゅっ!」
「あーあ、ついに言ってしまったんやなぁ」
不知火は返答の言葉を思いっきり噛んで、爆笑する黒潮に手鏡を渡され、袖で鼻の下をぐしぐしと拭った。残念ながら連日の激戦で袖の汚れもひどい物だったので、カイゼル髭は塗り広げられて鼻にひっつき、ドジョウ掬いの宴会芸みたくなった。
「こっ、これは不知火の……!」
「そうやな。不知火の落ち度やな」
それだけの会話なのに、何だか楽しくなって三人であははと笑った。
「本当は私も良く分かんないのよね。浦風みたくはなれないし」
多くの艦娘たちは、迷っている。さっきまで深海棲艦と盛大に撃ち合っていた時には、誰もそんな顔はしていなかったと言うのに。
浦風に視線を向けると、快活さはなりを潜め、真剣な顔でスクリーンを見つめている。両手で握って、胸に当てているのは何だろう。彼女だけではない。多くの艦娘たちが戸惑う中で、少数だが決して迷わず、自分の気持ちを”ただ一人に”向けている子たち。
彼女たちはもう、決めている。
「ええんやないか。そう言うのに踏み込まれるのがきついのは分かる。でも魚雷は一度撃たれたら真っすぐにしか進めんで」
「そして進まない魚雷は、命中することもない。陽炎型の武器は、敵の砲火を恐れない敢闘精神です」
この二人、上手いことを言う。自分の心が分からないなら、分かるまで突っ込んでみるのもまたひとつの戦い方かもしれない。
大分嫌ってしまったから、もしかしたら嫌われているのかも知れない。それでも曖昧なままよりいい。
「ありがとね」
さらっとお礼を言う。なんのなんのと黒潮は笑い、不知火はつんとした顔で鼻の黒いのを塗り広げている。
「もし津田はんが勝ったら、教えてもらおうか。あの日のお出かけで、何があったのか」
「良いわよ。大した話じゃないけどね」
そこで長考していた津田司令官が端末を操作し始め、艦娘たちの視線は再びスクリーンに集中する。あそこで変な好奇心を起こさなければ、自分はこうも感情に振り回されることもなかったろうに。迷惑な話だと、理不尽なことを思う。
その騒ぎははるか昔のようで、まだひと月も経っていなかった。