MUSE   作:山本電柱郎

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お久しぶりです。
フォネティック・コーズに力を入れすぎてました。
やっぱり科博っていい所ですね


Episode 4-体力づくりの季節

「橋爪さん。言われてた書類、できました!」

女性は書類を手に縹へと話しかけた。

縹は部下の女性が差し出した書類を受け取った。

「ありがとう。それじゃあ先休憩入ってて」

「ありがとうございます!それでは!」

そう言うと女性は縹の(もと)を離れていった

「…ねぇ縹さん」

東博が怪訝な目で歩き去る彼女を見る。

「どうしたの?」

「あの人…何と言うか…信用しきれないと言うか…その…」

「前も言ってたよね」

「言い表し辛いですが…何と言うか…血生臭く感じるんです」

東博は彼女に対し何処かで既視感を抱いていた。

「昨日魚でも捌いたんじゃ無い?」

「そう言うのじゃ無いと言うか…」

「人らしい血生臭さじゃ無いと言うか…それこそ何か、まるで…神様みたいな…」

「神様かぁ〜居たら…とりあえずいっぱいの柴犬に囲まれたいかな」

「何ですかその夢は。私も混ぜてください」

 

 

 

「ちょっと待って…本当に無理…吐きそう」

葵が息を切らして跪く。

「葵くん、残念だけどまだ1キロも走ってないよ」

「…ほんと?」

「うん。本当。」

「ちょっとでいいから運んでくれない?」

「だーめ」

「え〜」

葵の横にある川に、大きな水音が響く。

水鳥が一斉に飛び立ったらしく、鳴き声と共に空へと散っていく。

「急に飛んでいくなんて、地味に珍しいと思うんだけど」

「なんか嫌な気配が…」

橋の上で止まった2人を、橋の下から巨大な眼が見つめる。

「ッ!葵君!」

科博が葵を抱えて飛び退く。

土煙が晴れた後、橋を見てみると、強大な力で鉄骨ごと切り潰されていた。

「こいつは…」

「今見たハサミは、確実にザリガニのものだった」

葵がぶつぶつと呟き出した。

「トゲの無い、幅広で分厚いハサミ…きっとアメリカじゃなくてウチダだろうな」

「…まぁ取り敢えずザリガニって事だね」

「そういう事になるかな。取り敢えず、ハサミと尾に気をつけて…」

「取り敢えず分かった!」

科博は葵が喋り切る前に飛び出して行った。

水中戦は強力なダイオウイカやティロサウルスなど強力な展示品が使えるが、その反面ミューズ本人が動き辛くなるのが難点だった。

かと言って、橋の上から仕掛けてもあの調子では直ぐに真っ二つにされてしまうだろう。

そうこう考えている内に、足元のコンクリートが砕け散った。

「尻尾が…!」

ザリガニの尾は筋肉質であり、そのままのサイズでも力強い。

おまけに、今回は敵性体となった故か尾肢が刃物のように鋭くなっている。

川からこちらを見つめる怪物はハサミも合わさって三つ首の怪物のようだ。

「葵くん、何か策とかって?」

「そっちこそ、何かないかい?」

科博は苦笑しながら怪物の方を向いた。

「巧妙な策がなくても、華麗な作戦がなくても、私は、私と葵君(わたしたち)は勝利を掴める」

吹き抜けた一陣の風により白衣と黒髪が揺れる。

「どれだけ相手が強くても、それを上回る力で圧倒する。それでこそ、私達ってものでしょ?」

振り向きざま、彼女は川面の逆光の中で微笑んだ。

 

自身らを狙う鋭い、それでいて強力な鋏。切り掛かって来たそれを避け、ひらりとハサミの上に飛び乗った。

「外骨格あるのって苦手なんだよね」

科博が掌で触れると、触れた所が爆音と共に吹き飛んだ。

「今のって…」

「火薬。知ってるでしょ?」

「火薬!?」

葵の記憶では、火薬の展示などなかったはずだ。

「そんなものどこから…」

「私の名前は、国立“科学”博物館。難しい構造の物質ならまだしも、硫黄やら硝石でできるものくらい作るのは簡単なの」

敵性体は大きく叫びながら鋏を振り上げている。

威嚇の体勢だ。

「私がさっき外骨格持ちの敵性体が嫌いって言った理由の8割は、外骨格の硬さにあるの。普通の生物くらいなら良いんだけど、硬くなってくるとたまに攻撃弾いたりするからね」

