【完結】FF8の世界に転生してスローライフを満喫する話。 作:速射弾
デリングシティの東北にある名もなき王の墓と呼ばれる石造りの遺跡。
それは古代のドール帝国の皇帝が祀られた墓だ。
貴重な歴史的建造物だと思うのだが、誰も管理しておらず入り放題でかなり雑な扱いを受けている。
今のドールにはかつての国力は無い為、外交上の問題点以外にも現ドールと離れた土地である陵墓を管理するのは金もかかり難しいのかもしれない。
そのため名もなき王の墓はモンスター住み着き放題で、この世界にしては珍しくわかりやすいファンタジーダンジョンと化していた。
しかしダンジョンとしての扱いも活気のある物ではない。
若者達の廃墟肝試しスポットみたいな扱いをされる事が多いようだ。
わかりやすい宝箱があるわけでもなく、入っても同じ通路がいくつも連なって出来ているので迷いやすくてつまらないのだ。
ダンジョン内部よりも外部で景色を見ながら川のせせらぎを聞いている方が楽しいと言われている。
私は偉い人の墓を荒らすのは良くない事だと思う。
というか王族や皇族の陵墓じゃなくても人のお墓を荒らすのは人として如何なものか。
原作主人公批判になってもこれは言っておきたい。
学術的理由があるならともかく、特に深い理由もないのに人様の立てたお墓をうろつくべきではない。
常識を持った人間ならわかる筈だ。
つまり何が言いたいかというと私は王の墓内部で迷っていた。
反省しているから此処から出してほしい。
もう住み着いているプリヌラとエサンスーシは見飽きた。
ザ・骸骨剣士という見た目のライフフォビドンと出会う度に、これが私の末路かもしれないと考えてゾッとする。
しかも明らかにゲームより部屋数と通路の数が多いし、構造と魔法による仕掛けで壁伝い対策がなされていた。
壁伝い対策など建築物でできる物だと思っていなかった。
どこに解除すべきその魔法の仕組みが施されているのかすらわからないという始末。
勘弁してくれ、私が一体何をしたというんだ……。
「トイレに行きたくなってきた……」
そう、なんとこの世界。人はちゃんと排泄する。
生物ならば当たり前の事だった。
だが、フィクションでは中々そういうシーンは無いので意識すると夢が壊れていきそうな感覚に陥る。
FF8ではゾーンというサブキャラクターが緊張するとお腹が緩くなるというキャラ付けをされていたので、現実になったからトイレ要素が生えてきたというわけでは無い。
ゲームの頃から既にプレイヤーには見えない所であのキャラクター達は何度もトイレに行っていたのだ。
どれだけイケメンでも美女でも排泄はする。
スコールだってリノアを背負って長い線路を歩く合間に出してるだろうし、ガーデンから降りて廃墟暮らしになっていたイデアとシドの夫婦は野糞をしながら暮らしていた筈なのだ。
私も山奥や森の中に遠征する時は当然、携帯用簡易トイレか野糞がデフォルトだ。
まあ、この世界ではモンスターと月の涙のせいで前世に比べて総人口が少なく、生活圏が狭いので環境問題にはなっていない。
そんな事を考えながら歩いていると限界を迎えつつあった。
まずいぞ、こんな時に限って携帯用簡易トイレを切らしている……。
横を流れている水路に用を足すしかないか……?
こういう時にここがトイレとして便利な構造をしているのは助かった。
迷った人間はまず膀胱がこうなるという因果関係は誰にでもわかる筈だ、これじゃ王の墓じゃなくて公衆便所だな。
死後トイレになって排泄物をかけられたい類いの変態が作れと命じた墓なのか?
人として最低な事をしてる自覚は勿論ある、でも漏らす方が最悪だ。
「ふぅ……こんな迷わせるための構造にしやがって、私がこんな事をしなければいけないのもこのデザインで発注した奴の責任だ。墓参りがしにくいとは考えなかったのか? 馬鹿が……」
私は珍しくイライラしながら小便を終えて悪態をついた。
何がこんなに嫌なのかというと、勿論人としての常識やプライドもあるのだがそれ以外にも理由がある。
ここ、幽霊がいるのだ。
ちゃんと自我を持った名も無き皇帝の幽霊が居る。
謎解きして最奥まで行けば原作では会う事ができるのだが、実際その霊がどれだけの行動範囲を持っているのかがわからない。
ゲームの描写では死者をいつまでも閉じ込めておく必要は無い。君達にはレアカードをあげよう。
みたいな思想の割と気さくな性格の幽霊だったが、果たして名もなき王は自分の墓に小便をかけられても同じ事が言える器のデカい王様であらせられるだろうか?
