仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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どうもご心配おかけしました。体調がーとか言っといて新春ライブはきっちり行ってきたんですけどね。まさかMIQさんに一航戦のキャラソンを歌っていただけるとは。嬉しさのあまり記憶が飛びかけました。

そしてトンブリはまだお迎えできず……。

さて最新章です。ノリとしては「決戦前夜の人間模様」といった感じになると思いますが、アメリカ艦の乱入展開とかも用意してます。お楽しみに(`・ω・´)ゞ


第六章「決戦の予感と米国艦の来訪」
第99話「提督たちは共謀する」


丹賑(ニニギ)島鎮守府 会議室

 

Starring:提督

 

「じゃあ、始めるとしようじゃねぇか」

 

 綾郷大将が、会議の開始を宣言する。あれからずっと、彼は苦虫を噛み潰したような顔だ。

 

 居心地が悪そうな大淀が、紙のノートを開いた。

 

「本当に私が書記をしていいんでしょうか?」

 

 確かにこのメンツなら、彼女が気後れするのも当然だ。俺はまあ置くとして、一番奥にででんと座っているのがキーパーソンにして、胡散臭さ満点の深海大使。しかも無表情。

 その前で気むずかしそうにお茶をすすっているのが綾郷大将。

 大淀の正面には、にこにこと妙に機嫌がいい木葉先輩がいた。

 

「まあいいんじゃね? 誰も来てくれなかったら、またどっかに連れてかれるかもしれないし」

 

 人の悪い笑いとともに綾郷大将を見やる。大淀が青ざめ、深海大使が首を傾げ、先輩が爆笑した。当人は相変わらず能面だ。別にいじめるつもりはない。ただ、またこんなことされたらあんたの味方でいるとは限らんぞ、と釘を刺させてもらった。散々振り回してくれたんだ。この位いいだろ。なんか負い目も作ったみたいだし。

 

「最初に問いたい。ツダヒロム。あなたはこの戦いが終わった後、人と艦娘、深海棲艦はどうなると考える?」

 

 言葉に詰まった。考えはある。だがこれは言っていいものか?

 

「大淀、せっかくだ。間違えても構わんからお前の考えを言ってみてくれ」

 

 突然のご指名だねと、きょとんとした表情を浮かべる大淀である。彼女に意見を言わせて相手の反応を見る。そんな(こす)い考えもないわけではないが、まず艦娘がこの戦争の終わりをどう考えているのか。それが知りたい。

 大淀は遠慮がちに頷いて、それでもはっきりと言った。

 

「心配しています。戦いが終わった後、私達が”走狗(そうく)”にならないかを」

 

 ”狡兎(こうと)死して走狗煮られる”、か。深海棲艦を駆逐して自由になった人類は、次に艦娘たちを排除しようとするのではないか。そう考えている艦娘たちも存在すると言う事だ。だが。

 

「それは心配ないわねぇ。でも厄介な事態になるのはその通りよ? 津田君」

 

 先輩の催促に俺は腹を決めて、口を開く。これが舌禍になりませんように。

 

「戦後発言権を持つのは、この戦争で矢面に立った国。つまり艦娘を保有する国だ。もちろん日本も含む、と言うか物量と戦争への貢献度で、日米が盟主になるんじゃなかろうか?」

 

 一見それは日本の前途を祝福するようだが、そううまくいくとは限らない。

 

「そして面白くないのが、内陸国や艦娘を持たない国。彼らは……」

 

 深海大使が補足してくれる。これで俺もやばい話を言いやすくなった。つまり――。

 

「私が南の女王ならば、南洋艦隊は大陸国家と結ぶ。それが合理的」

 

 大淀は呆けたように眼を(しばたた)かせ、信じられないとでも言うようにかぶりを振る。

 

「だって手っ取り早いじゃない? どうあがいたって艦娘保有国なんて限られてるんだから。それなら深海棲艦と結ぶ。万事解決よ」

 

 先輩が大げさに肩をすくめて見せる。

 そうなんだよな。良くも悪くもそれが人間(・・・・・)なんだよ。人間は、泥臭いんだ大淀。俺は思うが、口には出さない。

 

「それで、本題を聞きましょうか?」

 

 先輩は頷いて、太平洋の地図を指さす。

 

「ここ丹賑島。それから攻略したばかりの硫黄島。そして将来的にはダッチハーバー」

 

 その三つがどうした? 俺は何も言わず、説明を待つ。

 

「ワシらは、艦娘の『解放区』を作る」

 

 無言だった綾郷大将が言う。今度は俺の方がきょとんとする番だった。

 

「このままではワタシ達も艦娘も、代理戦争のコマにされる。だから集まって発言権を得るべき」

 

 だんだん話が分かってきたぞ。

 

「つまり、先輩がダッチハーバーにいたのも、硫黄島攻略作戦をカモフラージュに、停戦交渉を進めたのも?」

「そうだ。全部この計画の下準備だ」

 

 そして俺をここに派遣した。ブラフのためのスケープゴートとして、散々踊ってしまったわけだが。

 ここはふざけるなと怒るところだろうか? 実際大淀が何か言いたそうな顔をしてくれている。だがこの三人は、艦娘たちの未来、深海棲艦との併存の可能性を模索している。つまり誰も不幸にならない方法を探しているのだ。

