仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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皆さんお待ちかねぇ!!(マイク持って、口ひげと眼帯つけて)

今回は物語のキーポイントかつ重要回です。本物を目指す仮免提督と、やさしくていじわるな空母の関係が動き出してゆきます。

そして、まだまだ怒涛の展開は続きます。


第95話「激突! 二人の提督(逆撃)」

●丹賑島泊地 演習室

 

Starring:提督

 

 艦爆の一撃が、装甲空母のエレベーターを吹き飛ばした。艦自体は沈まないが、彼女の作戦遂行能力は半減した。我が艦隊の被害は正規空母轟沈1、軽空母中破2。これでもまだ防いだ方だ。

 作戦は見破られた。艦隊が補足され空襲を受けるまで、時間はいらなかった。

 

「どうする? まだやる?」

 

 俺の艦隊をめちゃめちゃにした攻撃隊が去った時、木葉樹希提督は言った。その仕草は、紅茶をテイスティングする金剛のように、一切の心の乱れを感じさせず。

 俺は、硬直から覚めた後も、動揺から逃れるため無駄にコンソールを弄り、画面を閉じたり開いたりする。

 

「それならポーカーフェイスくらい、まともに出来るようにならないとね」

 

 ごもっともです。などと言えるわけもなく、久しぶりに胸ポケットに手を当てた。そこに煙草は無く、逃げ場もない。

 

 もうこちらの居場所は露呈した。こちらはもう反転、肉薄して一発逆転を狙うしかない。恐らく先輩はそれに備えているが。

 

 手が無いわけではない。まずは先輩の虚をつく必要がある。そのために布石を積み重ねてきたわけだが、今までそれは、全てが喝破されている。これほどこの人が規格外とは思わなかった。

 そもそもこちらは補足されているのだ。定石なら攻撃に出る前に防空を考えるべき。それでは絶対に勝てないが、艦隊が潰されてしまえば反撃も何もない。

 

 どうする? どうする!?

 

 その時、誰かが俺の両肩に手を乗せた。後ろで待機していた赤城だと気づいた時、励ましの言葉を期待したが、この女がそんなに生易しいものを渡してくれるわけが無かった。

 彼女は俺の襟首をむんずと掴み、無理やり立たせると、俺を正面に向き直らせた。

 

「お前な、俺は今……」

「漣、ごめんなさい!」

 

 抗議の言葉は塞がれた。物理的に。

 唇に当たった柔らかいものの感覚を心地よく思う暇もなく。次に襲ってきたのは上下の歯に走った痛烈な衝撃だった。つまり、歯と歯がぶつかってすげえ痛い。

 見れば赤城の方も口に手を当ててもがいている。

 

「なにすんだよ!?」

 

 割れながらシツレイな言葉だが、思わず言ってしまう。赤城の奴は、喧嘩上等と、俺に顔を突きつけ、宣言した。

 

「励まそうとしたんじゃないですか!」

「お前、馬鹿だろ!?」

 

 色んな意味で「馬鹿」だった。何でそんなやり方をするのかとか、TPOとか、そもそも俺相手にやるなよとか。だけどこいつは平然と答えやがった。

 

「あなたみたいなのに惚れる女が、馬鹿じゃないわけ無いじゃないですか!?」

 

 ヘッドホンでつながった講堂から、ものすごい勢いで黄色い声が流れてきた。

 

『司令官! インタビュー! 是非インタビューを!』

『赤城さん! おめでとうございます!』

『霞! 負けてはけません! すぐに演習室に行ってズキュウウウンしてくるのです!』

『ネーム、ネーム書かなきゃ! 風雲! 紙持ってない? 急がないとアイデアが!』

 

 この騒ぎ、俺のせいか!? 俺が悪いのか!?

 

 ……いや、俺が悪いな。

 

 そう思った時、焦りとは別に、妙に楽しく感じている自分がいて。さっきまでの自分を滑稽に思えた。

 

「赤城」

 

 まだ痛いのか、口を押えている彼女から目線を外しコンソールに向き直る。俺は息を吸う。背中越しの赤城と、艦娘たちに。大切なことをすべて、ひとつの言葉にするために。

 

「ありがとな」

 

 またヘッドホンの向こうが大騒ぎを始めるが、とりあえず放っておこう。

 

「まったく、世話の焼ける提督です」

 

 その通りだよ。俺はひとりじゃ駄目なんだ。いや、ひとりで駄目じゃない奴なんていないんだ。だから――。

 