科博がしみじみと言う。

「でも、あいつは今自慢の外骨格を割られてる」

感傷に浸っていた顔が、段々と鋭い殺気を帯び出す。

「こっからは、反撃の時間ってこと」

科博が飛び上がり、砕けた傷口目掛けて高速で火打ち石の(やじり)や銛を撃ち込んだ。

ザリガニは更に大きく叫び、しばらくハサミを振り乱して暴れたのちに川へと消えて行った。

「…これって」

「…倒せてない。けど、それ相応にダメージは与えたし…暫くは暴れないでしょ」

科博はそう言いながら、乱れた白衣を直した。

「…それより、学校は?」

「…あ」

葵のランニングは更に厳しさを増す結果となった。

 

 

 

「で、どうして遅刻したんだ?」

「試しに徒歩で来てみたら…予想以上に時間かかっちゃって…」

葵はそう言って誤魔化した。

そういう葵を前に、緋口は少しだけ嘲るように口角を上げた。

「にしても、今日チャレンジするとは実にタイミングが悪いな」

「…?」

「今日の1時間目、見てなかったのか?」

「…まさか」

「お前の大好きな生物。それも進化の分野でな」

葵は膝から崩れ落ちた。

 

 

その日も学校はいつも通りに終わり、変わり映えのしない夕暮れ時となった。

「1日学校行った後歩いて帰るとなると…」

「キツいでしよ?」

葵は頷く。

「残念だけど、それより大分キツイのが帰り道に待ってるんだよね」

「朝の敵性体?」

「そう」

「あいつは確かに外骨格を一部だけ破壊されてるけど、正直言って奴にとっては大したダメージじゃない」

「じゃあ」

二人が向かい合う。

「「釣り上げてみる?」」

ぴったりと重なった。

 

 

「私の展示品の中にある『サメ用の釣り針』を使って釣り上げて、そのまま陸で決着を付ける。で、いいよね?」

葵は頷く。

「じゃあ、始めるよ」

科博の出した湾曲した釣り針が川へと飛び込む。

暫しの沈黙か走る。

刹那、釣り糸——と言えどもかなり太い紐が、真っ直ぐな直線を描いた。

「来た!」

一気に縄を戻し、その姿を夕陽へと晒す。

紫泥を纏ったその怪物は、陸上でハサミを振り上げながら大きく吠えた。

耳をつんざく轟音の中、科博は自分のお気に入りを繰り出した。

地球館一階にて来館者達を歓迎している、大型肉食恐竜。

三本の指と鋭い爪、長めの顔、そして目の上の突起。

ジュラ期に君臨した捕食者、アロサウルス。

その顎は、すぐさま牙を剥いた。

鋏の付け根に頭部を振り下ろし、牙を突き立て、そのまま甲殻を噛み砕いた。

暴れる獲物に対し、アロサウルスは顔面へと尾による一撃を加え、そのまま乱暴に鋏を噛み千切った。

勢いのままに敵性体の目を爪で切り裂き、触角を噛みちぎった。

もう片方のハサミで襲いかかる相手の頭を踏み付け、天を仰ぎながら咆哮する。

もうこの世のものでは無い声と共に、異竜(アロサウルス)は消えて行った。

敵性体も動きを止め、切られた腕も消え始めていた。

敵性体はMUSEと同じように、コネクターの才がない一般人には見えず、触れることも出来ない。

そのまま消えゆく敵性体を見ながら帰路につこうとした所で、“二人”は呼び止められた。

「随分と見事な立ち回りだったな」

男は言う。

「見習いたいくらいだったよ」

その横から現れた女性がそう言った。

葵は声の主を見た途端、目を見開いた。

そこに居たのは、卒業を機に疎遠となっていた先輩であったからだ。

「久しぶりだな、葵」

「そっちこそですよ。鹿野(ししの)先輩」




こっちも頑張って書いていきます。
時間だけは有り余ってるので。
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