【完結】FF8の世界に転生してスローライフを満喫する話。   作:速射弾

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19話 デリングシティ②

 

名もなき王の墓からデリングシティに帰ってきた私は反省していた。

今回は運良く帰ってこれたが流石に迂闊すぎた。

 

しばらく危ない事をするのは控えようと思い、泊まってるホテルのクラブにまた来ていた。

酒場で情報収集という中世ファンタジーの基本を近未来ファンタジーで実践してみる事にしたのだ。

カウンターで酒をちびちび飲みながら周りの声に聞き耳を立てる。

 

 

「上官殿。ささ、まずは一杯……」

 

「うむ、新入りの癖に気が効くな。貴様にはガルバディア軍の何たるかを教えてやろう」

 

「おお……! それはありがたいであります上官殿!」

 

テーブル席についたガルバディア兵が早速飲み始めたみたいだ。

 

 

「ふむ、本来なら一般兵の事など気にしないのだが、そろそろ少佐に昇格する私が貴様の名前を覚えておいてやる」

 

「はっ! 自分はウェッジと言います! まさか少佐になるほどのお方に名前を覚えていただけるとは光栄です!」

 

思わぬ名前が飛び出してきた。

 

 

「ふはは……あまり持ち上げるな、だが上官に媚びへつらうのはガルバディア軍では基本の動き方だな、中々見所がある。よし、貴様は私の直属の部下に異動させてやろう」

 

「それはありがたい話でありますが……。そんな簡単に異動できるのでしょうか?」

 

「そう思うだろう? だが我が軍の上官という立場の権力は尋常ではない。部下の給料すらも自由自在。一般兵を自由に異動させて戦地に送り込む事すらできてしまうのだ。くれぐれも他の上官には気をつける事だな」

 

 

原作でも些細な事で兵士の給料一月分が無しになる描写が何度かあった。

何故こんなガルバディア軍に入ろうと思う人が居るのかプレイ時には理解できなかったが、この国は徴兵制でもあるため、嫌でも軍に入らなければいけない人間が出てきてしまう。

 

私の故郷でも成人した男が徴兵されすぎて一時期村に老人以外の大人の男が存在しない、という事になってしまっていた。

流石にやりすぎたと思ったのかそれ以降ウィンヒルは徴兵を免除される事になったらしい。

軍に入りたく無い人はウィンヒルに来れば良いのだが、通信手段が無く交通手段も厳しい私の故郷の存在を知っている人がそもそも少なく、人口の回復にはまだまだ時間がかかりそうだった。

 

さらにこれは当然の話だが、どうやら軍内部の実状に関しては一般人に話してはいけないという緘口令が敷かれているようだ。

現在沈黙を貫き、国自体が謎のヴェールに包まれているエスタを除けば大陸一の国であるガルバディア。

そんな国の軍人になり勝ち馬に乗りたいと思う人間は少なく無いようだった。

そういう人間が見た目の華々しさに騙されて入り、絶対的な上下関係によるパワハラの洗礼を受けるという社会構造となっている。

 

 

こういう話が盗み聞きできるのも酒の席だからだろう。

まるでスパイになったようで気分がいい。私も酔いが回ってきたかな……。

 

 

「ひええ……。自分は優しそうなビッグス少佐に目をかけて貰えて頂けて運が良かったです」

 

「よせよせウェッジ……私はまだ少佐ではないぞ! ガハハハ!」

 

後々、三等兵という存在しているかどうかすら分からない階級まで落とされる運命にあるビッグスとウェッジ。

彼らの馴れ初めを知る事ができたのは驚くべき幸運だった。

 

結局2人は仲良くグデグデに酔っぱらいながら帰っていったのだが、私もアルコールを取りすぎて頭が回らなくなってきた。

外の空気でも吸って少し休憩してから寝ようかなとホテルを出た所で、何やら早歩きしていた女の子にぶつかってしまう。

 

 

「うっ……失礼、大丈夫ですか?」

 

「いったた……大丈夫です……。こちらこそぶつかっちゃってごめんなさい……」

 

私は彼女の顔を見て驚いた。

見覚えのある芯の強そうな垂れ目、整った顔、あまりに可愛いこの女の子。

まさかそんな……いやしかし……?

