MUSE   作:山本電柱郎

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塾行ったりなんだりで文字数は少ないし内容は薄いしで大変なことになりました。
それはそれとして、丸亀の月見釜玉が超美味かったので皆さん試してみて下さい。


Episode2-敵性体

家のチャイムが鳴る。

「葵〜帰ってる?」

「帰ってるよ〜」

科博ちゃんと寛ぎながら、葵は帰ってきた母親に返事する。

玄関を開け、両手に買い物袋を提げた縹が入ってきた。

「おかえり母さん」

「ただいま〜…って葵、その娘誰?」

「…なんか科博で知り合っちゃってさ」

「…葵も、か」

(おれ)も?」

縹の背後から、科博ちゃんと同年代か、1歳ほど年上に見える少女が顔を出す。

「…久しぶり、かな?」

「そう…だね」

葵の陰から覗く科博ちゃんは歯切れの悪い言い方で言う。

「どうしたの?」

「葵君」

「?」

「こい…この娘もMUSE(ミューズ)なの」

「母さんが…コネクターに?」

「らしいね」

縹が手を挙げて尋ねる

「葵と…その子に質問なんだけど…コネクターって何?」

「それについては私が」

桃色の髪の少女が言う。

接続者(コネクター)とは、いわばMUSEを博物館の外に繋ぎ止めておく“(いかり)”です」

「錨?」

「MUSEとは元来博物館の外に出れない程不安定なものです。それをムリヤリ連れ出して

来るためには、錨で繋ぎ止めて安定させる必要がある訳です」

「…とりあえず、MUSEとコネクターが契約しとけばいいって事?」

「まぁそんな所でしょうね」

四人で居間の机を囲んで話し込んでいた所で、葵が縹に聞いた。

「今日帰るのがちょっと遅れたけど…何かあったの?」

「あぁ、それは…」

 

 

 

 

動くパンフレットに吸い込まれた縹は、その光景に驚いていた。

先程まで人と肩が擦れる程だったのに、ついさっきあの少女に話しかけられてから、急に人が消えてしまった。

それだけでない。

更に驚くべき点があった。

展示品が“動いていた”事だ。

仏像が歩きまわり、ミイラが起き上がり、レリーフが生きている様に動いている。

映画を彷彿とさせるその情景に感動と恐怖を抱きつつ、後ろから感じる気配に向けて拳を振り抜いた。

拳に確かな感触が伝わった後、少女がが吹き飛んで行くのが視界に映った。

「…ここはどこなのかしら?」

右頬を腫らした少女が言う。

「ここは…私が作った“試験会場”です」

「そこで、私は一体何を試されたの?」

「それは…」

 

 

 

「と言った具合で、契約して、東京観光して帰ってきたと言う訳です」

少女はそう語った。

「…母さん」

「…メンゴ?」

「いや『メンゴ?』じゃねぇよ何なんだお前」

葵が縹にツッコミを入れる。

二人が親子漫才を繰り広げていた時、二人の少女が何かに反応した。

「葵君」

「どうかしたの?科博ちゃん」

「ちょっとした用事ですね。玄関先に来客が来てます」

「来客?」

「えぇ。招かれていない子が一匹」

 

 

 

