この物語で提督Love勢になるかならないかの基準は、完全にフィーリングです。書いているうちに「ああ、この子は提督のこと好きだわ」と感じたらそうなります。
飛龍とかその枠かな?とか書きだす前は思っていたんですが、友人枠に安住しちゃいましたね。他にも数名、脱落組がおりますw
そもそも初期プロットでは赤城さんの単独ヒロインだったんですけどね。私の気が多いのが良くない(ノ∀`)
さて、次回から物語は演習室に戻ります。
※誤字報告いただいた方、どうもありがとうございます。そして、以後もうちょっと気を付けます(´;ω;`)
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Starring:陽炎
津田少佐に続いて入ったのは、何故か応接室でも会議室でもなく体育館だった。中にはパイプ椅子が並べられ、座っていた三十人あまりの町民が、一斉に少佐を見た。臨時で選出された、この町の代表たちだ。そしてどうやら、その視線は好意的なものではなさそうで、嫌な感じがした。なんだろう。これ。
「どうぞお座りください」
冷たい声でそう言われ、少佐は恐縮したように、というよりすごすごと席に着く。不審に思いながらも、陽炎もそれに
「では、率直にうかがいます」
どこかのご夫人が立ち上がり、マイクを受け取った。少佐も神妙な表情で、彼女に向き直る。
「私たちはいつ帰還できるのですか?」
単刀直入も良い所で、さしもの少佐も一瞬渋い顔をする。
要するにこれは、軍のトップである少佐に対して、街の有志が要望を出す場と言う事のようだ。
「子供たちは皆空襲警報に怯えています。これ以上戦争に巻き込まないでください」
頭がかっとなった。今も戦っている姉妹や仲間たちへの、無自覚な侮辱だったからだ。立ち上がりかけて、津田少佐に肩を掴まれ、座らせられる。大いに不満だが、確かに自分達はケンカをしに来たのではない。任せてくれた漣の信頼もある。不満を飲み込んで、姿勢を正す。
津田少佐は立ち上がり、頭を下げた。
「
どうやら「司令官」である津田少佐は、内地への帰還作戦を求められているようだ。何しろ彼らの多くは、地下資源の採掘の為にこの島にやってきた技師やその家族、または施設の見学の為に訪れたのにもかかわらず、巻き込まれた帰れなくなった者たちだ。
『この島とは別に故郷はあるし、
ここに来る車で、彼はそう言っていた。
あの基地祭以来、陽炎はよくこの町まで遊びに来る。買い物はほどほどにしろと釘を刺されているが、町の人と話すのは楽しいし、釣りやダイビングを教わったり、囲碁将棋を競ったり、子どもたちにゲームを教わったりする。自分はここが好きだ。
だから目の前の光景を突きつけられるまで、「この町も私が守るわ」くらいのつもりでいたのだが、怒る以前に戸惑っている。
「ヘリでもなんでも呼べばいいだろ!? 大体、あんたたちは自分ら本土と行き来して、俺たちはここで大人しくしてろってのか!?」
別の男性が大声を上げ、「そうだ! 納税者を舐めんな!」と誰かが追従した。
「ヘリやオスプレイでは輸送力が足りません。もし可能だとしても、手荷物以上の持ち込みは無理です。身一つで本土に向かう必要があります」
「じゃあ! 基地の連中は!? あいつら二週間に一度は横須賀で遊んでいるらしいじゃないか!」
陽炎は身を固くする。腹は立つが、それもまた事実だった。自分達が気晴らしをする間、彼らはこの島で窮屈な思いをしている。
激高した男性はまくしたてるが、少佐は彼が一通りの文句を言い終わるまで、直立不動を保ち、そして一言だけ反論した。
「基地の連中には、一筆書かせてます。可能性は高くないですが、深海棲艦に補足されて撃墜される可能性があり、本土に行けるのはそれを受け入れた者だけです」
「撃墜」と言う言葉を聞き、役員たちは一斉に大人しくなる。「死ぬリスクがあってもいいから内地に帰りたい」と言い切れるものはそうそう居はしまい。
