仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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横須賀イベント行ってきました(`・ω・´)ゞ

雨に降られました。めっちゃ冷えました。風邪ひきました……。

再訪は諦めます。でもまたやってほしいなぁ。本当に楽しかったし、カレー美味しかった。ライブ楽しかった。

さて、二人の提督の対決の結末です。ですが物語はまだ終わりません。最後の大決戦まで、提督と艦娘たちは疾走します。


第97話「祭りの後は……」

●丹賑島泊地 演習室

 

「ごめんね」

 

 演習室の椅子から立ち上がる間もなく、先輩は艦娘たちの突撃を受け、押し倒されて再び椅子に着地した。

 

 声を上げて泣く福江と平戸を、先輩はただ抱きしめ、頭を撫でた。その声色は、いつものように飄々としたものではなく、親が子に向けるような優しい謝罪。親父が死んだとき、母もごめんねと言ったっけかな。あの人が悪いわけでもないのに。

 そして難問は残ったままだ。再会は嬉しい。でもこれからどうなるのだろうか? 俺にも分からない。艦娘たちにはもっと分からないだろう。

 

 何人かが俺の顔を見つめる。恐る恐ると言った感じだから、俺に何か策があるのをダメ元で期待してたんだろうな。残念ながら軍のお偉方とやり合うのは、丹賑島で大砲を撃つのとは違う。

 複数人の提督が同じ艦隊を率いる例はある。しかしそれは、大艦隊の運営を若い提督が補佐したり、二人分の技能が必要だったり。要は特殊な場合だ。普通に考えて、すべてこなせる提督が一個艦隊に二人もいるのはリソースの無駄だ。

 

「つまりはそう言うわけよ。勝者は津田君。私はトラックに行くわ」

 

 言ってほしくはなかったとでも言うように、先輩を抱きしめる平戸の腕に、力がこもる。六駆を中心に、何人かの駆逐艦たちも鼻をすすり上げたりぽろぽろ涙をこぼしたり。

 すまんみんな。でも俺は、ここにいたかったんだ。

 

「提督、また会いに来てほしいのです」

「そうよ! 私達からも会いに行くわ!」

 

 どん、と胸を叩く暁に、先輩は頭を振ると、とんでもないことを言い出した。

 

「いいえ、私はもう皆と会う事は無いわ」

 

 演習室の空気が一気に凍り付いた。もちろん俺もだ。そんな一言、こいつらを傷つけるって分かるだろ!

 

「提督、提督、嘘ですよね?」

「また会いに来てくれるんすよね?」

 

 海防艦たちが真っ赤な目で問いただす。しかし彼女は応じない。

 

「なんでそんな事を言いやがる? 皆があんたを大切に思ってるのは、さっきまでのやりとりで分かるだろ?」

 

 それでも先輩はもう一度、首を振った。

 

「大切だからよ。あなたの艦隊(・・・・・・)に、私への未練なんかあっちゃいけないの」

「てめぇ!」

 

 激高して身を乗り出した時、赤城に首根っこを掴まれ、椅子に座らされる。俺の力で逆らえるはずもなく、借りてきた猫のように、為すがままにされる。

 

「落ち着いてください。子供じゃないんですから。木葉提督、あなたは何かを隠してますね?」

 

 この場で最も冷静に立ち回れるのは彼女だった。しかしやはり先輩には響かない。

 

「さあ? 下着の色なら教えてなかったと思うけど?」

「てめぇ!」

 

 つい立ち上がってしまい、俺の尻は赤城によって三度、椅子にのめり込んだ。我ながら弱い……。

 

『イツキ、もう覚悟を決めるべき』

 

 スピーカーから深海大使の声が聞こえる。先輩は大げさに、しかし苦し気に首を振って見せた。

 

「それ、貴方が言っちゃう?」

 

 何故か彼女の冗談でもたしなめるように、先輩は苦笑する。それはなぜか苦し気だった。

 しかし当の本人は無感動に言い切る。

 

『うん、言っちゃう』

 

 大げさにため息をついて、先輩は話し出す。おそらくこの事件の真相を。

 

「あなたたちが散々手を焼いたDeep-1(デープ・ワン)ね。彼女、実は私の親戚なの」

 

 不穏というよりも、先輩の言葉が本気か冗談か判断がつかず、戸惑っている空気だ。作戦終了後に疲れているであろう艦娘たちには済まなく思う。かといって先延ばしにしても、満足に休息などとれまい。

 

「当然、説明してくれるんだろうな?」

「ええ」

 

 今度は真顔だった。と同時に、先輩は軍服のホックを外し、そのまま肌着に手をかけた。なんなんだ一体。

 

「見ないでください!」

 

 ぐきっ!

