MUSE   作:山本電柱郎

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最近地元の博物館によくお邪魔しています。埴輪が大量にあります。


Episode 3-私の肩を持つ彼女

「眠い…あまりにも退屈が過ぎる」

窓の外は豊かな田園だ。

シラサギが群れで居座っているようで、緑の田の所々に白い塊が見える。

ここは田舎の中の都会であり、都会の中の田舎だ。

校庭にはムクドリやカワラバト、カラスやスズメ、トビ等が時折飛んでおり、側を流れる川を見ればカモやサギがいる。

木ではオナガやキジバトが鳴いている。

餌も多く、鳥類の楽園と成り果てている我が校庭は眺めれば時が過ぎる。

前なんて、中庭の藪からアオダイショウが出た事があった。

数学のノートには、いつしか数式と解よりも生物のスケッチの方が多くなってきていた。

特に今回のオナガはよく描けたと思う。

一応真面目に受けているつもりだが、どうも英数は苦手だ。

しかし、得意だった生物と化学、古文と漢文、歴史だけは特段真面目に受けている。

しかしながら、今日のようなに無気力な日には自分の年季が入り、端が少しばかり欠けてささくれた椅子に腰掛け、落書きと錆の残る机に頭を預ける事も多い。

ふと目が覚め、輝かしい青空を眺めていると、見慣れない鳥が飛んで来るのを見つけた。

空を物凄い勢いで邁進し続けている。

今はまだ小さく、よく見えている訳ではないが、それでも分かるような勢いだ。

しばらくすればこの教室に飛び込んでくるだろう。

慌てふためき逃げるわけにもいかない。

恐らく、クラスメイトの皆には見えていないのだから。

それに、あの鳥がこの教室で暴れれば怪我人が出るかもしれない。

その時、身体全体を柔らかな感触が包み込んだ。

目をやると、科博ちゃんが背中側から体を押し当てながら、自分の手をその白い指で包み込んでいる。

「あれは葵君の予想通り“敵性体”だよ。もちろん、この教室に飛び込んでくるまで的中してる」

そう耳元で囁かれた。

少し冷たい体温を背中いっぱいに感じる。

「…前みたいに迎撃できたりする?」

葵はそう聞き返した。

「出来るよ。ちょっと面倒くさいけど」

「面倒くさくて構わないから、迎撃して欲しいな」

葵は微笑んで言った。

そうだ。止めなければ。止めてもらわねば。

そう言うと、科博ちゃんは一瞬微笑んでから窓側に立ち、空に手を(かざ)した。

科学博物館地下二階でバシロサウルスと共に来館者を迎える大型肉食性海棲爬虫類、握り玉のトカゲ(ティロサウルス)

その大顎が地面からイルカショーでボールを突くイルカの如く飛び出し、その鳥を咥えて地中へと消えていった。

暫く地面が泡立つのが見えたが、暫くすれば収まり、何事もなかったかのように隣のクラスが体育の授業を始めた。

「あっけないものだね」

あっけない、とは言っても、あんな攻撃をされればどんな相手もあの鳥のように地に沈むだろう。

葵は地中に想いを馳せたが、地中での溺死の苦しみを想像して早々に辞めた。

何と恐ろしい事だろうか。

これ程までに強力な存在が、自分の隣に居るのだ。

何と素晴らしい事だろうか。

彼女は私の味方らしい。

何と嬉しい事だろうか。

これ程までに素敵な彼女は、私の隣に居てくれるらしい。

 

 

 

MUSE同士はお互いを知ってさえいれば、離れていても意思疎通や情報公開ができる。

東博もまた、科博の送った情報を受け取っていた。

「鳥型…いや、科博曰く『トビ型』の敵性体ですか」

「トビって…あの飛んでるやつ?」

「G県でも少なからずいる猛禽の一種です。詳しくは帰ったあと科博に説明してもらいましょう。案ずるべきなのは、私達の家周辺で大量発生している『ムクドリ』を吸収した『ムクドリ型』の発生です」