そしてサインの件も事実である。そもそも前任の木葉司令は横須賀から期間中、乗機ごと行方不明になった。以来本土とのやりとりは、上も神経を尖らせているようだ。要人がこの島に来る時には、対潜哨戒機が飛び回っている。それでも以前、島で病人が出た時は、動ける艦娘が総出で内地まで送り届けたこともある。自分達も遊んでいるわけではないという自負があった。
「不安な気持ちは分かります。ですが、私も海で身内を失っております。勇み足で誰かが命を落とすようなことだけは、あってはならないのです。内地に帰還する船団は、私が職を賭して組織させます。しかし、今はまだ条件が整いません」
それで町の面々に、役員たちに「しょうがないか」と言う空気が流れ始める。もともと少佐に言ってもしょうがないのだ。深海棲艦と言う相手がいることなんだから。
しかし、この件が落ち着いても、糾弾の場は終わらないようだ。
「続いて、物資不足の件ですが……」
「そうだ! 基地の人間は物資を独占してるんじゃないか!?」
まだやるの? と憤るより呆れた。そして少佐はその理不尽さを指摘する事は無く、頭を下げるばかり。しかも押し切られる形で、艦娘用に届いた缶詰などを町に割り当てると約束させられた。所詮嗜好品ではあるが、作戦中、皆が頼りとする大切な物資なのに。
これのどこが「かっこいい」のか? 漣の言葉が分からない。
結局、ストレスを溜めるだけの二時間だった。肩を怒らせて帰って行くクレーマーたちの背中を見送って、やっと息をついた少佐の袖をひっつかんだことに、罪悪感を感じないわけでもない。しかしむかつくものはむかつく。
「なんなのよあれは!?」
「いやほら、町民のみなさんもストレスを感じてらっしゃるようですし。ここは丁寧に誠心誠意のご説明をしてですね。相互理解による共存共栄とCSRと持続可能なSDGsが社会貢献の何たるかを農福連携によって、ご多幸をお祈りするわけでして。全ては国民が平等なパラダイスみてぇな国をつくる為の布石であり……」
「ごめん、やっぱりちょっと黙って」
少佐はよくわからない単語を並べ、煙に巻こうとしてくる。どうせ関係ない単語が並んでいるだけだ。そう言うところが信用できないのだが。自覚はあるらしい、彼は気まずそうに頭をかいた。
「まあそんな大げさな話じゃないんだよ。いらっとする気持ちは分かるが」
「……分かった落ち着く。それでどういう事?」
袖から手を放し、改めて質問する。少佐はわずかに苦笑し、襟を正す……代わりに上着のホックを盛大に外し、軍帽でぱたぱたと扇いだ。
「お話し中すみません。別室でお茶を用意してありますので」
頭を下げた初老の男性は町長さんだ。陽炎もよく世間話をする。内地で町議会議員をやっていた前歴があるからと、町長を押し付けられたと笑っていた。この人も艦娘や軍に良い感情を持っていなかったのであろうか。ちょっと人間不信である。
「いえこれで帰りますよ。町の人が食べるものを、基地のトップが持ってっちゃいけません」
少佐はそれを断るが、町長も何故か引かなかった。
「それじゃあ陽炎さんがかわいそうでしょう。それに、毎度のことながら”気持ちです”から」
彼の言葉と一緒に、町の役員らしき老若男女が一斉に頭を下げる。それだけで、陽炎の不信と危惧は氷解した。
「分かりました。じゃあ頂こうか」
でも頂いたおやつは、難しい顔をして食べる事になりそうだと残念に思った。
「みなさん。不安なのです」
お皿に盛ったアイスクリームを差し出してくれながら、町長さんが言った。
「必死に耐えていますが、時折こうして爆発しそうな人が出てきます」
お茶を注ぎながら、町長さんはそう付け加える。それは分かる。前線で何の情報も与えられず、ただ「待て」とだけ言われる。それは苦痛な事だ。
「本当は私が解決する問題なのです。津田司令には感謝の言葉もありません」