 俺は勝負に出る事にした。

 

「津田君。色々言いたい事はあるけど、なんかちょっと安心したわ」

 

 先輩は微妙な顔をしていらっしゃる。だけど今の俺、なんかこの人に負ける気がしなくなってる。

 

「あんたもこちら側(・・・・)に来るべきだな。木葉樹希」

 

 先輩はわずかに。ほんのわずかにポーカーフェイスを崩し、苛立ちを匂わせた。やっちまったな今ので俺は、まだやれると確信したぜ。

 

 俺は艦隊に反転を指示。予想される敵艦隊位置に彩雲を飛ばす。史実のマリアナ沖海戦の敗因は、交戦距離の長さにある。長距離飛行の後に戦闘機の迎撃をかいくぐり攻撃をこなす。その上でまた長距離を帰還、と言うのはあまりにも無理がある。俺も先輩も一致している認識だ。

 

 俺はその過ちを、敢えて踏襲して見せる。これが俺の最後のブラフだ。

 

 俺は後退にあたって、潜水艦を数隻残している。敵艦隊の位置を知らせ、あわよくば一発魚雷を撃ち込むためだ。先輩も俺のやりを知っているから、無理な追撃はしないはず。彼女は勝っている側なのだから、冒険する必要はどこにもない。

 反撃のチャンスは、確実にある。

 

「!!」

 

 やはり運を味方につけるにはビビッていては駄目と言う事だろうか。コンソールに敵艦隊発見の情報が表示される。先輩が艦隊を分散している可能性もあるが、俺はその可能性をなしとした。先輩と言えど、複数の艦隊をフルスペック動かすほどのキャパは無いし、かと言ってAIに任せてもその天性の能力は再現できない。ならこの艦隊は本命と見て間違いない。

 

 俺は一瞬の迷いなく攻撃隊を発艦させた。彼我の距離は基準の200海里(カイリ)を余裕で超える。率いているのが演習用のデータでなく艦娘だったら、確実に無理を強いる作戦だ。そしてこの戦いで、艦娘に使えない戦法は使わないと言うのが暗黙の了解。自分達は「提督」としての能力を競っているのだから。

 そこに認識の穴がある。

 

「津田君、これはちゃんと(・・・・)裏があると期待しても良いのよね?」

 

 攻撃隊をレーダーに捕らえた時、先輩の言葉は笑顔に反し、若干の不信を滲ませていた。当然である。この攻撃は乗組員の疲労など、完全度外視だ。

 戦闘機がドロップタンクを投下、たちまち空戦が始まる。

 

「さあ、お気に召しますかどうか」

 

 そう言って、攻撃隊を突入させる。流石に先輩は気付いたらしい。

 

 第一に艦攻が少ない。

 第二に艦爆が低空から迫ってくる。

 第三に、攻撃機は投弾の準備を取る代わりに翼を傾け、こちらの進路を誤認させる軌道を取る。

 

 これらが示す結論は……。

 

「津田君、あなた妖精さんに特攻を命じたの?」

 

 先輩の目がすっと細まる。俺は内心で歓喜していた。先輩が俺に疑念を抱くと言う事は、俺が仕掛けた最後のカードは見破られなかったと言う事だ。

 

 先輩の艦隊で外周にいた空母が、艦爆の体当たりを浴びて吹き飛ぶ。二番機、三番機が次々に突入し、ついには旗艦のエレベーターを吹き飛ばした。

 せいぜいが五十番(500kg)爆弾なので、誘爆なしに大型空母を破壊するのは厳しいが、飛行甲板は破壊できる。そしてそれをせっせと修理するうち、俺はもう次の攻撃準備を整えているのだ。そもそもが戦場でできる応急修理なんてたかが知れてるしな。

 

「先輩、あんたは今頭をフル回転させている。俺が本当に命じたなら軽蔑すべきだが、何か気付かないタネがあると考えるべきだろう。それは何かってところだな。せいぜい考えてくれ」

 

 俺は艦隊を前進させ、本命の全力攻撃を準備する。つぎはきっちり200海里以内。適正な攻撃距離でどかんとやる。

 

 こっそりと、背中に回した手でVサインをした。後ろにいる赤城がどんな顔をしたかは分からない。でも多分、悪い反応じゃないと思う。




※すみません。来週も横須賀リアイベで投稿日ズレるかも(´;ω;`)
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