 

 

「り……リノア?」

 

「えっ? あっ、はいリノア・カーウェイです……もしかして父の知り合いですか……?」

 

うわ……声も仕草も可愛い……。

何という事だ、私は原作ヒロインとぶつかって運命の出会いをしまったらしい。

今日はやたらと原作キャラに会う日だった。

衝撃が強すぎて先程遭遇したウェッジとビッグスの事など、既に脳内から吹き飛びかけている。

 

 

「いや……カーウェイ大佐とは知り合いじゃないんだけど、君の事は知ってるというか……うーん説明するのが難しいな……」

 

酒のせいで判断力が鈍っているのか、つい咄嗟に名前が出てしまった。

私はぶつかった拍子に散らばってしまった名刺を拾いながら、リノアの事を知っている言い訳を考える。

 

 

「あれ……これ、雑誌の記者……? 丁度よかった! ちょっと来て! 大スクープがあるの!」

 

いつのまにか私の名刺を手にしていた彼女はなぜか喜び、私の手を取ってホテルに入るとカウンターですぐさま自分の部屋を取り直行した。

 

私はホテルの部屋に連れ込まれていた。

ナンパなどというチャチな物ではない、出会って1分で強引にホテルインさせられていた。

年齢を確認されていたリノアは「私は15歳だけど父親は軍のお偉いさん、証拠もあるから泊まらせろ」と何やら身分証明書のようなものを提示し、受付を脅して部屋を借りる事を承諾させていた。

 

身をもって体験して知る彼女の行動力の凄まじさ。

やはり私の尊敬するナンパ術の師であらせられるリノア大先生は格が違った。

 

 

部屋で彼女は自分と父親の事を話しだした。

軍のトップとしてこの国に居るなら避けては通れないであろう数々の汚職。

独裁者であるデリングの命令を忠実に守り、カーウェイ大佐が生み出してきた悲劇は多い。

 

 

「これがビンザー・デリングと私の父親のやってる事よ……。私……今までガルバディアのやってる事すら、何も知らなかった……」

 

身内という立場から知れる表に出てないスキャンダルも当然ある。

 

 

「でもデリング大統領に付き従う父の事、見て見ぬ振りはできないと思ったの……。あんなのでも昔は大好きな親だったから……」

 

リノアは15歳という若さにして自分の立場、環境、今まで己を構成してきた幸せが他人の悲しみの上に成り立っている事を真剣に悩んでいた。

 

 

「君の苦悩は理解したよ。でも私はガルバディア上層部で行われている不正を糾弾するつもりは無いし、そういう記事を書く気も無い」

 

「貴方、記者でしょ? スクープが欲しいんじゃないの……? それでもパパラッチ!?」

 

「残念ながら私はパパラッチじゃない、ただのグルメ系フリーライターさ。それに……ガルバディアに都合の悪い記事は、出る前に検閲されて差し止められる事になっている」

 

 

かつての人気雑誌ティンバーマニアックスは、その言論弾圧に晒され大幅な制限を受けて衰退した。

当然同じ雑誌社に記事を出している私が、記者としての活動で国に逆らう事など出来ない。

 

 

「そういえば貴方、私の事知ってるって言ってた……! 協力してくれないなら父親に私のストーカーが居るから捕まえてってお願いする……!」

 

「そんな事されたら流石に困るね……。でも、嫌ってる相手の力を使うのは良いの?」

 

「使える物はアイツのコネでもなんでも使うわ! それぐらい本気なの……。ね? お願い……できないかな……?」

 

可愛くお願いされてしまった。

そうやっていつもカーウェイ大佐に色々おねだりしてたんだろう。

これは甘やかしたくなる。

 

 

「というかそんな事しなくても15歳の子と20過ぎの男が一緒にホテルに居るのは捕まっちゃうよ……。そもそもなんでこんな時間に1人で歩いてたの?」

 

あっ! という顔をしてなんだか気恥ずかしそうにするリノア。

客観的に見た今の状況に気づいていなかったらしい。

 

 

(でも大丈夫だよ、お兄さんは将来スコールくんのお嫁さんになるリノアちゃんには手を出さないからねぇ……)

 

真面目な彼女のトーンとは裏腹に、私の脳内は大量のアルコールと原作ヒロインの可愛さに長時間晒されたせいでバカになってきていた。

あまりにも可愛すぎるリノアさんじゅうごさいの衝撃により、脳が激キモ限界オタクと化しているのが自分でもわかる。

 

 

「えーと……その……父親と仕事の事で口喧嘩になって……。ついカッとなって飛び出してきたの」

 

(照れながら言うリノアタソ、きゃわわ! その照れは何も考えずに喧嘩して飛び出して来た恥ずかしさかな? それともイケメンのお兄さんと居る事を意識した恥ずかしさかな? おじさんに教えてみなさい)

 

ニチャア…

 

私のセクハラ全開で最低な思考とは裏腹に、リノアは真剣だった。

 

 

「ごめんなさい……無理言ってるよね、貴方にも生活があるんだもん……」

 

リノアの母親は既に死んでいる。

一番頼れる相手だった筈の父親にも助けを求める事ができない。

そんな中で慰めてくれるのはおそらく愛犬のみ。

 

悲しみに暮れながら大人しく日々を過ごす選択ができる人間なら、問題なかったのかもしれない。

だが彼女は違った。

両親から受けた愛情と教育が良かったのだろう。

思い立ったら動かずにはいられない行動力と、善良な心はそれを許さなかった。

 

 

「頼れる人は誰も居ないし……馬鹿だよね、私。無鉄砲だよね……でもどうしても諦められないの……」

 

はぁ?