 その思いは俺も同じで。

 

「……大淀」

「はい」

「お前は『解放区』はどんなところだと思うか?」

 

 彼女は熟考した。十分に情報を咀嚼して、ゆっくりと答える。

 

「まず該当の三拠点に自治区を作り、そこに艦娘や深海棲艦を住まわせます。最大の役割は駆け込み寺です。艦娘が何らかの不当な扱いを受けた時、彼女達が逃げ込む場所になり、場合によっては交渉の窓口になります」

 

 先輩が「へぇ」と、楽しそうに漏らした。大将が話を引き取る。

 

「だがそれだけでは意味がねぇ。学校教育や民間の職業訓練は人間の住民や留学生と一緒にやらせる。最初はトラブルが絶えねぇだろうが、腰を据えてやる。100年かけるつもりでな」

 

 どう考えても三人ともあと100年生きるのは無理だが、そこは「任せられる後継者を育ててから引退しろよ?」と言う意味である。多分、ぎりぎりのかじ取りが要求される仕事だ。しかしそれなら、今と大して変わらんともいえるな。

 

「その実現性はあると思うか?」

 

 大淀は、今度はよどみなく答えた。

 

「日米の政府ですが、状況次第で乗ってくるでしょう。丹賑島の資源は、今から施設を作るより妖精さんに任せた方が早いです。艦娘に関しても、艦娘を集中させて装備開発や訓練を行う拠点があれば、有事の展開能力が大きく向上します。緊急展開部隊としての役割も期待されるでしょう。北洋艦隊の深海棲艦も、防衛戦力として考えれば折り合いが付けられます。多くの人類国家が彼女達と技術交流を望むでしょう。ただしダッチハーバーは領土問題に発展する可能性が高いですが、そこは情報が足りずなんとも言えません」

 

 まあそんなところだろうと、俺は頷く。この子の成長は、素直に嬉しいな。

 

「この計画は皆のためになると思う。ただし俺が乗るかどうかは、聞きたい事を聞いてからだ」

 

 もう振り回されるのはまっぴらだ。だから聞くべきことを聞いておきたい。

 

「綾郷閣下。あんたは一体何がしたい(・・・・・)んです? こんな計画、あんたのキャリアにはリスクにしかならないでしょう? それとも、大穴を一発当てるためにこの大騒ぎを仕込んだのか?」

 

 綾郷大将の渋みがかった顔が、苦笑に変わり、すぐに見た事も無いような神妙さを(かも)し出した。彼は何と両手を膝に付き、頭を下げた。

 

「済まなかった。おめぇさんを利用しようとしたのは確かだ。ただこの短い期間に、おめぇさんと艦娘たちがあそこまでの信頼を結んでいるとは想像もつかなかった。正直、一生の不覚だと思ってる」

 

 初めての謝罪。それも誠意を感じるものではあった。しかし、俺は追撃を緩めない。

 

「大将閣下。質問の答えをお聞きしたい」

 

 彼は困ったように息を吐いた。お前の勝ちだよ。そんな感じの表情だった。深海大使は無表情だが、先輩はにやにや薄笑いを浮かべている。

 綾郷大将は懐から定期入れを取り出し、一枚の写真を抜き取った。

 

「これ、金剛じゃないですか? 横須賀の彼女ですか?」

 

 写真には、眼鏡をかけた大人しそうな男性が照れくさそうに笑っていて、その腕を抱きしめてピースサインをする金剛だった。

 

「息子だよ。難産でな。女房が体を壊しちまったんで一人っ子だ。教師になるってんで猛勉強して、一昨年私立校に就職した。それが基地祭を見学に来た時に、金剛の奴が惚れこんだってぇわけだ。自慢の息子だが足に生まれつきの障害があってな。女性不信なところもあるし、これを逃がしたらってぇのもある。身勝手な話だがな」

 

 何と言うべきか。今までの、日本の命運をかけたお騒ぎは、子煩悩なおじさんが親馬鹿ぶりを発揮しただけだったと。笑うべきなのか? 笑っていいのか?

 大淀を見ると、露骨にむっとしている。もったいないことこの上ないが、俺のために怒ってくれてるんだろうなぁ。それがかえって、俺を冷静にした。

 

 俺が同じ立場だったら。例えば高雄と先輩が平穏に生きるために必要だとしたら?

 きっと同じことをする。

 

「分かりましたよ綾郷さん(・・)

 

 先輩がにやりと笑う。深海大使は一見表情を変えないが、何か興味深そうに俺を見ている気がするのは錯覚だろうか。

 

「計画には乗ります。ただしうちの艦娘を一人でも傷つけたら。この件はご破算です」

 

 綾郷さんは写真をまた丁寧にしまい込み。咳ばらいをした。俺はこれ幸いと、あれこれ足りないものを無心する事にした。中にひとつだけ無理難題が入っているが、まあ頑張っている彼女のためにねじ込むつもりだ。

 

「これで俺とおめぇさんたちは共犯ってわけだ」

 

 ついに耐えられなくなった先輩が爆笑する。目の前の人、大将なんだが。

 




お約束通り、先週分も公開するつもりなので、来週にもう一回更新したいと思ってます。
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