FF8における幽霊の立ち位置は曖昧で、何ができる存在なのかもハッキリとしていないから怖い。
まあ、だからこそ霊なのだが……。
というか神聖ドール“帝”国なのに名もなき“王”の墓って眠ってる奴は皇帝なのか王なのか統一しといてくれ。
「私はこれでも結構常識人なんだ、人の墓に小便をかけるような罰当たりじゃなかった筈なのに……。はぁ……イケメンポイントマイナス5点だ……」
別に普段からカウントしてるわけじゃない脳内ポイントが減った。
「私はただ偉い人の御墓参りをしようと思っただけなんです。ドールという街にお世話になったので挨拶しとかなきゃなと思ったんです……。本当です許してください」
幽霊が怖いならこんな所に来るなよと言われそうだが、それとこれとは話が別だ。
そろそろデリングシティから出て行こうと思っていたので、その前に近場にあるここを一回見ておこうと思ったのだ。
FF8の世界に来た者として、そんなに危険度が高くない原作スポットに行かないという選択肢はあまり取りたくない。
しかしながら、蓋を開けてみれば超危険マップだった訳だが……。
ゲーム知識を過信しすぎた。
王家の墓の迷うギミックなんて画角と視点の固定で起きてるだけで、現実になったら来た道がわかる筈だからあんなの余裕余裕。
もしわかんなくなっても壁に沿ってればいつかは出られるし、と深く考えずに進んでいったのも不味かった。
今日は飯の取材じゃないからと油断して、メモはデリングシティのホテルに置いてきてしまった。
記者としての意識の低さが、まさかこんな致命的な事になるとは思っても見なかったのだ。
ジャンクションの応用で記憶力を上げようと気づいた時にはもう遅い。
その時点で既に私は迷い、迷宮探索スローライフは始まってしまっていたのである。
なりふり構わず目印でも置きながら徘徊するか。
とも思ったが、どうやら脇にある水路に生息しているスライム系モンスターのプリヌラが出てきて通路に落ちた物はなんでも回収して掃除してしまうようだ。
さっきから彷徨っているが、倒した筈のモンスターの死体と再度遭遇する事が無い。
「そういえばモンスターが生息している割には糞も落ちていないな……」
オートで清掃してくれるシステムになっている訳か……。
何でトイレとしての機能は無駄に高いんだよと言いたい。
だがこのままではまずい、かくなる上は地形に目印の傷でもつけるか?
墓を傷つけるのと小便をかけるの、どちらの方がより罰当たりポイントが高いのだろう。
もう魔女でもモンスターでも誰でもいいから私を助けてくれ。
そんな事を考えていたら通路の先から3人の男子学生がやってきた。
デリングシティの学生が墓に入って来たようだ、どうやら入口に近い所までは戻れていたらしい。
これで帰るべき方向がわかる、助かった……。
私は迷っていた事を御首にも出さず、堂々とした立ち振る舞いで挨拶をした。
「やあ、こんにちは。君達はデリングシティの学生だね? カーウェイ大佐のありがたいお話を聞きたいなら試験として王家の墓まで行ってこい。とでも警備兵に言われたのかな?」
「あっ……はい! よく分かりましたね……。貴方はどうしてここに?」
「私か? 私は歴史学者の端くれみたいな事をやっていてね。歴史的な建造物が作られた意図や時代背景を考察するため王家の墓を調べに来たのさ」
もう用事は終わったけどね、と続ける。
「さすがはかつての大陸の覇権国家に君臨した皇帝が眠る墓だ、
素晴らしい建築技術と防衛機構を兼ね備えた見事なデザインはもはやオーパーツだな……。
初心者はまず間違いなく迷うから君達は気をつけた方がいい」
私の忠告を聞き、神妙に頷く学生達。
ガルバディアの学生は上下関係を徹底的に教え込まれているので、素直で気持ちの良い青少年が多いな。
「目印に何か鉄で出来た物を入り口付近に置いておく事をオススメするよ。軽い物だったり壊れやすいものは徘徊しているプリヌラが食べてしまう」
「なるほど……知りませんでした。勉強になります!」
「デリングシティの学生という事は広い意味では私の後輩というわけだ、モンスターに出会って困った時はこれを使いなさい。健闘を祈っているよ」
当然、貴方達の先輩ですよアピールで、さも都会の良い学校を出ているかのように見せかけるのは怠らない。
私は道を教えてくれた感謝の気持ちとしてメガポーションを渡してその場を立ち去る。
「あっ……ありがとうございました!」
尊敬の眼差しが心地よい。
お辞儀と感謝をくれた学生諸君に、私は後ろを向いたままヒラヒラと手を振って彼等の来た方に進み王家の墓を出た。
(決まったな……)
さてと、今ので今日マイナスされたイケメンポイントは取り返した。
日光が降り注ぎ、屋内から脱出できた私を出迎えてくれる
水のせせらぎと小鳥が囀る音が心地良い。
苔が程よく生えた石畳を歩きながらひと息ついた。
普段から自然に囲まれているせいで、美しい自然という物の素晴らしさを久しく忘れていた。
いつもの私ならそっとしておこう、等と考えていた筈だが今は違う。
ここは危ないし、しっかり管理して観光地化するべきだ。
最高に趣のある景観で歴史的な格式もあるのに、客も入れずに放置しておくのは勿体ない。
勝手に下ネタラッシュが乱入発動して困ってます。