玄関に立った葵は、科博に言われるがまま、戸の向こうから聞こえる声に耳を澄ませていた。

最近増えてきたムクドリの鳴く声。

雨上がり故か聞こえるアマガエルの声。

よく庭に来るネコの声。

「科博ちゃん?特に変な声は聞こえないけど…」

「ネコだよ。葵君」

「ネコ?」

「そう。ネコ」

「私達を追ってきちゃったみたいだね。姉さん」

「そうみたい」

科博ちゃんがゆっくりと戸を開け、外に出る。

そこには、今まで見たことも無いような恐ろしい見た目をした獣が立っていた。

黒ずんだ紫色の体毛、大きく裂けた口、短剣のような爪、そして何よりその体躯。

今やネコというより豹のような体躯の獣は低く唸りながら今にも飛び掛かろうと構えている。

その姿を眺めながら、少女が葵に言う。

「こいつを倒しても、いつも来てるっていうネコちゃんには怪我は無い。だから、こいつ倒してもいい?」

彼女は葵の方を向き直る訳でもなく、目の前の化け猫を見つめている。

「…信じてるぜ。あの子、結構可愛いからな」

葵がそう言うと、科博ちゃんは一瞬だけ笑った。

その笑顔は、とても凶暴な、眼前の獣に勝るとも劣らない恐ろしさを感じさせた。

彼女が前に手を(かざ)すと、獣の四肢に何かが絡み付いた。

吸盤の並んだ赤い触手…時折食卓にも上る水蛸の触腕が獣を抑え込んだ。

獣が苛立ったように触手を切り裂き、此方に突進してくる。

あの爪で刺されたり切り裂かれたりすれば間違いなく死んでしまう。

ただ、何故か。

何故か葵は、とても落ち着いていた。

目の前の化け猫が、まるでガラスケースや檻に入れられている様に感じた。

ふと思った。

この獣はきっと、自分に触れることなく死ぬのだろうと。

その考えは的中した。

突進し、爪を振りかぶった獣は、突然眼前に現れた大顎によって頭蓋を噛み砕かれた。

力のこもっていた体がだらりと垂れ下がり、塵のようになって消えていった。

「葵君。終わったよ」

「ありがとう」

葵に向かって、科博ちゃんは先ほどの凶暴な笑顔を収めて微笑んだ。

 

 

居間に戻った橋爪親子は、MUSEの二人を問い詰めていた。

あの化け物は何か。

「あの化け物は敵性体といって、周囲の生物や道具、機械などと貪欲に結合して、“情報を奪う”存在です」

「情報を奪う?」

まるでコンピュータウイルスだ。そう葵は感じた。

「敵性体は本来ゲル状の体をしています。しかし、周囲の物の情報を奪う事で、先程のネコの様に形を得る訳です」

桃髪の少女は葵のホワイトボードを勝手に使いながら語る。

「…で、情報を奪われたモノはどうなるんだ?」

「消えます」

「はぁ!?」

葵が驚き、座椅子ごとひっくり返ると、外から猫の鳴き声が聞こえて来た。

障子を開け、窓の外を見る。

いつも家に来ている彼は変わりも異常もない様子で座っていた。

「いるじゃないか」

「消えるといっても一時的なものですよ。敵性体を倒せば元に戻ります」

葵が胸を撫で下ろす。

「私たちは別ですがね」

淡々とした調子で言うその言葉には、他人事の様でしっかりとした重みがあった。

「別?」

「私たちは本来肉体を持たないもの。体を構成する“情報”を奪われれば、倒された後暫しの間を開けて消滅します。先程の化け猫の様に、塵になって」

目の前の二人がチリになって消えることを考えるのは辛い。

本来なら、ヒトならなり得ない光景故か、尚更堪える想像になった。

「それで…倒すっていうのは…?」

「先程やった通りです。MUSEが敵性体を仕留めるだけ」

「私なら武具や彫像などを使えます」

少女はそう言い、葵に擦り寄っている科博ちゃんの襟首を掴んだ

「この黒髪ロング、国立科学博物館なら骨格標本や剥製を動かしたり、道具を召喚して殴り合ったり…あとは…まぁ追い追い言いますか」

「葵君には知っといてもらいたいしね」

襟首を掴まれているのに何故か楽しげな科博ちゃんがウインクして言った。

そんな二人に、縹が尋ねた。

「そう言えば、君の名前って?」

桃髪の少女は、縹を取り込んだパンフレットを見せ、名前が書かれた部分を指指した。

「私の名前は『東京国立博物館』。お気軽に、東博とでもお呼び下さい」

東博はそう名乗ったが、科博ちゃんから何かを耳打ちされたようで、こう続けた。

「…別に、東博ちゃんでもいいんですよ?」

こうして、葵と縹とMUSE二人、それと現在蚊帳の外に置かれて何処となく寂しげな父親の生活が幕を開けた。

 

 

「葵、お前まだあいつと連絡とってんのか?」

「紀田さんの事ですか?」

「…まだとってんのか…」

「いいでしょう?いい人ですよ」

「でもなぁ…」

葵のクラスを担任する緋口は元々深い眉間の皺を更に深くして共通の知人を思い出す。

「紀田はなぁ…悪いやつじゃないんだが、うん。教育に悪いな」

「酒と煙草くらい気にしませんよ?」

「気にしろや未成年」

紀田(きだ)凛。緋口の同級生で、現在は県外で博物館関係の仕事をしている。

葵は、紀田の仕事を手伝うと言う名目で夏休み中居候をしていた関係もあり、最近でも連絡を取り合っている。

「紀田さん、無事ですかねぇ」

「無事?」

「あの人、長めの休暇に入ると部屋に篭って出てこないので」

「まさかお前、買い出しまでやってたのか?」

「そうでもしないとあの人死んじゃいますよ」

「…確かにな」

緋口は眉間の皺を緩めて、名簿の入ったファイルを手に取った。

「それで、葵。課題は?」

「…しまったな」

葵の頭にファイルの角が鋭く振り下ろされた。

 




とりあえず前書きを書いてお腹が減ったので明日にでも丸亀に行きます。
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