「ムクドリ?トビとかより全然弱そうじゃん。別に怖くなくない?」

「確かに単体ではそうですが、例えばムクドリの群れが丸々敵性体になれば…私達でもどうしようもないでしょうね」

「そっかぁ…」

ロッカーにある縹の携帯が鳴り出した。

暫く話し込み、また掛け直すと言って話を終えた。

ロッカーの取っ手に手を掛けた瞬間、妙な違和感を感じ、東博に目で合図した。

ロッカーを開け放つと、5メートルはありそうな大蛇、その骨格が矢の如く首を伸ばして来た。

紫泥の絡みついた身体から繰り出される連撃を避け切り、東博は自身の展示品の中から日本刀を一振り手に取った。

長い身体が曲がり、こちらを睨みつける。

鞭を振り回すように暴れる大蛇を前に、東博は目を閉じ、息を整えてその怪物を見直した。

鎌首をもたげ、こちらに向けて紫色の舌を出し入れしている。

そこで、東博は簡単な作戦に出た。

自身の展示品の中から、小さな硬貨を取り出し、コイントスの要領で弾き飛ばした。

MUSEの身体能力は、個人差こそあれど、基本は人よりも大分上だ。

ただの弾き飛ばした硬貨すらも弾丸と化す。

大蛇の目を削り取り、ロッカーの扉を貫いてコンクリートの壁にめり込んだ。

痛みにのたうち苦しむ大蛇の骨に刃を突き立て、一気に引き裂いた。

半身となっても目についた縹を襲わんと牙を剥く蛇を、東博はもう一度切り裂き、跳ね上がった骨を握りつぶした。

紫泥がこびりついた骨片が飛び散り、勢いよく吹き出した紫泥は返り血のように東博の頬を染めた。

その紫泥が塵になって消える中、東博はやってやったと言わんばかりに胸を張った。

 

 

 

 

「そういえば、MUSEの出す展示品ってさ」

「どう動いてるかって?」

葵と科博は自室で寛ぎながら話していた。

「そうじゃなくて、ほら、どうやって出したりしてるのかなって」

「さては、今頭の上にいるミズダコが気になってるな?」

葵の頭にはミズダコが乗っている。

何故かどことなくご機嫌そうだ。

「まぁね。前切り裂かれたのに、今は無事だし」

科博はミズダコを自身の膝に乗せると、触腕を手に取って話し始めた。

「私達の出す展示品は別空間から取り出してるものなんだけど、その別空間が本物の博物館と同じようになってるの」

「…?」

「私達の世界にある『動かない博物館』と別空間の『動く博物館』がある感じ」

「なるほどね。で、なんで治るの?」

「破壊された展示品は別空間に入って、しばらくの間使えなくなるの。その後、しばらくしてから取り出せばまた使えるってわけ。分かりやすく言うなら…クールタイムとか?」

「なんか難しいけど…とりあえず、時間おけば治るって事だよね?」

「そゆこと。それに、何かを消費しちゃうみたいな展示も一定時間経てば使えるようになるんだよね。私も詳しく測った事ないけど」

そう言いながら、葵の敷いた敷布団にだらりと寝転んだ。

いつも着ている白衣を脱ぎ、帽子は寝転んだ拍子に枕元に転がっている。

すうすうと寝息を立て、まるで赤子のようだ。

いつ見ても無防備なものだ。前の冷酷で残忍そうな笑顔とは別人のようだ。

そう思いながら、穏やかな顔で寝息を立てる科博の隣に、葵は寝転んだ。

 

 

 

仕事も終わり、夕暮れの中。二人は仕事場から帰路についていた。

「東京もいいですけど、自然豊かなここは尚のこと素敵に感じますね」

「もう大分長くいるから慣れちゃったな」

「縹さん新しい物好きですもんね」

「流行りに乗れるのは都会だしね。しばらく遅れるのも悪くはないけど」

「お互い、隣の芝が青く見えるものみたいですね」

「かもね」

縹は微笑んで言った。

その時、二人の後ろから女性の声が聞こえた。

「橋爪さ〜ん!」

振り向くと、スーツ姿の女性が駆け寄って来た。

「あ、レイナちゃん。どうしたの?」

「スマホ、忘れてましたよ」

「あ、忘れてた!助かったよ」

「お役に立てて何よりです。それでは!」

レイナはそう言うと、小さくお辞儀をして仕事場へ戻っていった。

「縹さん」

「どうしたの?」

「あの人、変な感じです」

「変な感じ?」

「なんというか、人らしく無いというか、人間みを感じないというか…」

「気のせいじゃない?」

「そうだといいんですが…」

赤い夕日と、明けの明星が二人を見守っていた。

 

 

 

 

 

G県T市、塚崎町。

ここには、ある組織の支部が隠されている。

決して都会ではない。アクセスも良くはない。

そんな所に何を隠すか。

ディスプレイを見ながら男は呟いた。

「アオイ・ハシヅメと、ハナダ・ハシヅメ…」

どうしたのかと同僚が尋ねる。

「新しいコネクターが選ばれたようなんですよ。しかも、随分なビッグネームを連れてるようで…」

男達は書類を眺めながら(ざわ)めいている。

「少し様子を見てみましょうか。ですよね?鹿野(ししの)くん。」

「そう…ですね。行って来ます」

少年は書類の顔を見て、少し顔を(しか)めつつ、部屋を出ていった。

その組織、機関の名は———

 




上野の鳥展に行きたいなぁ
でもなぁ
用事がなぁ

あ、関係ないんですけど最近新しく永久歯が生えて来ました。
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