頼れる人は誰も居ない? 此処に頼りになるイケメンお兄さんが居るだろ! ドン!

よーしパパ、かっこいい所見せて美少女のハートキュンキュン言わせちゃうぞー。

 

 

「私は普段、バトルシリーズという雑誌で記事を連載している。気楽にクレイズと呼び捨てしてくれ」

 

「?」

 

突然名刺を渡しながら自己紹介を始めた私に困惑するリノア。

そういえばさっき私の名刺拾ってたから自己紹介も名刺もいらないか。

せっかく良いとこ見せてポイント稼ぎするチャンスなのに決まらないな……。

 

 

「手伝う気になったって意味さ、私には君が他人に何かを言われたら行動を止めるような人間性をしてるとは到底思えなくてね……。それに君には恩がある」

 

「手伝ってくれるのは嬉しいけど……恩?」

 

おっと口が滑った。

キスティスをナンパできたのは紛れもなく未来の彼女のおかげだ。

この世界を救い、スコールの孤独を埋めてくれるのも彼女だ。

 

……よし、どういう恩があるか説明できないから早口で誤魔化そう。

 

 

「ティンバーのレジスタンス組織に君を受け入れてくれそうな集まりがある。そこに行けば必ずデリング大統領やガルバディアの現体制のやり方を変える事ができる筈だ。

ティンバーマニアックスという雑誌社の横にある民家を訪ねて、そこの家の奥さんに会え。その家の奥さんはティンバーに複数存在するレジスタンスの内の一つのリーダーをしている」

 

「えっ……? えっ……ちょっと待ってね、メモするから! えーと……」

 

考える時間を与えるな、ここで畳み掛ける!

 

 

「そうしたら森のフクロウという組織とゾーンという男に取次ぎをお願いしろ。断られても居座って粘れ、強情な態度でゴリ押すのは君の長所であり得意分野だ」

 

「うー、えーっとうん……。なんとなく分かったけど……最後のそれって私、褒められてる?」

 

なんとか誤魔化せたか……?

ひと息ついた私はそこで名案を思い浮かぶ。

 

待てよ?

もしかしてこのままリノアに同行して森のフクロウに入れば原作ストーリーに深く絡まずサイファーと主人公パーティに会えるんじゃないか?

 

(うおおおおおおおおお!!!)

 

しかも原作では明言されてなかったサイファーとリノアが過ごしたあの夏の出来事の詳細も知れるのでは?

 

(やったーーーー!)

 

 

「いや……やっぱり私も行こう、女の子を1人にするのは心配だ。何より私だってガルバディアの政治をこのまま放っては置けない気持ちはあるんだ」

 

当然国を放って置けないなんて嘘だ。

独裁政権をどうにかしようなんていう高尚な気持ちは更々無い。

だが15歳の女の子を1人にするのが心配な気持ちは少しある。

 

反応を見る限り、私の言葉で困惑しつつもリノアは喜んでくれてるようだからこれで良い。

 

 

親の承諾も無く、未成年と共にティンバー行きの最終電車に乗る。

これは誘拐犯扱いされても仕方ない状況だな等と考えていたその時、

リノアが何かに気づいた。

 

 

「あっ……そうだ! アンジェロ! 家に置いたまま来ちゃった! 迎えに行かないと!」

 

リノアが焦ったように声を上げたその時、なにやら子犬の甘えるような鳴き声がした。

いつのまにか、白と焦げ茶の毛並みを持った尻尾の無い子犬が乗車して私達の足元に居る。

 

 

「アンジェロ!? 私を追いかけて来てくれたの? 凄い! 凄い! ありがとう! 大好き!」

 

こんな子犬がカーウェイ邸から脱走して駅までリノアの匂いを辿って来たというのか?

冗談抜きで本当に凄い事だった。

 

今までにない喜びに包まれ、跳ね回る彼女の姿。

私に送られる筈の愛は子犬に持って行かれてしまったようだ。

 

 

(やれやれ、どんなイケメンでもわんちゃんの可愛さには勝てないな)

 

電車の壁に背を預けて腕を組み、やれやれ系になって黄昏ていると、アンジェロを撫で終わったリノアが私に向かって花が咲いたような笑顔で言った。

 

 

「クレイズ! ありがとう!」

 

……ふぅ。

私は女の子の可愛さにも勝てなさそうだ。

犬と少女と組んだ即席パーティのヒエラルキーは私が1番低いみたいだった。

 

 




一応NTR回避の為に言っておきますがリノアちゃんは今作のヒロインではありません。
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