 赤城が俺の頭を両手で挟み、思いっきり首を曲げさせた。そしてそのまま視界が暗くなる。俺の顔を何かでぐるぐるに巻いたらしい。ひでえ。

 

「ごめんね赤城。今回だけは、彼に見せてあげて」

 

 先輩の声が聞こえた後、赤城が「えっ」と息を呑んだ声がして、そのまま何も言わなくなる。代わりに、艦娘たちがざわざわと騒ぎ出す。取り乱した声を上げる者もいた。

 

「一体なんだって……」

 

 顔から布を外した時、俺の目に飛び込んできたのは、テーブル越しに座る先輩の真っ白な肌。右肩から胸元にかけて、色素を失っている。そう、まるで深海棲艦のよう(・・・・・・・)

 

「私もDeep-1と同じ。人間と深海棲艦の混血なの」

 

 もう何が何だか分からない。俺たちは何と戦ってきたのか。これから何と戦うのであろうか。長谷部を殺したのは深海の化け物ではなく、俺たち人間と同じ何か……いや誰かだったという事なのだろうか。

 

「らしくないわね津田君。Deep-1から聞いたんでしょう? 同じ海神によって創造された艦娘が人間との間に子を為せるのなら、深海棲艦がそうであっても何もおかしくはない。そう思わない?」

 

 それはそうだ。そうなんだが。

 

「Deep-1の肌は、私のように隠せないほど白かったから、かなり人間たちにやられた(・・・・)みたい。憎しみでああなってしまったのかしらね。看取ってくれて、お礼を言うわ津田君」

 

 奴を倒した時赤城が見せた、憐憫めいた仕草は、Deep-1の中にある”何か”を感じ取ったからなのかもしれない。

 そして先輩もまた、肌をさらすことを拒んでいた。俺を連れまわした時も、ウォータースポーツだけはやらなかったし、どんなに暑くても長袖だった。おそらく自衛官時代も、何らかのやり方で「配慮」を求めたのだろう。

 

「話は分かった。だけど」

 

 そんなの、俺たちの前から姿を消す理由にはならない。そう続ける前に、俺の言葉は遮られた。

 

「これはけじめよ。深海棲艦の血を引く私が指揮を執ったりしたら、矢が鈍るでしょう? 第一、皆を騙していた罪悪感で死にそうよ。私を解放して頂戴な」

 

 わざとつき放つような言い方をしても、辛い気持ちがかえってバレバレだ。痛々しくて何も言えない。本人もそのつもりでこんな冷たい言い方をしてるんだろうな。

 

 だけどな先輩。

 

 今度は、俺があんたを救う番だから。

 

「おいみんな!」

 

 俺はマイクに向かって叫ぶように言い、艦娘たちに活を入れる。後ろを振り返ったら、赤城までビクッと震えていた。どうやらこいつも呆けた顔をしていたようだ。

 

「今の先輩の言葉、聞いたか? 物わかりよく『提督が望むならさよならしよう』なんて思ってるやつは何もしなくていい。そうじゃないやつは、叫べ」

『……っぽい?』

『どういう、事?』

 

 案の定スピーカーからは戸惑ったような声が聞こえてくる。だけどお前ら、うろたえてる暇はないぜ?

 

「津田君、もうそういうのは迷わ……」

 

 今度は俺が先輩の言葉を遮る。そんなの言わせるわけないだろ。

 

「先輩がいなかったとき、心細かったんだろ? 会いたかったんだろ? その気持ちをぶつけるチャンスだと言ってるんだ。何でもいい。叫べ。そうじゃないとこの人は逃げちまうぞ。今しかないんだ!」

 

「俺はもう長谷部には会えないが、先輩はまだここにいるんだ。だから引き戻してやろうぜ。頼む!」

 

 一瞬の沈黙の後、スピーカーがぴーっと耳障りな音を立てた。そしてそれから。

 

『しれぇ! 行かないでください!』

『全部押し付けてにげるとかありえない! 責任とりなさいな!』

『Heyテートク! 妹たちと再会させてくれた恩返しはまだしてないネ!』

『そうだよ! まだ加賀さんに勝つところを見せてないよ!』

『いっぱいお話したいことがあるんです! 司令官が戻ってきたら聞いてもらおうって!』

『夏の新刊もまだ読んでもらってない!』

『那珂ちゃんの新曲もまだだよ!』

『提督!』

『司令官!』

 

 言霊の濁流は終わらなかった。先輩は呆けたようにそれを聞き入る。

 そうか、何のことはない。俺も先輩も、似たようなものを抱えていて、艦娘たちが重荷から解き放ってくれた。

 

「先輩。俺たちは、提督なんだよ。一度提督になっちまったら、艦娘と離れる事なんて無理だ」

 

 先輩の視線が、一人の女性をとらえる。彼女は、加賀が吹き飛ばしたドアからゆっくりと入ってくる。高雄型、重巡高雄だ。

 

「提督、もう、逃がしません」

 

 堂々たる態度で現れた、真打は完全に覚悟を決めていた。

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