町長は頭を下げるが、津田少佐は大げさに笑って見せる。
「問題ありません。肩書の使い方なんて、本来はこんなもんですよ。うちは現場が優秀なんで、俺はこんな事でしか貢献できませんから」
普段の漣や霞の言動から思った。この人、もしかして本当にそう思っているんじゃないかと。
「でも何でサンドバックになってるの? 少佐ならもっといい方法あるんじゃないの?」
いつも
「ないわけじゃないけど、それは今じゃないな。お前らが町の人と交流してくれてるおかげで、彼らの不安も緩和されてる。戦果も可能な限り報告してるし、それを聞きたがる人も増えた。それが一番の対策だよ。自分達の為に動いてくれている人達がいるって分かれば、安心してもらえるもんさ」
少佐は奇麗になったアイスクリームの皿を、名残惜しそうに見つめる。おやつの類を海防艦に大盤振る舞いしていたのは、どうやらやせ我慢だったらしい。ご馳走さまをする。町長がお代わりを申し出たが、流石にこれは固辞した。
「だから、危険を冒して動く事も無いだろ? 少なくとも軍や艦娘にヘイトを向ける人間が少数派であるうちはだけど」
この人は、自分がスケープゴートになることを受け入れている。自分達艦娘が砲火をくぐるように、叩かれ糾弾される事を仕事だと割り切っている。
「それに、あの人たちも別に反艦娘・反海軍ってわけじゃないしな。普段お前らと普通に挨拶してる顔もあったろ。ただ不安なだけなんだから、嫌わないでやってくれ」
それは誰の為の我慢? きっと自分達の為。町民たちとの関係を壊さないように、自分達の知らないところではけ口になってくれていたのだ
「そっか」
漣が言った。この仕事がかっこいいと。確かにかっこいい。ほとんどの者は、彼の仕事を知らない。彼もそれを誇らない。でも恩恵は少なからず受けているのだ。休日や非番に町へやってくる心地よさと、町の人との交流。
「何が”そっか”なんだ?」
少佐は首をひねる。あーはいはい。浦風が嬉しそうに肉じゃがを差し入れる理由を、完全に理解した。ついでに何名かの艦娘が執務室に足しげく通うのも。
……ま、いいんじゃない?
「分かったわ。応援したげる!」
「何を?」
「まあいいからいいから」
スプーンのアイスクリームを舐める。今まで心情的に複雑だったせいで甘さを感じなかったが、今はバニラの香りが素敵に感じた。
「手始めに、持って行かれた缶詰について、私が皆に説明したげる。少佐はすごい頑張ったんだからって!」
正直「おお、ありがとな」的な反応を期待してはいた。でもこの男はやっぱり津田少佐だった。
「ああ、心配いらんぞ。あれは持ってかれる事を予想して、普段の物資から少しずつプールしといた奴だから」
「……は?」
「お前ら用に届いた缶詰は、手つかずでちゃんとある」
司令は、あごに手を当て、ぐしし、と悪い笑いをした。
「俺があの程度の圧力に負けて、お前らの楽しみを売り渡すわけがないだろ? 残念だったな。トリックだよってな」
陽炎は頭痛を感じつつ思う。確かに彼に聖人君子を求めたのは自分の勝手で、浦風の入れ込みっぷりは、「恋は盲目」というやつなのかも知れない。
彼が自分たちの事を考えてくれたのは変わらない でも何だろう。この理不尽さは。
でもしょうがない。こう言う人なんだ。さっきのアイスクリームだって、気持ちが落ち着かないと甘さと冷たさを楽しめない。
「はいはい。分かりました。もうそれでいいわ」
「だから何が?」
何がって、そんなの決まってる。つまりええと、何かである。
「これからよろしくねっ、
司令は困ったように頭を掻く。
なんだろう、この納得できないもやもやが、一瞬で氷解したような感覚は。強敵に打ち勝って、全員無事に凱旋した時に近い。
それにしても。妹を応援するつもりで、自分もバニラの香りが心地よくなっていたのは、不知火ではないが自分の落ち度ではある。
久しぶりのアイスクリームは、やっぱり甘かった。